闘技場審査+強者
手直しをしました。
◇◇◇◇◇◇◇
ヒロ 体力 250(B)
魔力 150(C)
理力 660(AAA)
筋力 210(A)
身軽さ 301(A)
賢さ 232(B)
手先 150(B)
運 540(AAA)
装備品 万能ナイフ(神造)
革の衣服(神造)
ブーツ(神造)
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数値もカッコ内も激しく変動している。
一体これはどういう事だ?
+ + + + + + +
結局その後もタイミングを見てステータスを確認したけれど、数値は変動しているのが分かるだけで原因などは判らなかった。
可能性と挙げられるのは自信喪失によってRPGで言う状態異常(恐慌とか呪いがかかった状態の様な)になっている事だろうか?
そう考えるとステータスのかなり高い数値の人達は自信に溢れているために現実以上の力を出せる状況にある。…………無理があると思う。
いくら考えても答えが出ないのならば、命の取り合いこそ禁じているわけではないけれど、勝敗に必ず必要と言うわけではないので審査に挑んでみることにした。一度やられてみれば解るだろう。
異世界人は闘技場の敷地から全く出ていないと執事妖精が言っていたし、いきなり遭遇なんて事もないだろう。
異世界人は陣取りや乱戦には参加しないと言う話を聞いているので腕試し、というか戦いその物の勘を取り戻すため今日の審査、上手く行けたとしたら開催される乱戦に出場する事もできるかもしれない。
受付を済ませると、少し離れた場所にある空き地に行くように言われる。行けば屋根のある運動場のような場所に、様々な屈強そうな連中がいる。中心に四つの棒で区切っただけのそれなりに広いリングがあり、そこで二人の男が戦っていた。
解析する。
ジーロル 乗人(人・犬)
体力 550(D)
魔力 22(-)
理力 90(D)
筋力 330(B)
身軽さ 150(D)
賢さ 800(AAA)
手先 222(B)
運 150(B)
装備品 鋼鉄のモーニングスター
ライトアーマー
ゲイト 獣人(虎)
体力 550(B)
魔力 152(-)
理力 90(C)
筋力 250(A)
身軽さ 321(C)
賢さ 125(D)
手先 58(F)
運150(B)
装備品 ハーフダガー
ハーフナイフ
硬革のアーマー
益々わからなくなる。しかも同じ数値なのにも関わらずカッコ内のアルファベットが違うと言う所もある。これでは参考にできない。
乗人(人に獣の尻尾や耳などの特徴が足された姿)の男は力に自信があるのか、分厚く隆起した筋肉にモーニングスターを両手持ちで戦っている。
相手の獣人(獣を人型にした姿)は二本の短い刃物と速さを武器としているようだった。鎧も鉄製ではなく硬い革で作った鎧で、動きやすさを求めているんだろう。
ジーロルが攻めて、ゲイトが躱す。と言う戦いが繰り広げられているがお互い攻め手にかけているようだった。
両手持ちのモーニングスターは棘付で地面に次々と穴を開けているが、ジーロルは振り下ろしてから振りかぶるまでの速さが段違いに早い。
避けてからダガーとナイフでゲイトが斬りかかろうとすると、既に構えていると言うほどの速さである。決め手に欠けた戦いは、その後ジーロルが疲れきるまで続いた。
体力の数値自体は互角だったので最小限の動きを心掛けていた様子のゲイトが息の上がったジーロルを降した。
お互い、何度も闘技場の審査か、本戦に出ているのか倒れたゲイトにジーロルは手を貸して立たせてやり、何やら話している。お互いの表情は戦いの時と違って敵意がないのでそう思った。
その後何回か審査を見たが、数値やアルファベットは似たり寄ったり、法則は未だに解らないが警備兵に比べると数値は似通っているんじゃないかと思われる。
そして、自分の名前が呼ばれた。
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ゼオ 体力 150(C)
魔力 521(AAA)
理力 0(-)
筋力 56(D)
身軽さ 301(AAA)
賢さ 999(EX)
手先 999(EX)
運 17(F)
装備品 ブラックグレイブ(名工)
ボウガン(自改造)
硬革の衣服
消音シューズ
防刃の護符
防矢の護符(名工)
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999!
しかも二つ!
………審査の中で一番の実力者ではなかろうか? 幸先が良い、自分の実力を確かめるためにも強者との戦いは勘を取り戻すのに丁度良いように思える。
比べて、運の低さにほっこりさせられるが、これだけの能力を持っているならそんな物誤差の範疇だろう。あの賢さと手先の器用さなら、そんな物誤差にすらならないかもしれない。ステータスにEXの文字があるのを初めて見た。
もしかしたらAAAの次はexになるのではないだろうか? SとかGとかがない事を祈るばかりである。あったら尚更数値化の理屈が掴めなくなってしまう。
ゼオは、純粋な人間の様だ。似た姿を思い浮かべるなら寒国生まれの雪肌、長い手足、砂色の毛髪が特徴である。背丈は低く、体格は絞り込んでいるだろう。身軽さが数値通りなら、軽業師のように立ち回るのではないだろうか。
顔立ちは和国人に近いので、感情も読みやすい気がする。
黒一色の薙刀は、日本なら有名だが和国では存在こそあったが早々に廃れた武器である。突くよりも薙ぐ事を主眼に置いた武器は、一対一ならともかく戦争では味方を斬る位しかできないからだ。
同じく薙ぐ武器としては長巻の方が広まっている。(長巻とは刀の刀身を長い柄に取り付けた物で、和国の戦国武将は名工の刀をこうやって戦場に持ち込んでいた)
何が言いたいかと言うと、何をしてくるか全く想像できないのだ。
振り下ろす、薙ぎ払う、と言った攻撃位しか想像がつかない。魔物と対するような気持ちで、何をされるか想像もできないとしっかり自らに言い聞かせる。
能力の割に、歳は近い程だと思われる。
視線はまっすぐを見ているように見えるが、武術に言う『見の目弱く、観の目強く』の境地なのだろうか? 目で見るのではなく、周囲を感じるように少し焦点をぼかした視線、と言えば想像できるだろうか。
周囲の反応は彼が実力者であることを証明していた、と思う。
自分は既にロングソードに形を変えた万能ナイフを肩掛けに構える。侮っているわけでは勿論ない、これが今回の戦法なのだが、周囲や対戦相手はそう思わなかったらしい。
手をつく少し前まで前傾姿勢で重心を低く保つ。
三人の審査員の内、責任者らしい相手がこちらを見る。ごっこ遊びなら余所でやれと言われた気がしたが黙殺。
対戦相手ゼオは薙刀を地面に刺し、ボウガンを取り出した。
「はじめ!」
今までで一番気の抜けた開声だった。
それの方が良い!
一歩目、腰の後ろの矢筒に手を掛けるゼオ。
二歩目、日本で得た知識で日本人がオリンピック三段跳びで金メダルを取った大記録。それは、
三歩目、全速力の速度まで到達するまで必要な歩数、三歩である。対戦相手は矢を抜き終えた、
四歩目、既に自分は最大速度を出していた。
想定外なのか、目を見開き凝視するゼオ。観の目どころではないのか、初めて真っ直ぐこちらを見た気がした。
五歩目、肩掛けのロングソードを柄から突き出す様にする。グレイブにボウガンと、ゼオは相手に近寄られないように心掛けているように感じたからだ。高確率で魔法を速射すると踏んで、相手より先に攻撃を加えるのが目的である。
全速力で柄を打ち出すのは、ゼオの武器を見てから決めた事だ。
ステータスに劣る自分が相手に勝つには、神がかった幸運として一度ももらわず、攻め続ける必要がある。
だからこその必当離脱、和国の戦の作戦だ。
ゼオは矢を取り落とし、反射的に身を縮めて手を交差する。高ステータスなだけあり、相当自信があったのだろう。こちらが目立つとは言え実用性の無さそうなロングソードと革の服なのだから仕方がないだろう。
交差された手が突きだされる前に、自分は全力には程遠いただの突撃を敢行した。
ド!
六歩目、反射的に後傾姿勢を取るゼオに突撃。
柄尻が左手に当たったのだと思われる。
体重を落としきる前に、自分は進路を変更。魔法を撃つ気配がないのを察知して、反射的に離脱に切り替えていた。
場を区切るための棒にスライディングして棒を圧し折りながらもその場で止まると、すぐさまゼオを確認。
まずは奇襲に成功。
次は速度を警戒して魔法で速射をかけてくるか、広範囲に攻撃してくるか、またはグレイブの打ち下しを予想して左右か、上下の動きが来ることを想定して重心を気持ち高くして備える。
手応えはほとんどない。
もしかしたら後ろに跳んだ可能性もある。
踏込を自ら浅くしてしまったのも、これからは本気が来ると考え離脱に移るのが早すぎたと反省。
吹っ飛んだように見えるゼオは数度地面に跳ね、ずるずると大地を擦って止まる。
巧いやり方だ、手先の器用さが高いのも頷ける。脱力して自分から跳ねる、そして体を縦にして擦る事で距離を削る。
幸運にも、左手の手首の辺りを折る事に成功しているようだ。
ボウガンは両手がなければ装填出来ない。もしかしたら器用にやってのける事も出来るだろう数値であるが、両手より片手の方が装填に時間がかかるのは明確。
ボウガンで戦いを続けるのなら左右にフェイントを混ぜながら視線を見て、………。観の目で来られたらまずいな。
どうやら冷静さを欠いているようだ。
数瞬、呼吸を整える事に専念。
ゼオはまだ動かない。賢さが高いから、これから自分を打ち倒す作戦を十は考えているのだろう。全く、強者の余裕と言う奴は感じる弱者にすれば溜まった物ではない。舌先に苦い味を覚える。
強敵、いや難敵との対面に身体が怯えているのが分かる。
こんな時、決まって自分のする事は脱力の時のクセ、両頬を持ち上げる事である。
肩と背中の筋肉のこわばりが抜ける。それを意識すれば、後は全身のこわばりに意識を向ける。
くそ、この時間はいつも恐ろしい。
強者の驕りの仮面が剥げた後は、いつもこちらが死に掛ける。
思えば、五百年前狂竜と呼ばれたドフニテルも、こちらを見ているようで見ていない視線で、ハエを払うように竜の息吹を放ってきていた物だ。本気を出したドフニテルは絶対強者と名高い竜種の力全てを持ち出し、山三つを蒸発させたのである。
神の鎧がなければ、三度自分は蒸発していたのだ。
あの独自スキルと化した『収束息吹』のアニメに出てくる科学兵器のような前触れを感じた時も、こんな味が舌先にあったのだ。
早く立て。
焦れる。冷静さを取り戻したつもりでも、強者の余裕って奴はこれだから困る。
立ち上がるのに合わせて斬りかかるか?
いや、魔法の予兆が五感で感じられるのならそれも良いが、相手は魔法も使える。
自分には魔法の前兆を感じる能力は無いのだ。先走るのは良くない。
ゼオはまだ立つ様子もない。うつ伏せのままぴくりともしない。賢さに物を言わせてどれだけ手酷い作戦を立てているのだ。
拳を数度握っては開きを繰り返し、手汗を実感する。こんなことをしているのはやはり冷静ではないからだろう。
「勝負あり!」
…………なんだと?
ありがとうございました。
明日は二回の投稿を予定しております、一回分を分割しているわけではありませんのでご安心ください。(三回になりました)