その9 結末
※※残酷描写があります※※
誕生日パーティーの前日、あの男からの連絡が届いた。
私の告白を待って後、職を辞し、遠い地方にある実家へと戻る事としたと。
処分があるなら、それを全て受け入れるつもりである事が書かれていた。
そして誕生日パーティー当日…
今日…気持ちを固めて私は彼の隣に立っている…
誕生日の婚約式に始まった彼との夢のような日々は、今日、この誕生日に終わる…
このパーティーが終わったら、私は事の全てを告白する。
そして私は彼への贖罪の日々へと進むのだ…
愛しています…あなた…
どうぞ私を許さないでください。
ご免なさい…
「フリードリヒは来ていないのか? 連絡も寄越さないとはあいつらしくも無い…何かあったのか」
侍従長と話している彼の後ろで、私はそれを黙って聞いていた。
あの男は来られる筈も無いのです…あなたの信頼を受けるに相応しくないあの男は…
後ほど全てお話し致します…
そう思いながら…
それ以外は全て順調にパーティーも進み、そろそろ宴もお開きへと終盤にさしかかったその時…
…ホールの入り口が騒がしい。
「何事だ?」
訝しげに彼がつぶやく。
するとまっすぐこちらに笑顔で向かってくる一人の男性が目に入った。
「フリードリヒ!」
ようやく現れた親友に彼は顔を綻ばせる。
何のつもり?
この場に来られる様な立場ではないあの男が現れて、真っ先に思ったのはその事。
表情は満面の笑顔………だけれども…
違う…あれは…目は笑ってはいない。
あれは、あれは… あの刺すような暗い瞳は…
危険!
咄嗟にそう感じた私は彼の手を引いて逃げようとした。
しかし、不思議そうな目で私を見た彼は、軽く微笑むとすぐに私の手を離して両手を広げ、彼が親友と信じるあの男に歩み寄っていく。
駄目、その男に近づいては!!何をするかわからない、その男に近づいては…
彼にそう声をかけようとした瞬間…
あの男が懐から取り出した短刀が鈍く光った。
その短刀が彼の胸に突き立てられ、刃が全てその身に埋まっていった瞬間はまるで信じられない空想世界のようで…
そして、刃が引き抜かれた瞬間、そこから真っ赤な血が噴き出した。
彼は自らの血で赤く染まりながら、無情にも崩れ落ちていったのだった…
「もうヤツはいない!いないぞ!見たかエリーゼ!!!はははははははははは!!!!!」
目の前で起こった光景に目の前が真っ暗になり…あの男の高笑いが響き渡る中、私は気を失った………
フリードリヒ・ハイデッガー子爵公子の起こした事件は、同期の昇進競争に負けた妬み、恨みとして処理された。
完全に精神を病んでいて全く取り調べにならなかったのだそうで、元々そういった話があった事が周囲の同僚からもいくつもでてきた事が決定打となったらしい。
私の不貞は告白するもリーンハルト様の名誉を重んじた方々に内々で処理されてしまい、結局、公になることなく実家に戻された。
私自身の愚かしい行動が、私から全てを奪っていってしまった。
私のせいで彼はこの世を去り、愚かな私はこうしてのうのうと生きている…
食事も殆ど取らず、彼の事以外考えられず、贖罪する事も出来ず、ただ虚ろな日々を過ごす…
お父様はまた私の政略結婚先を探しているという…不貞が公にならなかった私は悲劇の女として扱われている…
彼と過ごした日々は社交界で私の評価を高めていた。
そんな私はさぞや高く売れるのだろう。
そんなもの彼だったから… 彼が相手だったからこその…
彼の居ない世界… こんな世界になんの思いもあるものか…
こんな世界…
そうだ、彼は天に召されたのだと…
なら、一番高いところに行けば彼に近付けるのでしょうか…
一目でも会えるでしょうか…
この街で一番高い建物…大鐘楼…
そこに行けば…
次の日の朝、私は大鐘楼に忍び込んだ。
小さな頃に影に隠れるようにひっそりとある扉を見つけ、よくここに忍び込んではこの街を眺めていた…
あの時はここから…
そして、私はその扉を開き、あの頃のように大鐘楼の頂上へと向かった。
空に一番近い場所…
彼に近い場所…
あの空の向こうに彼が居る気がする…
ここから手を伸ばせば彼の元に届くでしょうか…
もっと手を伸ばせば… もっと… もっと高く…
私は必死に空へと手を伸ばし、そしてそこから飛び立った。
地に落ちた私は決して彼に会える事は無いのだろう…
End
ここまでお読みいただきありがとうございました。
第一部終了です。
後は、外伝を1本を挟んで、第二部を開始します。