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チート+チート もう一度英雄  作者: 加糖雪広
第三話 異獣+子供
81/99

血+血

8/13(2/2)




 気づけばエニスに守られるように『包まれる』と言う感じだった。


「な、な?」


 身体中がびびって自由にならない。それでも何とか口を開こうとするのだけれど口の形も喉の奥もびくびくとして言葉が出ない。


「ヒロ様」


 緊迫した表情のホーグがやって来る。

 どうやらうまくいかなかった、と言うのは判るのだけれど何が何だかわからなかった。

 ホーグのおかげで怪我などは治してもらったようだけれど、あまりの衝撃に頭の中がまとまっていない。


「何がいけなかったんだ?」


 視界の隅にナイがいて、


『【+】と言う核司についてもっと考えておくべきだったノ。

 ステッキの能力、ブーツの性能、ヒロの気付き、この三点が改善()と言う意味で効果を劇的に高めてしまったんだと思うノ』


 つまり、二割増し程度の強化をしようとしたら、ナイの言う三点によって想定外の効果が起こり、自分が対応できないような強化になってしまった、という事なのだろうか?

 待てよ?

 つまり・・・。

 +、と言う考え方が想定外の効果をもたらすと言うのなら、魔力を多く使えば使う程、調べたりして改善すればするほど、状況が良くなればなるほど自分の魔法は想定外の効果になってしまうという事だろうか?


「つ、」


 もうどうしたもんだか………


「使えねえ……」


 核司を知った途端に、自分の魔法は役立たずになってしまった。



+ + +



 ホーグが使ってくれた魔法のおかげで、身体には後遺症もなく万全の状態に戻る事ができた。

 結論。

 魔法は今までと同じように魔力を直に混ぜ合わせる方式、中級者向けの方法でないと碌に使えないことが分かった。

 餓鬼さん達を招いた時も想定以上の数がやってきてくださったことを考えると、おいそれとブーツを使って魔法を使う事にためらいを覚えてしまう。


「く、くそ」


 折角ジルエニスに授けてもらった能力や道具もこれでは宝の持ち腐れにしてしまうじゃないか!

 これはこの先調べて、何とか使い方を模索しよう。


 気を取り直すのに二日かかり、かなりやさぐれた自分が人の往来の気配の残る街道に到着した。

 その二日の間ホーグの優しさと米がなければ、自分はまだやさぐれていたと思われる。




+ + + + + + +




「うん?」


 珍しく分厚い雲が南から北へと流れていた。進行方向の関係で後ろから前へとである。

 雨でも降ってきそうな黒い雲だったけれど、気になったのはそこじゃなかった。


「あれは……」


 空を見ながら自分はその光景に目を離せなくなった。

 魚、とこの場合はいうかどうか。

 分厚い雲が流れて行く先頭に、大きな魚が空を泳いでいた。

 初めて見る種類の魚だけれど、多分ナマモノではないはずだ。


「風の精霊の一つではないかと」

「…そうか」


 そう言えば見えるようになっていたんだ。

 でもあんなにはっきりと精霊の姿が見えるとは思わなかったな。ナイとかはなんか精霊と言うよりも、ってこれは失礼な考え方なのかな?

 立体映像ののアニメーションのような物に思えていたから、なんとなく別物だと考えていたんだと思う。

 聖霊との契約が、以前よりもはっきりと精霊を知覚出来るようになっているんだろうか?


「レナリはあれ見える?」

「魚ですか? はい」


 竜人すごいな。


 雨でも降るのかと思ったのだけれど、分厚い雲はそのまま流れて行き、しばらくすると空は快晴に戻った。


「何だか変な雲だったな…」

「おそらく龍が移動したのではないかと」

「蛇っぽい『龍』?」

「はい、奴等は姿を見せる事を嫌いますので」

「黒雲の方が姿を隠しやすかったのかな?」

「その想像の通りだと思われます」


おん!


「うん?」

 エニスの声の先に久し振りに見る道が見えた。

 これまで人の通りがなくなってずいぶん経つだろう所を延々歩いていたので(今はエニスに運んでもらっているけれど)、その人の往来によってできた道を見るだけで軽く感動してしまった。


「やっとか………」


 地図を表示して調べると、同じペースで一日移動できれば村に着く予定だ。

 道を発見してくれたエニスを労いながら進む。


「………」

「これは……」

おん!


 気づいたのは自分以外のレナリ、ホーグ、エニスだった。

 何か良からぬ気配でも感じ取ったようである。


「どうした?」

「おそらく血の臭いです」

「………自分じゃ判らないな」


 人にしたら五感はかなり鋭い方だと自分では思うけれど、やはりエニスやホーグは神様の二柱だし、レナリは竜人で生まれついてのハイスペックだ。地力が違うのだろう。


「何の血だか判る?」

「人の物です」


 闘奴候補だったレナリからすれば、血の臭いの差を嗅ぎ分けるなんて難しい事ではないみたいだ。ちなみに自分はわかりません。

 でも相変わらずくっついたままの姿勢はどうにかならんのかね?


「どっち?」

おん!


 エニスに至っては方向と距離、何人分かの血の臭いすら嗅ぎ分けていた。スゴイな。


「方向的には村から離れるけど、行ってみるか」


 酷い事になってないなら助けが必要かもしれないし。


「畏まりました」

「ホーグ先行できる?」

「お任せください。争いの気配はないようですが、その場合はどう致しますか?」

「ホーグの判断に任せる。怪我人がいたら処置してあげて」

「は」


 行李を背負ったままだと言うのにホーグは返事と共に風のように走って行く。方向は東、道を無視しての直線移動だった。


「エニス、警戒しながら進もう」


 何があるか分からないし、レナリもいる。

 置いて行く事も考えたけれど、何事も経験と思って連れて行く事にした。

 彼女の場合、血とか荒事に対する経験が普通の人の何倍もあるはずなので冷静でいられるだろうし。



 自転車よりも速い程度、エニスからすればかなりゆっくりと進んでニ十分ほどの距離が目的地だった。

 まず目に入ったのは簡素な馬車が横倒しになっている所だった。

 牽いていたはずの馬はいない。逃げたのだろう。

 そして思ったよりも時間が経った後のようだった。

 ペンキをバケツに入れてぶちまけた、そんな光景だった。

 その光景から襲ったのが肉食動物ではない、と予想される。


 仮に肉食動物の仕業なら、食料でもある血をこんなに散らかすのはもったいないと思うはずだ。狩りをした獲物からのみ栄養を摂取する肉食動物にとって、血液も栄養だからだ。


「レナリ」

「平気です」


 轟獣相手に戦った記憶か、それとも闘奴候補だった時の記憶かで少し顔色が悪いレナリをその場に、自分はエニスから降りてホーグの元へ向かう。

 ホーグは馬車周辺を調べているようだった。

 つまり、生存者はいないという事だろう。

 誰かが生きているなら処置をしているはずだからだ。


「ホーグ」

「ヒロ様。これを」


 ホーグが指し示すのは、鋭利な刃物の傷跡にも見える馬車の損傷だ。

 それが四つ並んでついている事から、肉食動物の爪痕ではないかと思われる。

 自分の手よりも何倍も大きな傷跡で、自分がロングソードで斬りつけた位の傷が四つ並んでいた。この傷跡をつけた奴はかなりの大きさになるだろう。


「どんな生物だろう?」

「轟獣の狼よりも大きな生物かと。もしかしたら異獣かも知れません」

「異獣?」

「神樹を刳り貫いた魔界とこちらを繋ぐ道があるのですが、そこに棲む独自の成長を遂げた不可思議な生物です」


 そんなのがいるのか。

 そんな事になっても神樹が枯れることなんてないんだろうなあとか思いながら、自分は臭いの元、無残な死体に近寄る。

 人だ。多分何らかの素型を持つ獣人だろう。

 それ以外を知ることはできなかった。

 それ位酷い有様だった。


 蹲るような形、だったんではないかと思われる。

 頭部も下半身もないから、それ以上は判らないけれど。

 何かを護るような形に見えた。自分の身体か、それともその下の物か。


「……」


 手を合わせて黙祷。

 袖をまくってからその遺体を持ち上げ、横たえる。


 そこには獣人のお婆さん、………その遺体があった。

 勝手な予想だけれど、このお婆さんを守るために旦那さんか、息子さんかが身を挺して護りつづけていたんだろう。そして護りきった。


 すげえ。

 すげえな。


 横たえた遺体に畏敬の念を送る。

 自分じゃ絶対に真似できない事をされた方は尊敬に値する。

 でも。

 お婆さんも亡くなっていた。

 左脇腹がごっそりなくなっていて、それが致命傷だったのだと思われる。多分馬車を襲った何かがやったんだろう。

 経験上、この手のケガはやたら辛い思いをするのでこのお婆さんの味わっただろう痛みを想像してしまう。


 状況から考えて、周囲の荒れ具合を考えて、馬車を横転させ、お婆さんに一撃。

 その後お婆さんを狙った何かから護るように覆いかぶさったおそらく男性は、その相手からお婆さんを護りきった。


 疑問に思った事は『解析*数値化』が調べてくれた。

 出身地や素性なんかがいくつも小窓になって表示される。情報が多すぎて整理しきれないので斜め読みしていた中に、逃せない情報があった。


「!」


 自分はお婆さんの遺体を抱き上げて、慎重に横たえた。

 熊の獣人だった。

 痛みを噛み締めながらの最期だったのだろう。表情は命が尽きた後も堪える様子が貼り付いていた。

 そして…。


「生きています」


 そのお婆さんが命よりも大事に抱えた、子供の姿があった。



お読みいただきありがとうございました。

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