アラ+お風呂
+ + +
「はあ~」
アラの寝相超痛い怖いのでお風呂に逃げてきた。
温度は自分用に調整した。相変わらず念動力には頼りっぱなしだ。
五百年前の時は旅をしながら風呂に入れるようになったのはトグオの爺様が連れに加わってくれてからだったから………。師匠と別れてしばらくして、って所で~~。
…………随分経ってからだな。
おん!
エニスの感触最高。
お風呂も最高。
「旅しながら毎日風呂入れるなんて、贅沢だよなあエニス」
おん?
エニスにとって今が初めての旅の最中なんだから、風呂なしの旅の辛さなんてわからないか……。いや、それ以前に考えてみれば獣神のエニスに入浴なんて必要か?
目を細める様子から、きっと入浴でリラックスしているのだろうと思う事にして、エニスに寄りかかる。
調べ物をしてる最中だったんだよな。
出来ることと言えば、先に帽子を作ってやろう。
日差しで汗を掻いたりしても平気なようにしてやらないとな。
魔法とかでその辺りをどうにかならないか調べているときだった。
「ふす!」
いつの間にか目覚めてしまったのか、アラが走ってきた。
止める間もなくパジャマを脱ぐと、裸のまま浴槽に飛び込む。
ばちゃん!
「~~~~~~~~~~~~~!」
「熱いだろ、平気か?」
念動力で温度を下げる。アラはぷるぷると震えて耐えていたからだ。
さっきと同じ感覚でいたら、それは驚くだろう。
「ふじゅー」
鼻水出たか?
アラは水飛沫を上げた時と大違いの、慎重な動きでこちらにやって来た。
自分の膝の上に辿り着くと、我が物顔で寛ぎだした。そこは椅子かい??
「跳びこむのは危ないから気をつけろよ?」
「こくん」
よしよし。
なでりなでり。
「ふすー」
アラの頭にタオルを絞って頭に乗せる。
落とさないように気を付けながら、エニスの尻尾を追いかけようとする姿は面白い。つうかエニスのあやすスキルの高さすげえな………。
アラはエニスに心を許しているようで、………面白い玩具扱いか??
でもどっちが遊んでいるのやら、エニスの尻尾を追いかけるアラは子猫のようだ。
「あんまりはしゃぐなよ?」
目覚めてみたら一人だったからびっくりして追いかけてきたみたいだけれど、寝起きでテンション高いなあ、子供ってすごい。
今もエニスの尻尾を求める姿は狩りをする猫の様だ。(子猫だけれども)
一頻り満足するまで楽しむと自分の膝まで戻ってきた。(エニスの尻尾に強制連行されたとも言う)
「気を付けないと危ないからな」
三センチ貯まった水があれば人は溺れるらしいし、お風呂の事故は怖い。
まだ遊び足りない風の子猫様を膝に乗せて腕でロック。
エニスも尻尾で挑発しちゃダメ。
「起きたら一人でびっくりしたのか?」
「……」
アラと一緒に眠る場合、この娘を寝袋に入れないと身体が保たないな。
活発なのは良い事だけれど、睡眠中まであれではな………。
じーーっとこちらを見つめるアラは、何か思う所があったのか自分の上によじ登る。
お腹の感触が顔に当たって気持ちいいけど、裸でやるべきじゃない。
掴んで戻すと、楽しかったのか再びクライミング開始。
………長いお風呂になりそうだ。
+ + +
朝。
チャックを閉めた筈なのに、器用に寝袋から脱出したアラとの戦い(自分は防御しかできないけれど)は熾烈を極めたけれど、……………顎痛い。
「おはようさん」
「ふす」
マウントされた後、散々に頭突きを喰らいながら脇腹に攻撃され続けたと言うに、アラは普通に寝起きの様子である。
理不尽だ。
二人で顔を洗い歯磨きして戻ると、ホーグが朝食の支度をしていた。
レナリも既に支度を整えて手伝っているので、今日は自分が一番遅かったようだ。
「おはようございます」
「おはよう、ちょっと行ってくる」
アラを肩車横盤にして、エニスと一緒に昨日の場所へと向かう。
道すがら綺麗な花があったので根っこごと回収し、お墓に向かった。
「挨拶していかないとな」
「?」
アラを連れて行くのだから、アラにお別れをきちんとさせておかなくてはいけないと思う。
アラにとって、樵の夫婦はどういった存在だったのだろうか?
第一世界にやってきて二か月ほどのアラを家族として迎えていた二人にとってアラはどんな存在だったのだろうか?
根っこごと抜いた花を、お墓からよく見える正面に植えておく。
ホーグが作ったお墓は、一日経ったと言うのに、埃も被っていない綺麗なままだった。きっと何か特別な力が作用しているのだろう。
手を合わせて、お祈りする。
黙祷した後見れば、アラも同じようにしていた。これは自分の真似をしているんだろう。その動作にアラ自身が何かを思っているわけではないと思う。自分もお墓に手を合わせる初めての時は、親がやっていたから見様見真似、だったと思うからだ。
アラがまた無の表情で瞼を開いてこちらを見た。
「樵の二人をここに埋めたんだ。だからお別れしてくれ」
こう伝えても、アラ位の大きさの子供では解らないかもしれない。でも、形だけでも祈ってあげてほしい、………こう考えるのは押し付けになってしまうのだろうか?
アラは自分の押し付けに嫌がる事もなく、もう一度手を合わせて瞼を閉じた。
…………。二人は、どう見ている?
『ステータス確認』で視界に霊力を見るフィルターをかける。(かけてから精霊を見る目で見る事が出来るのではないかと思ったけれど、まあ良いか)
………二人の姿はなかった。成仏したのだろうか?
自分に家族を任せて安心して?
……有り得ないだろう。
お墓の周りを見ても二人の姿は見えない。
………?
霊力を見ることができるフィルターをかけた視界に、一際強く輝く存在がいた。
フィルターをかけた視界の場合、魔力はドライアイスの冷気の様に見えた。理力は血流の循環の様に見えた。
霊力はそこから放たれる後光の様な光らしい。
………………アラだ。
突然だった。
お祈りをしているアラから、お釈迦様でも降臨されたかのような光が溢れだした。
その後光の中に、一瞬樵の夫婦の姿を見た気がした。
アラは非常に強い霊力を持つ人だと言う事が解った。
◇◇◇◇◇◇◇
★アラ(異世界人)
★ 体力 D
魔力 |
理力 |
★ 霊力 A
★ 筋力 E
★ 身軽さ E
賢さ |
★ 手先 E
運 AA
核司【■■■】
装備品
★異世界の子供服セット
特殊能力
■■
■■
◇◇◇◇◇◇◇
小窓に表示されたステータスの数値には新たな項目が増えていた。今まで表示されていなかった者も解析を続けていたのかアルファベット表記が増えていた。★マークまでつけてくれる親切設計だ。
アラの後光が収まっていき、アラが無色の顔をこちらへ向ける。
解析が勝手に発動しそうになるのを抑えるように思い、アラの頭を撫でた。
お二人がアラを見守り続けたいと言う姿を解析するのは無礼な行動だと直感的に思ったからだ。
アラを護りたいと願う二人が傍にいてくれるのなら、アラに降りかかる災いもきっと駆逐されるだろう。
+ + +
何か思う所があったのだろうか?
アラはいつもの肩車ではなく、自分の手を両手で掴んで歩いている。表情に変わらず変化はないけれど、……。
「………」
アラと見つめ合ってしばし。
うーん、顔色から体調的な物以外を読み取る事が出来ない。
血色は初めを思えばとても良くなった。
でも感情の欠片も覗くことができない。
アラは何を思ったか、自分の掌をアラ自身の頭に乗せる。
………そしてそのまま。
「………」
「………」
歩いていた足を止め、再び見つめ合う。
……なんとなく、ここは何かをする時じゃないと思った。いや、理由なんて何もないんだけれど。アラが求めているのは能動的な何かとは違うと思った。
受動的な何か、多分たった今、アラは何か求めている物…。それが今少しずつ手に入っているんじゃないだろうか?
…とか思ったけれど、自信ない。
「…」
自分が不安に焦りだした頃、自分の手を一度放したアラは手をつないで歩きだした。
アラの求める何かを渡す事は出来たのだろうか?
+ + +
「………」
レナリ自身は知る事ではない。
彼女の視力は桁違いに良い。
そんな彼女からすれば、歩いている二人の表情を見ることになんの問題はなかった。
アラにとって、ヒロは父、兄、友人、そして恋人であるとレナリは感じている。その知識が本来の自分にはない物だと言う事には気付けなかったけれど。
ヒロには読み取る事が適わないアラの表情の微細な変化も、そんなレナリからすれば歴然の差だった。
アラは深く理解した。
ヒロが自分が傍にいるべき相手だと言う事、
ヒロの傍に自分の居場所があると言う事、
ヒロに伝えたい想いが生まれたと言う事を。
クヤシイ。
思う。
それがどんな、誰の感情かも解らない黒々とした感情。
初めて感じる筈なのに、とても深い、近しい感情。
きゅる、と身体の中が切り替わる様な感触があった。その更に奥に酷く汚い何かがいると漠然と判るのに、それを抑えるのがとても難しかった。
抑えることが正しいのか間違っているのか、それすらも判らないけれど、レナリはその感情の蓋に全力で圧し掛かる。
おん!
声が、聞こえた。
暖かい、なのに冷たく冴える吠え声。
知らず、全身の篭った力が適度に抜けていく。圧し掛かった蓋に対して、過不足無い力加減が体現されていく。
背中に、優しい感触を感じた。触れるだけで思わず力が抜けていくような、そんな穏やかな感触。
レナリはその感触に助けられながら内にあり、前にある地獄の蓋を閉めた。
蓋が閉まりきる瞬間、どこかで聞いた声が聞こえた。
イツモ。ミテイル。
+ + +
「………」
レナリの様子がおかしい。
嫌な予感がする。
というか…。
この状況が後で大きな問題になると確信した。
アラはレナリに怯えているように見える。
アラは子供だから、余計に感性が鋭いのかもしれない。レナリが放った重圧、殺気、呼び方は様々だけれど、『害意』であるのは間違いない。
レナリが放った黒々とした威圧感は、アラに向けるには酷い物だ。
レナリは今、エニスに護られるように包まれていて、今は穏やかな表情を浮かべている。
でも。
覚えのある強烈な気配は、この先きっとまた現れる。
「ナイ、あれはどうにかできないのかな?」
『……出た時点で懲らしめてやればいいと思うノ』
「懲らしめるって…」
『あれはレナリとは全く違う部分の影響だし、特殊能力の関係なら叩き潰してやれば落ち着くと思うノ』
物騒な話になりそうだけれど、精霊神でもあるナイが言うのならばそうした方が良いのだろうか?
+ + +
「あれ?」
朝食の後、調べ物をしていた所で自分は見覚えのある動物を表示される画面越しに見つけた。
轟獣の馬、『ファグナー』だ。
糞野郎関連の前、闘技場都市を出て少し経った辺りで見かけた、異常に大きな魔界産の馬である。
黒く見えるほどの体毛と、漆黒の鬣、顔に真っ白な十文字がある巨馬、名付けるなら『黒帝號』だなあ、と思った奴。
灰がかりの白馬は、サラブレッドの様に綺麗な見た目の奴。
豹柄のばんえい馬っぽい、農耕馬の様にがっしりとした樽の様なお腹の奴の三頭だ。
「糞野郎の魔法の被害にあわなかったんだな」
馬が駆ける姿って言うのは、どうしてこうも沸き立つ物があるんだろうか?
躍動する筋肉や棚引く鬣の様子。競馬場に馬券も買わずに眺めに行くだけの人がいると言う話をテレビで聞いたことがあるけれど、その気持ちも解る気がした。
馬とは相性が良くないので、立派な三頭を見ても乗りたいとは思えないけれど、でもエニスに跨るのとはきっと違う満足感を与えてくれるのではないだろうか?
相性が良くない、と言うのは五百年前馬によく蹴っ飛ばされて額を割ったりなど怪我した事があるのだ。良く馬を交換する羽目になり、酷い時は乗っている内に嫌がられて横に馬が倒れてしまったりもした。
本当に相性が悪いと馬が感じた時そうなる事があるので、皆様も注意されたし。
「?」
アラを乗せた中型犬サイズのエニスが狩猟本能を刺激されて姿勢を低くするのを手で制す。アラを乗せたまま駆け出すのはいくらエニスが乗せ上手でも危ないからだ。
解析結果が小窓に表示された。
ホーグの作ったお墓の放つ神気に魅かれたらしい。
確かにあのお墓は見事な物だけれど、それを離れた距離から感じ取ってやってくるなんて随分鋭敏な感覚を持っているんだなファグナーって。
見ていると三頭がゆっくりと立ち止まり、顔をこちらに向けた。
目と目で通じ合う(気がするだけだと思われる)。
特に豹柄の横幅も凄い農耕馬の大型の様な奴が、じいぃっと自分を見ている気がする。
なんだ?
……。
「ふすー」
アラが跳びついてきて来たので受け止める。
顔を戻すと、三頭はいなくなっていた。
「あっ」
「どう、されましたか?」
「なんでもない。レナリ、エニスと遊んでてくれるか?」
「?」
隠すのへったクソだな自分。
ホーグに返事をしたけれど、絶対ばれたな。
アラをエニスに跨らせ、屈伸する。
レナリを見て、
「ホーグ、色々頼む」
「は、お任せください」
「ちょっと出かけてくるから、アラもエニスと遊んでてくれ」
「?」
おん
お墓に行く振りで自分はみんなから離れた。
マップに光点が生まれていたのだ。
敵を示す赤反応。
しかし………。
「嫌な予感しかしねえな」
サタ村に突然反応が生まれた。
お読みいただきありがとうございました。
アラ祭り超小規模に開催中。




