15 それは・・・、ガルーダの趣味です! えぇ、きっと。
出発前にフロントに立ち寄ったアランは、支配人に対して妻と娘に専属の係を付けてくれるように頼んだ。
着の身着のままの生活はあんまりだったので、専属の女性従業員もしくは、人手が割けないのなら外部からメイドを雇ってもいいので、妻の意向に沿うような配慮をと願った。
夫婦とはいえ、こんな場合女性が必要とするものが分からないので、そこはよろしくお願いしますと念を押してホテルを出た。
単眼族の人たちは大らかだったからなぁ。
町中でグリフォンに乗っていても問題なかったけど。
この雰囲気でそんなことしたら、攻撃されそうだし。
っていうか、単眼族にしか飼育できないって言ってたくらいだもんな。
ここはやっぱり歩いて町を出てからにしますか、ガルーダを呼ぶのは。
相変わらず混雑している入場門を出る時に、昨日手続きをしてくれた警備兵の顔が見えたので、仕事で町を離れる旨を伝えておいた。
警備兵は忙しいにもかかわらず、愛想の良い笑顔で送り出してくれた。
ホント、いい人が多いなぁ、獣人族って。
なにかお返しできればいいけど、今はムリだね、きっと。
門から出て、国境線とは反対向きにしばらく歩いて、辺りに誰もいないことを確認したアランは、空に向かって
「ガルーダ、乗せておくれ」
と呼びかけた。
離れている使役獣を呼び寄せる方法など誰にも教えられていなかったが、アランはその方法でガルーダを呼び寄せられると信じていた。
すると、アランの声など届くはずのない彼方の空からガルーダが一声鳴いて飛んできた。
ホントに出来ちゃったよ。
ボクって天才?
じゃ、ないよね、やっぱ。
ガルーダが凄いんだ、きっと。
ガルーダが近づいて来るに連れて、徐々に違和感を覚え始めたアランが目をよく凝らすと、何かを持って飛んでいるように見えた。
湧き上がる胸騒ぎは無視することに決めて、ただその場に立っていた。
ガルーダの全体像がハッキリ分かる距離になった時、違和感も胸騒ぎもすべてが現実のことだと理解せずにはいられなくなってしまった。
ガルーダはヒマにあかせて狩りをして遊んでいたらしい。
両足に大角ヤギを一頭ずつ掴み、嘴で岩獅子らしき獣を咥えていた。
あちゃ・・・、また狩ってきちゃったのかい、ガルーダ。
そんでもって、それはとんでもなくヤバくないかい、咥えてるの。
こんなの持ったまま、ってわけにはいかないしなぁ。
・・・・・・・・・・・・・・・。
仕方ない、一度町に戻らなきゃ。
入れてくれるかなぁ、こんなの連れて。
狩ってきた獲物を自分の前に全部並べて、
「褒めて褒めて~!」
と言わんばかりに頭を摺り寄せて来るガルーダの嘴を撫でてやりながら、全身の力が抜けて行くのを感じるアランだった。
混雑する入場門まで帰って来た時、例の顔見知りの警備兵が何事かと振り返ったのを見たアランは、大声で
「怪しい者じゃありません!」
と叫んだが、これ以上ない怪しさは隠しきれていなかった。
地上スレスレまで降下させたガルーダから飛び降りたアランが警備兵に、
「とりあえず、これを売りに行きたいんですけど、また入れてもらってもいいですか?」
と尋ねたが、警備兵の
「ココに放置されても困りますからね」
と呆れて言うのに被せるように、
「壁を飛んで越えると、何か罪に問われるとかありませんか?」
と、わりと必死の形相で聞いた。
「それはないですけど、まぁケームだからなぁ」
と変に納得されてしまったのは、アランにとって結構堪えるものがあった。
警備兵の好意で、獲物を掴んだガルーダに乗ったまま防壁を軽々と超えたアランは、今度こそ売り先を間違うまいと、狩人互助組合を探しながら町の上空を飛んでいたが、ドーナムで見たのとそっくりな佇まいを見せる建物を発見して、その前にガルーダを降ろした。
獣舎の担当者らしき若者が獣人族らしく剽悍な動きで飛び出してきたが、ケームと大角ヤギ2頭と岩獅子を見て腰を抜かしたようにへたり込んだ。
「休憩中申し訳ないんだけど、買い取りの査定担当者を呼んでもらえると嬉しいかな」
さりげない調子でそう告げたのだが、その時には既に建物の中から警備員が3人飛び出してきた。
「どういうつもりだ、これは!」
「は?」
「嫌がらせかね、こんな所にこんなものを並べて!」
「いや、ここって、狩人互助組合じゃなかったんですか?」
「もちろん、ここは狩人互助組合ランダリウム支部だ」
「査定所は建物の中ですよね?」
「中に入って左奥だ」
「じゃ、運ぶの手伝っていただけますか?」
「なんだと~!」
ひと騒ぎあった後、白髪の頭に丸みを帯びた豹の耳を乗せた人物が出てきて、獲物とケームとアランの顔を順々に見た後、
「失礼ですが、アラン・リード様でいらっしゃいますか?」
と尋ねてきた。
アランがそうです、と応えると、
「これは大変失礼しました。私は狩人互助組合ランダリウム支部の副支部長を務めますカカ・メルトリッチと申します」
と挨拶してきた。
「それでは、これらの査定をお求めということでよろしいですかな?」
「はい、狩ってしまったものはどこかで売却しないといけませんから」
「かしこまりました。では、これを中に運び込むよりも担当者を呼ぶ方が早いでしょう」
「お手数をおかけします」
「キミ、査定部長のキャサリンを呼んで来てくれんかね」
警備員の一人が査定部長を呼ぶために、急いで中に入っていった。
間もなく出てきたのは右目にモノクルを嵌めた美女だった。
「お待たせいたしました。査定部を預かっております、キャサリン・デモスレと申します。本日はこれらの査定ということですが、狩人互助組合の組合員証はお持ちでいらっしゃいますか?」
いつものパターンじゃなきゃいいんだけどなぁ。
驚かれるのって、好きじゃないし。
もうちょっとフツーの対応してほしいよね。
アランが提示した狩人互助組合の永久特別組合員証を見たデモスレ査定部長は、受け取ったカードを持ったまましばらく固まっていた。
我に返った彼女は、
「南部岩山地帯にしか生息しないはずのこれらの獲物を当方でお売りいただける理由を伺ってもよろしいかしら?」
と、至極当然の疑問を口にした。
そう、岩獅子にしろ大角ヤギにしろ、その生息域はここランダリウムから250サリ以上離れていた。
それは、普通に考えて馬車で移動するとしても15日は十分にかかる距離である。
もちろん、替え馬を用意していない場合にはこの限りではない。
人間の足だけで移動することを考えると、優に30日は見なければならない。
それほど途方もない場所に生息する獲物を持ち込んだわけだから、査定部長の発言に他意はなかった。
ん~と、なんて説明すれば納得してもらえるかな?
ガルーダの趣味です。
却下
たまたま、この近くを飛んでいた・・・わけないよね。
正直に話しちゃうのが一番かな、やっぱり。
「このケーム、ガルーダっていうんですけど、この子を連れて町に入ろうとしたらこの騒ぎだったから、町の外で遊んでなさいって放してたんですけど、今朝呼び出したらこんなのを咥えてた・・・って、信じてませんね?」
「その話のどこを信じろとおっしゃるのかしら?」
「一応、全部信じてもらえるといいな・・・、ははは」
「ま、いいでしょ。永久特別組合員証をお持ちの方に、一般論は通じないみたいだし」
そんな変な人ばっかりなの、この組合員証の持ち主って・・・。
ちょっとヘコむなぁ。
「当組合の規定では、完全な形で大角ヤギを狩って来られた方に、その栄誉を讃える意味で永久特別組合員証をお渡しすることになっております」
「へぇ、そうだったんですか」
「が、」
「何かあるんですか?」
「私もこんな埃を被った規定が日の目を見るとは思いませんでしたが、大角ヤギを完全な形で3頭以上査定に持ち込まれたか、換金された実績のある方、若しくは狩ったという事実が確認できた方に関しましては、名誉総裁という称号をお渡しすることになっております」
「名誉総裁・・・ですか?」
「はい。アラン・リード様はこの規定をクリアされておりますので、名誉総裁の称号授与に関しましては問題ありません」
「はぁ? 他に何か?」
「もう一頭、違うのを狩ってこられたでしょ?」
「岩獅子のことですか?」
「もうあなたに関してはこれ以上の栄誉やら称号やらは必要ないようにも思えますが、一応規定に則りまして申し上げますと、岩獅子は数が少ないうえに恐ろしく凶暴な獣ですので、これを完全な形で査定に持ち込まれるか、換金された実績のある方には、狩人皇帝の称号を授与することになっております」
「そうなんですか、カカさん?」




