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チート+チート もう一度英雄  作者: 加糖雪広
第二話 過去+復讐
53/99

+和国生まれ英雄育ち日本体験そして今。=

まとまってる部分は読まなくても問題ないです。

+ + + + + + +



 目が覚めた、と思ったら世界が灰色の色彩で染まっていて――――。


 そしてその光景が二度と見たくないと感じているものだと言う事に気付いて、胃の奥がぐるりと捻じれたような感覚が起きた。


 吐き出しそうになったので両手(・・)で口を押えながら蹲ると、自分の状況がおかしい事に気付いた。


「指が………」


 吐き気も忘れて両の掌を眺める。

 指が揃っている。鑢にかかってモザイクでもかけなければ正視に堪えないような有様だったはずなのに。頬や耳に触れて確かめても指は幻じゃないし、見えない顔の傷もなかった。もちろん痛みもない。血の臭いは結構鼻の奥に残る物だけれど、それすらもなかった。おかしい。


 見ると自分の恰好もおかしかった。


 いや、この場としてはおかしくないのだけれど………。


「まさかこれをまた目で見る事になるとはな」


 世界は灰色に染まっていて、現実感が乏しく感じるがそれですら胃の奥が未だに捻じれているような感覚があった。正視に堪えない度合いで言えば、この灰色の光景の方が自分にとっては数段、いや桁違いに上である。


 周囲の全てが停まっている。時間が止まっているのか、別に理由があるのかは解らないけれど、生涯初めて『絶望』した場所だったから、色がなくて現実味がないと思いつつも動悸が不規則になる感じがする。


 ここは、峰国の端、十日以上雪原を行軍した後に辿り着いた、『考えられない戦場』だった。


 自分は当時の装備、和国の兵士の恰好と装備で空から落ちる爆弾を見上げた場所に立っている。


「今ならこの状況でも生き延びる事も出来そうなくせに、未だにビビってるんだな」


 現理法『念動力』で爆弾をどうにかする事も出来るだろう。


 魔法の『強化魔法』で身体能力を強化して走り抜ける事も出来るだろう。


 いや、普通に装備を捨てて走れば当時の自分でもどうにかできたかもしれない。


 でも。


 それを見た瞬間、間に合わないと感じた。


 戦争に参加していながら(この場合は参加していたからなのか……)、空爆の恐ろしさを強く感じていた。生家はここに来た時には無くなっていて、家族も家も、飼っていた犬も牛も土地も分け隔てなく焦土と化していた。




 全てを滅ぼす爆弾。




 自分はそれを恐れ、次に自分がそれに消されるのではないかといつも怯えていたのだろう。


 そしてここで爆弾が落ちてくる様を見上げて絶望し、何をするわけでもなくただ爆弾が落ちてくるのを見上げるだけだった。


 ………。

 周囲を見回すと最小単位の部隊の面々がいる。


 真冬の雪原を越えた先への奇襲と言う頭のおかしな作戦を、頭のおかしな方法で実現させた和国(うち)の大将は、自分が知る限り最も頭のおかしい糞野郎だ。確かに大将の作戦は的確だし、成功率が高い。しかし雪中行軍で参加した兵のおそらく三割が既にいない状況だった。


 気温マイナス二十度と言われる中を、武装を調え物資も乏しい中でひたすら歩く。場合によっては戦走速度で走る中、凍傷で膝から下が落ちた者、酷い状況に耐えきれず逃げ出した者、単純に凍死した物の数は千を下らないのではないだろうか?



 そして今回は、…作戦は失敗だった。



 飛行機を使った観測も出来ないような吹雪の中を死ぬ気で踏破した山の先には、わざわざ疲弊している和国軍の兵士を待ち構える様に峰国の兵士が銃を持って待ち構えていた。


 一緒の部隊で生死を共にしていた中で最もウマが合った鳥羽は既に右足を撃たれている。銃を構えながらまだ戦意を衰えさせていない所は年下ながら尊敬に値するが、空の爆弾に気付いていない。

 糸目で働き者なので、朴訥(ぼくとつ)な印象を与える奴である。戦争が終わった先の未来をよく語り合った相手だ。出身は北方で、『手凍』と呼ばれる、日本で言えば北海道に当たる辺りの国と戦い生まれた辺りの一帯の土地を奪われたのを取り返し、自分と一緒に村を作るのが夢だった。


 猿渡は豪族出身で、野性味の溢れる『漢』だ。屈強な体格、豪放磊落な性格。男も女もいける口でなければ親友だっただろう。ヒデ・ゴッサムと良く似ている。

 雪中行軍で両手が凍傷で膨れ上がってしまっており、銃を使う事が出来ない中を負傷した午毫(うまわず)を抱えて後方に向かおうとしている。


 午毫は自分よりも頭二つほど背の高い女だが、良い女だった(美女、と言う訳ではない意味で)。槍を使わせたら自分はこいつの足元にも及ばない強さなのに、こいつの作る糧食は舌が踊るほどの物だった。

 肩を撃たれ顔が蒼白になっている。そのくせ眼だけはしっかり鳥羽を見ている。品のない奴だと思っていたけれども、やはり女性だったらしい。心配しているのがわかる、優しさが感じられた。


 何となく思っていたけれど、こいつは惚れてる顔に思える。朴訥な鳥羽と男勝りながら繊細な部分を数多く持つ午毫の二人ならとても暖かく素敵な家庭を築いていくだろう。


 部隊長の(ひつじ)()、武人らしく応戦しているが自分より後に爆弾に気付いたのだろう。驚愕に染まった表情をしている。ちょっとだけいい気味だ。

 眼帯が識別目標の糞野郎で、大将の血縁らしい。血縁の癖にこんな最前線にいるのだからきっと傍系か、悪さでもしたのだろう。無茶ばかり言う奴でいつも鳥羽と自分が割を食った。

 こいつのこんな表情が今見えるのなら、少しだけ報われる気がした。

 女であるが、午毫のケツばかり撫でる変色者だった。………偏食者かもしれない。


 若い()(びな)と病弱な(りん)(がわ)は、行軍の最中いなくなった。どっちも兵士に向かない(自分もそうだが)華奢な奴だったから仕方がないだろう(逃げたのか動けなくなったのか、二メートル先も解らないような状況では何もわからなかった)。


 そして自分を加えた七人が、和国陸軍七一七小隊の面々だった。(情報をごまかす為なので、実際にはここまでの部隊数があるわけではない。半分くらいだと思う。)


 鳥羽と午毫には生き残っていてもらいたい。


 猿渡は………まあ生きてても良い。(部分的にダメになって欲しい所もあるが。)


 羊茂は重傷になっていてもらいたいと思うが、生き残っていても良いだろう。


 尾雛、鱗川。無事でいてくれ。





 ………。





 全員に生きていてもらいたいと思うのか、自分は。



+ + + 



 灰色の世界は触れる物の感触は曖昧で、触れることはできるが掴む事が出来ないと言う複雑な物だった。


 鳥羽と午毫の怪我に埋まった銃弾位抜いてやりたかったし、できるのなら、これが現実と何の関係もない場所だとしても小隊の連中を爆弾の影響のない場所に運んでやりたかった。


 しかしここは自分の意思が反映されるのか、それが出来ない。運ぼうとすると触れられなくなったりするし、引き摺ろうとすると途端に腕が空を切る。


 羊茂の眼帯を外して遊んでやろうか………。掴めない。


 自分は背中の荷物をおろし、何となく支給品のネジ式で繋げる中折れ槍を引き抜く。


 自分の銃は行軍の途中寒さのせいか、品質が悪かったのか銃身に亀裂が入ったので捨てていた。


 ここは現実ではないだろう。


 記憶もしっかりしている。


 怪我もない。


 しかし服装は兵士のくすんだ緑の兵士服。


 昔懐かしい仲間たちの顔はどこも間違いはない。………様に思える。


 少し自信がなかった。


 日本で得た知識と合わせた想像なのだけれど、一度でも人を殺した人間は脳の作りに変化が起きるらしい。戦争に参加した人間にも、近い変化があると言うので、(自分はこれを『働きアリ化』と考えていた)何らかの事情か、意味がある事なのだろう。

 そうなると感じ方や物の考え方などにも重大かそれ以下の変化が起きるらしい。自分の場合は記憶の混乱、意識の途絶があった。後狩りをしてウサギやイノシシを獲る位の気分で人間殺しへの抵抗が無くなっていた(そうなるまでは長くかかったけれど)。戦争による精神障害とでも言えばいいのか。日本では和国にいた頃の記憶は全くなかったので調べたわけではないが、進化が止まったと言う人間は、何を持ってそう言うのか不思議に思う所ではないだろうか。

 進化には退化が反対の意味の言葉かもしれないが、意味で言えば停滞が反対の意味になる言葉ではないかと自分は考えている。




 ………語ると長くなりすぎるのでやめておこう。




 自分は頭がおかしい、それで充分だと思った。

 頭がおかしいから、命を預け合った仲間の顔を見てもそれが作りものなのかどうかの自信がないのだ。



 そうなのだ。



 自分は頭がおかしいのだ。

 おかしい頭なのでうっかり忘れていた。


「バカか…………、『ステータス確認』」


 口に出して言葉にしてみる。


 時計、地図、自分の能力が眼前に表示された。


「この能力って、ジルエニスの第一世界以外でも使えるのかな?」


 誰かに連れられてきた精神世界(みたいな場所)の中、なんて話だとどうしようもないけれど、『ステータス確認』は何の問題もなく使えた。『影箱』を『解析*数値化』して調べようとしたら、こちらは使えなかった。


 使えないのはどちらだ?


 『影箱』の中に手を入れようとしてみるが、出来ない。


 雪原の中目につく物を片っ端から調べようとしても『解析*数値化』は発動しなかった。


 どうやら両方が使えないらしい。


 ステータスを確認できたのはどういう事だろうか?


 確認してみる。


 自分のステータスは、アルファベット表記されている物は最後に見た数値と同じようである。装備品は今の服装を表示していて、特殊能力や魔法、現理法は『ステータス確認』以外が灰色表記になっている。一つだけ現理法『聴取(ex)』が長い間隔で白になったり灰色になったりを繰り返していたけれども、これでは役に立たないだろう。


 二つに分かれている槍の部品を繋いでおく。ネジで填め込む形なのでその分耐久値は低いけれど、和国兵士の基本兵装の一つである。質の悪い鉄を長年の努力と蓄積した記録から作り上げた和国からすれば秘蔵の武器であるが、銃や爆弾が戦争に出てくるようになった今ではあまり役に立たない代物だろう。


 未だにこれが基本兵装として支給されるのは、和国が銃の性能に置いて遅れている事と(銃の設計や威力はあっても、素材の質が悪い。)、物資の不足、あとは兵士の心の均衡を保つための物ではないかと思う。


 今一つどういう状況か判らない自分でも、武器が一つあるだけで落ち着いたからだ。


 小隊の仲間達をこのままにしていく事に多少不満があるが、自分の身も守れない今の有様ではどうしようもない。触れる事も出来ないし、『念動力』も使えないのでは為す術がない。


 自分は何か手がかりがないかと周囲を調べる事にした。



+ + +



「良い武器使ってるな」


 歩き回るうちにいくつか不思議に思う事もあったけれど、和国人としての意識が強くなっているのか、今自分は敵側、峰国人が潜む辺りで装備を見て驚いていた。


 装備が和国人と比べると一段上、もっときちんと調べれば二段、三段と上なのではないかと思われた。


 和国人は技術においては世球(日本で言う地球の事。和国ではこう呼んでいた)でも屈指と名乗っていたけれど、物資に置いては非常に立場が悪い。日本でなら海底から天然ガスをとるなんて話をニュースで見た事もあったけれど、この世界ではまだそれほどの技術力は育っていない。


 宇宙(これも和国では違う呼び方をしている。()(ずな)である。)に出た、なんて話が真実か捏造か語り合う人達がいるくらいの世界だからだ。ガソリンが一リットル五万円位の和国である。世界の歴史として考えても、日本で言えば第一次世界大戦ほどの世界として考えてもらえれば良いだろう。言うまでもないけれど差異はたくさんあって、並べていくのが大変なので割愛する。


 戦争しているので輸入や輸出も厳しい制限が掛かっているし、仲の良い灯国は『手凍』が間にあるおかげで物資のやりとりも支障が出ている。戦争が始まる前では友好的だったと言われる慈国は峰国に壊滅的打撃を受けている、なんて話もある位だ。和国は今、非常に拙い状況に置かれていた。


 峰国人の武器は作りこそ和国人の作る銃よりも甘い物だと思われるが、兵士一人に二挺(猟銃に近い物と拳銃)持たされている時点で国力の違いが窺える。寒冷地用装備も暖かそうで羨ましい限りである。


 和国は負ける。


 当時は負けるなんて考えもしなかったけれど、復讐してやるなんて息巻いていたけれど、雪原に潜む峰国人の数や装備を見るとそう感じてしまった。


 もう、関わりになれるとは思えない世界の話なのに、そう考えると少しだけ目と鼻の奥に来る物があった。


 瞼を閉じ、少しだけ何も考えないようにする。眉間と上唇の辺りに力が入ってしまうが、それも今は一旦忘れる。


 再び瞼を開いてみて、全身に籠った力を抜くように努める。


 空を見上げると、飛行機から鳥の糞みたいに気軽に、いくつもの爆弾が落とされている所だった。


 『絶望』した場所から離れたここから見上げると、その数はかなりの物である事がわかる。


 先程は走れば逃げられるかもと思っていたが、これでは助かり様がないように感じた。


 あの場所にいる、小隊の仲間たちも勿論、雪中行軍で疲れ切っている和国兵達は全滅だろう。


 飛行機の数も、そこから吐き出される爆弾の数も、作戦を事前に知られているとしか思えない驚きの布陣だ。頭がおかしいうちの大将も、普通なら絶対にしないような無茶な作戦ばかり選んでいたが、今回は読まれてしまった様である。


 認めよう。


 和国は勝てない。


 和国は滅びる。


 峰国に負ける。


 口惜しいけれど、家を吹き飛ばした憎い的だけれど、家族を殺した許せない相手だけれど、認めよう。



 ………そのくせしばらくここから動けなかった。






ありがとうございました。

この後も名前がいっぱい出て来ますが、取りあえず覚える必要はありません。

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