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チート+チート もう一度英雄  作者: 加糖雪広
第三話 異獣+子供
73/99

ホーグ+土下座

8/9(2/2)

+ + +



 その頃のホーグ。


「祝福の重ね掛け。魔力、理力、霊力は当然として、神力も含まれているようですね」



 ―――「神界」。



 出来たばかりの空の場所には大自然が生み出されていた。雲の大地(・・・・)には土が生まれ、植物がわんさか育っていた。とても二日や三日で出来た場所とは思えない程の規模である。

 雲の上に出来た豊かな世界。そこには大自然と、その世界を管理する神の一柱が存在している。

 ホーグは数日に及ぶ戦いの末、再びこの場所に戻ってきていた。

 本来ならばその前に主の元に戻るべきだと考えて当然だったのだが、それ以外に一つ思う所がありここにやってきているのである。

 ホーグは見事に育った稲から取られたハクマイを眺めると満足そうに言う。

 横には象のような大きさの岩があり、そこに童女が腰掛けている。その膝にはまだ生まれたばかりだろう小さな生き物たちが穏やかな寝息を立てている。


「精霊が色々調えるのを手伝ってくれたからね。思惑以上に良い物が作れたと思うよ」


 そう語る童女の瞳には、幼さのかけらもない。

 深い知識を持つ賢人が語るような言葉、そして音色だった。


「その動物たちも食材なのか?」

「まさか。食材を得るためには食材以外の生き物や植物の存在だって必要だろう?

 この子達が生きていくだけで、この神界はもっと豊かで実りある場所に変わっていくだろう」

「神界と言いつつ、この場所には神が少ないな。食材の神だけしかいないのでは、単なる庭園となってしまう」

「どんな神が過ごすにも適した場所だろうけれどね。ただ、神が居心地良い場所と言うのは意外と他の者が過ごしづらい場所であることが多いけれど」

「精霊や動物たちがいるのなら、そうでもないのだろう?」

「どちらかと言うと、全体的な意味で居心地のいい場所を作るためにこの子達や食材以外のこんな岩なんかも集めているのさ。まあ、私がしているのではなく、精霊達の中でも取り分け思考と行動がしっかりしている者達が、だけれど」


 猫の子供が寝惚けて転がり出したので、落ちないように戻してやりながら童女は答える。


「人にだけ居心地のいい場所では動物や植物は居辛い。植物に居心地のいい場所は人には居辛い。全体的に居心地のいい場所と言うのは秤を幾つも備えた天秤を傾かないようにするようなやり方が必要なのさ。あなたにもわかるだろう?」


 そう言うと、ハクマイを持つ話し相手を見る。

 まるで、幽鬼のように活力を持たない姿だった。数日前に見た姿とは大違いの、深く疲れた姿でもあった。疲れた、と言うより憑かれている、だろうか?

 『食材の神』はその能力に特化しすぎているため、それ以外に対する能力は生き物とそう変わらない。これが『食材』に関わるのならば鋭敏な感覚、と言うか神が持つ一種の本質を()る力が発現されるが、今は全力を振るった後でその『神知覚』も鈍い状況で、その話し相手を調べることはできなかった。

 面白い相手だから興味はあったが、神でもできることとそれ以外の事がある。食材の神は力を秤に見立てれば一つの部分が落ちるほどの重みを受け止め、反対側の受け皿には何も載っていない、と言う位に偏りがある。その話し相手もある意味でそう言う存在なのだろうと考える。


 ………ホーグと名付けられた存在は、酷く摩耗しているようである。


「なるほど、今なら解る」

「それを持って主の元へ行くと良い。それがどれだけ上等な供物となるのかは私は知らないが、主が喜ぶ事を願っているよ」

「私に何かあれば、これを定期的に主に届けてはもらえぬか?」

「ここを調えていく事を考えると、手が余るね。何かいい手を考えておくと良い」


 食材の神なりの激励だったが、今のホーグにはその言葉が文字通りにしか伝わらない様子だった。


「そうだな。では」


 幽鬼の様な足取りで、ホーグは去って行った。



+ + + + + + +



「兵士?」

「はい」


 レナリは『まるで現実の様な夢』、と言う物を何度も経験している。

 それは彼女ではない誰かの視点の、誰かを思う記憶。

 それを楽しみだと感じていた事もあるレナリからすると、夢を見ると言う事は彼女にとって娯楽に近い楽しみなのかもしれない。だから今回の夢が不思議に感じた事をヒロに話す事にする。

 今回見たそれは、今までの物に似ていながらも、だいぶ違う物だった。


「背中に翼、槍っていうと………」


 ヒロは風呂上りで血行の良くなった顔色をしかめ、考え込む様に顎に手を当てる。

 レナリに聞いた話を挙げると、

 翼を持つ兵士たちがいる国。

 昼まで突然空が黒く染まり始める。

 岩を積んだだけの物見台がいくつかある。


 ……………有翼人は空を飛ぶ生き物と人の乗人や獣人が集まる国を作っていた。

 どうしてそう集まって生きているのかと言うと、単純にそうしないと生きていけないからだった。有翼人は空を飛ぶ能力を持つが故に、身体その物は非常に軽い者が多い。骨に空洞がある鳥がいるように、有翼人の骨も空洞になっている事が多いらしい。


 脆い骨や軽い身体で他の種族と生きていくにはこの世界は危険が多いため、自然と同じ『翼』と言う特徴を持つ者達が集まり、翼が無ければたどり着けないような標高の高い場所、険しい場所に国を作ったのが有翼人の国の始まりだと聞いた事がヒロにはあった。


 ニリの記憶があるレナリが竜人、なんてちょっと考えさせられてしまう話だが、竜人や虎人、獅人など力の強い乗人や獣人からすれば、有翼人は組み易い相手となる。


 個々の戦闘能力では後れを取ってしまう彼らでも、その飛行能力は有用だ。有翼人は空を飛ぶ事が出来るので遠距離の移動に強いため、手紙の運搬や兵士として哨戒任務を任せれば非常に有用であるため尚更目の敵にされたと言う事もあったのかもしれない。よく標的にされていたらしい。


 翼を持つ乗人や獣人を有翼人と言うのならば、竜人も一応有翼人と言えるのだけれど(個体によっては翼を持つに至る者もいるため)、竜人はレナリを見ればわかる通り、自分の考えでは乗人・獣人の中の王者とも呼ぶべき潜在能力を持っている。体力や筋力を見ても、有翼人の持つ弱点を彼女は持っていない。翼の生えない個体もいるらしいが、ジルエニスの第一世界に限れば、翼を持つ=空を飛ぶ事ができる、とは限らないのも問題だが。


 …もちろんレナリがここまでの事を知っているとは考えにくい。


 闘奴候補として育てられていたレナリは、周囲から爬虫類(蛇やトカゲなど)の乗人と思われていた。翼だってないのだし、これからだって生えるとは限らない。だからレナリにその事を教える相手はいなかった。


 五百年前に滅んでしまった国で、いくらレナリにニリの記憶があるとは言っても、彼女は王女だった。末端の兵士の一人一人の事まで詳しいとは考えにくかった。有翼人の国の規模は険しい高所にあったにもかかわらず小さなものではなかったからだ。


 ニリだったら半分くらいなら顔見知り、位の関係であったかもしれないけれど。

 その中でもニリが特別に仲の良かった相手の事だったのだろうか?

 ヒロはその辺りの事をニリから聞いていた事はないのでそれは違うと思えた。


「その夢は途中で途切れていたんだろう?」

「はい」


 レナリにとって、夢は大事な物となった。

 夢で見た人と今共にいる事がそうしている。だから何か不思議な夢と言うのはそのままにしておくのは嫌だと彼女は感じていた。


「でもな」


 何か思い当った所があるのか、ヒロは少し考えを続ける。


「一応、様子見かな? それとも調べてみるか?」

「いえ、急ぐことではないと思うんです。ただ」

 一度口を閉じた後に、


「ヒロさんが出てきた夢とは違う、気持ちが流れ込んでくる気がして」

「気持ち、…それはどんな?」

「ヒロさんが出てくる夢は、とても暖かい気持ちでした。でもその夢は何か焦りの様な、居ても立ってもいられない様な、そんな感じがしたのです」

「それの続きを見るかどうかも分からないから、見た時に続きだな」

「はい」



+ + +



 ふう………。


 レナリが眠ったようなので、エニスともう一度お風呂に入る。

 エニスが作るお風呂は地面を掘って水を張り(水は川から念動力で運んだ)、温める(これも念動力)のだけれど、お湯の温度がなかなか下がらない特徴があるらしい。特に何もしていないのに、二度目に入ると言うのに心地良い温かさは変わらなかった。これはエニスの作ったお風呂だからだろうか?

 土を掘った後エニスが加工(?)しているので、日本で入っていたようなお風呂に近い感触なのが好ましい。

 レナリと入る時は全裸にはなれないので、何となくお風呂に入った気がしないのでもう一度はいるのだけれど、


「疲れてるのかな?」


 何だか妙に身体が重い気がしていた。

 重い、と言うより後ろの地面から引っ張られている、と言う感じだろうか?

 こんな有様でよくもまあ二週間も戦い続けるとか考えていた物だ。あれ? 十日間だったっけ?

 ディーケンの技とか、どうしてこう理屈とか無視しているとしか思えないのに『薙ぎ払う』ような惨事を引き起こしていたのだろうか? でもあの劣化している真似事でそこまで疲れているとも考えづらい。


 何度やっても彼女の様な技にはたどり着けないだろうと思う。回転の速さも、威力も桁違いに足りないのに、それが疲労に繋がるとは思えなかった。あれを十や二十使えばまた違うかもしれないけれど、自分の場合、あの程度の運動、と言える気がする。


おん!


 エニスが身体をずらして自分の背中の所に来た。寄りかかると暖かい感触に和む。


「ありがとうな」

おん!


 お湯の温度は自分の好みの熱さから比べると少し微温めだけれど、長風呂するにはちょうどいい。

 空は夜に言うのはそう聞かないけれど、良い天気で月と星の時間にしてはちょっと明るい位だった。…この感覚は、夜は暗くて当然、星はあまり見えないと言う日本の体験が思わせているのだろう。日本での生活は自分の中で基準であるはずの和国とは比べ物にならない物だったけれど、今の自分の感覚には確かにその辺りが残っているようだった。

 それとも、和国の夜空の良さを再確認しているのだろうか?

 和国で過ごしていた頃は家に電灯なんてなかったしなあ。

 電灯を初めて見たのは兵士になった後だったし。

 今考えると田舎者だったから、日本と和国では立場は平民と言う意味で変わらないのにあまりにも違う気がした。


 ・・・疲れているのだろうか?


 考えが妙に『前は良かったなあ』方面になっている。

 こういう時は大抵上手くいかないから、少し気持ちの整理をつけておかないとならない。


 ・・・ディーケンの事でこんなに疲れているのだろうか?


 いや、一応は気持ちの整理をつけているはずだ。

 整理をつけているのにこの手の話題でうじうじするのは男児の特権らしいけれど、今回は違うように感じる。身体の疲れに気持ちが引っ張られているんだろうか?

 どちらかと言うとそっちであってほしいな。

 身体を伸ばして内側の空気を入れ替えるつもりで深呼吸する。


「ヒロ様」

「うん?」


 唐突すぎた。

 マップを開いて確認する事をしなかった自分にも問題はあるのだろうけれど、音もなく、気配もなく、突然声がした。

 振り返って見ると、ホーグがジャパニーズドゲザの姿勢だった。

 なんでだ?


お読みいただきありがとうございました。

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