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チート+チート もう一度英雄  作者: 加糖雪広
第三話 異獣+子供
82/99

男の子+解析不可

8/14(1/2)


子供の事情に不快に思われる背景があります。

読む気が無くなる人もいるかと思われますので不快になりそうだと思われた方は読まれないようお気を付け下さい。

+ + +



 解析の情報によると、血の繋がりはないようだ。

 お爺さんとお婆さんが家族として迎え入れた孤児で、見た目は自分と同じ素人(すっぴん)。例えるなら想像上のロシア人のような真っ白な肌の子供だった。

 生きている。そして意識もある。

 でも見開いてこちらを伺う目は完全に無だった。

 失礼だと思いながらも、お婆さんがきつく抱きしめた手を外し、子供を抱き上げる。

 身体が震えている。

 ………嫌だな。爆撃を受けた後に生き残った子供と同じ顔と反応に見える。よほど怖い思いをしたのだろう。

 こういう時に自分ができることなんて何もないけれど、こんなことをするのも実はおかしい事なんじゃないかと思うのだけれど、自分はその子供を抱き締めた。

 ビックリするほど冷え切った子供に熱が移れば良いと思いながら。

 背中を優しくなるように気をつけてさすりながら、ちょっとでも安心できる何かがあれば良いと願いながら。


「ホーグ、この人達を埋葬してあげて」

「は」


 子供にこれ以上お爺さんとお婆さんの姿を見せるのは忍びない。

 本当なら遺体を家まで送るべきなのかもしれないけれど、子供のためと思ってホーグに頼んだ。



+ + +



 子供は普通じゃない様子だった。

 態度も勿論普通じゃないけど、今普通じゃないと言っているのはその恰好についてだ。

 見た目は……五歳から七歳くらい(和国人も日本人も外見から年齢を計るのが苦手なので、少し多めに見ている)。血の付いた布一枚のような服を、貫頭衣みたいに着ているだけの服装で、腰で結ぶ紐もなければ靴も履いていない。繊維か何かから作ったパピルスみたいな服で、手が出ているけれど、てるてる坊主みたいに見える。(この世界では、あまり紙は広まっていないので服用に作られている素材だと思われた)

 それよりも普通じゃないのは、この子供に一切の体毛がない所だった。髪の毛も全くない坊主頭だし、眉毛もまつ毛もない、あって当たり前の産毛まで剃られている様だ。

 灰がかった水色の虹彩、顔立ちはとても綺麗でこのまま成長したら女の子が放っておかない美形さんになりそうな様子、こんな子供の親ならば自慢し放題なんじゃないかと思う。


 なのに、髪の毛から眉毛にまつ毛、産毛まで綺麗に剃る理由はなんだろう?

 何かお祭りとか儀式とかの関係なのだろうか?


「平気?」


 言いながら、そんなわけないだろう。

 思った。

 でも自分に抱えられながらも一切の反応を見せない子供に、どうしたら良いか自分には全く考えもつかなかった。

 子供は変わらず震えていて、寒いのか、恐れているのかも分からない。目は口ほどに物を言う、と言うけれどこの子供の目は表現としておかしいかもしれないけれど、ガラス玉その物が入っているかのように、何の感情も写していないようだった。


 自分は念動力で、子供の服から血糊を除去する。二人の人が身を挺して護ったために、子供は暗目の赤一色だった。服は漂白もしていないパピルスみたいな、黄ばんだ色合いに見える。

 血糊を落としても、子供はまるで反応がない。

 お腹空いたでも、悲しいでも、何でも良いから反応が欲しかった。


 いや、この考えは良くないと思う。

 押し付けてはいけない。

 この子が話せるようになるまで待つのが正しい、はず。


 小窓の中にどこから来たかと言った情報があるので、そこに向かうべきだろう。


「家に帰ろう」

「………」


 目を見て言ってみると、微かに目の奥に波が映った気がした。

 それが好意的な物か否定的な物かも判らないけれど。


「帰りたくない? それとも早く帰りたい?」

「…………」


 …わからん。

 微かに感情の動きがあるような気がするのだけれど、それを自分では捉える事ができない。


 く~きゅるるるるる………


「………」

「………」


 目以上に主張する物があったので助かった。


「何か食べようか」


 この状況でお腹が鳴るなんて豪気で良い事だ。



+ + +



 少し早い時間の昼食となった。

 場所はかなり離れた位置まで戻って準備した、ホーグが。

 子供が喜びそうな食べ物と言って想像するのはハンバーグとかお子様ランチとかだけれど、この子供は何が食べたいのか聞いても返事はない。

 通じていない、という事はないように見えるのだけれど、決めつけはよくない。

 身体に優しい肉団子入りのスープを作ってもらい、木製のスプーンを手に持たせてみるのだけれど、子供は一切反応しなかった。


「食べたくない?」

「………」


 子供はずっと自分が抱えているのだけれど、女の子の方が良いのかとレナリの方を見ると、

 きゅ。

 初めて子供からの行動があった。

 服を掴まれた、………気がした。


 胡坐を組んで子供をその上に対面するように座らせ、子供からスプーンを受け取った。

 試しにスープを掬って口の所に持って行く。


「あ~ん」

「………」


 じーっと見つめ合うことしばし。

 微かに口が開かれたところでスープを注いでみる。

 上手くいかなかったので口の端からだいぶ溢してしまった。慣れないので仕方ない、と言い訳できるけれどどんだけ不器用なんだ自分は!

 既に準備していた(本当にもうね、ありがとうございます。)ホーグからタオルを受け取り口を拭う。


 喉が動いて、飲んでくれた。

 それだけでひとまずほっとする。

 多分、緊張しているんじゃないかな、自分が。


「おいしい?」

 こくん。


 首を縦に振った、気がした。

 動きが微か過ぎて見ていても見逃してしまいそうだった。

 数回繰り返して口にスープを持って行くと、やっと自ら食べてくれるようになったのでスプーンを渡す。

 お腹が鳴ったけれど、あまり食欲がなかったのだろうかとも初めは思った。でも結構な勢いでスープを飲んでくれたので助かった。


 解析すると、子供の年は七歳。身体が細いので栄養が足りていないように思える。

 この年頃の子供はもっとふっくらしていなくちゃならんと思う。

 名前は、珍しく解析不可だった。


「名前、言える?」

「………」


 首を横に振った。

 ない、のか?


 ………嫌な予感がする。

 そうであってほしくない、とても嫌な予感がした。


 小窓が自分の疑問を解消すべく次々と表示されていく事を眺めていくと、眉間に力が入ってしまう。

 子供にプレッシャーをかけたくないので極力それを抑えるようにしながら、自分は子供を撫でる。


 少しだけ打ち解けてくれたのか、無表情のままでも子供の視線は先程よりも温かみがある、様な気がする。表情は完全にフラット、目は何も浮かべていない様子で、自分の出来が悪いのかそこから何も受け取る事ができなかった。だから今の所すべて憶測で行動している。


「ヒロさん」

「うん?」


 レナリも気づいたのかもしれない。

 闘奴候補としてあの不衛生な部屋に押し込められて生きていたのだから、似たような物を知る体験があったのだろう。


「レナリの想像している通りかもしれない」


 とか言ってるけど、これで二人で違うこと考えてたら恥ずかしいな…。と現実逃避で考えていた。



+ + +




 日本で見たニュースなんかで得た知識なので穴だらけだし、確証もない話である。

 生まれたばかりの赤ん坊は、おむつの不快感やお腹が空いたと言う『主張』をするのは全て泣くことで行う。

 それしかできない、と言うのが正しいのかもしれない。

 そしてそれがなければ親もどうしたら良いか分からないだろう。初めてのお子さんだったりしたら益々わからないだろうし。

 重要で、絶対。

 赤ん坊にとって唯一『主張』する手段が泣く事だ。


 でも。

 その唯一が通じないと赤ん坊が思ってしまったら?

 どれだけ泣いても、どれだけ声をあげて喉を涸らしても、だれにも主張が通じない状況が続いた場合は?


 赤ん坊は主張することをやめてしまう。

 その経験が長く続いた赤ん坊は自己主張の方法が解らなくなってしまって、感情表現の方法も分からなくなってしまうらしい。


 今、食べながら眠ってしまった子供はそう言った経験があるんじゃないかと自分は疑問に思った。それを解析してもらった結果、その予想は間違いなく、この子供は『育児放棄(または育児怠慢)』―――ネグレクトされてしまった子供であることが分かった。

 両親から愛情を注がれ育ったと言う意味で一般的な子供にすらどう対応すべきか分からない自分には、子育ての経験もない自分にはあまりにどうするべきか判らない状況である。

 投げ出すなんて選択肢はないけれど、この子供とどう向き合うべきか自分には全く考えが及ばなかった。


 おそらく名前すら親から付けてもらえなかった子供にとって、他人なんて宇宙人以上に関わり方のわからない存在だろう。そんな子供にどうやって接すれば子供の負担にならずに済むと言うのだろうか?


 七歳までよく生きていてくれた。

 それすらも奇跡だろう。

 憶測だけれど、親以外の優しい大人がいてくれたのだろう。子供を放置するなんて、親になった経験のない自分からすれば、正気じゃないように思える。

 ……いや、それだけ大変な、正気を失う程に大変な物なのだろう、子供を育てると言うのは。

 でも、子供って言うのは親がいなければ出来無い物で、その子供を育てるのは親にとって当然の事ではないのだろうか?

 ……冷静になろう。

 勝手に親を悪人として考えてしまっている自分に気づいた。

 きっと何か事情があるんだ。説明も出来ない事情が。


 小窓の中にその情報が表示されていなかった。

 名前と同じく解析不可となっていた。

 小窓を読み進めると、その理由も見つけられた。


「何考えてやがんだ」

おん!


 あまりに低い声が出てしまって、エニスが驚いていた。

 エニスの上質な毛並みをなでながら気持ちを落ち着ける。

 スー…。平時の呼吸を想定して繰り返す。


 解析結果はこの子供は、異世界人だという事を示していた。


 ジルエニスが授けてくれた能力や道具、エニスやホーグにも知られる事なくやってきた異世界人だった。

 マップに表示されていない異世界人。ジルエニスにとって良くない存在がこの子供であるという事だった。



  ◇◇◇◇◇◇◇

名前解析不可(異世界人)

  体力 |

  魔力 |

  理力 |

  筋力 |

  身軽さ |

  賢さ |

  手先 |

  運 AA

 核司【■■■】

 装備品

 サタ村の儀礼服


 特殊能力

  ■■

  ■■

  ◇◇◇◇◇◇◇



お読みいただきありがとうございました。

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