プロローグ
この小説は睡眠を促す効果があります。
それでも良ければどうぞ
喧騒が響く
歓声が聞こえる
人々の歓喜の声がその広場を満たしていた。
「いやはや、さすが勇者様だ。この世はもう終わりだと何度も神に縋ったもんだが魔王が倒されるとはなあ!本当素晴らしいよ!勇者様万歳だなあ」
「ええ、元の世界に帰ってしまったらしいけど、もう一度遠くからでもお礼を申し上げたかったわ!」
「勇者様が道すがら魔物を倒してくれたおかげで魔物も魔族もずいぶんと減ったしな」
「ぼくおおきくなったらゆうしゃさまのようなきしになってまものからお母さんをまもるんだ!」
「各国との仲も巫女様が仲を取り持ち同盟を結んだんだろ?」
「本当めでたいよなあ。それもお二人が結婚するなんてなあ」
「巫女様も王子も美しいから並んだらとてもお似合いよねえ」
・・・今日は勇者が魔王を討ち滅ぼした記念式典と王子と巫女の結婚披露宴のパレードの最終日だ。
パレードは各国を勇者パーティーがまわり、国民は一目見ようとこぞって町から王城までの道に群がっている。
残念ながら勇者は元の国に帰ってしまったそうだが。
くだらない。本当におめでたい頭をしている。
魔王が倒されたかといってそこまで喜ぶことか?
確かに魔物や魔族はみかけなくなったが別に倒されたわけではなかろうに
さっさと用事済ませて帰りてえ
そんな事を考えたが愛すべきお嬢様の御命令である。刺し違えてでも遂行せねば、と漏れたあくびを噛み殺した。
睡魔を振り払い気づけば前から喧騒が徐々に大きくなってきた。
勇者パーティーの登場である。
まだ結構距離があるが私はかなり目が良い、というか知覚全体がよい。
大きなオープン状の馬車に美しく着飾った金髪のはかなげな雰囲気の女ときらびやかな軍服を着こなした凛々しい顔の青年が幸せそうに手を振っている。
その後ろには、神経質そうなローブを被った男、軽薄に笑う少年、顔をしかめ観衆に冷めた目を向ける剣士風の男、そして
黒髪に黒い瞳の
・・・いせかいじん?
そうかまだあいつらは、私達を踏み台にするのか
怨みなどない、憤りは一瞬で、歓喜は死に絶えた。
私の心に残すのはお嬢様への慈愛と勇者への憐れみだけだ。
なんせ私はもう死んでいる
だが、それでも
それでも
お読みいただきありがとうございました
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