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リアル・プレイング・ゲーム  作者: 旭 晴人
第二章《Lost》
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好きだ

 水辺に到着し、ソーヤが調合スキルで拵えてくれた大型テントを三つ建て、セツナが起こしてくれた火で蒼い焚き火を用意した頃にはすっかり夜更けだった。



 幅広の穏やかな河川が傍らを流れる。見上げれば夜空は星が降るようだ。一層ごとに環境が全く異なるこの迷宮は、無類の旅好きである私を大変喜ばせる。大自然の美しさもユートピアの本土に勝るとも劣らない。



 川があるということで釣りをした。「俺達は邪魔者なんだろ」とかブツブツ言って乗り気でなかったジン達も私が説き伏せ、全員で釣り大会。



 遊びのようだがスタミナを回復させるための主食を確保する、大事な仕事である。森を探せばいくらでも木の実があるだとか聞こえない。仕事ったら仕事なのだ。



「あ、お頭! 竿、竿! 引いてる!」



「え? うおっ、マジだ! 野郎共手ェ貸せ!」



 散々渋りながら一匹釣れただけでジンもゴロツキ達もこのはしゃぎようである。釣った魚はセツナの炎で塩焼きに。ソーヤがいなければ調味料もなかったのか、と考えると今更ながらぞっとする。



 食事を終えたら自由行動。といっても寝るか散歩か水浴びぐらいしかすることはない。



 ジン達六人はやたらと満足顔で自分達のテントに帰っていき、残った男連中ももう一つのテントへ向かうようだった。カレルとセツナの間のぎくしゃくもどうにか落ち着いたと見える。



 私も、ソラとカレル班の紅一点スズの三人で三つ目のテントに潜り込んだ。簡単に寝床の準備を済ませることにする。



 ヌシからドロップした毛皮アイテムを調合してソーヤが作ってくれた毛布や寝袋などの寝具系アイテムは本当にありがたい。



 三年間の野宿という、うら若き乙女に強いるには惨すぎる苦行も苦に感じない。タオルがあれば水浴びもできるし、ソーヤ様々だ。



「ちょっと」



 と、何やらトゲを含んだ声で呼ばれて私は敷いていた毛布から視線を起こした。曰く厳しい視線で私を見据えていたのはスズだった。



 川の字で寝る私達だが、順番としては私、ソラ、スズなので、必然的にソラは私達のやり取りを挟まれた状態で聞くことになる。私とスズ、交互に視線を向けるソラの表情はいぶかしげだ。



「えーっと……なにかな?」



「いいから、ちょっと付き合って」



 問答無用らしい。皆目見当がつかないが、私は大人しく頷いた。彼女にしては心配そうな顔をしているソラに手を振って、私はスズに続いてテントを出る。



 寝間着姿のスズは、水辺をしばらく歩いてふと立ち止まった。テントから割と離れてしまい、さしもの私も若干の身の危険を覚える。



「あんたさぁ」



 振り向きざまに口を開いたスズ。どうやらようやく話が始まるようである。私は不機嫌顔のスズを改めて観察した。



 栗色のゆるふわパーマヘアに媚びるような大きな目。派手目のふわっふわの寝間着。確かに男受けは抜群だろうと断定できる。女受けに関しては敢えて言及を避けよう。



「言おう言おうとは思ってたけど。いい加減にどっちかはっきりしたらどうなの?」



「……なんのこと?」



「まーとぼけるとは思ったけどさぁ。どっち狙ってんのかはっきりしろって言ってんの」



 狙う、という単語がどうにもピンと来ず、しばし押し黙ってしまった私に痺れを切らしたらしくスズは声を荒げた。



「セツナ君かカレルか、どっちなのって話! すっとぼけるのも大概にしなさいよ!」



「えっ」



 不意を打たれた私は狼狽える内心を隠すことができなかった。それはカレルを狙っているという天地がひっくり返ってもあり得ない疑いをかけられたからではない。



 完璧な演技で隠しきっていたはずのセツナへの想いを、こんな頭の弱そうな女に看破されたからだ。



「わ、私は、セツナのことなんて!」



「はぁ!? じゃあまさかカレルだって言うの!? あんだけセツナ君にベタベタしといて……」



「ベタベタ!? してないしてない!」



「最っ低……あんたみたいな尻軽女にカレルは絶対渡さないから!」



「信じて! 本当にセツナのことなんてなんとも思ってないから! えっ、ちょっとこれ聞かれてないよね!? お願い誰にも言わないでーーー!!!」



 何やら微妙にかみ合わない会話は一度も合致しないまま平行線を行き続けた。お互いがお互いの誤解に気づき、一気に和解したのはそれからたっぷり五分後のことである。



「なーんだ! セツナ君なのね? もーそうならそうと早く言ってくれればいいのに。カレルに気があるのかと思って超焦ったー。そっかーセツナ君かー」



「声が大きいって! うう、こんなのセツナに知られたら確実に引かれるよぅ……」



 支えるだの応援するだのと大義を並べて私はずっと彼の隣を独占してきた。三年間の攻略だって、打ち明けられたとき心のどこかで小躍りした自分がいた。



 三年間もセツナと一緒に、こんな美しい世界を旅できるなんて夢のような話だった。セツナが頼ってくれるのが、セツナの役に立てているのが何より嬉しかったのだ。



 セツナにはハルカがいる。嫉妬も覚えられないほど純粋にお互いを想い合う二人の間に、私が入る余地なんてない。



 だから、だからせめてこの三年間だけは。セツナの傍に寄り添う存在でいたかった。大好きなセツナの大好きな人であり、私の親友であるハルカを救うためなら、それぐらい許されると思った。



 ただ、この気持ちだけは決して明かさずに。セツナに想いを告げれば最後、建前は崩壊する。彼はもう私を側に置いてくれないだろう。



 彼の気持ちは真っ直ぐだから。涙が出るほどに。



「何言ってんの? 癪だけどあんたみたいな女に叶わない恋があるなんて思えないんですけど」



「私をなんだと思ってるのよ……もう諦めてるからいいの」



「そんな物分かりのいい子には見えないけど-? ほら、聞いたげるから話してみなさいよ」



 気が強く高飛車だが、スズはこと恋愛相談をするには打って付けの相手に思えた。少なくとも私は、こんな友人がずっとほしいと思っていた。



 向き合っているのに、スズに背中を押され続けているような感覚がする。話を聞くと言ってくれて、我慢する必要なんてないと言われて、無理矢理押さえつけ続けていた想いが溢れ出す。



 ──ダメだ、やばい。これやばいやつだ。



「……私、セツナのこと…………好きだ……!」



 久しぶりに流した涙は驚くほど熱くて。こんなになるほど好きなんだって初めて思い知った。





「──悔しいよ……私の方が"先に好きになった"のに…………悔しいよぉ……!」

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