+惚れていた=
第二話後編最終話です。
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一時間も経たないうちに糞野郎は動き出す気力を失ってしまった。つまらない。
糞野郎は翼と全ての足を斬り落とされ、或いは力に物を言わせて捥いだ状態で転がっている。
回復を試みているので、その間に自分は目玉の情報を確認していた。
角がある蛇みたいな様子になっている糞野郎は途中から逃げる事だけに専念していたようだが、こちらはそれを許す事はなかった。
赦すつもりもない。
五百年前、先を急ぐ身でもなければ自分は同じか、当時の感情を思えばこの何十倍もこいつを攻めたてていただろう。さっさと殺して魔王をどうにかしないとならなかったから、今こいつが生きて自分の前にいるのは幸運でもあるのかも知れない。
多少疲れた気がするが、どちらかと言うとこれは笑い疲れである。
頬が痛かった。
自分の恨みをぶつけるにしても、自分の復讐を果たすつもりであっても。
これはディーケンの思惑とは全く関係のない事なのだ。
ディーケンの事が発端ではあるが、それはディーケンが悪いわけじゃない。悪いの全部自分だし、その行動にどんな物がくっついてきたとしても自分はそれをどうにかしないとならない。
復讐は何も生まない、なんて言うが復讐しなければ何も始まらない。………と言う事もある。
目玉の情報を集めながら、リョトニテルの身体と部品を持ち上げて地図上で何もない辺りに投げつける。大きな被害とならないように配慮したが、周りの土は捲れ植物が傷付いていた。
やっとその辺りまで配慮できるくらいに冷静に成れたのだろうか?
ジルエニスの世界を汚したり壊したりするのは自分にとって良くない事だ。この辺り、もう少し配慮してから頭がおかしくなれればいいのだけれど。
念動力の足場でそこに向かう。
虫の息、の振りを続けるリョトニテルを無視して情報を確認すると、面白い事が分かった。
実験するしかない位面白い事である。
目玉は未だリョトニテルの身体の各所にある。
自分はその一つを掴んで直接『暗気』を流し込んでみた。
「ぎ、ぎいいいいいいい!」
全身を鑢で擦られたような声が上がって調子に乗って続ける。
目玉は【自世界】に直接つながっているらしい。リョトニテルの【自世界】に満ちた『崩力』を直接攻撃しているのである。(物理的に繋がっているわけではない)
今まで魔獣の目玉を潰したこともあったが、大した効果はなかった。目玉の数が変わるのが目印みたいな物だったけれど、この事実をもっと早く知っていれば五百年前の仲間たちはもっと上手に戦えていただろう。
………。自分は出来なかっただろうな。
剣と鎧に助けられっぱなしで、仲間に迷惑しかかけていなかった気がする。
後始末をするから、その辺りは容赦してほしい。
「くるあぁ!」
イイイイイィィィィィィィィィィィィィィ…………ン
決死の覚悟なのか、収束息吹の前触れが起こる。
「言っとくがな」
その光が打ち出される瞬間まで自分は待ち、
「ドフニテルのでもなければ、そんなの線香花火みたいなもんだぞ?」
竜の息吹には魔力とも理力とも、もちろん『崩力』とも違う力が使われているらしい。
でも自分からすれば何度も喰らった攻撃の縮小版でしかない。
念動力を吹き出す光の中心に蓋のように設置。
口内から溢れる光で、その事に気付かないリョトニテルはその攻撃を自分で喰らった。
もちろんその間も自分は『暗気』を流す事を止めたりしない。
ラロースの場合と違い、【自世界】を生まれながらに持つリョトニテルは『魔物化』を段階的にしても、完全にしても身体への負担がないらしい。身体への負担がないのには竜の生まれ持った神の代行をするための能力もあっての事らしいけれど、それを思うとラロースは魔力だけを磨いて【自世界】に近い代わりを作り上げて対応していたようだ。
完璧ではなかったけれど、その魔法に対する求道者っぷりは正直尊敬に値する。是非力を磨いて復讐にやってきてほしい物だ。
リョトニテルの【自世界】の崩力をほとんどゼロに近づける事が出来た。
崩力は出来る限り滅ぼすべきと言う考えもあるが、この力もまた第一世界に存在する力なのでゼロにするのは忍びない。『魔物化』に繋がる『ひずみ』も神様が何とかしようとしているのだし、自分は自分のやりたい事をすることにする。
念動力で未だ回復を終えていないリョトニテルを放り投げ、自分は革の衣服を普段の物に、万能ナイフをロングソードの形にする。
「さて本番だ」
リョトニテルが絶望した顔をしたようだが、竜の顔色なんて窺えない。
五百年前の後始末なら、五百年前の自分に出来たことでケリを付けたいと自分は思っていた。
「早く治せよ、それとも始めて良いのか?」
逃げようとしているらしいが、マップにこいつの光点は絶対にはずさないように調整しておく。どうせなら逃げてくれても良いが、目の前にこいつがいるのだから逃げ出せるようには絶対にしない。
「な、なぜだ!」
それを悟ったらしく、竜は悲鳴を上げる。
切り替えの早い奴だ。さすが姑息千万。
「お前はこの世界を救うためにやって来たものだろう! この世界の住人を魔王から救うためにやってきていたのだろう? どうしてこの世界の柱の一つたる竜を滅ぼそうとする!」
「お前本当にその場しのぎな」
自分はロングソードを軽く振る。
足を使った剣技は結局体得できなかったけれど、たった今はディーケンの様な剣を使いたい。
足首と膝の感触を確かめ、数歩及ばない動きを再現する。
「園月、だったか?」
跳躍、開脚、そのまま体を横向きにしてコマのように回転。
「ひぃ!」
繋がったばかりの前足で防ごうとするが、蹴りで再び吹き飛んだ。
「うむ、全然及ばないな」
「ぎゃあああああ!」
着地と同時にロングソードを閃かせて舌を斬る。
ディーケンなら蹴り一つで上半身吹き飛ばす位したはずだ。
「よく聞けよ糞野郎」
聞いてなくとも変わらないが。
「お前が惨たらしく殺した人はな。自分が尊敬して心底惚れた人なんだぞ?」
あんな良い女性、人生のうち何度出会えるか。
和国では男女は差別する物ではなく区別するものと言う考え方があった。
どっちかと言うと女系家族? みたいな国だったので女性の発言権は男性の物よりも強い位だった。
和国撫子、みたいな言葉があったとしたらそれは人を導く度量がある事、一人でもどうにかできる実力がある事、強い事、あたりだろう。
ディーケンはまさにそう言う女性で、こんな人に出会えたことを自分は深く感謝していた。勿論当時の仲間たちみんなに同じ感情は抱いているが、それでもディーケンに思う感情はその一歩先だった。
惚れてたのだ。
人として、女性として。
「だから、あの人にあんな死に顔をさせたお前は殺しても許さない」
閃かせたロングソードを尻尾で防ぐリョトニテル。
「良いのか?」
リョトニテルが記憶を掘り起し表情を驚愕にうつす間に、自分は振った剣撃から斬撃波を見舞う。
後ろ、回り斬りつける。再び防ぐが、防いだ先から斬撃波。
横、斬る斬撃波。前、斬る斬撃波。後ろ横真後ろ横前後ろ横前。
一振りごとに、二つの攻撃。
この世界、堅い奴が多すぎる。
だから一つでも多く攻撃する型を自分は模索していた。
可能な最速で近付き、攻撃してもバフォルあたりだったら武器で受けてしまうだろう。だからこそ生み出した、防いでも終わらない連続攻撃。
「千咬陣」
繋がりかけた足を、千切れかけた尾を、何とか盾代わりに攻撃を受けるリョトニテルだが、残念ながらこの攻撃の辛さは防げば防ぐほど重くなる。
一度が二度に。
十が二十に。
五百が千に。
どんなに強固な鱗を持つ竜であろうと、千に届く程の攻撃に耐えられる様な物ではない。これ位しなきゃ技じゃ倒せない。
「ぎいいぃあややあああああ!」
足を落とし腹を裂き、胴を千切って首を落とす。
ディーケンと同じ数だけ分割した頭部が、こちらを見ている。
「二十倍には程遠いが、これで終わりにしておいてやるよ」
三歩で全速力。
頭部を真っ二つにする。
「閃光刃」
復讐は何も生まないとは言うけれど、あの時の自分はそれ以外残った物が無かった。
だから、反省も後悔もしていない。
自分の考えを果たす最適な仲間も既に戦いながら見つけてある。
足を一歩踏み出し、靴跡に魔力を注ぐ。
「餓鬼のみなさーんん!」
残りは美味しくこの方々に頂いてもらおう。
必要な魔力は本来かなりの物らしいのだけれど、自分と相性が良いのか五体位を招いたつもりが、三十体ほどやってきてくださった。
「汚い物ですから腹壊さないでくださいね?」
ぉぉぉぉおおおおおおおおお……………ん
命まで喰らう方々である。
屈強な顎、鋭い牙を持つこの世界の餓鬼の皆さんは胃袋を持たないので噛み砕くだけしかできない。その代わり見えざる物を修復不能になるまで砕いてくださるので今回最も自分の考えに沿う能力を持つ方々である。
三メートルの巨人たちは満たされない空腹を紛らわすために細かくなった肉に群がっていく。
その内の一際大きな餓鬼さんがこちらに一礼してくださる。
見た目は凄い怖いのに、とても紳士だった。
次回は登場人物の紹介になります。
ガッカリされないようご注意ください。
一話の時と同じように話を練ったり組み上げたりしている時の
事も書かれていますし、この先の事にも触れています。
話を読むときにそう言うネタバレがあるのが嫌だと思われる方は
読まれない方が良いと思います。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
現在三話作成中です。




