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リアル・プレイング・ゲーム  作者: 旭 晴人
第二章《Lost》
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訓練場

 いや、いや、いやいやいや。相手は三つも年下の小娘だぞ。ちょっと気が動転しているだけだ。きっと、明日になればすぐに忘れてる。



 だがどんなに気持ちを疑ってみても、心の中にいる正直な自分が断固として譲らない。ハルカが好きだ。ハルカが欲しい。



 お前の笑顔を独占したい。俺だけを向いて笑って欲しい。胸を衝くような欲求が泉が湧くように溢れ出す。こんなの抑えようがない。



 重症だ。自分でも分かるほど。俺はどっぷりあいつに惚れてしまっている。



 心ここにあらずな気持ちで足を進めていると、いつの間にか城の裏口から外に出ていた。出てすぐにある踊り場を越えると訓練場が見えてくる。



 歴史の教科書で見たコロッセオを少し小さくしたような、見映えする圧巻の建造物。石製のアーチを潜って中に入ると、獰猛な獣の唸り声と戦闘の喧噪が聞こえてくる。どうやら先客がいたようだ。



「て、あれ。コーメイとトモヤじゃん」



 入場門を潜った先にある、床も壁も黒い不気味な待合室に、ベンチに座り込んで本を読むコーメイと、柱に寄りかかり腕を組んでいたトモヤの姿があった。



「トーリは帰ってきたらここに来るだろうと思ってね。僕も久し振りに体を動かしたかったし」



「そうか。トモヤはまあ、いつも通りだな。ここにいない方が珍しい」



「そんなにずっと籠もってねえよ。俺達も待ち中だ。先客がずっとここ占領しっぱなしでな」



 トモヤが親指で示す小窓から、俺はコロッセオ型ドームの中心に位置する闘技場を覗き見た。大量の砂埃を巻き上げて、巨大なモンスター三匹と一人の男が戦っている。靡く金髪でそいつが誰かがすぐに分かった。



「あいつ、ケントか? ……なんか、やけに荒れてんな」



 もっと優雅に戦う男だと思っていたが、今の彼にそんな美しさは欠片も見えない。獰猛な闘志を剥き出しにして吼え、身の丈の三倍を超すモンスターを次から次へとなぎ倒していく。



 ワニ型のモンスターを無慈悲に斬り倒し、その隙に突進してきた巨大なイノシシ型のモンスターの鼻っ面を素手で握り潰したかと思ったら、そのまま地面に叩きつけた。盛大な地響きと共に砂塵が舞い立ち、闘技場に亀裂が走る。



「うらァッ!!」



 三匹目の、獅子とわしが融合したような一際大きなモンスターを鬼の形相で真っ二つに叩っ切ったケントは、荒い息を整える間もなく闘技場中心のパネルを操作し始めた。



 バットマンの創り出したこの訓練場こそ、俺達ザガンとベテルギウスが突出した高レベルを誇る理由だ。



 闘技場の中心にあるパネルを操作することで、レベルも種類も自由自在に設定したモンスターを出現させることができる。



 ちまちまフィールドのMobを狩って回るより何倍も効率は良いが、モンスターの設定を見誤ると勿論死ぬ目に合う。



 それにここはほとんどベテルギウスが常に独占していて、トレーニング好きのトモヤ以外はあまり利用していなかったのが実際だ。



 恐らくトモヤの次にここをよく利用する俺だが、その頻度は三日に一回が精々。一応ザガンのナンバー2は俺で通っているが、実のところレベルはトモヤに十ほど劣っている。



 反則的な力、オリジナルスキルのホルダーであることがトモヤを差し置いて俺がナンバー2に据えられた理由である。



 ちなみにカルマは誰よりも熱心に冬真捜索を続ける内にバカみたいにダンジョンに迷い込み、バカみたいにレベルを上げて帰ってきたバカだ。



 トモヤより更に二十もレベルが上であるだけでなく、オリジナルスキルまで解放している。



 加えて現実世界で既に化け物みたいに強かったから、カルマのこの世界での強さはソーマと遜色ないとしても過言ではないのかもしれない。



 それとコーメイ。こいつに限っては完全なインドア派で、そもそも極度の運動音痴だからレベル1の頃はそれはそれはギャグみたいに弱かった。



 冬真捜しも命の危険が拭えないため断念し、城に残って俺達に色々と指示を出す、ザガンのブレーン的役割を果たしていた。



 だが、知らない内にコーメイは確認する度目を見張るスピードでレベルが上がっており、いつの間にか伝説レジェンド級の魔法職業まで解放していた。



 どんな裏ワザを使ったのか、についてはそろそろ問い詰めてやろうと思っているところだ。



 そんなわけで、運動音痴は相変わらずであるものの、コーメイは一つ一つがオリジナルスキルに比べても劣らないような凶悪な魔法を連発できるのだ。



 彼に関しては色々特殊なので比較は難しいが、もしかすると俺やトモヤより強いのかもしれなかったりする。



 一応、この四人がザガンの主立った戦力。五人目から下は大きくレベルが落ち、平均レベルは50ほどだ。



 決して弱くはないが、俺のレベルは103、ハルカでも75あることを考えればとても強いとは言えない。



 冬真の捜索にほとんどの行動時間を取られる俺達は、自分の中で計画的にレベリングの時間を確保しなければどんどん置いて行かれることになる。



 季節が移ろうにつれ捜索範囲は広がるのに、肝心のレベルが平行線では連れて行くことができない。



 結果、取り残された奴らはモンスターの出ない街区での捜索が中心となり、皆、そこからなんとか独力でレベルを上げて今に至る。



 レベル50というのは当然一般プレイヤーの平均はかなり上回っているはずで、繰り返すようだが決して弱くはない。



 ただ俺達やベテルギウスと比べると見劣りするのは確実で、ベテルギウスには「ザガンは四人以外ザコ」とストレートに揶揄される始末だ。



 だが、ここまでレベルが上がってくればここからはレベリングに関してやれることも増えてくる。



 ザガンの戦力底上げはそう長くない時間で実現可能だと俺は思っている。男子高出身の連中だけあって、皆モチベーションとセンスだけはあるからな。



 ザガンをベテルギウスに対抗できるほどの集団に育て上げることができたなら、アルカディアの役に立つ未来も遠くない。今日、皆を集めて話すのがその最初の一歩になるだろう。



「にしても、ケントの奴普通じゃないな。これいつからやってんだ? かなり消耗してるみたいだし……出してるモンスターもレベルが度を超えてるぞ」



 ケントのレベルは確か120ほど。身体能力を爆発的に高める希少な仙人エレメント系のオリジナルスキルを持つ上に、そもそものセンスが抜きんでているため実質の強さは確実にそれ以上と見ていい。



 今ケントが次から次へと召還しているモンスターは、タブを付けてレベルを確認していくと全て130に設定されていた。



 それを一度に三体ずつ、休みなくだ。いかにケントでもこれは限界を超えている。安全マージンなどとてもあったものではない。



 トモヤが嘆息を一つして愚痴をこぼした。



「どうもこうも。ソーマを担いで城に帰ってきてからずっとあの調子だぜ。よっぽど腹の立つことでもあったんじゃねえの。トーリとハルカちゃんについてかなり罵るようなことを言ってたし……お前らが何かしたんじゃないのか?」



 思い当たる節がありすぎたので俺は苦笑して頬を掻くしかない。



「あー……そういえば。俺ら二人であいつを負かしちまったからかな。結局ハルカは逃げ切ったし、ソーマからも何か期待外れみたいに言われたんじゃねえか?」



「わー、トーリ達ケントに勝ったの? なんでそんときぶっ殺しとかないんだよ」



 笑顔で物騒なことを言うコーメイに苦笑が引きつる。



「殺せるかよ。ベテルギウスの中でも折り紙付きのクズ野郎……カイジとかならまだしも、ケントは元々聖人君主かってぐらいキラキラしたガキだったんだぞ。まあ、忘れそうになるけどな」



 トモヤが複雑そうに頷いて暴走するケントに目をやり、コーメイは冗談だってと屈託なく笑う。俺も変わり果てたケントの背中をやるせない気持ちで見つめた。



 あれは確か、システムを書き換えて一ヶ月弱が経った頃だったろうか。



 腰に刀を差した一人の金髪の少年が、単身、この城に乗り込んできたのは。

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