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チート+チート もう一度英雄  作者: 加糖雪広
第三話 異獣+子供
95/99

性敵+革の衣服

+ + + + + + +




 レナリの飛行能力は、凄かった。

 ツバメ?

 違う。

 飛行機?

 違う。

 例えるならトンボ。

 急制動急旋回、斬撃波を見舞ってもクン、ピタギュン! と効果音でも付けるべき動きで躱していく。


 もうそれは、有翼人のレベルよりも上。

 そう、自分の知る五百年前の空を自由に飛び回ったニリの飛行能力すらも上回る物だった。


 そんな彼女が魔法を使って自分に攻撃を繰り返しながら、必要以上に近寄る事もなくいるわけだ。

 もう完全に詰んでる。

 こちらの攻撃は届かず、一方的にレナリは魔法の鎌鼬を見舞ってくる。

 見えない鎌鼬をやり過ごそうにしても、彼女が一度の魔法でどれだけの鎌鼬を放ってきているのか解らないこのどうにもならないストレス。


 こちらを警戒して近寄ってこないうちに、自分は『回復魔法』を試して傷を治していた。

 向こうが近寄ってこないのなら、近寄って来ざるを得ない状況にすればいい。

 そう考えての事だ。


 身体の傷を治す魔法は三段階に分かれていて、一段階目の回復魔法にしたのは、この先の事を考えて魔力を温存しようとしたのだ。

 二段階目は事情があって自分に使うべきではないので、自然と三段階目か一段階目の二択になるのだけれどね、詳しい話はまたいつか。


 レナリは鱗の翼を時に震わせ、時にはためかせ、虫の様にしたり鳥の様にしたり器用に使い分けていた。

 現代日本の物理法則が目を見開いて溜息をつく様な理不尽飛行だ。


(念動力、………レナリは理力を見る事が出来る。あの速さじゃ触れる事が出来ないな。

 魔法・・・、が一番現実的だな。でもどんな手ならレナリを止める事が出来る?)


 斬撃波を数度放っても、レナリは目で見て余裕を持って回避している。そうなると自分に残された選択肢は二つだ。

 試していないのはあと銃弾、もあるけれど………。おそらく掠りもしないだろう。


(レナリの動きはアラをどうにかしようと言う物は見られない。

 その辺り、復讐の神の関係か?

 人間に憑依する神様なんて他に聞かないから解らないけれど。『人に神が乗り移って、人がそれを制御する』なんて普通じゃないからな。多分普通じゃない負担がかかっている筈。一つ目の障害(まず自分)をどうにかするまで、次の行動に出ないだろう)


 ニリの時もそうだった。

 言葉は半端にしか通じず、魔族を見る度におかしくなったのである。

 轟獣だろうと魔獣だろうとニリを止める事は出来ず、大破壊を巻き起こしていた。

 ………当時の連れは誰もが大破壊向きの性格してたから、大半周囲には大魔道士の姐御かトグオの爺様がやったのだと思われていたけれど。


(レナリの行動はさっきから鎌鼬を撒く程度。

 ………ニリの時の経験も踏まえて考えれば、そろそろ焦れて魔法の規模を上げてくるはず)


 ニリが使う攻撃用の魔法は五つ。

 風塵から始まる三つの連続魔法。

 微風結界を攻撃用に作り替える牽制。

 あともう一つは………。


 魔力がうねる。


 周囲の魔力が根こそぎ一点に集まっていく。

 空を舞うレナリ、その頭上に魔力の繭が作られていく。魔法の規模を大きくしようと言う考えなのだろう。


「エニス、ホーグ!」


 声をかけるまでもないかもしれないけれど、アラを護る二人に声をかけておく。


 ニリの魔法の中で最大の規模となる魔法、手加減なしで放たれればそれは国一つ滅ぼすほどの魔法になる。

 ―――その名も『大風槌』。

 現代日本の知識混じりで考えれば、ダウンバーストとか呼ばれる現象に、近いのではないだろうか?

 理屈は分からないけれど、アメリカで猛威を振るうマイクロバーストとニュースで呼ばれもするアレが一番近いだろう。


 本来ならば気象環境が整って起こる下降気流なのだろうけれど、この世界は魔法さえ使いこなす事が出来れば個人でもそれの現象に近い事を起こす事が出来る。


「さて」


 予兆か、

 耳の奥が痛くなる感覚。

 気圧が急激に変化しているのか?


 国一つ更地に変えるような魔法だが、やり過ごす事は出来るか?


「………やるしかないか」


 今使える手段は念動力くらいか。

 エニス達三人も覆うように念動力の防護幕を張り備える。


 レナリは膨れ上がる魔力の塊に自分の魔力を注ぎ込む。

 その塊が、風の塊に変わっていく。



「大風鎚」



 ああ、面倒だ。




+ + +




 周囲は、林や森だってあった。

 サタ村だってあった。あっちはどうなっただろう?

 レナリの下の地面を中心に、放射状に全てが横倒しになっている。


 自分は?

 エニス達は?


 念動力の幕は大風鎚、魔法を防ぎ切ったようだ。

 被害はない。

 あ。

 テントとか旅装が………。


 まあ後で作れば良いか……。


 周囲は綺麗なもんだ。って言うにはあまりに酷い状況だ。

 嵐で木々が倒れ、風で舞う砂が立ち込め、酷い有様だった………。


 ニリの時よりもこれは多少ましだろうけれど、ましなんて言っていいわけないよな?

 跳ね蜂とか大丈夫だろうか?

 ………全滅してそうだな。


「ジルエニスには感謝だな。どんなにしても足りねえけど」


 ニリがこれを使った時は風に曝され、地を転がり………。

 思い出すだけで涙が浮かんでくる。

 あの時から考えれば、念動力のおかげでみんな怪我もなく済ます事が出来た。


「でも、それは仕事の早さで表さないとな」


 だからいつまでも五百年前の事で引っかかってる場合じゃねえんだよ。


「レナリ………」


 魔力を根こそぎ使ったのか、レナリは荒い息を吐きながら着地していた。手加減なしに使い過ぎだ。


「復讐の神の力で増しているにしたって、使い方が悪ければダメだろう?

 復讐するにしたってよ」


 復讐の神なのに、復讐の役に立っちゃいねえじゃねえか。

 いや、人にその力が大きすぎてか、……この神の存在がよく解らねえ。


「レナリ、もう良いだろう?」


 アラをどうにかしようとしても、復讐は完遂できないだろう。

 レナリの復讐は、アラをどうにかして終わりって言う類のもんじゃない。

 ………まあ、自分のそれもそんなもんだったけれど。


「アラをどうにかしなくても、レナリの居場所はまだここだぞ?」


 いつか一端になって自分で選ぶまでは少なくともレナリの居場所はここだ。


「ひ、ろさん」


 ダメだ。目がまだおかしい。


「聞こえているか、復讐の神。

 二人分の復讐なんて大変だろう。レナリの分はいらねえぞ。復讐するなんて意味ないんだ」


 ニリが混ざっているせいなのか?

 いや、元からこんな感じだったな復讐の(とりこ)さんは。


 立ち上がる姿もおかしい。

 構える姿もおかしい。

 こちらを睨みつける目もおかしい。


「やっぱ復讐って言うのは自分の手でやらなきゃな」


 復讐の神なんて、今は必要ない。


「ひ、ろさん」


 まるで何かに引き摺られるみたいにこちらに向かってくる。

 ゾンビ映画だってもう少し見栄えするぞ?


 最初にこちらに振られたのは、翼。

 拳、

 足。


 自分と違ってそれだけで選択肢は六つ。

 更には、


 『ご!』


 尻尾!

 これが拙い!


 長いし下手に振る手足より鋭いし堅いし!


 レナリの鱗は竜の物で、堅さも鋭さも下手な武器よりもよっぽども優秀だ。

 ボロボロにされた革の衣服を擦るたびに更にボロボロにされる。

 っくそ!


 踏み出す足に合わせて足をずらし、振りかぶる腕が上がりきる前に身体を寄せて距離を鈍らす。

 彼女の股下から尻尾が振るわれる前に横に抜けながら意識を刈り取る為の当身!


 レナリの身体能力は高い。当身の瞬間、身体を捻って躱される。

 この超至近距離でも、竜人は自分よりも早く動けるようだ。


 レナリは体当たりのつもりで足を踏み出すも、その爪先に先に自分の爪先を置いて体重が乗る前に足の位置をずらす。


 集中力が高いのか、それも数度繰り返せばレナリは自分が機先を制すやり方の戦いを解り始めたらしい。

 なら更に先、重心を乗せる前にその動きを止めればいい。


 これを繰り返していけば最終的に自分の戦い方は潰れていく。いい加減何とかする手を考えないと。


 転ばそうと足を引っ掛けようとしても、尻尾と翼を器用に使って転びもしない。

 少し強めに攻撃しても怯みもしない。


 ったくどうすれば良いのか…。


 本気で気絶させるか?

 加減が分からんと上手く行かないけれどレナリの様子を見る限りそれでもいいんじゃないかと思ってきた。


 力もあり、速く動ける。勘も良く、何をしようと決定打どころか牽制程度にしかならない。


 ニリ相手ならわりと本気でやっちまうところだけれどなあ。

 あいつの場合、手加減してたら大怪我または死しかないから必死だったけれど。


「レナリ、ちょっとばかり我慢しろよ?」


 尻尾の攻撃を拳で弾く。

 びき、と身体の中で音が鳴る。骨か関節かがやられた。


 その拳の悲鳴を無理矢理握って潰し、レナリの鳩尾に鎧ごと粉砕する覚悟で殴りつける。


 がん! 黒塵の兵士の胸当てが微かに歪む、その程度しかいかない。

 レナリに至っては衝撃で震えた程度だ。

 かてえなコイツ!


 レナリが防ぎ切れたと自信に満ちた笑みを浮かべるけれど、


「まだまだだなレナリ」


 自分の手は胸当てを留めている革紐を掴んでいる。

 足を引っ掛けながらレナリを引き寄せ倒す。今度は翼と尻尾が自由にならないように仰向けだ。


 顎の下と両肩を抑え、動けないようにする。


 留め具を外しながら胸当てを剥がす。


 想定外の行動だったらしく、レナリの表情が驚きに染まり身を護るように…。


「搦め手に慣れないとな?」


 ―――『電撃魔法』。


 ばちぃ!

 身体が痺れて動けない程度の加減は解析とナイ達にお任せした。

 自分じゃ酷い目になるからね。


「ぐ!」


 平気なのかよ?

 レナリは自分の事を片手で弾き飛ばし、ってどんだけ力あるんだ?


 三メートルほど空に上がった自分に、即座に立ち上がって両手と翼、尻尾を構えるレナリ。


 二本の腕と両の足を使ってもどうにも数が足らん!


『ヒロ、行けるノ!』

 何が??



+ + +



 ばつぅん!


 残った音が大きく、耳に痛かった。

 レナリが堕ちてくる自分を迎え撃とうとしていたのに、翼と腕、尻尾が何かに弾かれて体勢を大きく崩している所だった。


 エニスの尻尾?


 でもエニスは変わらずアラを護る位置にいて、


 視線を巡らせれば、しゅんしゅんと動く、革の衣服の各所の鎖とベルトが見えた。

 なんだ?


 小窓に表示された内容は、革の衣服の情報。

 形を変える性質を持つ自分の装備の中で、革の衣服は形を変えるだけがその能力ではないと表示されている。

 武器として形を変える己月、

 魔法陣を刻むブーツ、

 そして革の衣服は、矛であり、盾となる。


 悪役スタイルの自分の今の恰好はヂャラヂャラベルトや鎖がぶら下がっている。

 レナリの攻撃で切られていたそれが、別々の生き物の様に動いているのだ。


『ヒロ、制御して!』


 どうやって?!!


 それよりも先に着地、と自分が考えるや、ベルトがそこらじゅうに倒れている木々にまで伸びて巻きつき、レナリと離れた位置にまで引っ張られた。

 着地の際に速度は緩やかになり、自分は楽に地に足をつける事が出来た。伸縮自在だな。


(制御、と言うより己月やブーツと同じく考えている事に合わせて動いてくれる、のかな?)


 木々から離れたベルトが、それぞれ威嚇する蛇の様に鎌首をもたげる。

「形が変わるなら、治るのか?」


 思わず気になっていた事を呟いてしまう。

 布地ではない、革の衣服の革が継ぎ接ぎになってしまったらいやだと思っていたのだ。

 革の衣服の返事は行動だった。

 切れていた部分が見る間に塞がっていき、ベルトや鎖は先に元からそうだったかのような装飾や部品に似た物が生まれていく。


「おお!」


 良かった!

 でも、悪役スタイルが全く違う形に変わってしまった。

 両肩三本ずつのベルト、胸の所に垂れている二本の鎖(ただし革製)。

 八本の腕が突然増えてしまった。


 レナリの尻尾や翼とは違うんだぞ?


『一つ一つを動かそうとするんじゃなくて、腕や足と同じように、目的を考えるノ!

 ヒロの頭がパンクしちゃう!』


 元から自分はそんな高性能じゃないからな、仮に手の指が突然一つ増えただけで処理落ちする気がする。

 これは神様が一時的に貸してくれた物だ。自分程度でも使えるマニュピレータみたいなもんだと思い込め!


「使いこなせるようになるのは一旦置いておく!」


 レナリの七の選択肢さえ一時的に潰せればそれで良い!

 後で使いこなせるように研究してやるからな!


 革の衣服、それまではちょっと頼むな!


 ベルトと鎖が鼓舞されたかのようにシュンシュン音を立てた。



+ + +



「し!」


―――『閃光刃(・・・)』。


 駆け寄り一閃。

 それを正確に目視しているレナリの行動を停めるのはベルトだ。

 大きく尻尾を弾くや右肩のベルトが二本レナリの尻尾を拘束。


 翼をはためかせ、レナリが空に逃げようとするや、左肩のベルトが翼をまとめて拘束。

 両腕は胸の鎖が拘束した。


 蹴足で自分と距離を取らんとしたレナリだが、その足を弾いたのはまだ残っている右肩のベルト。

 地面に近ければ何を始めるか分からないので、彼女をそのままベルトで持ち上げた。


 ………ワア性的ニ性敵ダ。


「ぐ! あああ!」


 苦しめないように拘束を緩めてやりたいけれど、彼女の力だとそれだけで逃げ出してしまいそうなので今はやめる。


「ふう」


 頭の奥がちっかちかとなっている。

 そう言う能力があるのか、ベルトと鎖には自分に解る触覚があった。そのおかげで力加減はやり易いのだけれど、今まで感じた事もない感覚が増えていて頭が痛くなりそうだった。いや、破裂しそうだった。


「悪いけどレナリ、終わらせよう」


 大きく息を吸って。


「念動力!」


 意識を奪う程度に、彼女の周囲から空気を奪う。

 かなり長い間抵抗していたけれど、それでも生き物なんだから空気は必要だ。レナリは意識を失った。





お読みいただきありがとうございました。

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