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チート+チート もう一度英雄  作者: 加糖雪広
第三話 異獣+子供
88/99

アラ+箸+寝相

 エニスはアラのおにいさん。

 そんな感じだったステキ。アラはエニスの身体にしがみつき、時にはその細い毛を掴んで身体を引き上げる。

 痛そうに見えるけれど、エニスは怒る様子もなく登ったアラを尻尾であやしている。ふすー、とアラが満足げに鼻息を漏らすと、エニスはゆっくりと立ち上がって周囲を軽く歩き出すトテモステキ。ゆっくりくるくる動き回る光景は動画で記録できないだろうか?


 ………デジタルカメラ、作ろうかな?…………

 いや、自分の性格上何か良からぬ事に使い始めてしまいそうだからなあ………。

 とりあえず保留。


 考え事してるよりアレを眺めてる方が大事だよなあ。

 この先アラが気づけば、とんでもない事をしていると言う事にどういう反応を示すのかが気になるけれど、今は気にするべきじゃないだろう。


 自分はそれを横目に手頃な枝を己月で削っていた。

 鉛筆をカッターで削るような感じで。現代日本での母の趣味の関係で、色鉛筆をカッターで削るのには慣れていたけれど、箸を作るとなるとだいぶ勝手が違う。


 しゃりしゃりしゃりしゃり・・・・・。


 正しい持ち方をした時、二本の棒が隙間なくくっつく様に調整するって言うのはとても難しい。

 焚火の灯りで作る様な物ではないのかもしれないけれど、こういう作業をするのは嫌いじゃなかった。


「ヒロさん、その道具は一体なんでしょうか?」

「刃物持ってるから少し離れて」


 レナリが相変わらず妙に近い距離間で聞いてくる。でも己月の切れ味を考えると少し離れているべきだと思うのですよ。


「食事する時自分が使ってたやつ」


 レナリが使っているのは先が三本のフォーク。第一世界のフォークとして一般的な奴だ。


「アラの物になるのですか?」

「そのつもり、食べる時気にしていたから使うかもしれないと思って」

「…」


 瞳の大きな人の目力ってのはシャレにならないな。


「レナリの分も作ろうか?」

「良いのですか?」


 作るのは嫌いじゃないから手間とは思わない。

 その程度でそんな至近距離で良い笑顔を貰えるのなら、まあ、うん。

 ……………安いな自分。


「アラが使わなかったのなら使わせてもらおうと考えていたのですが」

「アラの分は、アラの手に合わせて小さい奴にするつもりだからレナリの掌の大きさだと使いづらいよ。使いやすい道具の大きさってのは人によって違う物だし」


 しゃりしゃりしゃり。


 先の微調整を続ける。

 レナリの視線が妙に気になる。横を見ると、近い距離でじっとこちらを見ているレナリと目が合った。


「どうかした?」

「いえ………」

「レナリの手の大きさってどのくらい?」


 そう言って掌を取る。

 ………。自分の手と合わせて比べてしまう。

 ・・・・・・・・・・・・・・。


「大きいな、レナリ」


 真実かどうかは知らないけれど、足のサイズや手の大きさで成長した時の身体の大きさが分かるらしい。自分と比べてレナリはとても指が長い。

 自分が職人向きと言われる指が短く掌の部分が大きいタイプなのを差し引いて考えても、中指が二センチくらい長い。

 ちなみに自分の指の長さは変わっていて、薬指と中指の高さが同じくらい。


「それはいけない事ですか?」

「いけなくないよ」


 ただ個人的に、これ以上レナリの背が高くなってしまうのが悔しいだけで…。

 ち、ちくしょう!


 魔法とかで大きくなれないのかな???


 ………。

 小窓に身体を大きくする魔法が表示された。

 ・・・。

 ・・・。


 いや、何か負けた気がする!


おん!

「おう!」


 テンションが高まってしまったアラが飛び込んできた。

 後ろからだったからアラには危険はなかったけれど。


「アラ、刃物を持った相手に不用意に近づいたらいけないぞ?」

「ふすー!」

「もう、こんな汗掻いてお風呂入ったのに」


 影箱に入っているタオルを取り出して汗が滴る顔を拭いてあげる。


 声を上げて喜ぶ、と言う事を彼女はしないけれどそこはやはり子供らしく、エニスに遊んでもらって楽しくなってしまわれたらしい。


「ふす!」


 鼻息も荒い。

 これから寝るっていうのに、これでは寝るまでが大変じゃないだろうか?


「汗目に入らなかったか?」


 眉もまつ毛もないのだから、汗はそのまま目に入ってしまうだろう。意外と痛かったりするからなあ。鉢巻でも頭に巻くか?

 汗疹や汗負けで皮膚が赤くなってしまう可能性もあるし、その辺り何かいい方法はないだろうか?


 魔法で髪の毛伸ばせるかな??


「じーーー」

「どうしたの?」


 アラは未完成の箸を穴が開く程見つめていた。

 危険はないと悟ったのか、手にとって()めつ(すが)めつ。


「アラのだよ」

「!」

「使い方練習しような」

「こくこく!」


 どうやら大層お気に召した様子。

 …こうやって見ると何かおもちゃのような物も考えた方が良いのだろうか?

 …考え方がどんどん悪い保護者になってしまっている…。



+ + +



 レナリは、ヒロとアラの二人を見ながらどこかさびしさを覚えている。

 ヒロを取られた、そんな気がしていると同時に今の自分には居場所がないのではないかと言う不安が心に降りてくる。


 胡坐をかくヒロに、アラが自然な様子で上に乗ってひしとしがみつく姿を見るに、その不安がより強くなっていくのを抑えられなかった。

 彼女が未だ感じた事のない感覚。

 なのに、どこか覚えのある感覚。


 ―――白と黒の色合いのヒロの衣服が、荘厳な目も醒める青に変わったような気がした。

 ―――少女が、目を見張る様な美少女に変わったような気がした。金の髪が波打ち、信頼を寄せる感情を目に浮かべた姿。


 どこかで見た事がある今ではない。何時か

 金の髪の美少女はあんなに強くヒロに親愛を見せることはなかったはずだ。


 違う。それじゃない。


 でも感じてしまう。

 今まで感じた事もなかった焦り。

 今まで悩ませ続けられた近寄れない距離。

 身を寄せるだけでも、従い続けるだけでも届かない場所に、あの少女や美少女は気軽に近づき、ヒロの傍にいる。





 ―――『■■■(・・・)』のそばにいる。





おん!


 …聞いた気がした。

 ヒロが言うには、犬の鳴き声のような物らしいけれど、レナリにはエニスの吠え声が聞こえた事はない。

 振り向くと、まるで慈愛の心を知る聖者のような眼をしたエニスがいた。


「あ、あの」


 大きな身体のエニスがレナリを囲う様に包まると、横になった。

 長い尾が首の所に絡まる。まるでマフラーの様だった。


 レナリは知らず溜め込んでいた重い息を深く吐き出した後、少しだけ遠慮がちにエニスに寄りかかる。

 暖かい温度。

 柔らかく受け止めてくれる肌触り。


 黒い何かが心を蝕んでいた。それを忘れようとして、レナリは瞼を閉じて気を鎮めようと努めた。



+ + +



『ヒロ』

「うん」


 解析結果に恐怖の文字列が並んでいる。

 アラを抱っこしながら横目で見ると、気持ちニヒルな顔をしているエニスと目が合った。

 視界を横に動かせば、いつでも動ける位置にホーグがいる。手には明日の料理の仕込中だったようだ。


「ホーグ、葉茶淹れてくれる?」

「はい、只今」

「ふす?」

「みんなにも。アラはジュースとかの方が良いかな?」

「お任せください」


 レナリ自身は気付いていない様だけれど、今、レナリの手の甲に三枚ずつある翡翠のように綺麗な鱗がまるで武器の様に迫り出していた。

 異常事態を知らせる小窓の情報を斜め読みする。


「?」


 アラですら何かに気付いた様子だった。

 ………いや、子供のアラだからこそより鋭敏に、危ないと言う事に気付いたのだろう。


「う~~ん」


 レナリの事を放置するわけにもいかないけれど、アラだってこのままにしておくわけにはいかない。

 エニスと視線が混じり合う。


 相変わらず頼りっぱなしだ。


 なんとかできないかのう。


おん!


 ああ、ありがとうエニス。







「寝る前に歯を磨こうな」

「?」


 歯ブラシと歯磨き粉を作る。

 その後調整した箸をアラは気に入ったようだ。


 箸握ったままなのはまだ良いけれど、歯磨き知らない、のか?


「あ~ん」


 歯磨き粉を子供用の歯ブラシに絞って言う。


「かぱ」


 しゃり、…シャリシャリシャリ……


「まだ乳歯だろうけど、習慣づけないとな…」

 シャリシャリシャリシャリ…………ごくん。


「飲んじゃダメだ」

「?」


 イチゴ味が不味かったか……。




・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





「寝るから着替えような」

「?」

「寝汗掻いて汗負けしちゃうと嫌だろう?」


 そう言ってアラに見せるのはエニスが無尽にプリントされたパジャマである。色はレナリの鱗の色が綺麗だったのでエメラルドグリーンを少し柔らかくした色合いだ。

 エニスのおにいさんっぷりが嬉しかったのだろう、アラはエニスプリントパジャマに興味津々だ。でも、もう箸は手放しておこうな?


 …………アラは箸を手放すのを固辞。

 鼻息荒く守りの姿勢になる。


「もう手にできないわけじゃないんだぞ?」

「?」

「それはご飯の時に使う物だから、これから寝るアラには必要ないよな?」

「………」


 それでもアラは箸を手放しがたい様で箸を一本ずつ手に持ってふりふりしていた。

 う~~ん、かわええのう。しかしダメだ、


 箸をちょっとだけアラの手から取りあげる。


「ふじゅー」


 鼻水でるほど嫌だったらしい。


「着替えるぞ?」


 オーバーオールの胸のボタンを外す。


「自分で脱げるか?」

「ふじゅ」


 任せろ、と言わんばかりにアラはスポーンと脱いだ。

 頭を撫でてやると今度はパジャマを着せる。


「これも着方を覚えてくれよ」


 ボタンを留めるのは直ぐには慣れないだろうけれど、一人でできるようになってもらわないと。


 自分は革の衣服のままなので、テントにそのままごろりと寝転がるとアラも倣って横になる。


「寝る時は箸は危ないからダメ」


 取り上げた箸が気になるようだけれど、流石に寝る時まで持ってぶつけたりしたら怪我をしてしまうので影箱に収納した。


「ふじゅ」


 自分の影の部分に手を当てたり叩いてみたりするけれど、アラには影箱を操作できない。しばらく不思議がって諦めたか、自分の上に寝転がる。


「明日になったらまた出してあげるからな」

「こくん」


 レナリと一緒に寝てくれたらよかったのだけれど、レナリが良くない兆候を出していたので今日は自分と一緒に寝てもらう。

 初め寝袋で寝てもらおうと考えのだけれど、圧迫感で何かを思い出してしまう可能性も考えたので、エニスが狩った動物の毛皮に包まって寝てもらおう。(毛皮は寝ている間に増えている場合がある)

 毛皮の処理は影箱の中でできてしまう。脂の部分も綺麗に剥いであるし、毛の部分も綺麗にしてあって、売り物以上に手入れがされた物となっていた。


「今日は疲れただろう? ゆっくり寝て疲れを取ろう」


 寝るのが惜しいらしくその後しばらくアラは毛皮に包まったままごろごろ遊んでいたけれど、流石に疲れは誤魔化せないのか、―――急に、―――唐突に、―――ぽてん、と寝てしまった。



 その後しばらく。



 魔法とかでアラの髪の気とかどうにかできないかと調べていたのだけれど、それを中断せざるを得ない状況になった。


 ぼくん! 「っん!」


 アラ。

 寝相、わるい。


 鶴頭が強かに打ち抜いた。自分の顎を。

 アラの身体運用の妙は異常だ。夢の中でどれだけの強者と戦っているのか、顎の関節がねじ折れそうになった。


 ぼ!


 地を這うような足払い。足の裏で受ける。

 当たった瞬間びりっとした衝撃が膝の先まで響いた。


 ぎゅる、と巻き込むような肘打ちっておい!


 打つ打撃ではなく、斬る打撃を紙一重で躱すと、続けて伸びあがる様な鶴頭(手首を曲げた形ね)が襲ってくる!


 起きてるのか!!?


 いや起きてるにしてもこれは異常だぞ!?


 寝転がったままだって言うのに地に乗せた力の篭った打撃に血の気が引く。


「びたん!」

「~~~~~~~~~~~~~~っっ!」


 鶴頭を避けたと安堵した瞬間、逆手がスナップの利いたビンタをしてきた。指先を曲げた暗闘術の様な攻撃である。幸い爪が短くなっていたらしく、自分の頬に二本の蚯蚓(みみず)腫れが残っているだけで済んだ。

 目の下の所をやられたので、涙が浮かんで視界が霞んでしまう。


 視界が霞んだ瞬間、次に来たのは脇腹への鈍い衝撃。


「ぐっ…ほお」


 膝だった。当たった瞬間更にねじ入れるような、見事の一言しか出ない攻撃。

 これ、闘技場の連中すら凌駕するんじゃないのか?


 撤退。

 撤退だ!


 転がるように自分はテントから抜け出した。


「………~~~~~」


 騒ぐわけにもいかないので溜め込んだ息を細く吐きながら、悶えた。

 いつもと質の違う汗を垂れ流しながら、ひたすらに痛みに耐える。


 ………彼女は一体どんな生活をしていたのだろうか?

 つうかあの齢で暗闘術をあれだけ仕込まれているとしたら、天才なんてレベルじゃないぞ?


アラの筋肉の付き方や骨格に暗闘術の訓練の形跡はなし。


 ……って事は天然であの実力?

 ちょっと鍛えれば自分すら軽く凌駕するぞ?




お読みいただきありがとうございました。



吶喊で書き上げております。

何時にも増して酷い内容に感じられましたらご容赦くださいませ。


書いている内に書いている人が詰まらなくなって今は亡きものと大幅に内容が変わっておりますので雰囲気が変わっている、やも?

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