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チート+チート もう一度英雄  作者: 加糖雪広
第二話 過去+復讐
62/99

+『召喚魔法(?)』=

+ + + + + + +



 自分の持つ万能ナイフも、革の衣服にも形を変える能力がある。


 万能ナイフはロングソードの形になったり、槍や銃の形になる。革の衣服は特撮モノに出てくる悪役幹部風にして闘技場のトーナメントで戦った。


 自分のブーツの靴裏は、独特の紋様を描いた滑り止めになっていた。


 ブーツもまた同じように形を変える事が出来る。

 そして『魔法』を使う上で非常に有用な能力をブーツは持っていた。


 ブーツを履いて残す足跡が、そのまま『魔法陣』として使える能力である。


 必要に応じて、靴裏の形を変える事で『魔法陣』を刻む。魔法の作法も、詠唱の知識も持たない自分のために用意された、特別な『魔法の杖』。それこそ管理神ジルエニスが授けてくれたブーツの役割だった。


 『魔法陣』に魔力を流す事で、神の模倣を行い、魔法を目に見える効果で発動させる。


 魔力の流し方にもやり方がある様なのだけれど、それも補助されている様だ。


 人生の大半を魔道の研究に費やしていたラロースに比べれば、失礼極まりない道具である気がする。


 材料から作り方まで何年もかけて作った大作料理が、お湯を入れて数分のインスタントラーメンと同じ味だったかのような簡単さで、『召喚魔法(2)』、見えざる物を招く魔法が発動した。



 スン、とした感じがした。



 鼻にだけ解る変化、と言えばいいのか。


 突然違う匂いが現れた様な感じだ。


 魔族が使う魔法と違い、自分が使った魔法には相克や干渉と言った考えが含まれていないのでゲームの様なエフェクトは何もなく成功した。


 招き寄せた相手は事情を知っているのか、半透明のその身を確認する事もなく瞼を深く閉じていた。


 轟獣や魔獣の革などで作られた下半身に重きを置いた鎧。


 魔獣の二本の角を組み合わせた車よりも大きな武器。


 溶けた赤銅の様な長髪。


 鷲の嘴のような特徴的な鼻。

 現れた時と同じように、何の見た目の変化もなく、ゆっくりと瞼を開く。


〈ひろ、と名乗っているのだな〉


「ああ、もう魔王はいないからね」


 涙が一筋ずつ、互いの頬を濡らした。

 言葉は軽い感じにできたけれど、お互い音は震えていて抑えられなかった。


〈強く、なったようだな〉

「身をもって体験しただろう? あれくらいさ」


〈すまんな、殆ど覚えていないんだ〉

「そっか」


 会話している。

 それだけで充分満足してしまい、胸が一杯になって頭まで空気が巡っていないような会話だった。


 くそ、こんな時もっと堂々とできる心を持ちたい。


〈あの時も、今回も弟子に迷惑ばかりかけて………。酷い師もいた物だ〉


 金色の、暗い中でも輝く瞳が真っ直ぐに自分を見た。


 自分はそれだけで涙がいくつもこぼれて、情けない顔になっているはずだ。


 くそ、笑え! 不恰好でも良いから、下手でいいから!


「そう、かな? 良い師匠だったよ」


〈そうか、なら師らしく、責任ある大人の振り位しなくちゃな〉


 一瞬だけ、バフォルの顔も歪んだ。


 でもやっぱりこの人は尊敬すべき人で、この世界で最初に自分に戦い方を仕込んでくれた人だ。すぐさま大人の顔に戻ると、情けない顔をしている自分から視線をラロースに向けた。


〈息子よ、私はお前に父親らしいことは何もしてやれなかった。自分の願いを叶えるために、妻との約束を果たすために、地上に出ていたせいで何年も父親の役割を後回しにしていた。〉


 ラロースはその姿に何を感じ、今思っているだろうか。

 涙で前が見えない。


 上質な刷毛の感触で目尻が拭われた。

 すぐ傍にエニスがいて、神々しい姿なのにとても慈愛に満ちた顔で自分を見ている。


 まるで出したは良いがどうすれば良いか分からない手のように、長い尻尾が揺れていた。


「エニス、ありがとう」


おん!


 一際強く、大きく聞こえるエニスの吠え声は、気にするなと言っている様だ。








〈ヒロを恨むのは確かに仕方のない事かもしれない。こんな人でなしでも父親だと思っていてくれた事を誇らしく思う。地上には百年近くいる間に、目的を忘れてしまう時があった。そんな父親の為に、時を越えてまで復讐を願った息子はこの上なく誇れるものだ。

 しかしラロース。ヒロを恨むのは間違いなのだ。

 ヒロは私を最後まで助けようとしていた。私は自分の『魔物化』を抑えきれず、越えてはならない一線を越えてしまってからはより多くの魔物の力を集める事に執着した。それが利用され、世界を滅ぼそうとする人格になり、力を増し『魔王』と呼ばれるまでになった。

 二人目の子供が、お前の妹が生まれた時私は自決しようとして出来なかった。私は弱かった。死のうとした瞬間、お前達の未来の姿を見たいと考えてしまった。その一瞬の隙を『魔王』は許さなかった。

 私は自決する事も出来ず、意志の力で何とか抑え込む事が出来ていた『魔王』の心に乗っ取られ、魔族を掌握し、世界のバランスを崩そうとする本物の化け物となってしまった。そんな相手にすら、ヒロは最後まで諦めず戦ってくれた。

 自らの命を懸け、死に物狂いで私を救おうとしてた。

 だからラロース、私と違い、魔法の先を見据える魔族の申し子よ。その力を解き放ち、自らが目指す先へと進め〉


 魔物の力、『崩力』を根こそぎ集めようとしていたのは、バフォルが二児の父だったからだろう。魔界にいる存在は、常に『ひずみ』と隣り合っていて、誰がいつ『魔物化』するとも知れない。父親だったバフォルは、二人の子供の未来の為にその力を集めてどうにかしようと決意したのだ。


 もちろん、妻の為、師の為、仲間の為でもあっただろう。


 しかしそこの中で最も大きい感情は、『父』としての感情だった。


 それが解る、暖かい言葉だった。


〈ラロース。『魔物化』を解け。

 そして探すのだ。自分の目指す場所へと続く道を〉


「バフォル。それは不可能と言う物だ」


 父を名指しした息子は、どんな心境からなのだろうか? それとも、魔族ではそうなのだろうか?


「私は見ていた、貴方の首が落ちる瞬間を。

 私は見ていた、妹と一緒に。

 『魔王』の家族であったが為に、その後の私達の人生は地獄だった。

 貴方は目的を果たし、満足に逝けたかもしれない。

 でもそれが私達の幸せとは限らない。

 『魔物化』の流れを私が使っている事に不思議に思っていないのですか?

 私を、私達を地獄に突き落としたこの忌むべき力を使っているのがどうしてだか解らないのですか?

 幸せな死に方を貴方は出来たかも知れない。



 でも母も、妹もそんな死に方はできなかった。

 迫害され、火炙りにされたんですよ母は!

 妹はまだ、自分の名前も書けないのに、あんな、あんなやり方で!



 時を越えてここに来るくらいでしか私は逃げられなかった!

 復讐位しなければ、他に何も道は残っていなかった!」


 ………。

 ウィンドウに表示される内容は、ラロースの言葉が真実であると伝えていた。


 そうならないように頼んだのに。地上の連中はカスばかりだったのか?

 違う。

 味方だ。

 バフォルの仲間だった魔族がそれをしたんだ。負けた怒りを、征服されていた鬱憤を、何かにぶつけるしかなかったのか?


 解析を続けろ。

 諦めるな自分。


 こんな結末、下らな過ぎる!


 バフォルはそれを知っていたのか、表情一つ変えない。


 どうすれば良い。


 自分が為した事がこんな事になるなんて、命懸けでこんな結果にしかならないなんて、五百年前の全部を否定されたような物じゃないか!


 こんな結末を知るために仲間たちと一緒に苦しい思いをしてきたわけじゃない。


 こんな気持ちになるために魔王と対峙した訳じゃない。


 確かに自分は魔王を事前に止める事が出来たかも知れない。

 『魔物化』が進みつつあるバフォルと、二人目のお子さんが生まれる前に会っている。それが失敗だったのか? それはない! 絶対にない!


 父親の気持ちなんてわからないけれど、息子の気持ちしかわからないけれど!


 生まれる子供を抱き上げたいと願った親の気持ちが間違っているなんて、絶対に認めない!


 そうだ、悪いのだとしたら自分だ。


 神よ、この世界におわす八百万の神々よ!

 自分の選択が間違っていたのなら、自分に罰を与えればいいだろう?


 なぜ幸せになろうとしている、微かな幸せ一つで満足しようと我慢している人から何もかも奪う! この人達が神を侮辱したのか? この人達が不都合な理由でもあるのか!!





『ヒロ!』





 ………。

 呼吸を繰り返し、感情の波を鎮めようとする。


 平時の呼吸を取り戻すだけで、頭の奥は無理にしても渦巻く物が少し落ち着いた気がした。


 ナイ。


 どうした?


 一度区切って、ナイ達精霊を刺激しないように努めた。


『大丈夫なノ、精霊皆が知っているノ』


 ウィンドウが一つ新たに開かれた。

 そこに乗っている情報は、ブーツのための魔法陣、そして何を呼び出すべきなのかを簡単に記している物だった。


 ありがとうナイ。


 おかげで何とかできそうだ。


「ラロース!」

 語気を弱くできない静かで、でも激しい気持ちが籠ってしまった言葉が出てしまった。


 くそ。


 血の涙を五つの瞳から溢すラロースに、自分が出来る事は本当は何一つない。


 今回も人の力だ。

 自分は静かに、極力冷静に成れるように努め、足を半歩にもならないだけ踏み込んだ。






「この世界は生者には優しいんだ」






 召喚。

 頼む。

 この家族を救う手立てになってくれ。


『大丈夫なノ。私達が手を貸すノ』


 優しい言葉に縋り付きそうになる。


 頼りすぎだ自分。



主人公が最後に使ったのはEXではありません。

特例召喚です。

そんな魔法は存在していません。


ありがとうございました。

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