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7 変なこと頼んじゃったのか、ボク? 

「実はこれから、大草原を越えて大陸の中央部まで足を延ばそうと思っているんですが、今のところこの長距離移動に備えるものを何も持っていないんですよ」


「はぁ、さようでございますか」


「それで、どういったものが必要になるかということも、恥ずかしながら分からない状態でして」


「では、一からすべてをお揃えになると考えてよろしいですか?」


「はい、その方向でご指導いただければ」


「かしこまりました。本来であればそういう方面のことは、護衛の手配などを含めまして、冒険者協同組合の方が適任かと存じますが、アラン・リード様には当組合を念頭に置いていただいている以上、全力を挙げてご協力させていただきます」




    あっちゃ~。



    またやっちゃったよ、ボク・・・。



   普通に考えればそうだよなぁ。




「よろしくお願いします」


「では、ただいまより適任と思われる人間を担当としてお付けしますので、その者とご一緒にカランサの町で調達できる最良のものをお探し下さいませ」


「ありがとうございます」


「商業者協同組合の担当者が同行いたしますので、値段交渉や品質の良し悪しなどに、もしご懸念がお有りでしたら、その者に一任していただいても結構でございます」


「それは、重ね重ねありがとうございます」


「但し、その場合は、当組合にも一定の手数料をお支払いいただく必要が生じますが、よろしいですか?」



 

    やっぱ、そうなるか・・・。



    そりゃそうだよね。



    どう考えても商業者協同組合の正規の仕事じゃないもんね・・・。



 

「もちろんです。お手数をおかけするわけですからね」


 とりあえず、アランはその場をアルカイックスマイルでごまかし通すことにした。


 その後、もう一杯お茶を飲んだところで、女性が一人入って来た。


「大変お待たせいたしました。本日アラン・リード様を担当させていただきます、ヨーネ・クラシアスと申します」



 

    あれ、目が二つあるよ、この人。



    ってか、美人~!




「突然おかしなお願いをしまして、こちらこそ恐縮です」




    で、なんでこの人、顔が赤いんだ?



    まさか・・・。



    まさか、この似非金髪碧眼男の外見にぽ~っとなってるんじゃ?



 

「どうぞお気遣いなく。組合員様のご便宜を図らせていただくのも当方の立派な業務でございます」


 アランは、彼の顔から視線を外すことなくうっとり見つめてくる担当の人族の女性の手を取って握手しながら言った。


「右も左も分からない若輩者ですので、ご指導よろしくお願いします、ヨーネさん」


 すると、その女性職員は明らかに挙動がおかしくなり、言葉にもその影響が如実に表れて来た・


「で、ではまず、初めに、長距離の移動に、最低限必要な物の、リストアップから始めさせていただきまふゅ・・・」


「はい」


「それでは、お掛けになってお楽になさって下ひゃいましぇ・・・、あぅっっっ」




    あなたこそお楽にされた方がいいと思うんですけど?




「ありがとうございます」


 何度か深呼吸を繰り返した後、担当の女性は気持ちを入れ替えたかのようにキリッとした態度になって業務に専念していった。


「それでは、こちらからいくつかご質問させていただきますので、それにお答えになって下さい。それによって、当方で必要と考えられる物品を列挙いたします」


「なるほど」


「その後、リストアップしたものの中で不要とお考えになる物ですとか、これが足りないと思われるものがございましたら、その都度忌憚なくお申し出下されば、と存じます」




    ありゃ、開き直っちゃったぞ。



    女性は、強いねぇ。




「わかりました。では、その手順でお願いします」


「まず、長期のご移動と伺いましたが、どれほどの距離、あるいは期間をお考えでいらっしゃいますか?」


「荒唐無稽な話かもしれませんが、世界中を見て歩きたいと思っています。だから、期限なんて切れるものではありません。そうでしょ?」


「えぇ、おっしゃる通りですわね。では、移動手段は何かお持ちでいらっしゃいますか?」


「ここに来るのにも使ったんですが、使役獣を持っています」


「まぁ、では獣舎のケームはリード様の使役獣だったんですね」


「えぇ、アレの移動能力とスピードは侮れないものがありますからね」




    いやホント、とんでもないんだよ、ガルーダの能力って。



    とほほ・・・。




「分かりました。次に、ご宿泊は、常にホテルや旅籠をお考えですか? それとも、野宿・・・失礼しました、ホテルや旅籠以外での夜明かしも考慮に入れていらっしゃいますか?」


「野宿でいいですよ。」


「失礼いたしました。野宿もお考えになっておられますか?」


「もちろんです。長い期間の移動ですからね、何があるか分かりませんから」


「なるほど・・・。野宿もお考えになっていらっしゃるということですが、そうなりますと、装備品が一挙に増えてしまいますが、搬送については何かお考えがございますか?」




    ガルーダだけじゃ運べなくなる可能性もあるわけか。



    ま、その辺は後で考えるかな。



 

「装備品の携帯・搬送の面は、今のところ度外視して考えて下さいませんか。こんな言い方失礼だとは思いますが、今は必要な物のリストアップのはずですよね」




    言い方がキツかったか?



    なんか涙目になっちゃったよ、よねちゃん。



    ごめんよ~、そんなつもりじゃなかったんだってば!



「失礼いたしました。こちらからの申し出でしたのに、私が異を唱えてしまいました」




    だから、泣かないで~、よねちゃん。



    そうだ、ハンカチ貸してあげよっと。




「ミスは誰にでもありますよ。さ、続けましょう。 あ・・・っと、これ、使って下さい」


「あ、ありがとうございますぅ~・・・」







 ほんの30分かそこらで終わると思っていた装備品のリストアップは、その後昼食を挟んで延々続けられ、それだけで今日という日を使い切ってしまった。


「お疲れ様でした。これで装備品のリストの確認作業は終了です」


「協力していただいて助かりました。ありがとう」


「では引き続いて、実際に各店舗へご案内しますので、その場で価格交渉や品質のチェックをしていきましょう」




    意気揚々と言うのはいいんだけどさぁ、よねちゃん。



    外はもう、暗くなってない?



    買い物ってこんなに時間のかかるものなのかなぁ、普通・・・。




「この時間からでは、もうお店も開いてないんじゃないですか、ヨーネさん?」


「はっ?」


「いや、だから、もう結構遅いですよ、今」


「・・・ヤダ、あたしったら!」




    今、素が出たな。



    結構可愛いじゃん、よねちゃん。




「ボクはともかく、ガルーダ・・・、使役獣の名前なんですけど、アイツにエサをやらなきゃ、誰かを襲うかもしれないし・・・」


「え~~! ホントに人を襲っちゃうんですか? でも、まぁ、ケームだし・・・」


「だから、今日はここまでにしませんか? そのリストを貸していただいたら、明日一人でも店を探せますし」


「え、だって、明日じゃもう会えないかもしれないし・・・」

 



    声、漏れてますけど。



    まったく、何で女の人の前だとこんなに調子よく喋れるんだ、ボク?



    それはともかく、ガルーダは放っておけないから。




「ともあれ、ガルーダのエサだけは手配しなきゃいけないので、ホントに今日はここまでにしてください」


「・・・・・はい、ごめんなさい」


「ついでに、今夜泊まるところも探さなきゃ」


「あたしったら、なんてこと・・・」


「いや、だから、泣かないで下さいってば」


「・・・・・・・・」


「泣いてても埒が開きませんよ。じゃ、これで!」




    ふぅ~。



    可愛いし、人族だし、いい娘なんだけどねぇ・・・。



    あれだけ脱線しちゃったらダメでしょ。



    たはははは。



 その後、慌ててガルーダと一緒に泊まれるホテルを探し当てて、ボクもガルーダも夕食に関しては事なきを得ました。


 あくまで、夕食とホテルに関しては、だけど・・・。


 でも、使役獣の世話のできるホテルって、意外と少ないんだ。


 いい経験させてもらいました、ってことで良しとするかな、今日は。








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