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チート+チート もう一度英雄  作者: 加糖雪広
第三話 異獣+子供
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竜の印象は良くない+鱗の翼

 これまで檻の中での生活で、満足に得られない栄養で止まっていた準備が、ここ数日で一気に成長を始めた。…遂げたと言うにはちょっと違うアレ。

 スキンシップが増えたのも、妙に自分の近くにいるようになったのも、身体を持て余していた彼女なりの発散だった。

 竜の、爬虫類?の特徴を持つ彼女は、自分の知る知識とは違う身体の作りをしていて。ホーグの作る栄養価の高い食事、生き死にの不安の薄い生活でそれが開花したのだ。


 解析を見てしまった範囲では、この時は情緒が不安定になる。これは自分が知る知識と同じだ。

 身体が変化し、その変化に心が引っ張られてしまう独特な時期。そんな時に彼女は寄す()となってしまった相手が、自分以外の相手に世話を焼いていた。

 彼女にとって、世話を焼かれているアラは、自分の居場所を奪った憎き相手に映ってしまったのだろう。


 こんなに急激な変化だとは思わなかった。男思考で先送りにしていた自分の責任だ。

 でも。


「そんなわけないだろうが」

「ひろさんは私を一人前にしようとしていました! 一人前になれば、私はひろさんの傍から離れて生きなきゃならないじゃないですか!

 そんな事できません!

 私は、ひろさんの傍にいたい!」


 すぐに返す言葉がなかった。

 確かに、彼女が早く一人でも生きていけるようにと、ホーグに武術の鍛錬から生活に必要な能力を育ててもらっていた。


 でも、自分なんぞに関わらず、ニリの事も関係なく。

 レナリ自身が感じて、レナリ自身が思うように生きていけるようにという意味で、自分はレナリを一端にしようと考えていた。

 それが裏目、レナリには冷たい対応に感じてしまったのだろう。


「それだって、レナリ。

 それだって自分で感じて、考えて、決めて良いんだ。一端になるって事は自分で決めていくって言う事だ。レナリの想うとおりにすればいい」

「だから、私は、居場所を取り戻すんです!」

「一端になってから言えよ、レナリはまだ半人前。一人前なんてまだ先だ」

「だって、あの子はひろさんと一緒に寝て、ひろさんに食べさせてもらって、身体を洗ってもらえて!

 ひろさんは私に冷たかった!」


 それはお前の身体が半人前じゃないからだよ!


 なんて言ってやりたかった。

 でも、言えなかった。


 とんでもない力に圧されて、自分は宙に浮いたのだ。


 風?

 違う。

 無理矢理レナリが起き上がった?

 違う。

 下っ腹の部分が痛かった。


 見れば、レナリの変化がさらに進んでいた。

 小振りな物だったと記憶している、レナリの尻尾が。


 エメラルドの輝きを放つ鱗に覆われた、長い尻尾となり、地に着く様に、伸びていた。


「しっぽ!」

「ああああああああああぁあぁあああああああ!」


 急激な成長、どころの騒ぎじゃない。

 これまで五百ミリのペットボトルくらいのサイズだったレナリの尻尾が、百五十センチくらいに伸び、太くなったのだ。

 レナリの悲鳴は急激な変化に対する、痛みを訴える声だった。

 自分の腕位太くなっている、自分も成長痛で味わった痛みを思い出すが、この程度では比較にならないだろう。

 その身を割く様な悲鳴が響くと、ぶおうんぶおうんと尻尾が空気を割いた。いや、叩いて悲鳴を上げさせたと言った様子だった。


 着地、レナリはそれまでに立ち上がって、脂汗を浮かべながら槍を構える。

 自分は準備なく受けてしまったせいで喉に空気を溜めてしまって傷つけてしまった。ガラガラ喉を鳴らしてから血混じりの唾を吐く。


 真っ黒な鎧と槍、緑色の髪と尻尾、角を持つ彼女。

 場違いだけれど、綺麗な絵画みたいに見える。


 顔色は赤みが差していた。

 なのに。


 黒紋、まで付いている必要ないじゃないか?

 歌舞伎の縁取り、の様で、ピエロの化粧の様で---、

 復讐の神に魅入られたニリと同じように、いらない装飾が施されていて、目の周りだけ青ざめた上に黒の縁取りがされているせいでホラー映画の様になっている。


 美人はどんな顔でも似合うと言うけれど、殺意を感じるその表情はレナリには合わない。幼い顔立ちの彼女にはもっと合うべき顔がある筈だ。


「レナリ、槍を収めろ」

「だ、めです」


 また言葉が壊れていた。


「アラをどうにかしても、居場所にはいられないぞ?」


 自分の性格をよく考えてみろ。

 子供をどうにかする奴を、自分は許せない。


 ニリになら通じるだろうけれど、彼女には通じないだろうなあ。彼女もまだ子供だ。


「それ以上無駄な物(復讐の神)に引っ張られるな」


 レナリの急激な変化は、復讐の神が関係しているのは明白。

 これ以上急激に変化したら、彼女の身体の方に後に残る影響が出てしまいそうで怖かった。


「わ、たし。い、ばしょ」

「今、レナリの居場所はここだろう?」


 両手を広げて、冗句っぽくしてみる。

 …吐き気がするだけで何の意味もなかった。

 すいません、なんか調子を変えてみたかったんです。


「………」


 首カクンで横にするほど不可解だったらしい。無言だし。


「レナリ、解ってくれ」


 ステータスの状態を比較して考えれば、自分と今のレナリの戦いは、お互い無傷で終わる事が出来るとは思えない。

 経験不足だからこそ上手くいった先程と違うのは、彼女の尻尾。

 単純に自由にできる部分が増えたと考えて間違いない。尻尾で戦う動物だっているのだから、ただバランスを取るための道具ではないだろう。


 竜の爪も牙も角も翼も尻尾も、立派な攻城兵器だ。


 出来る限り、レナリを傷つけたくない。


 己月をロングソードの形にして構える。

 黒塵の兵士セット、買ったばかりで一回しか実戦を経験してないけれど………。仕方ない。


「斬るぞ」


 歪んだ穂先の槍ではどの道、この先使う事は出来ないだろう。

 レナリの力に耐えられなかったのだろう。

 そも、竜人の力で槍なんて武器じゃだめだ。もっと硬くて重い素材で作るか、質量だけでも人には持つ事も出来ないような物を探さなくては駄目だ。


 済まないな。折角作られたのに、ほとんど出番もない内に終わっちまって。


 ―――『閃光刃(・・・)』。


 全力で駆け寄り、レナリの眼以外が対応できない速度で厚ぼったい穂先を断つ。

 彼女の身体が反応し、守勢の構えに移るや、もう一撃。

 柄を半分に分割した。


「………」


 レナリの口が動いていた。

 眼以外でも、動く事が出来ていたらしい。


「………」

「!?」


 猛烈に嫌な予感がして、自分は彼女の後ろに回るように動き、失策に舌打ちした。

 それは詠唱、言葉の詠唱だ。

 ニリが得意とする、『微風結界』と同じ文言。


 今のレナリの実力でそれをしたら、


 ばつん!


 風に平手打ちにされたような衝撃を受けて、身体が浮く。

 彼女の身体で新たに生まれた武器、尻尾がそれを追って自分を強かに打ち据えた。


「ぐ!」


 内臓が動くような衝撃。追ってくる、脇腹への激痛。


 早速尻尾の事を忘れて後ろに回ってしまった。

 これでは灰猫を馬鹿にできない。あの時は、『速度を武器にする奴が行う攻撃パターンに合わせて、向かってくる位置に武器を置いた』だけなのだ。自分が今、相手の武器がある場所にウマウマ突っ込んで行ってしまったのと同じである。


 …う~ん。骨はいってないけれど、内臓破裂したか?

 だとしたらやばいな。


「風塵!」


 うは!

 ニリの武器間合い外攻撃の基本にして、


 びゅん!


 鎌鼬の刃が迫るのを滑稽な動きで躱した。

 見えないから超怖い!


 レナリの奴、ニリの魔法まで使うのか?

 核司の関係どうなってるんだ?


 【復讐】の核司を活かしてニリの能力を『前世の残滓』で再現


 自分が言う事じゃねえけれど、チートすぎでしょ!


「ってことは!」


「風厳!」


 ニリの亜型魔法の連携が続く。

 風塵は鎌鼬の射出。

 風厳は風の塊を散弾にする。


「っつえあ!」


 塊が迫り(見えないので勘)散弾となる前に斬りつける。

 神剣で出来たので出来ると信じて、魔法を斬り裂いた。


 斬った風の塊の向こうに、詠唱を終えたレナリが見えた。


「風震!」

「っっっ!」


 言葉にならない悪態を出しつつ、自分は地面に倒れこみながら破れかぶれにロングソードを振り回した。ばつばつん! と見えない物が破裂する手応えがあった。

 半ドーム状の全周囲鎌鼬は、同時に二十から三十の鎌鼬を放つ、滅茶苦茶な亜型魔法だ。先の二つの魔法で足止めした場所を中心とする魔法で、見えないと言うとんでもない攻撃だ。

 風厳の時点で相手に肉薄できなければ躱しようがない連携のえげつなさ!


 躱しようがないのだ。


 いくつかは斬れただろうけれど、自分は鎌鼬の雨霰でズタボロに。


 革の衣服が、………至る所が裂けてしまった。

 この鎌鼬、刃物じゃないからやたら傷口が痛い。

 革の衣服は皮膚までは裂かれないように無理をしてくれたのか、服に守られた部分は無傷。でも何処までが傷で何処までが切れてないのかわかりゃしない。

 唯一の救いは、レナリの風震よりも威力が薄かった事か。


「どうした? 皮膚切れただけだぞ?」


 やばい、スイッチが入りそうだった。

 冷静になれ自分。


 顔は守られたらしい。血は瞼に入る事もなく、息が詰まる事もない。

 これなら充分戦える。


 いや戦っちゃだめだ。


「おらどうした!」


 やばいやばい、風震終わるや、低姿勢で駆けだす。


 レナリは、左半身前で構える。

 槍はなくとも、染みついた物だからか、武器がなくとも無手で戦う事が出来るのか。


「はっ!」

「遅い!」


 ニリにしろレナリにしろ、武器のない無手での戦いは不得手だ。武器を起点として戦う種類の武芸者だからだ。レナリに至っては教わってない。


 でもレナリが取った行動は槍を持つかのような片手突き。

 優れた武術の型は武器のあるなし関係なく優れた武術だ。構えが、型が整っていれば、それは優れた攻撃だ。

 でもロングソードの自分に無手で突いてきても、間合いが違う。

 突きの手の甲にある鱗に警戒しながら、低姿勢のまま更に深く沈み込みながら掻い潜り、前の足の膝のすぐ下に靴裏を合わせる。そこから身体を持ち上げる様に踏み込みながら、レナリの体勢を崩しながら鍛えようのない人体急所の一つ、脇の下に肩から体当たり。


 良かった、冷静だった。本来ならここでロングソードの突きを脇の下に入れている。


 斜め上に吹っ飛ぶレナリの表情が苦悶に染まり、やばい、ちょっと強かった。

 それを更に追うように跳躍。


「風幕!」

「風の幕程度で防げるか!」


 尻尾と風の幕を抑える為に、念動力の拳を連打。


「あああああああ!」


 苦悶の表情がさらに歪む。

 その質が攻撃からの痛み、ではない事に気付いた自分は冷や水を浴びた気分になる。

 竜の特徴と言えば、まだ足りていない物がある。


 それが生えると気付いたのだ。



 ずらあ! と音が聞こえた。

 服の生地が引き裂ける音と一緒に、確かに聞こえた。


 翡翠を削って作ったかのような、翼。

 それがあまりに綺麗で、見惚れそうになる。

 でも、


「鱗の翼だあ!?」


 被膜の翼ではない。

 鱗が集まった翼だった。

 この世界に鱗の翼を持つのは、翼鱗長命族、狂竜ドフニテルを長とする千年以上生きる種族だ。

 それだけだったはずだ。


 レナリの背に生えた宝石よりも輝く翼は、長命族の証だった。


「どういう事だ?」


 レナリは実は竜人ではなく、竜だっていうのか?

 翡翠色の鱗に覆われた、あの自分の印象最悪の一族だって言うのか?


「ば!」 大きく翼がはためく。

 これじゃレナリを宙に浮かせた意味がない。


 レナリは大きく翼をはためかせ、自分の攻撃の届かない上空へ。風の幕を力任せに押しつぶした念動力の拳も彼女の下を通り過ぎて行った。


 翼鱗長命族の血を受け継いでいる。


 竜の野郎、節操なさすぎじゃねえか?

 自分の子なら大事に育てろ超越種!





お読みいただきありがとうございました。

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