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チート+チート もう一度英雄  作者: 加糖雪広
第三話 異獣+子供
96/99

決着+旅の続き

+ + + + + + +




「どうすんだよ、これ?」


 レナリの鎧を剥がしながら口から出てしまった。

 角、尻尾に翼。


 角はともかく、尻尾と翼の嵩張り具合は半端じゃない。

 そしてそれが突然成長したり生えてしまったレナリの恰好もまた半端じゃない。


 もういっそ裸の方がエロくないんじゃない?

 みたいな恰好である。特に翼が生えた時の影響か、上半身の有様が酷い。これは何とかしなければ。

 ・・・実にけしからん。


 影箱にまだ入っていた毛布を掛けて、手の甲を見る。

 ………少しくすんで迫り出していた三枚ずつの鱗は収まっているようだった。ひとまず安心。黒紋はまだ残っているけれど、これも時間経過で治るもの、だったと思う。


「ヒロ様」

「ホーグ、平気だった?」

「はい、ですが」


 ホーグは短槍の残骸を持っている。


「しょうがないよ。穂先も歪んじゃってたし、直すにも次の町に行かないと鍛冶師もいないし」

「魔法で直す事も出来るのでは?」

「………そうか」


 小窓の表示を見て………。


「いや、やめておこう」


 レナリの能力が上がってしまったので、直してもまたすぐに壊れてしまうかもしれない。直しては壊し直しては壊し、と繰り返すのは道具にしてみればたまったものではないだろう。


「レナリが使っても平気な武器を探そう。ドワーフの腕のいい鍛冶師が見つかれば良いんだけれど」


 ドワーフの鍛冶師って、その技術上鉱山近くにいる事が多いからしばらくは先になるだろう。美味い酒を探しておくか。


 鎧の方は壊れてはない。胸当てを裏から叩いて歪みを直したらすぐ使えるだろう。この鎧は翼があっても問題がないように作られているのが良かった。

 腰の部品はダメになってしまっているけれど、それだけで済んで良かった。こちらは金具もベルトも修復不能になっているけれど、こっちは直せるかな?


「ホーグ、これは直せるかな?」

「お任せください」

「アラも、怖かったか?」


 エニスに跨ってアラがやって来たので声をかける。


「じーーーーー」

「? どうした?」

「ヒロ様、御髪が………」


 そう言われて頭を触る。

 ああなるほど、レナリの風震で、髪の毛が大惨事だ。


「丸坊主にすればアラとお揃いだな?」


 『有限創造』で作った麦わら帽子を被せて言う。


「ふすー」

「?」


 相変わらず表情は無色。でもなんか納得した様子で跨ったエニスに抱き着いた。


「さて、移動の準備するか」


 旅装がかなりやられてしまったから、使える物とか調べないと。


「レナリはどう致しますか?」

「こいつを使う」


 前に作ったエニスの鐙に乗せる台座。影箱から取り出しておく。


「どうせなら、活用しなきゃな」

おん!


 エニスの機嫌が良くなった。自分用、って言うのはやっぱり嬉しいよね?



+ + +



 旅装はテント類は壊れてしまっていたけれど、中に入っていた毛皮や寝袋などは問題なかった。テントの骨の部分を試しに魔法で直し、破れた部分を繕うと、問題はない様だったので影箱に収納する。


 レナリの返り血や汚れを念動力で除去し、着替えさせるには自分の修行が足りないだろうと思ったので、毛布で包んでエニスの台座に乗せた。


「サタ村はどうしましょうか?」

「放っておいていいよ」


 まあ、一度はそっちに行くけれど。










 サタ村が見えるところまでやって来た。

 レナリの大風鎚の影響は全くない様だった。

 家屋の半分は倒壊し、目抜き通りには大穴がいくつも開いているけれどあれは大風鎚の影響ではない。


「アラ」


 肩車横盤で座っていたアラをおろし、膝を付いて視線の高さを合わせる。


「これから、一緒に行くか?」


 一応、確認。

 なあなあで連れ回すのはよくないと思ったからだ。


 アラは何を言ってるんだコイツ、みたいな色の眼をしたけれど、きっと気の所為だろう。

 アラの返事は一跳びで自分の頭を抱え込む肩車前盤だった。


「よし行くか」


 そのままで言うが、しまらないなあ。自分らしい。




+ + +




 アラを肩車して、エニスとホーグとともに歩くと、昨日の一割くらいの進行速度である。次の町まであと一日、と言う所だった。


 日も陰る時間まで進み、夜営の準備をする。

 レナリはまだ目覚めなかった。


 アラは食事の時に出した箸を両手で持ってエニスを追いかけている。

 自分は焚火の横に座ってホーグの淹れた葉茶を飲みながら色々調べ物をしていた。


 疲れたのか、汗を掻いて顔を真っ赤にしたアラがやってくる。そのまま四つん這いになって近寄ってきて、自分の膝に置いた手を持ち上げる。

『やってる?』とか聞く居酒屋の常連さんのようだった。

 返事も待たずに入ってきて、手慣れた様子で自分の掻いた胡坐の上に座り、「ふすー」と鼻息を漏らした。


「そんな汗掻くまでエニス追っかけたのか?」

「ふすー」

「風邪ひくから拭きなさい」


 タオルを出して顔を拭いた後、タオルをアラに渡す。

 アラは箸を持ったまま受け取ってそのまま顔を拭こうとして、額に箸を刺した。


「!!?!!?」

「箸は回収」


 持ったままはよくないと言う事を経験で知ってもらうべくあえてそのまま渡したけれど、アラは未だに箸を手離すのを嫌がる。


「これは食べる道具だからな?」


 頭を撫でる。


 ちなみに自分はアラと同じで丸坊主になった。

 夕食の前に己月で綺麗に剃っちまった。アラならまだ可愛げがあるから許されると思うけれど、自分の場合はあれなんで眉毛は剃ってない。


「ふすー」

「?」


 アラはタオルで自分の顔を拭く。アラ自身の顔じゃなくて、自分、ヒロの顔だ。


「汗掻いてないぞ?」

「ふすー」


 何だか満足したようで、自分と同じ方向を向いて座る。


 自分はアラの箸を影箱に入れて、アラの前で手を組む。


「何か飲むか? 暑いだろう?」


 アラは自分が飲んでいた葉茶を飲んでみて、初めて表情らしい表情をした。

 苦かったか…。


「ホーグ、アラに何か飲み物を」

「準備しております」


 樽コップ(小サイズ)に果汁を淹れたホーグがすぐ傍に控えていた。

 素晴らしき万能ホーグ。

 中には森で見つけた赤い実も入っていて、良い塩梅で冷えている。

 果汁はオレンジやグレープなど、数種類の物を混ぜたミックスジュースの様だ。水割りでも香りが良かった。


「ごっごっごっ」

「良い飲みっぷりだな」


 相当暑かったのだろう。汗も凄かったし。


「ぷはー!」


 殆どを飲んでしまったようだ。

 ホーグを見ると、既にお代わりの準備までしてあった。もう凄すぎて頭が下がります。


 樽コップを置いて、自分の上で寛ぐアラ。

 でもその姿勢は妙に洗練されている。背筋は通っているし、肩や背中にも力が入っていない。リラックスしているにしては、妙に『堂に入った』座り姿だった。


 もしかしたら、アラの生まれ育った場所でアラは何か棄、もとい貴族の教育でも受けていたのだろうか?


 ………。


 視線を感じたのかアラが振り返る。

 じーーっと見つめ合うことしばし。


 ふ、と。

 微かに、アラが微笑んだ気がした。

 美形さんな顔立ちに乗せる微笑はとても綺麗で、年相応に可愛らしかった。

 将来が楽しみになる。素敵な微笑だった。



+ + + + + +



 ―――夜。

 今日のアラは寝相がおとなしかった。

 おとなしかったけれど鼻血が出た。


 鼻骨が陥没しそうな衝撃だったので再び自分はテントから戦略的後退を選び、新たに先程作られたエニス風呂で汗を流していた。


「昨日も思ったけれど凄い攻撃だ」


 回復魔法で怪我を治し、エニスに寄りかかっているとマップの光点が急速にここから離れていくのが見えた。


「なんだよ、忙しいな」


 自分は普段ならタオルで拭いたりするところを念動力脱水で済まして革の衣服に着替える。


おん!


「エニスはアラの護衛頼むよ。もし起きて淋しがったりしたらね?」


 ちなみにホーグは夜になるとどこかにいなくなっている。もしかしたらお米を買いにどこぞに行っているのやも知れない。







お読みいただきありがとうございました。

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