その1 小さな棘
超久しぶりに書く物語がこんなので…
元伯爵家令嬢だった私と男爵家嫡男の旦那様との婚姻は、当然、親に決められた政略結婚だった。
婚約が決まったのは私が13の時…
それから、この家に嫁いできたのが3年前…
私が15、彼が22の時だった。
近年、どんどん頭角を現し、更なる地位を求めたアーベライン男爵家と、領地経営が傾き、急速に発言力を失いつつあった状況を打破する力を欲したレーヴェンタール伯爵家、双方の思惑が一致した結果の婚姻。
けれども私は今を幸せに過ごしている。
彼は仕事一筋に生きるつもりだったけれども、家に押し切られて私との結婚を渋々承諾したと聞いている。
それでも彼は、時間こそ満足にはとれないものの、その中で両家の思惑を超え、不器用でも本当に精一杯私を愛してくれている。
君に出会えた事がこれまでの人生で最大の幸運だったとも言ってくれた。
私は初めて彼に会ったときからその見目に、その声に一目惚れだった。
そして彼と話をし、彼の人柄に触れ、彼しか居ないと思った。
私こそ自らの意思では決められない結婚の幸せを、最大の幸運で掴んだ女だと今も思う。
確かにこれは両家の思惑に決められた政略結婚だったけれども、それでも力強く言える。
私たちは恋愛結婚だと。
彼は有能な人ほど忙しいを体現するような人だ。
毎日、朝早くに出かけ、殆どの日が夜遅くに帰ってくる。
一緒に食事を取れない事も珍しくは無い。
休日が取れない事もざらだ。
どうやら宮中でかなり重要なポストを任されているらしい。
そのことを近所の奥様方の集まる茶会で知る事が出来た。
「まあ、ご存じありませんの?」
「ええ。旦那様は家ではお仕事の事を一切お話になりませんので」
本当に何も教えてはくれない。
もし何かがあった時、君に迷惑をかけたくないのだと彼は言う。
「若くして有能。王太子殿下の覚えも良く、殿下が即位の折には宰相へとのお噂もありますのよ」
「そうなのですか?」
彼を褒める言葉に喜びを隠せない。
「ええ。おかげで若いご婦人方にも大変な人気で、お食事の誘いもひっきりなしと…」
…え?
「ちょっと、アウレリア様」
ヨーゼンヌ侯爵婦人がその発言を窘められた。
「も、申し訳ありません。決してエリーゼ様にそのようなお顔をさせてしまうつもりではありませんでしたのよ? リーンハルト様が大変な愛妻家であるとは有名なお話しですし、そのようなお話しも全てお断りになっていると聞き及んでおりますので、ご心配なさる必要はありませんわ」
大変申し訳なさそうに謝られる。
「いえ。こちらこそ驚いてしまって。どうぞお気になさらず」
それでもその時、心に小さな棘が刺さった事を、その時の私は気付かずにいた。
結婚時のリーンハルトの年齢を23歳から22歳に訂正