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はじまり






少年は夜の住宅街を全力疾走している。

自分の意思ではなく、生きたいという気持ちが強い生存本能に駆られている。少年は額に汗をびっしょりとかいており、息は乱れて肺が酸素をひたすら求めている。穴ボコだらけになった壁は異様な雰囲気の象徴と言ってもいい、少年は危うくこの壁と同じように風穴を開けられる所だったのだ。

少年は住宅街の裏路地に入り、大きなゴミバケツの隣に隠れてる、そして息を整えながら地面に座り込んだ。

「な……なんで僕が追われなきゃいけないんだよ……!」

ぜぇぜぇ、と息苦しそうにそう呟く少年は裏路地の壁に手をついて立ち上がり、路地裏から顔を覗かせて周りを見渡す。

―誰もいない

不気味なほどの静寂が、少年の前に広がっていた。

今はまだそんなに遅い時間ではなく、家族が待っているサラリーマンが住宅街の家に帰宅してきたりといつもなら人通りもそこそこあるが、恐ろしく静かだ。大通りの車の音すら、少年の耳に聞こえてこない。少年は恐ろしくなり、再び何かから逃げる為に疾駆した。




「おかえりなさい、春臣」

少年が自分の部屋の扉を開けると、空色のマントを羽織り、魔法使いがかぶるようなとんがり帽子、その小柄な身体にサイズが見合っていないローブの奥深くから響いた、少女の声。

「うわぁ!?」

少年、春臣は尻餅をついてすぐに逃げようとした。

「待って」

逃げようとする春臣の裾を冷静に掴む少女、春臣はジタバタと暴れ始める。

「うあああ!ごめん!ごめんなさい!だから命だけは!」

「大丈夫、私は春臣に害を加えるつもりはないわ」

少女は春臣を諭すようにそういった。

「で、でも……なんで僕の名前を知ってるんだ?」

春臣がそういうと、少女は短いため息をついた。

「とりあえず色々な説明は後に回して頂戴、春臣も命からがら逃げ帰ってきた、って感じね?」

「き、君みたいな服装をしたヤツらが変な魔術みたいなので僕を殺そうと……!」

少女はやっぱり、と呟いた。

「ここの場所がバレるのも、時間の問題ね」

少女がそう言った次の瞬間―

春臣の背中がゾワリと逆立った。

「な、なんか……やばい!?」

春臣は咄嗟に少女を抱き抱えて奥の部屋へ飛び込んだ。

「きゃっ……!?」

少女の悲鳴、それと同時に、音も立てずに玄関には大きな穴が空いていた。

春臣は起き上がり、風穴の空いた玄関を見つめる。

「な、なんなんだよこれ……!」

春臣がそういうと、立ち上がった少女は懐から棒状の物を取り出した。

「これは”ソウル・エナジー”の魔法」

「そうるえなじー?」

オウム返しで訪ねてくる春臣に、少女は春臣を見ずに小さく頷く。

「消えなさい、汚れた魔女よ」

少女はそういうと、春臣の裾をキュッと握りしめた。

「春臣は、私の命に替えても守るわ」

少女がそう言うと、周りの禍々しい雰囲気も夜の闇の中に消えていった。

「き、君は一体……」

「詳しい事は、朝になったら話すわ。ごめんね」

少女がそういうと、まるで深い闇の中に落ちるように春臣の意識が落ちていった。



春臣はゆっくりと目蓋を開ける、いつも見上げている天井、ベッドの上、窓の外から聞こえてくる鳥たちの歌声を聞き、春臣は身体を起こした。

「ふわぁ……っっ」

大きな欠伸をすると、身体を伸ばしてベッドの上で座りボーッとする。

「あ、おはよう春臣、よく眠れた?」

奥から白いエプロンを身につけた、空色の髪の少女が歩いてきた。

「うん、よく眠れたよ……って、君誰!?」

家族でもない、知り合いでもないその少女が当然のように春臣の部屋で……キッチンから漂ってくる匂い、料理を作っているらしい。

「自己紹介を忘れていたわ、私の名前はゼシカ、ゼシカ=フリードリヒ」

空色の少女、ゼシカは優しくはにかんだ。

「僕の名前は新羅春臣、よろしくね」

「……うん」

春臣の顔を見て、頬を若干朱色に染めているゼシカは、若干上目遣いになっている。

春臣は若干照れつつ、ゼシカの顔を見て話す。

「ところで、ゼシカの格好といい……料理でもしてたの?」

「……料理ができなきゃ花嫁失格」

「なるほどねー、でも最近は夫が料理を作る家庭もあるらしいよ?」

「……そうなの?」

「うん……って―まてよ?」

ゼシカの発言を聞き流していた春臣、少し前にゼシカが言った事を思い出した。

―花嫁失格


「どうかしたの?」

小動物のように首をかしげるゼシカを他所に、春臣はダラダラと冷や汗をかいていた。


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