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チート+チート もう一度英雄  作者: 加糖雪広
第二話 過去+復讐
63/99

+誇らしげ+不貞腐れ=家族

+ + + + + + +



 ふわり、空からたった今舞い降りた姿に、バフォルとラロースは思わず瞳を見開き硬直した。


 派手な光が出たわけではないし、何か予兆があったわけでもない。


 しかし、そこに顕現した存在は簡単に顕れて良い存在ではないと知っているからだ。


「申し訳ない。もっと早くここに来るべきだった。私がもっと早くそなたらと会う事が出来ていれば、こんな不幸を残しておくこともなかったのに」


 子供の姿である。

 小さな子供の姿である。


 赤銅色の髪は短く、まるで炎が形を作っているようだった。

 瞳は暗い中でも輝く様な、黄金色でバフォルと同じように反射板を備えているのかも知れない。


 服装は、子供の姿に似つかわしくない物で、轟獣の革で作られた軽鎧だった。


 手には小さなステッキ、白蝋のような質感の純白の物で、頭に宝石を磨いて作ったような握りがある。


 バフォルと良く似ている。この場合はバフォルが良く似ていると言った方が良いだろう。


 神威が霞のように漂い、幽玄、と呼ぶにふさわしい場所となる。


「英雄よ、世界を救った英雄よ。小さな幸せの為に尽力してくれた事、私がここに来るために道しるべを立ててくれたことを感謝する」


 自分は正座してその言葉を受けた。


 片膝ついた方が良いのかな?


「よい、そなたはもっと堂々としてくれなければ私の立場がない」


 幼い声なのに、話し方はしっかりしているし、動作も大人っぽい。


「私は『魔族の神』と呼ばれる。正確には『魔法の始祖』と言うべきではあるが」


 バフォルとラロースが土下座になった。





「私は神の中でも格が低い。本来ならば他の神と協力して当たるべきだったのだが、立場が低くてな。そなた等に授けるべき幸せを後回しにされてしまった。許せ」






+ + +



「ラロース、そなたの家族は無事だ。

 正しくは辛い思いは決してさせていない。

 そなたの母が火炙りされたのは魔族全体の為であったのでどうしようもなかったのだが、そなたの妹と同じように、肉体的に辛い思いをする前に精霊として私が迎え入れた。

 今では二人とも、そなたとそなたの父であるバフォルを待っているぞ」


 この世界には、八百万の神様がいる。


 だから、こんな人の為に注力してくれる神様だっているんだ。


 くそ、誇らしい。

 よく解らない気持になっていた。


 自分の事でもないのに、なんでこんなに嬉しいんだ?


「そしてバフォル、神の坐に至る前の私の血を継いでいるために、他の者よりも過酷な運命をお前に継がせてしまった。私も神に成る前一度は地上の英雄に打ち滅ぼされた経験があるので、そなたが体験した辛さはよく解る。『魔物化』しやすい流れの物であるために、そなたには言葉に出来ない苦労ばかり押し付けてしまった。許せ」


 ウィンドウの表示で解った。


 バフォルが二人目の子供を授かる許可を得るために旅をしていたのは、ならわしと言っていたが、魔族の神様と成られた方の血縁であり、『魔物化』しやすい彼の血筋を警戒する他の人々を説得させるための旅だったらしい。


「そして敵だったそんな者たちにも救いを求める英雄の願い、胸に響いた。

 神となってからここまで満たされた気持ちになるのは初めてだ。

 英雄よ、そなたはやはり選ばれた者なのだな」


 地面に頭を擦りつけて応じる。


 緩んだ顔なんて絶対見せられないからだ。


「神を家族として迎えるその度量、少しは魔族の民にも分けてもらいたい物だ。

 そなたの家族が私を気に入らない様子で見ているので英雄よ、面を上げては貰えぬか?」




 え、えにすううううう!




 眼だけで見ると不機嫌そうなエニスがそっぽ向いた。

 神様にケンカ売っちゃダメ!

 いやエニスも神様だけれど!


 エニスにそれと知らず気安く接したりぽんぽんして名前を付けた過去の自分をぶん殴ってやりたい!


「辻褄合わせのような手際になってしまったが、神に成って初めて私は満足している。

 だから英雄よ、神を助けたと言う偉業を、ただ今は誇ってもらえぬか?」


 神様にそこまで言われてしまえば、偉そうにするしかない。


 立ち上がり、軽く胸を張る。


「うむ」


 子供の外見の神様が満足そうに頷かれる。

 見ればバフォルも、ラロースも全身が震えていて。

 その震えが悲しさでないことが嬉しかった。


「五百年、長かったな」


 同格の相手に言うように、魔族の神様が自分を見て言う。

 自分はそんな長い時間は経ってないけれど、五百年前の失敗の一つを何とかできたので、神様に頷き返す。


 相変わらず自分の力じゃないけれど、でも今は嬉しかった。


「さ、一度は顔を見せに行くがいい」


 ステッキを振ると、別の場所へ行くための入り口が開かれた。


 その先は真っ白で見えないけれど、白と言う色が良い感じがする。


「この先は神霊界。精霊達が過ごすための場所だ。向こうで家族が待っているぞ」


 そんな場所があるんだ。


「興味があるなら共に行くか、英雄よ?

 そなたの知人もいるぞ」


「いえ、自分は目的のある旅をしています。知人に会いに行ったりすれば名残惜しくて先延ばしになってしまいますので」


「そうか、いつも何かの為に歩んでいるのだな」


 そう言うと、魔族の神様は手に持っていたステッキを両手で差し出す。


「生前の私が使っていた物だ。旅の役に立つだろう。少々灰汁の濃い物だが」


 すると万能ナイフが形を変え、ステッキにそっくりな形になった。


「ほう、そなたの相棒は神の道具を持つのを嫌がっているのだな?

 人と言い神と言い、そなたは人たらし、と言う物なのだな?」


 自分が何かを言う前に、神様は『門』を潜って行ってしまわれた。


〈ヒロ〉


「挨拶なんていいよ、それどころじゃないだろ?」


 色々言いたそうなバフォルを促す。

 これ以上泣いたら情けないから、とっとと行ってくれて良い。


 ラロースはまだ五つの瞳を持っていたが、血の涙は流れていなかった。


 胸の中心に手を合わせて乗せるのは、魔族の最敬礼だったはず。それをして、門を潜って行った。


 バフォルは涙でくしゃくしゃな、この世で最も素敵な笑顔を浮かべて手を振ってくれた。


 やめてくれ、こっちまでクる。

 こっちはまだ後始末があるんだ。

 泣いてる場合じゃない。


 バフォルが名残惜しそうにしている中、彼が潜った門がゆっくりと消えて行った。


 辛い思いをしていた家族が、向こうで幸せになっていてくれるのならそれでいい。それ以上は何も望めない。


 だから。


糞野郎(リョトニテル)………」


 汚塵の時よりも、頭に来ていた。

 マップにそいつの光点が表示されたのを見てから、自分は頭のネジを自分で抜いた。


 あの野郎は百回殺しても飽き足らない。

 雑巾絞りでも死なないなら、心臓も頭も真っ二つにしても死なないなら、欠片も残さずぶっ■らしてやる。


 後始末、とは少し違うが塵掃除くらいは自分がやろう。



また外道スイッチ入りました。


ありがとうございました。

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