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チート+チート もう一度英雄  作者: 加糖雪広
第三話 異獣+子供
84/99

+アラ

8/15(1/2)

+ + +



おん!

「うん、ありがとう」


 エニスも子供が心配だったようだ。

 念入りに調べてくれたけれど、解析結果以上の事を知ることはできなかった。


 横倒しになっている馬車は普段荷馬車として使っている様な物で、上等な物ではなかったけれど、車輪や軸なんかの作りは悪い物ではなかった。

 五百年前から変わらずこの世界での長距離の移動手段としてメジャーなのは馬車で、その製作技術も日進月歩、完成されているかと思えばまた新しい技術が生まれ、どんどん優秀になって行く。

 軸受の部分など、現代日本の車のそれと近い作りで、揺れ止めの効果があるようだ。馬車を買う時は下を見ろとトグオの爺様に言われていたので思わず見てしまう。


 馬車は上等な物ではないけれど、決して悪い物ではない。これまで現役で使っていた物だと思われた。

 損傷の部分は真新しく、腐敗止めを塗った後で色が変色している馬車に使われている木材の地の色が剥き出しになっていた。


「やっぱりかなり大きな相手みたいだな」


 轟獣? それとも魔獣?


 大きな爪痕を見ても、それに該当するような物が思い浮かばない。

 一匹、一体、一頭、一羽………。馬車の損傷の様子や、お婆さんの遺体から考えて大きな爪を持った生き物だと思われる。

 ………。


 ホーグが二人を埋めた場所は、彼らしく芸が細かい性格が表れているように思える。どうやって準備したのか、立派なお墓になっていた。

 ジルエニスと美観が近いのか、墓石にも装飾が施されている。


「ナイ、出来ると思う?」

『もちろんなノ、ヒロが望めばみんな協力するノ』


 己月はステッキに、ブーツも靴裏を変形させて形を変えた。


「召喚魔法」


 ごっそりと身体の中にあるドライアイスの冷気のような物が消えていく感覚。

 強化魔法の時のように失敗なく、自分の魔力が無くなって行く感覚。

 適切な魔力量を使うように気を付けなければ、自分が魔法を使う場合魔力が際限なく消費されるらしいので気を付けて使わないとならない。


「お話を聞かせてくださいませんか?」


 目の前には、半透明な靄を纏った二人の老人がいた。



+ + +



 お爺さんとお婆さんは成仏することなくここに留まっていた。

 深くて、重くて、強い想念が成仏する事を拒絶しているからだろう。


「わたしはカロ、サタ村で生まれ育った(きこり)の妻だ」

「………」

「彼は夫のビュート」


 大きな身体の獣人二人である。

 二人とも二メートル以上ある背丈と、膨れ上がった筋肉を持つ獣人だった。お婆さんは熊、お爺さんはサイ、だと思われる。


「ヒロと言います。目的があり旅をしている者です」

「あの子は?」

「保護しました。あのままにしておくわけにはいきませんので」

「そう」


 表情が読みづらい相手だけれど、それでも深く安堵したのは判った。


「ケガもなく、一応食べ物も摂る事ができました。何か注意する事はありませんか?」

「解ると思うけれど、あの子は言葉を話さない。それがどんな事情があってなのかは解らないが、考えている事や思った事を伝えることはない。そこを気にしてやっておくれ」

「………」


 話すのは専らお婆さんで、お爺さんは口を開かない。


「あの子の名前は?」

「私達は勝手にアラと呼んでいたわ。白い肌と灰青の瞳を持つ妖精の名前から勝手にそう呼んでいた」


 アラ。

 それなら自分もそうするべきかな。


「あの子は突然村に現れた。あんな光景、生まれてから初めて見た。

 空から光の柱が立ち、その中にあの子が降りてきた。初めは神様がやって来たのかと思ったけれど、あの子は言葉も話さず、顔色も変えず村の皆に崇められていた。そうするほどに特別な存在なのだろうと村の者たちが思う程、神秘的な光景だった」


 召喚された場所がたまたまそのサタ村だったという事だろうか。

 こう言うのは決めつけてはいけないだろうから話半分くらいにしておく。


「それで、二人はどうして?」

「村は貧しく規模も小さい。昔は宿場町として栄えていたと言うが、この辺りは旅人も通る事のない辺りで、助けを呼ぶという事もできなかった」

「助けを必要とする事態だったという事?」

「ああ」


 荷馬車には荷物は載っていなかった。

 盗まれた?


「あいつはあの子がやってきて二月ほどの頃やって来た。

 大きな体躯、太い手足、嘲笑の声。

 村の力自慢が十人がかりで襲っても歯牙にもかけない化け物。

 あいつはこの子を喰うと言った。

 私達はこの子を家族として迎え、育てると決めていた。

 だから逃げようとしたのだが………」


 続く話は、酷い話だった。

 あの子、アラを家族として迎えた子供のいない二人は大事な家族を生贄に差し出せと言う村の者と対立し、両足の腱を切られ、荷馬車に乗せられその化け物が棲む場所に送られる事となった。(それは熊とサイの間に子供ができないという事ではなく、この世界では自分が知る限りエルフ以外の人型の生き物との間でならどんな種族の両親からでも子供は生まれる。素人、乗人、獣人、ドワーフなどの関係は全くない。二人の間に子供ができなかったのは偶然である。)

 二人は化け物が棲む場所に辿り着くことなく、やってきた化け物と争い命懸けでアラを護ったと言う。

 諦めて化け物がいなくなるまで、身を挺して自分達の子供を護り続けたのだと言う。


「アラは未だに狙われているんですか?」

「あの化け物が諦めるとは思えない。私達は身体の頑丈さが自慢だ。生き延びることはできなかったが、あの化け物を諦めさせる事位はできた。

 おそらく、………あの子が這いだして来るのを待っていたんだろう」


 自分はマップを広域に切り替えてその化け物を探して見るが、表示される事はなかった。

 情報が少ないからか? それともアラが関わっているからか?

 エニスに目配せすると、エニスはそれだけで理解したのかホーグ達の方へと向かっていった。アラを狙う何者かが突然襲ってくる可能性もあったので、話の途中だったけれどエニスに向かってもらった。


「その化け物の棲み処を教えてくれませんか?」

「二つ森を抜けた先だ」


 指を指し示す先、二つ森の先をマップにマーキングしておく。


「わかりました」

「どうするんだ?」

「もちろん」

「あんたにどうにかできる様には見えん。アラを連れて遠くに逃げてくれ」

「その化け物がどういうつもりなのか分かりませんけれど」


 サイの獣人の身体を真っ二つにできるような相手が、諦めたとは考えにくい。

 きっと何か別の理由があるんじゃないかと思う。

 だからどれだけ逃げてもアラの安全は手に入らないんじゃないかと思う。


 それを伝えると、お婆さんの表情が険しくなる。


「それと、アラをこのままサタ村に連れ帰るのは、

「やめてくれ」


 力強い声だった。

 見るとお爺さん、樵をしていたと言うビュートさんが深く力の籠った視線でこちらを見ていた。


「サタ村の奴等はあの子を犠牲にして生き残ろうとした。一度そう決断した奴等があの子を暖かく迎え入れるわけがない」

「自分は旅をしている者です、アラの事を考えるとこの先連れて行く事は良い事だと思えません」

「小僧、ヒロと言ったな。どこか大きな町なら孤児(みなしご)を集める孤児院くらいあるだろう。そこまであの子を連れて行ってはやれないか?」

「確かにそうするのが確実そうですが………」


 アラの様子を考えると難しいと思う。

 孤児院ならば受け入れてくれる所もあるだろう。

 でも言葉を話す事のない彼が子供達の中に入って行くのは差別の問題が生まれないかと思ってしまう。


「ヒロ、お前さん腕に覚えがあるな?」

「多少は」

「なら連れて行ってやってくれ。村から出た事のないオレには旅を続ける辛さや苦労は判らない。でもあの子が今安全に生きていくには、あの化け物をどうにかしないといけない事と、あの子を護る保護者が必要だ」

「あんた」

「オレたちはもう生きてはない。あの子を守ってやる事は出来ない。

 あの化け物が引いたのは諦めたわけじゃないと言うヒロの言葉も考えてみればその通りだろう。あの子を幸せにしてやるには、オレたちの手ではダメなんだ」

「………」


 血の繋がらない子供のために、この二人は命を懸けた。

 自分ならどうだろう? そんな立派な事、絶対にできないだろう。

 自分はこのぶっきらぼうな二人に敬意を感じていた。


「では、アラを信頼できそうな人の所まで連れて行きます。あの子をどうにかしてあげることのできる人を探します。それまで、自分があの子の保護者代わりになります」


 だから、二人が安心できる道を探そう。


「頼む」

「あの子は、きっと何か大きな意志でここにやって来たんだ。私達の間に子供が出来なかった事に心を痛めてくださった神様のおぼしめしだったのかもしれない。

 あの子を救ってやってくれ」

「出来る限りのことをします」



お読みいただきありがとうございました。

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