おっさん+恥
手直しをしました。
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神速。
「その一言しか伝えることはできません」
「くはははははは。竜が鹿を狩るのに全力を出すのは、それだけやっても成功が少ないと聞くが、あの坊主もその種類の考え方なのかな?」
強者って言うのは勝ち続ける事で得る感覚ではない。そう俺は考えている。
強者と言うのは自分を客観視し、分析した上で強者を倒すことができた者である。
その考え方からは外れているように感じるが、あの坊主、食いでのある奴なんだと俺は思った。
ゼオと言えば卑怯な、というにはあいつに失礼か。
頭を使った戦い方が得意な奴だ。相手を調べ上げ、無数の手を準備する事で死角をなくし、時には知識を生かして運営側に気付かれない手を準備して勝利を掴みに行く奴だというのは知っていた。
正直、警備兵にして色々便宜を図ってやりたいと思える奴の一人だったと言うのに、そこそこの実力があったのに負けた上審査時間十秒なんて、流石のあいつも思っていなかっただろう。
その内八秒は、審査員が呆気にとられていた時間だと言うのだから嗤いが止まらねえな。
「総隊長、お子さんがその顔を見たらもう一生一緒に寝てくれなくなりますよ?」
それは不味い。
「どう見る?」
「軽装で速度重視の軽戦士、と見るのが一番ありがたいですね」
言いながら笑いが止まらないのはこいつも同じじゃねえか、それはな、『嗤い』って物だぞ?
「革の衣服にブーツ、装飾過多のロングソード。世間知らずのフリして物価や情報を集めているとおぼしき行動。その最中ここを出て狩りをしていたようですが、どこかに隠してあるだろう荷物をとって装備を整えたりしていたのでしょうね」
「速度は理由があるもんだって事か? 単なる鍛錬で身に着けた物ではないと?」
「仮にそうだとしたら、この闘技場都市で勝てる奴は一握りになるかと。おそらく、ゼオの手札の多さに合わせて対応しきれない『速度を選択』した、と見るべきかと」
「あの珍しい坊主の恰好じゃ、護符や装飾品は見えないからな。ゼオが仮にそれに気付いていたとしたら勝敗は変わったか?」
「それもないでしょう。あの坊主、ただゼオを突き飛ばしただけと見る事も出来ますから」
やるじゃねえか。
それを聞くだけで鍛錬に費やした時間で昂ぶった血流がどくどくと身体を駆け巡る気がした。
「ゼオと同系統の戦い方をする奴だと私は思っています」
「抜きにした実力としてはどう見る?」
「決して弱者ではないでしょう。命のやり取りも経験しているはずです。装飾過多のロングソードは柄で攻撃したことも二種類の考え方ができますが、ゼオのグレイブとボウガンをそのままあいつの武装だと考えるほど馬鹿ではないと思います」
「そういや魔法も使えれば、手首に『発条仕掛け撃矢』持ってたっけなあいつ」
近距離で審査員の見えない位置で使ってボウガンで倒したなんて言いやがったことがあったな。
「あと個人的に、追跡に勘付いているのにそう見せない振りをしている様な気がしました」
「お前の追跡にか? そればっかりは冗談だろう?」
「何回か何もない所を凝視している素振を見せました。大抵人混みに紛れながらなので、こちらを探るためにわざわざ人混みに紛れて鼻か、肌でか周りを探っていたように見えたんで」
久しぶりに骨が折れました、そう言うクリーヌの表情は克己心や目標ができた喜びから来るものだった。ただ、純粋な狂喜もあるが。
「やりたいな~、早くそいつと殺し合いたいなあ」
駄々っ子の様で気持ち悪いと、クリーヌに言われた。
「だってよ~、俺達は闘技場で相手がいなくなったから仕方がなく警備兵になったんだぜ?
挑んでくる奴もどんどん質が落ちるし、聞いたこともねえ武芸者ばかりでよ」
「諦めてからグンジョウがやってきたり、今回の坊主ですもんね。あと十年我慢してれば相当楽しめたはずです、それには同意できます」
「お前の鍛錬は城壁の外の方が良いんだろう? トーナメントに出ると言ったら警備兵の資格を失うとか言われたが、じゃあ、それでいいって言ったら泣きつかれたんだぞ?
だからトーナメントで便宜を図ってくれるならすぐに戻るから休暇にしてくれって事になった」
「………よくわからない展開ですね、脅しすぎですよ総隊長」
「何、久しぶりにお前も泣かせてやるって言ってるんだ」
「なるほど」
こいつとの命のやり取りは百じゃ足りない。
だから存分に、今回の『休暇』を楽しむのが目的である。
傍から見たらよく解らない会話だろう。まあ、頭がおかしくなってる方が楽しい事があるのだ。
「まあ、お前になら妻と娘を任せられる」
「やめてください、私は女色の趣味はありません」
「……男の方が良いのか?」
「いえいえ、性欲よりも血色の方が大きいだけですから」
血色の使い方違う。
この野郎、どんどん昔に戻ってやがるな『戦闘凶』。
「鬼と呼ばれたヒデに言われるのは心外ですね」
「ちげえねえ」
このバトルマニアは相手の顔に一生消えない傷を残し、そこから溢れ出る血を浴びるのが趣味の、血浴が趣味なのだ。
ただその相手の強さ、自分を狂わせるだけの何かがある場合が無いと発情しないので、味方にしておけば問題ないのだが、それは基本的に男しか発情しない事を思うとこいつは男色なのではないかと思う。
しかし色街でよく相手にしているのは女だよな?
酌をさせるだけの無口な女で、無愛想な獣人をこいつは良く相手にしている。
「久しぶりに、良い酒が飲めそうです」
「殺し合うなら素面じゃダメだからな」
「トーナメントはいつですか?」
「五日後だ。それだけ沸かせた奴なら、強制的に参加させられるだろうしな」
何も問題はない。
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『解析*数値化』がおかしい。
自分は乱戦に参加するつもりだったのだけれど、なんか事情があるらしくトーナメント戦にでるようになってしまった。…………と言うのが少しおかしいのは判っている。
『解析*数値化』がおかしいのだ。
ゼオと言う対戦相手の戦闘能力、そして倒した時に袖口から覗いていた暗器とおぼしき発条仕掛けの武器。後者は解析した時に表示されなかった。
もしかしたら、暗器の類はこちらから分からないようにしてあったのかもしれない。
隠蔽している物が解析できないのなら、もしかしたらステータスもそれに含まれるのではないだろうか、そう思うと今までの数値などかなり眉唾だと思わざるを得ないのだ。
宿のベッドで横になるとエニスが腹の所にやって来た。丸まるエニスを撫でていると和むと同時に考え事に集中できる気がした。
いや、考え方が違うな。
今まではステータスの数値を実際の値と考え、カッコ内のアルファベットをランクとして考えていたのだ。魔法や現理法、特殊能力のカッコ内を習熟度・強度として考えていた。
でも今回、明らかに格上だと思われる相手に対し、自分は浅い攻撃一つで勝ちを得た。これは運の値の関係でこちらの攻撃がたまたまいい具合で通った、と思うには楽観にすぎると思うのだ。
加えて装備品の暗器も、表示がなされなかった事を合わせると、ステータス確認や解析は自分が思っている物を表示しているわけではないと考えるべきだ。
だとしたら………。一体何の値なのかと言うと、予想が一つ立っている。
ああ、恥ずかしい。
狭いベッドで転がってしまいたいが、エニスに乗っかったりしてしまうわけにもいかないので自重。
多分、………………………………………………………
あの数値は、………………………………………………………、
甚だ不本意ながら。
『自己評価数値』
…………と言う事ではないだろうか、と言う答えに今行きついている。
ゼオと言う人間は自分が魔法をそこそこ使え、賢さと器用さには世界トップレベルの自信を持っている。運が低いために評価はされないけれど、実際は超実力者!
………みたいな考え方をしているのではないだろうか?
だとすると町中の人達の数値がかなり高い事も少なくとも今は納得できる。
戦ってみたら、自分は結構な実力者なんだ、そう言う考え方の男性は自分も含めかなりの数になるだろう。
日本でそう言うのは中二病、と呼んでいた気がするがこの第一世界でもそう言った事があるんだな………。
そう考えてからステータスを確認すると、理力の数値がほぼゼロ、他のステータスもかなり変わっていた。手先と運は変わらないが、体力や筋力は減衰し、理力のカッコ内に至っては(F)にまで落ち込んでいた。
代わりに素早さは変わらず高水準と言うのは自分が速度で戦えた自信をまだ引きずっているのだろうか、ああ恥ずかしい。
運も大きな変動はない。死に目を見ても生き残っている運は自分にとって唯一誇れるものだと言う(運を誇るのはおかしいかもしれないが、他に言い方を換えたくない。)考え方をしていると言う証明ではなかろうか。顔が熱くなってきた。
そしてステータスを確認していると、新たに表示されている物があった。
『ヘルプ』である。自分の気付きや疑問に対して新たに表示される部分が増えると言うのは体験していたが、今更ではなかろうか?
いや、おそらく今まではそこまで本気で考えていなかったんじゃないだろうか。
自分の説明だけでここまで立派な特殊能力を作ってくれたジルエニスとは言え、日本のゲームに造詣が深いわけではないだろう。
いくら自分の知る存在の中で最も全知全能に近いのがジルエニスとは言え、ヘルプまで出るように調整してくれたことを感謝すべきだ。
ざっとヘルプ欄を確認すると望むように調整できそうだと言う事を理解したので、今日は長々と残りの時間を調整に費やそうと思う。
ありがとうございました。
次回更新は18時を予定しております。
目標達成の感謝をこめて本日は二回投稿です。(三回になりました)