肩車+前?
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+ + +
「ホーグ、あの二人を生き返らせることはできない?」
「試してはいませんが、おそらく不可能です。私の能力はヒロ様のためになるように作られています。直接ヒロ様のケガの治療や回復を行う事はできますが、他者に同じような事をするには力が足らないかと」
「やっぱりか」
戻ってホーグに聞いてみたけれど、解析した結果と答えは変わらなかった。
はじめにその事を考えて先に聞いておけばよかった。
一応エニスも見るけれど、首を左右に振るだけの返事だった。
自分も出来ないかと解析したりナイ達に聞いてもみたけれど、二人を復活させるには魔力不足だった。
回復薬で補充しながら、って言うのも候補として考えたのだけれど、一度に必要になる魔力量が自分の場合全魔力以上必要になってしまい、命懸けでも不可能と表示された。
「この子はアラと呼ばれていたらしい。言葉を話さないからあの二人がそう呼んでいたって言う名前だけれど」
「ヒロ様はそう呼ばれるのでしたら、私はそれに合わせます」
「うん、そのつもり」
マップを確認。
敵を示す赤い点は見当たらない。
「化け物か…。ホーグ、思い当たる何かはない?」
「ヒロ様の能力で解らないのであれば、私の想像する候補ではないと思われます」
「………」
何が来るか判れば備えることもできるけれど、判らないのであれば……。
エニスもホーグもいる。
いつ現れるか判らないし、それならいつも通りを装って警戒するくらいしかないか。
「お、起きたかい?」
テントの中から、こちらをじっと見ている視線があった。
アラである。
テントの中にはレナリもいたようで、見ていてくれたのだろう。
「その恰好じゃ寒いよな」
有限創造で、服と靴、下着なんかを生み出した。
消費が少ないと言う理由で○ちゃんスタイルのオーバーオールとシャツ、運動靴だった。多分現代日本の頃自分が着ていた服なんだと思う。あ、忘れてた。下着もちゃんと作らないとね。
「散歩でもするか」
テントの中で着替えて出てきたアラの前で屈んで手を広げて見る。
「………」
アラがどういう反応を見せるか試してみたのだけれど…。
「………」
アラは想定外の行動に出た。
まず腰の辺りに跳びこんできて、身体をよじ登る。その後居心地のいい場所にどかりと座った。
………。
「見えんな」
肩車前盤だった。
自分の頭を抱え込むような形である。おもしろいからそのままでも良いけど、前が見えないのでアラを掴んで横に回し、普通の肩車の形に落ち着いた。
+ + +
夜営場所近くの森の中に入る。
肩車したままのアラがどんな表情をしているかは解らないけれど、首を動かす様子を感じるので退屈はしていないのだと思う。
すぐ後ろにエニスがついてきているのでそちらも気になる様だった。
「お、珍しい物がある」
綿毛のタンポポに似た珍しい植物を見つけたので、丁寧に掘り出して影箱に入れる。
アラは影箱に驚いた様子だけれど、やはり声は聞こえなかった。
採取したのは『味の実』と猟人や旅人に重宝される植物で、確か実際の名前はフクミ草とかそんなだったと思う。根っこの様子から葉っぱ、茎の見た目までタンポポと変わらない植物なのだけれど、花の部分が変わっていて、味のする飴玉みたいな実をつける。
中に種が入っていて、動物に食べられることで分布を広げようとする変わった植物で、実の色が白のこの植物の場合は砕けば塩と同じように使う事ができる。中心部分に種が入っていて、これを手に入れた猟人や旅人は感謝の意味も込めて森の中に埋めていくようになる。
他にも焦げ茶色の場合は黒砂糖、黒の場合は独特な香辛料に似た味の実をつけるフクミ草もあるのだけれど、種を埋めてもなかなか発芽しないので見つかる事が少ないものだ。
馬車で旅をする時なんかに、わざわざ鉢植えに入ったこれを買う人もいる。何故かと言うと定期的に、週に大きめの飴玉くらいの実を二回から三回つけるので旅の供としてとてもいい品なのだ。
味は上質な塩などと比べても遜色なく、どういう効果なのか劣化の心配もないので貴重な物として売り物の場合はかなり高価である。
旅の場合湿度や温度の変化があって、食料品や調味料が傷んだりするのでこの味の実は非常に助かるのだ。この実は湿度で固まったり、外気温で溶けてしまうという事も滅多に無いのでそこそこ高価でも重宝されている。
「幸先が良いな、他にも何かあるかな?」
木に生っている紅色の実を捥いでアラに渡す。
自分の分とエニスの分も捥いで食べる所を見せると、おっかなびっくりと言った様子で(見えないから推測だけれど)食べる。
「!…」
「びっくりした?」
親指の第一関節より大きいくらいの実は、ベリーに近い味がする。でも一番驚くところは、この実の皮の中が氷のように冷たい所だ。名前も知らない実だけれど、このユニゲン大陸なら大抵の森で見かける事ができる物で、おやつ代わりに丁度良い果物である。
口の中で冷え冷えの果汁が広がる感じが何とも言えず、半人半蛇の大魔道士のお気に入りのお酒のアテである。(アテと言うより、これの皮を剥いでお酒に入れて冷やしながら呑むのが好きだった。)
「ここ、食べ物がたくさんあるね」
あの糞野郎の活動圏の外なのだろうか。
おかげで面白い植物でアラを楽しませてやれそうだ。
おん!
「ん?」
見ればエニスが尻尾で捥いだ実をアラに渡していた。
気に入ったのだろうか?
通常サイズのエニスに怖気づく様子もなく、アラは赤い実を受け取って口に入れる。
エニスも子供に優しい様子で、何だか嬉しい。
+ + +
五分ほどウロウロ歩いていると、蜂が跳んでいるのを見つけた。
マップにその蜂の巣を表示させると、エニスと一緒に少しだけ静かに移動を始める。
あの蜂は翅が退化した珍しい蜂で跳ねて移動する。非常に弱く、猛暑日位の気温になると死んでしまう蜂だ。その代わり、どれだけ気温が下がろうと雪景色になろうと普段通りに活動できる寒さに対する強さを得た種で、共生関係を結ぶ事で有名な蜂だ。
その蜂の巣に着くと、知っている通り、数種の別の蜂が近くに巣を作って共生関係を結んでいた。
あの蜂は寿命の尽きた仲間の死骸を肉食の蜂に渡したり、寒い時期にも蜜を集めて他種の蜂に餌を渡す事によって共生関係を結ぶ賢さを持っている。その代わり暑い時期に巣篭りしている間に守ってもらうのだ。
その跳ね蜂(名前は知らない)の女王蜂はちょっと変わっていて、知能が高いので用があるのだ。
「いたいた」
木の洞を利用した巣には、リスよりも大きな跳ね蜂がいる。
現代日本にも両掌から溢れる位に大きな虫もいるらしいから、そこまで珍しく思わない人もいるかもしれないけれど、普通に遭遇したら必死に逃げることを考えそうな大きな蜂である。
翅のない、バッタに近い見た目の女王蜂だ。
自分は影箱の名から轟獣の肉(多分ゴリラの腕か何か)を出してそいつに見せる。
『ぎっぎっぎっ!』
顎を鳴らす音は迫力がある。
ゆっくり這って来ると、周囲に三種ほどの蜂が警戒して飛び回っているのが見える。現代日本にもいた様なミツバチや、原代和国にもいたようなちょっと紫っぽい色の蜂もいる。警戒している、と言うよりも様子見をしているように見えた。この辺り、ジルエニスの世界の動物や虫は総じて知能があるように思う。犬や馬でさえトイレと言う考えを持つのだから当然だろうか。
「蜜をくれないか?」
言葉を理解しているかは判らないけれど、声に出して聞いてみた。
突然で怖がってるかと様子を窺うとアラは怖くないようだし、エニスに至っては欠伸交じりだ。
更に這って来たので肉を手渡すと、女王蜂はそのまま巣に入って行った。自分よりも大きな物を顎で掴んで持ち運ぶって言うのは虫の凄い所だなあ、と場違いに思った。
日本や和国ではこんな大きな虫なんてそうそうお目にかかることが無いのでつい観察してしまう。
少しした後、働き蜂(小ネズミ位)が十匹ほど現れた。
植物の茎を蜂の唾で塗り固めた器が合せて四つ。
跳ね蜂は肉と同じ量の蜜を交換してくれる蜂なのだ。
受け取ると働き蜂が女王蜂と同じ『ぎっぎっぎっ!』(少し迫力に欠ける)音を上げる。用が済んだらとっとといなくなれって事だろう。
「びっくりした?」
影箱に蜂蜜を入れて振り返りながらアラに聞いてみる。
「………」
上を見るとアラがこちらを覗き込むようにしていた。
「どうした?」
「………」
ふすー、とアラの可愛い鼻息が漏れた。
………何となく、確信はできないけれど退屈はしていないようだ。
「木登りしてみようか?」
折角どんな遊び方も想像力次第な場所にいるのだから、少し身体を動かすべきだろう。
蜂の巣から充分な距離を開いた辺りで探して、手頃な木を見つけてアラを下ろす。
「これ位男の子ならいけるよな?」
アラの手を取って、枝に手を掛ける。
「次はこの枝を掴んで身体を持ちあげて、今掴んでいる枝に足を掛けるんだ」
個人的な考えだけれど、木登りって小さいうちにやっておいた方が良いと自分は思っている。
全身を使うし、次にどうするべきかと言う思考を促す事も出来る。そして一番上までついた時の達成感は、お手軽に思えるかもしれないけれど子供心にはなかなか得難い心の養分になるんじゃないかと思うのだ。
失敗しても上手くいかない理由を考えることもできるし、一度で成功しなくても何度も繰り返して学んでいく。
教えるのは初めの内だけで、少しずつ考えさせる。自分で考える事を促す事になると思う。
アラも色々あって大変だっただろうし、今もこんなことをしている場合じゃないかと思っているかもしれないけれど、ずっと悩み続けていたって悩みは消えないし、何かをしていた方が気が紛れるんじゃないかと、素人裸足に考えたわけだ。
アラは軽く跳びあがって枝を掴み、最初に掴んでいた低い位置の枝に足を掛ける。足を使って身体を持ち上げて、………こちらをじっと見る。
「次に届きそうな枝はどれだ?」
声をかけると素直に反応する。
頭を動かして丁度良い枝を見つけると、手を伸ばしていく。
行動的な印象は今まで受けなかったけれど、身体の動きはしっかりしているようで安心した。上の枝を掴み、足を掛け身体を引き上げ……、とすいすいとはいかないけれど繰り返し、最終的に一度も足を踏み外す事もなく、登ることのできる限界まで、アラのジャンプでは絶対に届かないだろう位置まで辿り着いた。
一度くらい落っこちるだろうと思っていただけに、想像以上に身体能力が高いのかもしれないと思った。
高い所から周囲を見回す様子は変わらず目の中に何も見えないけれど、良い刺激になっていてくれたら良いと思う。
アラは降りるのは登るより怖いようで、登りよりも時間は掛かったけれど、危なげなく着地した。
「よくできたね」
頭を撫でる。
「ふすー」
返事は鼻息だった。
ちょっとだけ誇らしげだった。
ご褒美に蜂蜜をあげる。赤い実に蜂蜜をつけて渡すと、口に入れてぷるぷるとしていた。甘すぎたのかと思ったけれど、普段よりちょっとだけ目を見開いているようで幸せそうだった。一度に唾がたくさん出て顔をしかめているのかも知れない。
………この子の表情から気持ちを推し測る能力が欲しい。
お読みいただきありがとうございました。




