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チート+チート もう一度英雄  作者: 加糖雪広
第三話 異獣+子供
93/99

レナリ+ヒロ

 なんじゃそりゃ?


 なんじゃいそりゃあ!

 ニリの時もそうだったのか?

 桁違いに能力上がってるじゃないか?


 しかも核司に+まで付いているってどういうことだ?


 復讐の神の効果


 ………戦ったら、自分…死ぬんじゃないのか?


「レナリ、槍を手離せ」

「ひろ、さん」


 いきなり会話が成立しなくなってる気がする。表情にも生気はないし、その癖目の奥には何かが爛々としている。


「わ、た、し、は」


 レナリが壊れてる~、ロボット音声みたいなんだよ! 完全におかしくなってるじゃん。




 ニリの時とおんなじじゃん!!!






+ + +



 復讐の(とりこ)と化した有翼人の王女ニリは、五百年前の戦いでも度々ぶっ壊れていた。

 復讐の相手と戦う際、必ずと言っていいほど今のレナリの様に会話が成立しない、暴走、血風(けっぷう)生産者となり戦場を蹂躙していた。


 有翼人の王女として生まれ持った品格、

 その品格をさらに格上げする純白の翼と服装、

 桁違いに練り上げた槍の武威。


 そんな、物語だったらヒロインとなるに充分な要素を揃えた彼女だったけれど、戦場では誰も近づけないほど危ない人だった。

 無尽蔵の体力、敵味方が見えなくなる程の規模の魔法、風のように舞い、雨の様に刺す槍の技。


 この暴走に巻き込まれ、怪我で済まなかった連中がたくさんいる。


 自分とかな!


 今ぱっと思い出せる範囲でこの世界で二回ほど死んだ経験があるんだけれど、その内の一回はこの人だったりする。

 敵と間違えて、鎧を着てない時にぶっすり。

 身体の半分が吹き飛んだらしいよ?


 夜襲を掛けてきた魔族と間違えて、自分は半壊させられたらしい。



+ + +



「さてどうした物か………」


 この状況、五百年前なら巨甲長命族のトグオの爺様に盾をやってもらい、自分が気を引く間に長耳長命族のシュウか、魔族のディーケンが意識を刈り取る。

 これがいつものパターンだった。

 いつものパターンとなるほど繰り返された事だった。


 博識な爺様がいてくれれば、色々と算段を立てたり、

 悪知恵の申し子の、人鼠のベツが悪巧みをしてくれたりしたのだが……。


「………あんなの連れてよくバフォル倒せたよな~」


 獅子身中の虫、なんて言葉があるけれど、獅子身中の悪鬼羅刹だと思うよあれ?

 獅子の身を食い荒らす悪鬼、引き裂く羅刹。

 そんな状態になったレナリを、自分一人(・・・・)でどうにか出来るのか?


 五百年前の因縁に、エニスやホーグの手を借りたくなんてない。これはちっぽけな自分の問題だ。五百年前の仲間の、散らかした後片付けだ。

 これに今の問題のために力を貸してくれる二人を煩わせる訳にはいかない。


 と言うわけで、会話を試みる。


「レナリ、何度も言うが槍を手離せ」

「ひろ、さん。わ、た、し………」


 あ、諦めるな自分!


「血塗れで壊れてる相手との会話って挫ける要素としては充分だよな………」


 い、いかん現実逃避し始めてる自分!


「レナリ、まずはその血を取るからそのままでいろよ?」


 念動力の手を出す。

 ………これが拙かった。


「て、き?」


 レナリが首をカクン。

 目の色が、変わった。


「て、き?」


 ずおん。そんな音がしそうだった。


 力が籠った槍の一振りだった。速い訳でもないそれが、念動力の手を力任せに押しのけた。

 確かに念動力の手は触れる事が出来るけれど、これはおかしいだろ?

 念動力の手は、自分の念動力の位階を考えれば神に並ぶ程の………、そうか復讐の神か。


「ひ、ろさ、ん」

「自分は復讐の相手じゃないだろう?」

「ふ、く、しゅう?」


 首が逆にカクン。


「ふ、く、しゅ、う。

 ふく、しゅ、う。

 ふくしゅ、う。

 ……………ふくしゅう。ふくしゅう。ふくしゅう。

 フクシュウ。

 フクシュウ。

 フクシュウ」


 ああ。

 もうダメだコレ。


「復讐」


 翠色の髪が一瞬、膨れ上がって逆立ったように見えた。

 目の色が、炎に炙られた様に揺らめいた。

 まるで、もう終わった物が再び目の前に現れた事を知ったニリの様に、

 まるで、復讐の相手が目の前に現れた事を知った歓喜の様に、


 ずるぅ。


 宝石の様に輝く鋭い二本の角が、額の左右から後ろ上に向かって衝き生えた。

 竜人としての成長が、早回しに進む様に、

 それって身体に悪いだろうに………。


「己月、頼むな」


 レナリを斬り裂くわけにはいかない。

 絶妙な切れ味を己月に願う。


「お前は、誰?」

「………さあね」



 五百年前の英雄、じゃあないよな今は?







 ず。


 練り上げた技術は、無残な物に成り下がっていた。

 構えは一流なのに、突き出される槍は酷く遅く、槍を避ける自体は簡単だった。

 しかし。


 ごおおおおおおぉぉおおおおおお!


 それと共に槍を中心とした竜巻が生まれ、自分は木の葉の様に簡単に弾き飛ばされた。

 ニリの得意とした、闘いに混ぜ合わせる魔法戦闘だ。有翼人の彼女にとって、風を扱う魔法は歩くのと変わらないくらい親しく、近しい技術だった。

 空を飛ぶ補助にもなるし、敵を巻き上げて無防備にする、彼女の万能の相棒。


 自分は風の隙間に身体を捻じ込むようにしてレナリに近づく。

 ったく、ガリガリと削られるような(やすり)風だ、つい最近こんなのに酷い目にあったばっかりだって言うのに!


「て・き」


 普通に喋れよ!


 レナリは先程の緩慢さが嘘の様な上から下への打ち下しをする。

 レナリとして磨いた技術だけは残っているようだった。

 だから自ら攻める動きは鈍く、守勢の戦術は鋭いのだろう。打ち下しはレナリが学んだたった一つにして、一打必倒の攻撃だ。

 槍が万全なら、だけれど。


 穂先の歪みが、風を纏わせることで筋を歪ませた。

 自分で纏わせた風で槍の筋が歪む事すら、今の彼女は判断できていないのだ。


「眠れ!」


 手刀で気絶させられるか?

 打ち下しをギリギリで躱しながら横に立ち、手刀を首筋にっ!


 触れる直前、『ぼんっ!』


「なっ!」


 打ち下しが地に落ちると共に、空気が弾けた。

 地面を爆ぜさせたのではなく、槍に纏った空気が地面に当たって四方八方に爆弾のように爆ぜたのだ。地面を爆ぜさせるほどの攻撃を行えば、自らも巻き込まれて大怪我するのは自明、だから殺傷力は下がれど、風を爆ぜさせて武器とした。

 身の安全と相手を制するのに、これほど適した攻撃はない。見えない空気を扱うと言う難度の高さと、周囲に満ちるそれを扱う身近さは、火にも水にも真似できない物だ。


 まるで実体のある拳に叩かれるように自分は吹き飛んだ。


「念動力!」


 風で自分の声が聞こえない程だ。その中で確かに自分はそう叫んだはずだった。


 念動力の手で自分を掴み、地面に抑え付ける。

 空気が爆ぜたのなら、少しでも低い場所の方が影響が少ないと踏んだ。


 それでも皮膚が剥がれるかと思うような風の塊が全身を打ち据える。

 瞼は痛いし、目玉は渇く。髪の毛は千切れそうだし、毛根は吹き飛びそうだ。


 和国の父は禿げかかっていたから気になっちゃうだろうに!


 ロングソードにした己月を掴んだまま、四本足でレナリに近づく。レナリは振り下ろした槍を再び臍眼(せいがん)(正眼ではない、星眼、晴眼など、棒術や槍術には同じ音だけれど違う字で書く構えが多数ある)に構え、歪んだ穂先でも呆れるほど愚直に突きを繰り出す。


 どうやら体捌き、武術はレナリの物と変わりないようだ。ニリのだったら今頃自分は串刺しだろう。


 突きを急制動で止まる事でやり過ごし、穂先の根元を掴む。

 自然な反応でレナリは穂先を引いて嫌がるが、掴んだままの愚は冒さずすぐさま放す。

 体幹が微かにぶれるのを見計らって、四本足のまま更に進む。

 女の子に四足歩行で襲いかかる変態の気分で、両足まで行くと、ロングソードを槍の形にしながらレナリの足の間に入れる。

 そのままレナリの横を抜けながら、己月を使って、レナリの前の出した足の膝裏に引っ掻ける。

 後ろ足の膝の下にも引っ掛けて、そのまま進んで体勢を崩す!

 自然とレナリは前のめりに倒れる。自分は仰向けになりながら、レナリの後足の膝裏に爪先を合わせ、下に圧しながら、立ち上がる。


 レナリが後ろ手を地に着くのに合わせて、背中に手を合わせ、レナリをうつ伏せに倒す。その間に槍を引き抜き、右肩から左足の膝裏に乗せて、その上に自分が乗る。

 本来ならばこの後、左足を己月に絡ませて折るのだけれど、それをするわけにもいかないので動きを止めることに専念。

 レナリの力がどれだけ強かろうと、力を乗せる為に必要な体幹と、肩を抑える事で動けないようにした。

 地に着いた左腕を捕らえながら、背中側で固定。


「あ、はあ~」


 圧し掛かるや、レナリから漏れたのはそんな艶めいた声だった。おいおい!

 レナリは自分の身体で短槍を抑えてしまっている。右腕で引き抜いで振るおうにも肩を抑えてしまっているので動かす事は出来ない。もし無理に動かせば自分が抑えている左腕の肩が逝ってしまうだろう。


「落ち着け」(主に自分)


 レナリの耳元で言うも、レナリはうっすらと汗を浮かべながら表情は………妙に色っぽい。今どういう状況か分かっていらっしゃるのでしょうか?


 甲冑組手ではないけれど、槍を持った相手に対しての組手は戦争前に嫌と言う程やった。これで一定以上の実力を示さないと村の外に出されてしまうので、和国の子供は嫌と言う程槍術を磨くのだ。

 身体の小さめの自分は力の強い相手、身体の大きな相手との戦いなら嫌と言う程に経験しているので、今のレナリとならば、体術だけでもどうにかできた。

 しかし、鍛え始めてどれ程だ?

 それで、この実力なのだから、ホーグは凄い。レナリの吸収力も凄いけれど。


 打ち下しの鋭さや、構えの堂の入り方、武芸者として充分通用する。


「レナリ、復讐の相手なんていないぞ?」


 レナリが復讐すべき相手がいるとしたら、レナリの中にある前世の残滓を残したニリと、その原因を作った自分か?

 ……いるじゃん。


 でも違う。今は違う。

 復讐したいなら首を差し出すくらいはするが、それは、復讐の神に依るところではなく、レナリ自身が決めてやるのならばだ。

 復讐の手助けをする神様なんて必要ない。自分は首を差し出すつもりなのだから。


「でも、居場所が、私の」

「居場所?」


 何を言っている?


「そこじゃなきゃいけないんです。私にはそこしか心休まる場所がないんです。私にとってそこだけが安心できるんです。私がここにいても良いって、教えてもらった場所なんです。だって私が初めて知った気持ちばかりの心が、ポカポカする場所なんです。そこが無くなってしまったら私は、もうどうしたら良いのかわからないんです。

 たった一つの居場所なんです。そこを取り返さないと」


 一気にまくしたてる。これまでが嘘の様な、追われるような言葉の数々は、どれも痛いほど気持ちが籠っていて、


「私はここにいたいんです!」


 首を無理に捩じりながら、感情全てを込めた声と目で訴えた。


「あの子がこれ以上ヒロさんと一緒にいたら、また(・・)私は居場所を取られてしまう!」


 何の事を言ってるんだ!?

 半分判らなかったけれど、半分理解した。

 今レナリは、アラに復讐(、、)しようとしてる。自分がアラの世話をしているのを見ていて、レナリは自分の居場所がなくなってしまうと焦ってしまった。


 そうだ。


 たった今のレナリは非常にアンバランスな状況なのだ。

 そんなことはありえないと思っていても、気持ちは納得できない状況なのだ。


 三枚ずつの手の甲の鱗が、いま彼女は迫り上がっている。

 綺麗な鱗は少し色がくすみ、艶を失っている。

 それは彼女が、身体の準備ができたと言う証。

 大人の、女性になったと知らしめる兆し。


 レナリは改善された食生活や、ストレスの大きく減った生活で、身体が急激に準備を整えていたのだ。十四歳、女性にしたら少し遅め位の、






――――――――――――発情期だった。








お読みいただきありがとうございました。

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