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チート+チート もう一度英雄  作者: 加糖雪広
第三話 異獣+子供
83/99

安きに流れる+名前

8/14(2/2)


子供の事情に不快に思われる背景があります。

読む気が無くなる人もいるかと思われますので不快になりそうだと思われた方は読まれないようお気を付け下さい。



 解析不可でもあり、この子自体ステータス表記ができない程だという事なんだろう。核司も二つある特殊能力も、『解析不可』と言う意味の状況だった。唯一表記されている運が高い事で、この子供はこれまで何とかやってこれたのだろうと思われた。


 ジルエニスの第一世界にやってきたのは二か月前、自分がここにやって来るより少し前だという事は判った。

 この子供の現状はネグレクトが関わっているという事も分かった。

 でも、名前一つ知る事ができないと言うのはどうなのか。

 多分、この子供自身、名前を知らないという事なのではないだろうか?


 くそ、何とかならんのかこの肚の下で渦巻く感覚。

 熱くて敵わない。ぐつぐつと煮え滾りながらぐるぐると渦巻いていて、行き場もなく灼かれるようだ。


「ひとまず、この子供をサタ村と言う所まで連れて行く」


 極力抑えながら言う。

 ここでエニスやホーグ、レナリなんかにこの気分をぶつけるのはおかしい事だ。


「は」

おん!


 レナリはどことなくボーっとしている。


「レナリ?」

「は、はい。それで問題ありません」


 ………思う所があるのだけれど、今はこの子供だ。


「ホーグ、ジルエニスに連絡してくれ。マップにも表示されない異世界人がいるって言う事は、速く知らせるべき事だと思うんだ」

「畏まりました」

おん!

「そうか、この服じゃ寒いよな」


 この子供が目覚めたら服をどうにかしよう。

 少し考えて。


「エニス、この子がいた辺りになにか情報がないか調べてくれないか?」


 エニスに行ってもらっている間、『サタ村』について何か情報がないか調べてみよう。


「レナリは…、悪いんだけれど片付け頼む」

「はい、それ以外に何かありますか?」


 子供を見る。顔は硬く、身体もか細い。今抱えて動くのは負担になると判断して考える。


「今日はここで夜営するから準備を願い」

「わかりました」


 レナリの表情も、何だか危うい。

 子供の存在でいろいろ思い出してしまっているのだろう。夢の話もあるからあまり無理させないように気を遣うべきだろうに、どうしてこう自分の考えは上手くいかないのだろうか。



+ + +



 ホーグは念話のような能力を持っていたらしく、ジルエニスの元へ向かう事無く情報を伝えたようだ。

 ジルエニスから自分に伝言されたのは、解析結果などに今までにないイレギュラーが表示されるだろうという事。この子供の出身世界を探すが、現在色々な悪条件が重なっていてそれを調べるのは時間が掛かる上に、解らない可能性が非常に高いという事。『解析*数値化』は第一世界用に作られた能力なのでこの子供やそれに関わることを調べることは難しいという事だった。


 この子供が二人の遺体の下にある事をエニスやホーグが初め気付かなかったのは異世界人であるという事が関係しているんだと思う。解析を使ってこの子供の情報を集めるにも限界があるという事なんだろう。

 どう接するのがこの子供にとっての最善か分からない状況で、頼るべき相手がいないと言うのは不安になってしまう。五百年前なら大抵困っても目上や年上の仲間がいたから意見を求める事も出来たけれど、今は基本的に自分で考え、実行するべき顔ぶれだから余計にその不安も大きい。


 でもこの子供は目の前にいて、今助けなければならない状況であると言うのが問題だ。

 一つ気合を入れて向き合わなきゃ自分の事だから安きに流れてしまうだろう。


「ホーグはどうするのが最善だと思う?」

「この子供はヒロ様に拾われました。それが最善という事だと私は思います。神がいるこの世界で言う事ではないかもしれませんが、何か知覚できない流れか、存在が、この子供を生かすべきと考えたか、ヒロ様の元に辿り着かせるべきだと決めたという事ではないでしょうか?」

「子供は大好きだけどさ、自分は本当に未熟で。

 今この子供に対して責任も負えない。見捨てるなんてもちろんないんけだれど、自分にできるのかとかそう言う意味で迷ってる」

「親と言う存在は、親として完璧だから子供を授かるのではなく、親として進歩するために子供を授かるのではないでしょうか? 今ヒロ様の内にある不安は、血の繋がりや準備ができたかどうかに関わらず、誰しも感じる物だと思います。

 仮にヒロ様がその子供を見捨てるべきだと判断しても、守るべきだと判断するにしても私はヒロ様の考えならばそれが正しいと感じるようになっています。ですので、その不安をヒロ様が胸の裡で鎮める事ができたならば、その考えに沿うようにお命じ下さい。

 身の全てとそこに宿る総ての命を持って、私はヒロ様の願いを成就するために尽くします」


 巨甲長命族のトグオの爺様だったらこんな時、彼なりの最善の答えを示した上で諭してくれただろう。

 人鼠(悪党)のベツだったらどうすれば得になるか考えるだろう。

 大魔法使いの姐御だったら平気で一番楽な選択肢を示すだけ示してくれるだろうし、ニリだったら高貴なる者の責任なんかを引き合いにする。

 シュウだったら………、合理的な言葉を言いつつ眉をしかめたりするんだろう。

 鬼の人は置いておいて―――――、


 甘えだけれど、当時の仲間だったらどんなことを言ってくれるかなんて妄想してしまった。


 この子供を襲った奴は何のために襲ったんだろうか?

 ………恨み?

 怒り?

 それとも本能として戦う選択肢を選んだ?


 そうだ。

 まだ、終わってない可能性だってゼロではないんだ。

 この子供は守られなくちゃならない。

 ただでさえ普通じゃない経験をしているんだ。

 守られて当然なんだ、子供って言う存在は。

 そんな子供を前に、不安とか、甘えとか、何を考えていたんだろうか?


 頭おかしいんじゃないか、自分?

 極め付けのクズだな。

 この子供は守る。

 それが当たり前だからだ。

 子供は幸せにならなくちゃならない。


 どんな人間だって生まれて、育って、大人になっていつかは死んでしまう。

 短い人生でも、長い人生でも、それは一人のための物なんだとしたら子供を作るなんて機能は人間にはないはずじゃないか。

 例えそれがなんの繋がりもない相手だとしても、一度一人前なんだと自分を決めた人間が、半人前かどうかも自分で解らない子供を守ることに、理由なんて考えるのは自分にとって異常な事だ。


「ホーグ、この子供を守る。

 考えてみたら襲った相手だって判らないのに、不安とか感じてる隙なんてないよな? 今自分がするべきはこの子供を安全な場所まで連れて行く事、負担をこれ以上かけない事だ。

 手を貸してくれないか? 自分じゃこの子供の食べ物すら準備してやれない」

「仰せの通りに」


 こんな時、自分の無能に腹が立つ。

 考えが足りない事もそう。

 子供を守るとか言いながら、そのための手段もない。

 ご飯一つ満足に準備してやれない。

 でもたった今子供は自分の腕の中で、束の間の休息を得ているのだから今の不足を嘆く暇なんて絶対にない。


 自分にできるのはこの子供をまた襲ってきた何かをぶっ■らしてやるくらいだ。


「レナリも、旅で疲れてるだろうけれどこの子に気をかけてやってくれ」


 無茶なことを言っているとは思う。でもまだ知識や経験の足りないレナリよりも、この子供は弱い。自分なんかじゃ至らないところが次々出てくるだろうから、一人でも多くの助けが必要だ。


「ヒロさんは、この子供をこの先どうするつもりでしょうか?」

「ひとまずこの子供が着ている服?に関係する村に連れて行く。その後の事はまだわからないから考えながら行くつもり」


 異世界人のこの子供の関係者も一緒にここにいる可能性もある、………これはこの子供にとって良いのか悪いのか判らないけれど親がいる可能性もある。

 他の異世界人もいるから、旅を続ける必要がある自分が連れ歩くのはあまりに悪い手だ。どうにかできる手を探さなくてはならない。


「………」


 レナリの表情に何かが映ったけれど、………いや、何かなんて言い方は良くない。


「闘技場の子供達を全員連れて行かなかった自分が、この子供を助けるのはおかしいと思う?」

「………」

「思う事があるなら言ってくれていい。レナリにとってもこの子供は他人事じゃないと思うと自分は思うんだ」

「違うんです」


 レナリは首を数度横に振って、


「この子供を何て呼んであげればいいかを考えていました。

 別れ別れになった子たちは、ヒロさんが何とかしてくれたのを知っています。私には私の普通じゃない所があるのを知っています。ですからヒロさんが思うような事ではないんだと思うのです」


 特に説明してないって言うか、レナリに対して自分は上手く会話ができていないんだろうな、と初めて思った。………ニリの関係で自分がレナリに対して苦手意識があるせいだろう。

 レナリとニリは別人だけれど、繋がりがあると言う点で、どう接するべきかと言う所で無意識に思考を放棄しているんだと思う。


「名前………」


 ほら、こうやって安きに流れる。


「ヒロさんがそうするべきだと思ったのなら、私はそれに従うべきです。そして一つ一つ私に説明をしてくださったりするのも、世間からすれば過ぎた扱いだと思います。

 ヒロさんのする事なら、私は信じます」


「………本当に、どっかの誰かとは大違いだな」


 思わず呟いた。

 レナリの耳には届いているだろう。


「檻の中で寝起きしていた時、新しく檻の中に連れられてくる子供の中には名前も分からない子供や、付けられていたとしても知る事ができない子供もいました。

 みんなが嫌がるので、私がそんな子供達の名前を付ける係だったんです。ですから、習慣で、名前を考えていました」

「どんな名前が良いと思う?」


 安きに流れる。


「いえ、ここは檻の中ではありません。

 ヒロさんが名前を付けてあげるべきだと思います」


 名前とかムリ。

 何だかエニスに始まり名前つけてばっかりな気がする。

 助けを求めてホーグの方を見ても、それが良いとばかりに頷くばかりだった。


 …。


「目を覚ました時もう一回聞いてみよう。便宜上でもないと不便だろうからその時考えるって事で」


 安きに流れる。


 影箱から夜営用のテントやらを取り出してホーグに渡す。

 自分は毛布なんかを出して子供を横たえた。


 手を離す時にぴくん、と動いたけれど気を付けた事もあって目覚めることはなかったので安心。

 自分はレナリとホーグにテントを任せて、エニスの方へと向かう事にした。

 名前、と言う所で思いついた事があるからだ。



お読みいただきありがとうございました。

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