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チート+チート もう一度英雄  作者: 加糖雪広
第二話 過去+復讐
64/99

+『狂竜 ドフニテル』=

+ + + + + + +



 竜の長、ドフニテルは悩んでいた。

 まさか、竜の団結に亀裂が入る結果となるとは予測していなかったからだ。


 息子、リョトニテルは仲間と共に満足げだ。その場しのぎの事しか考えずにいる姿は、常に数歩先の未来を実際に見ている彼からすれば、とても弱々しく薄い物に感じられた。しかしドフニテルに備わった先を見通す目が及ばなかったのだから、ドフニテルは更に薄い物なのだろう。


 団結、などと言う言葉が今では相応しい物ではない。そんな事にすら気付かなかった。


 長い時が、こんなにも竜達を削る(・・)事になった事にドフニテルは想像もしていなかった。


「ここで提案がある」


 その独自の技術に目覚めた頃から無くならない二つ名を持つ、『狂竜ドフニテル』は仕方ないとばかりに口を開いた。


 ドフニテル独自の技術にはドフニテルにも知れない弱点があるらしい。

 それを見つけた息子は生まれてより、長命種でない自らを嘆き姑息な手ばかりを見つける才能を持っていた。


 その才能を自らのために使い、今回竜達の意見は真っ二つに割れているのだ。


 一方は、長であるドフニテルの考えに従い人々と協力し世界を救うために戦うと決めた者達。


 もう一方は人々は愚かである、数を減らすために魔族に協力して数を減らそうと言う者達だ。


 真っ二つ、とは言えないが血気盛んな若い竜や、人を見下しきっている者達はリョトニテルに協力し、竜達の意見が割れてしまったのは千年以上ぶりではなかろうか。


「我々は個として生きる竜だ。横の繋がりも、縦の繋がりも他の種族よりも薄いだろう。だから今回も、我々は個として望む道へと進むべきだろう。

 私は、魔族につく」


 雲海の広がる、竜達の憩いの場に戦慄が走った。


「長!」


 ドフニテルを敬愛する竜が眼を目一杯に開いて声を荒げる。


「我々は、個として生きる。そうだな?」


 ドフニテルと同じ『長命種』の竜が次の言葉を告げさせない。


 ドフニテルの考えを次に理解した、声を荒げた竜が、苦み走った表情で下がる。


「父上、望外の喜びとはこの事でしょう!」


 リョトニテルは一瞬絶句していたが、すぐさま取り繕った仕種で言う。


 バカなことを。


 ドフニテルは思う。


 息子は自由気ままに狩りをするくらいの気持ちでいるのだろう。


 しかし、世界に光が落ちた事に気付いている一部の者達からすれば、この先を見据えたドフニテルの言葉に、言葉に出来無い物を内に籠めたままでいるしかなかった。


 気付いた者達の中でも、より深くその事の本当の意味を知っているドフニテルだからこそ、こう述べるしかなかったのだ。


 竜はドフニテルが言ったように、他との繋がりが非常に希薄だ。つがいと子供位にしか情愛を抱かない。彼を敬愛する竜もいるが、それは異例である。…………そうなってしまった。


 しかしその中でも長となったドフニテルにはなさなければならない事がある。


 何度更正しようとしても聞かなかったが、たった一人の息子をむざむざ殺されるわけにもいかない。ドフニテル自らの命を持って、招かれた存在に許しを請う。ドフニテルは空を仰ぎ、虚飾の言葉を続ける息子の声を聴き流し、空の向こうにいると言うこの世界の本当の意味での神に願う。


 長命種の中でも最も数が多く、最強と名高い竜がこのような行動をとった場合、この空の向こうの神は竜と言う存在そのものをどうするだろうか。


 長命種としての力の剥奪ならばまだ良い、年々長命種の力を持たない竜が生まれてくるようになったのは竜が正しい役割を忘れかけているから仕方がない事だ。


 せめて。


 せめて。


 この空の向こうの存在に願う。

 愚かではあるが、たった一人の息子である。


 息子の命だけは救ってほしい。

 生きていれば、変わる機会はきっとある。


 愚かではあっても、無能ではない息子にお慈悲を。

 黄金と赤の鱗を持つ、山脈のような巨体の竜は、小さな息子の為に命を捨てる決断をした。そして竜と言う存在全てを存続させるために、魔族側についた振りをして人を助ける決断をした。


 世界を滅ぼす力を持つ魔王についていくと言う事は、竜を慕う動物たちや轟獣もまた人を襲うようになるだろう。


 その罪は命を持って。

 この浅い考えの罪はこの身全てを持って。


 空を覆う程に思われる鱗が変じた翼が動く。

 それだけで天変地異が起こりそうなほどの、大陸が吹き飛ばされても仕方がない程の物だった。それを意志の力で捻じ伏せ、ドフニテルは魔界へと旅立った。



+ + + + + + +



 ジルエニスは、『竜』と言う存在の全てを消す決断をしていた。


 竜には本来役割があると言うが、第一世界で時が経つ内にその役割を果たす力が小さくなっていくのを知っていたからだ。


 本来竜とは、それぞれに役割がある神と違い、自由な物だ。


 そしてその長い寿命と大きな力は、神に代わり世界を守るための物だった。


 魔王の力は、『崩力』。

 世界を滅ぼす力だ。


 竜は揃って魔物を滅ぼすために、ジルエニスが作った存在、なのかもしれない(もしかしたらジルエニスの代行の様な神様がいるのかも知れないし、『崩力』の存在を知る神様が作った可能性もある)。


 竜は長い時を生きるせいか、情が希薄と言うか全ての事に興味を示さない物が多い。つがいや子供には深い愛情を示すらしいが、場合によっては自分の命にすら愛着を持たないものもあるらしい。


 千年を超える寿命を持つ長命種として長い時を過ごし世代が交代していった。その中で在り様も変わり、人と魔王、それぞれの陣営に分かれた。ドフニテルは自らの命とその身全てを捧げる覚悟を持って、魔王につき、一人息子の為に命を差し出した。


 それを利用した、親の命を蔑ろにしたのがリョトニテル。ドフニテルの息子でありながら、自分が糞野郎としか呼べない奴である。


 家族を失った経験がある自分にとって、家族とは大事な物である。


 掛け替えのない物である。


 傍にいてくれる仲間もそうだ。


 仲間を無残に殺しやがったのもそう、実の親を戦いに嗾け、今もまだ生きている事もそう。


 自分はあの野郎を赦すわけにはいかないのだ。


 なまじ父親から多数の才能を受け継いだが為に、その場しのぎの行動が妙に上手くいくあいつは、地上の人々を生かすために敢えて魔王についた父親を使って、英雄達を殺させようと画策した。


「父が死ねば竜の沽券に関わる。竜としてそんな光景があるとは思えぬが、仮に父が死ぬ事があったのなら、父が死ぬと同時に我らの力を全て人にぶつけて見せよう」

 と言って、自分達に協力しようとしていた、それまで幾度か助けてくれていたドフニテルに戦わざるを得ない状況に追い込んだのだ。


 世界の崩壊を防ぎ、命の一つでも守らなくてはならないと考えていたドフニテルは、葛藤の末本気で自分達と戦う事になった。


 どう転んでも幸せの見つからない、最悪の未来が待っていると知りながら。





「卑怯者が………!」





 その場しのぎ(こそく)の上に卑怯。

 『姑息千万』なんて特殊能力を持っていたが、『卑怯千万』の方がずっとあいつにはお似合いだ。姑息はその場しのぎの意味なのでもっと低能な名前にしてやりたい。



――――笑ってくれ。私は竜でありながら、竜として生まれ持った役割より息子の命を優先した愚か者だ。



「ドフニテルはそう言って死んでいったんだぞ」


 エニスにレナリを任せ、自分は一人駆ける。

 念動力で足場を作り、見えない空の道をただ駆ける。

 仮に自分の頭の中にネジが付いているのなら、その大半を外してしまいたい。


 これ以上、正気でいたくなかった。

 あの野郎を、ぶっ■らしてやる。


 仲間の命、父親を犠牲にして生き永らえる外道。

 そして自らも死に掛けてすらいて、どうして静かに生きようとしていないのか。


 人を見下すならまだいい。


 同族嫌悪で多少違うが、レナリが檻の中にいた頃の事を想えば人は痛い目を見ても仕方がないと思ってしまう。自分もそう思う事がある。


 だがな。


 お前はやり過ぎだ。


 頭に血が上る感覚、渦巻く怒りが胸の辺りでぐるぐると駆け回っている感覚、吐き気を覚えつつ内圧を高める不快感。あまりに事に目の前がチカチカしていた。


 もう我武者羅に走っている。

 身体中が強張っている。


 マップでは小手先の技を使ってその場を離れて逃げようとしているそいつの光点が表示されている。


 それを他者が使えば、見事な手際とか思えるかもしれない。『魔物化』なんて第一世界の住人が使うなんてできないような技術を会得している事もあり、糞野郎(リョトニテル)は普通じゃない才能を持っている。相手をするのがバカらしくなるような収束息吹、意志の力を現実に及ぼさせる現理法を体系化される以前から使いこなしていた才能と技術。尽きる事のない魔力。


 それを授けただろう父親、狂竜ドフニテルはもういない。


 ドフニテルは命懸けで子供を救おうとした。


 だというのに、奴はそれを利用して失敗した。そのくせまだ続けるつもりなのだ。



「『念動力』」



 理力を身体の中で循環させる。

 理力は身体の中で一定以上の循環を行うに至ると、現実を曲げる力になる。


 それに反応するのは世界に満ちる様々な力だ。

 それが集まり、理力に似た性質を持つ力となり、自分の見えざる腕は作り上げられる。


 理力とは本来、肉体の中にしか存在しない。しかし、その誰にもある力である。


 その力を一定以上に高めると、肉体の外側、世界を操作する力となる。


 念動力の腕は、精確には理力でできているわけではなく、理力の性質に近い力になるまで色々な物が集まり形作った力だ。

 小窓の情報によると、この力は末端の力の中で霊力と並んで崩力との相性が悪い力らしい。


 しかし『明気』による最適化をすれば、この世界で最も自分好みの力となる。


「あいつは何処だ?」


 マップに表示はされていたが、自分の目には見る事が出来なかった。


 だから聞く。


 自分には見えざる存在の声を聴く事が出来る新しい契約があるから。


 ざわざわと鳴る植物の声が、風に紛れる精霊達の囁きが、遠方に雄大にある山の声が、自分に届く。


 現理法『聴取』は聖霊トルシーとの契約のおかげで今までの数倍有用な力となった。


 『明気』で最適化した『透視』を行い、


「あれか」


 先程(物理的に)絞り上げたはずなのに、既に四足で移動できるまでに回復していた糞野郎を視界に収めた瞬間。自分は外れてはいけない箍が外れた感触を覚えた。






「りょトニテルぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーー!」






百十一の拳(ねんどうりょく)を、矢継ぎ早で振り落した。



ありがとうございました。

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