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チート+チート もう一度英雄  作者: 加糖雪広
第三話 異獣+子供
74/99

美形土下座+危篤

8/10(1/2)

+ + +


 ホーグの、と言うか美形の土下座には半端じゃない威力がある。

 毛筋も揺れぬ見事な姿勢は感嘆すべきだけれど、その土下座が自分に向いている事に非常に気まずい思いをしていた。


「………どうしたの?」


 突っ込むところなのか?

 それとも笑う所だったのか?

 声を出すまでに少しかかったのはそう言う思考の時間だった。

 ホーグの自分への対応からしてどちらでもないような気がして、出てきた言葉は個性のかけらもない感じになってしまっている。声も余裕がない感じになっている有様だった。

 風呂に入っている状況で振り返ればドゲザって言うのは、なんだろう。時代劇でもそうそう見る事のないシチュエーションだろう。時代劇の入浴シーンは基本的に女性か、悪役くらいの物だった気がする。女性ではないので残りの一つで、自分は悪役なのだろう。(大抵入浴中に誅殺される役割の人ね)


「ヒロ様が戦っておられたと言うのに不甲斐なくもその場にいる事が出来ませんでした!」


 そう言う土下座らしい。


「ホーグも戦ってたんだろう? 海で大変みたいだったじゃないか」


 そう返しても、ホーグは一筋も揺れない。

 なんて強固なドゲザだ。

 自分なんかに頭を下げる理由にしては、非常に弱い理由に感じるのだけれど、ホーグにとってはそうではない様だ。


「ホーグ、もういい頭を上げてくれ」


 見ればローブもだいぶ傷んでいるようだった。刺繍の部分も解れたりしているし、ホーグの方も大変だったのだろうと窺える。

 それでも動く様子のないホーグ。

 こういう時、経験からどういうのが求められているのかは解るのだけれど、自分は貴族とか皇族とか、そういった類のコウキなカタガタとか言うのが非常に苦手だし、関わりになりたくないと思っているので、行動するのに非常に嫌な気持ちになる。

 でもホーグを動かすにはこうするしかない、と納得した振りをして、頭の動きを停止して、


「ホーグ、頭を下げろと言った覚えはないぞ?」

「はっ!」

「戦闘御苦労、次に備えて休め。間に合わなかった失敗は次で雪げ」

「ははっ!」


 …………


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ああいい湯だ。


おん?


「うん?」


 耐久値が低いから販売されないような細い毛で作られたタオルのような感触が頬を拭う。見ればエニスの尻尾が揺らめいていた。

 相変わらず感触が良い。


 こんな感触のタオルがあっても、それで身体を洗っても汚れも垢も落ちないだろうなあ。

 ………と言う訳で自分は今の言動などをなかった事にした。



+ + + + + + +



「うんん?」


 どういう事だ?

 ここはどこだ?

 あの後自分は眠りについたはずだ。

 テントの中で眠りについたはずなのに、どうして今自分は空の下寝転がっているのか???


『ヒロ!』


 目覚めるのを待っていたかのように、ナイの声が頭に響く。


「うんん?」


 起き上がるとここは見た事もない場所の様だった。

 周りには植物が繁茂しているが、………森、と言うよりは林、と言った方が良いような場所と言えば良いか……。


「ナイ、自分はどうなってるんだ?」

『ヒロは今、魔力枯渇からくる危篤状態なノ!』

「魔力枯渇?」


 まさか。


 そんな。


 糞野郎の私刑の後、ステータスを確認したアルファベッド表記は魔力C位だったはず。それが枯渇するなんてありえない。自分は魔法を使っていないのだから。


「ここは一体どこなんだ?」


 自分の恰好を見下ろして、今が普通ではないと言う事を理解した。周囲を見回すと、見覚えのある植物が繁茂している様だ。見た事もない場所だと思っていたが、多分、忘れていた場所だろう。

 頭の奥に意識を集中する。

 気分的にこうした方が頭の中が整理できる気がしたからだ。

 立ち上がり、周囲を見る。

 『茉』の巨木や『沙菜』、ホブやシ草。


「ここは自分の【自世界】かな、ナイ?」

『そうなノ!』

「取りあえずそっち行くよ」



+ + +



 【自世界】で目覚めた場所は、自分の和国で住んでいた家からだいぶ離れた位置にある修練場、そこから更に奥まった場所にある自分の休憩場所だった。とは言っても、自分の【自世界】に作られたもう存在しない場所だ。それを思い出すたびに切ない気持ちが、周囲を見回すたびに全身の熱が下の方へ下がって行くような感じを覚える。

 和国の植物のシ草は虫除けで匂いを出すのだけれど、その匂いを嗅ぐだけで打ち身、打撲の症状を軽くすると信じられていた。ホブ、と言われる雑草は切傷に塗ると良い物で、細い葉っぱが根っこからたくさん伸びているやつだった。


 『茉』の巨木はいつも目印になっていて、修練の後ボロボロになった自分はあそこで良くぶっ倒れていたのが随分と昔のような気がする。


 魔力枯渇で身体がおかしくなった自分が、遠い思い出の場所を求めてしまったのかも知れない。または疲労感と言えばここ、と言う考えが染み付いているのだろうか。そう考えれば、今の状況はナイの言っている通り普通の状況ではない、と言う事を理解してしまう。


「でもなんで………」


 林を抜ける。

 記憶はおぼろげだけれど、それでも記憶の光景とはだいぶ違う様子だった。

 林を抜けた先には家へと続く一本道がうねうねと続いているが、田んぼや畑はなく、ご近所さんの家もなかった。

 もしかしたら、この先も変わるのかも知れないけれど、その光景は似ている分、余計に寂しく見えてしまった。

 均されていない辺りなので上り坂や下り坂が大小あり、一時間近く歩いてやっと今はない我が家が見える。

 そうするとたくさんの精霊さん達が自分の方へと向かって飛んできていた。

 精霊塗れになりながら更にニ十分ほど歩いてやっと自分の生家、の複製に辿り着いた。

 風景は曖昧なのに、このうねうねした一本道は記憶の通りだった。




『【自世界】が空っぽの状態を嫌がって、ヒロの魔力と理力を吸い上げているノ』

「そんな事おこるの?」


 コタツに入ってお茶を呑みながらナイの説明を受ける。返答はなく、焦った様子でナイが続ける。


『ヒロの理力は問題ないけれど、魔力の方は回復が追い付かないノ、このままじゃヒロは死んじゃうノ』

「う~ん。現実感がない。確かにちょっと疲れたような気がしたけど……」


 それにしても危篤って……。


『ヒロ』

「ナイが嘘を言ってるとは思わないけれど、現実感がないなあ。

 どれくらい動けないの?」

『ヒロ、落ち着いている場合じゃないノ! ヒロは人だから、魔力の回復は非常に緩やかなノ、このままだと二度と目覚める事も出来ずに死んでしまうノ』


 な、なんだってー!?





 困ったもんだ。

 ナイ達の話を聞くと、自分は酷く大きな勘違いを一つしていたことが分かった。

 魔力についてである。

 RPGなんかのイメージが根付いてしまっている、と言う事だ。

 触れた事があるRPGなんかだと、戦闘で消費した体力やMPは休息をとる事で回復する。

 どこかでそれがこの世界でも通用すると言うイメージを持ってしまっていた。

 だが普通に考えて、宿屋で休んで怪我が一泊で治るわけない。これと同じように、MP、自分にとっての魔力が一回眠った程度で回復する物、とは限らないだろう。

 ………と言う事だ。


『ヒロは、魔力の数値はともかくその回復能力、と言う点ではとっても低いノ。純粋な人のヒロは才能として魔力との相性が良くないせいもあるから、【自世界】が吸い上げる量に負けてしまいそうになっているノ』


 吸い上げる魔力に回復が追い付いていないと言う。

 これは危篤状態とは言え眠っている間に回復しないのかと聞いたら、一日寝て回復するのは微々たる量しかない、と言う返事だった。

 ゲームだと種族とか、性別とかそう言うの全く関係なく回復するが、ジルエニスの第一世界の常識として、女性の方が魔力との相性が良いそうな。さらに回復するまでの速度は種族などに関係し、純粋な人(素人(すっぴん)、と言うらしいが、それは非常に少ないそうな)は一番遅い方になると言う。


 魔力と言うのは、悲しい話を思い出してしまいそうになったが、現在ある魔力の量に比例して回復するようになっているらしい。つまり、少なくなればなるほど回復量がそれに合わせて量が少なくなる性質があると言うのだ。(思い出しかけたのは現代日本でのお金の話である。お金は寂しがりでたくさんある所に集まる性質があるとかそんな話)


「あれ、危篤状態と言うかもう詰んでる?」

『そんな事させないよ!』

『魔力を回復する方法さえあれば良いんだよ!』


 五百年前の第一世界での経験で、魔法に対する憧れがあった。

 それでも冷静に、もっとちゃんと調べてから使うべきだった。……五百年前の周囲の面々の関係で、魔法とは気軽に奇跡を起こせる手軽な物みたいな勘違いをしてしまっていた。考えていなかった。

 無知のツケである。闘技場都市でもっと慎重に、………いや、魔法をはじめて使えてテンションが上がっていた自分の事を思い出すと絶対に色々やったような気がする。無知であろうと絶対に慎重にならずに気軽にやっていただろう。


「ステータスの検索じゃあ、調べたい事しか調べられないからなあ。もっと基本的な部分を調べたりしなきゃいけないよなあ」


 次があれば気を付けよう。


「どうすれば良いのかな?」


 自分に言ってみる。

 考える。

 ここから身体をどうにかできないだろうか?

 いや、出来ないって言ってたな。


「ナイ、何か良い手ないかな?」

『ヒロ、落ち着きすぎなノ』

「実感が薄いせいだと思う」


 危篤状態と言われても、実感がない。


 危篤状態になる人はみんなこんな気持ちなんだろうか? だとしたら寂しいな。


「ここからエニスやホーグに伝えて、って言うのは?」

『現理法の『念話』なんかがあれば良いけれど』

『ヒロの現理法は今の時点で『念動力』、『聴取』、『透視』、『洗脳』。魔法は『強化魔法』に『召喚魔法』が二つ』

『あと特殊能力が『ステータス確認』・『影箱』・『解析*数値化』。【自世界】じゃヒロから行動を起こしてヒロの身体をどうにかしたり、エニスやホーグに助けを求めると言う手は使えないよ』

「【残映剣】みたいな、複合スキルでそう言うのない?」

『複合スキルの中には、確かにそう言う使い方が出来るものはあると思うノ。でもヒロが【自世界】から行動を起こす事が出来る物は………』

「ここじゃステータスも見れないし、検索ともきかないしな……」


 あれ、詰んでるよねコレ?





「仕方ない、死ぬしかないか」




お読みいただきありがとうございました。

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