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チート+チート もう一度英雄  作者: 加糖雪広
第二話 過去+復讐
52/99

+本気?=

出来上がったので更新、長らくお待たせいたしました。

寝る前に見たいと伺ったのでしばらくこの時間に投稿いたします。



「おいおい、何バカなこと言ってやがる」




 くっそ、しゃべりづれえ。

 『崩気』の影響だったのか、砂嵐が自分では防げない事を理解した瞬間焦った焦った。


 ラロースの目玉は全部こっちを向いている。仮面で隠していたのはこう言う理由だったのか。明滅していたマップの表示は、『魔物化』を引き上げた時のものだったらしい。


 特徴的な鷲鼻、五つの瞳。親にそっくりである。前に会った時とは明らかに違う印象を受ける。


 『魔物化』を段階的にしているのか、強さ、と言っていいのかそれが増しているように感じた。負担のかかる物なのだろう、強くなっている印象があるがそれに比べて身体の方はだいぶ弱っているように見える。


 受け身をとる時の要領で足の力を使って立ち上がる。手は痛いから使いたくなかった。


 尻餅ついているレナリも立たせてやりたいけれど、今自分の両手は親指以外無くなってしまっている。咄嗟に念動力を両手で盾にしながらだったからなのか、革の衣服に守られていないからなのかは解らないけれど、酷い有様である。こんな手を差し出されても困るだろうから今は放置。親指だって辛うじて残っているだけであってプラプラしている。


 血も噴出しているし、革の衣服を変形させて脇の下を圧迫して出血を抑えているけれどこの分だと動いていれば十分は保たないだろう。


 ロングソードに変化させた万能ナイフもこの有様では掴めない。


「ってあ」

 足で蹴りあげて口で柄をキャッチ。


 ちょうどいい具合に唇も裂けていたので、深く噛む事が出来た。

 万能ナイフも意図を汲み取ってくれたのか、口にくわえて使うのに適した形に変化したようだ。マウスピースの様な食感(?)が出来た。


 そう言えば、今念動力使えば簡単に拾えた気がする………。失敗してたら恰好がつかない所だった。


「さて、どうする?」


 両目に血が入りそうだったので念動力で血を拭う。顔も傷だらけだし、左唇の端から頬の途中まで完全に切れていた。左耳の聞こえも悪いけど、血が入ったのは耳がないからなのか痛すぎて解らない。念動力は自分の今の状態に影響されているのか少し鈍い手応えだが、腕の血管を圧迫して止血にも当てる。


 革の衣服のおかげか、全身擦られたみたいな痛みはあったが内出血か骨に罅が入っている位だろう。顔と手に比べれば十分軽傷だ。噴き出す血で池が出来そうな勢いで、止血は思ったよりうまくいかない。崩気の影響だろうか、やっぱり『念動力』がいつもより弱い気がした、でも石灰みたいにはなっていない。手応えは鈍いままで、止血ももしかしたら効果がないかもしれない、無いよりかはましだろうか………まあいい。


 ひどい有様なのは変わらないけれど。






 でも生きている。






 生きていれば充分だ。


「何を馬鹿なことを言っているんだ?

 その怪我で勝てると思っているのか?」


 ラロースの声が言っている様だ。

 そう言ってるように聞こえた。


「ふぁ、ほはへふぁがが? ひにふぁふふぁへりゃへがしへほほとひゃりゅひへひゃいびほ?」


 ………何とかならんか万能ナイフ。

「は、お前バカか? 死にたくなければやるしかないだろうが?」


 刀身が震えて自分の声を再現してくれた。これは振動で作っているのか、万能ナイフが何か特別な(震えて再現してるにしても特別だけれど)能力を使っているのかは後で調べよう。

 しかし万能すぎるな………。


「お前、自分が五百年前どれだけの敵と戦ってきたと思ってるんだ?」


 五百年前以外にも、自分は原代和国で兵士だったんだぞ?

 原代和国は『神風の起こらない日本』の様な歴史を辿っていた。


 本身を使った実戦訓練では槍で腹を突かれた事だってある。

 抜けば血が間欠泉みたいに噴き出すから医者が来るまでの間、確か半時位その場で蹲っていたことがある。意識を失えば二度と目が覚めないような気がして、腹の熱さなのか痛さなのか分からない物と戦っていた。


 そもそも、日本海と呼ばれる海がなく、大陸の端っこにあったのが和国だったおかげで、戦争ばかりしていた。日本ではアイヌと呼ばれていた人が住んでいた所も、琉球王国と呼ばれていた辺りも和国と戦争してて自分が知る間ずっと敵である。そんな中で生きていて、怪我の一つで狼狽えるような生き方はしていない。


 銃弾を浴びた事だってあるし、不意打ちで指を落とされた事もある。その後上手く繋がったが、左手の小指、薬指、中指は付け根に縫合痕が残っている。


 兵士の後も五百年前の第一世界では、剣と鎧が凄いだけの一般人であることが敵側に知られてからの寝こみを襲う敵の多さと言ったら蟻か蜂位の数だったと言える。


 五体満足でいられるのは、この世界の魔法や神官儀式と言う神様の力を借りる物があったおかげであり、和国の考えで言ったらとっくに四・五回自分は死んでいる。まあ二回くらい死んだけど。

 運良く生き返れた。


 その度に仲間に過保護にされた記憶がよぎって思わず口元が緩む。

 傷が開いて痛かった。


「この世界は生者に優しいだろう?

 殺したって終わりじゃないんだ。手間はかかるけど生き返るなんて難しい事じゃない世界だぜ?

 その世界で生まれ育ったお前が、この程度(・・・・)の怪我を負わせて勝ちだと思ってるなら余程温室育ちだったんだな」


 言う程余裕があるわけじゃないけれど。


 でもまだ動けない程じゃない。


 意識もある。


 自分の血の臭いが嫌になるが、気が遠くなる程の出血量じゃない。


「さて、来ないのか?」

 なら。

「こっちから行っても良いんだよな?」


「ああ、来る前に終わる」

 全身に付着していたテルトアボーンの粉末が傷口で暴れ出したようだ。


 一定を越えた痛みって言うのは、

「熱いだけだぞ?」

 痛みで足止めしようとか考えているのならそれは失敗だ。


 この程度で足を止めるような奴が、英雄なんて呼ばれ方するわけがない。

 仰々しい呼び名だが、仰々しく呼ばれるような理由があるのだ。


 誰もしたことが無い事を達成した、


 前人未到の事を果たした。


 『英雄』なんて呼ばれ名に興味はないけれど、そう呼ばれるだけの事を五百年前の自分達はしているのだ。


 死に掛け、二度(だったか?)死に、仲間を失い、傷だらけになっても果たしたことがある。


 死んだし殺したし、血の海で頭がおかしくりそうなほど剣を振り続けた事だってある。足の踏み場には常に他人の死体か、身体の中に入っている内容物があり、みんなが無事で切り抜けられる状況なんて数えるほどもなかった。


 『魔法』が存在する世界の争いは、科学が発展していなくとも日本に落ちた原子力爆弾のような威力を平気で、それも簡単に生み出す。魔法には事細かな条件やルールがあるらしいけれど、喰らってる方からすれば気軽いとしか思えないものだった。


 このラロースと言う魔族。温室育ちなのか、争いごとを知らないのか、一定以上の強者と戦ったことが無いからなのかは知らないが、この程度で勝ちだと思えるのならこの世界を舐めすぎだ。


 全力、には程遠いが自分が出せるギリギリの速度で近付き、ラロースの膝を蹴り砕いた。蹴った膝が真円を描き、一回転したところで、横に折れた膝をさらに上から踏み抜きながら、逃げる事が出来ない状況を作る。


「魔王ならもっとえげつねえ事して来たぞ、三十点だな」


 互いの熱すら感じ取れる位置でマグマを吹き出させて互いを灼く。


 周囲の空気を全て毒に変えてから首を落としに来る。


 勝ったと思った相手にすら、鎧の加護を暴走させて絶対の勝利を得ようとする。


 魔王はそれくらい平気でやって来たし、それでも勝てなかったと言う事をこいつは理解していない。


 『魔物化』した存在には一つ明確な弱点がある。

 『魔物化』した存在は感覚が鋭くなる。

 直感と言われる物もそうだし、痛覚もそうだ。

 痛みで気絶されないように踏み抜いた足を捻じりながら金的の上、臍の下を残りの足で踏み抜く。


「あ?」


 痛みがまだ届いていないのか、それともあまりの状況に頭が追い付いていないのか知らないが、『崩気』に手が出ていないのか『防御魔法』の守護もない今、千載一遇の好機だ。


 自分は倒れこみながら万能ナイフが変じたロングソードを串刺しにした。


 みぞおち辺りを狙ったつもりだったが、刺さったのは腹の辺り、でも上手く地面にまで刀身が滑り込んだ。


 痛みが強すぎて現状がどうなっているのかわからない。一応覚悟して両手で起き上がりロングソードの柄尻を全力で踏みつけ、釘打ちにする。


「『念動力』」


 膝が砕けているので結んで(・・・)立ち上がる事が出来ないようにする。


「う、ぅぅぅ………」


 何が起こったのかやっと気付いたようだったが、昆虫標本の出来上がりである。


「があああああああああああああああああああああああああああああぎいい!」


 最後に悲鳴が変わったのは結んだ膝をもう一度踏み抜いたからだ。

 顔と両手の熱さが和らぐ。


 どうやら粉末の使役に問題があるほどの状況になったらしい。


 魔王は痛覚すら鋭敏になった時、自分もろともマグマを使って攻撃してきた。


 本来の得物、一際強い魔獣の角を合わせた、車よりもでかい武器を振り回しながら、鋭くなった痛みに堪えながら、それでも一歩も退く事はなかった。


 足が使えない位で、足が折れた位で心が折れるような相手ではなかった。


 確かに『魔物化』した存在は桁違いに強くなるだろう。


 しかし、強くなる弊害も確かにある。


 感覚が鋭敏になる事で目の前に浮かぶ埃や塵が鬱陶しいらしいし、音の反響がいつまでも消えないと言っていた。


 それでも、魔王は強者だった。


 三週間、戦い続けた強敵だった。


 親の仇討ちをするつもりなら、親よりも強いだけでなく、親よりも強い覚悟がなければできないだろう。


 魔王は、人格も能力も記憶も感覚もおかしくなりながら、それでも自らの目的を果たしたって言うのに、こいつはただ自分の能力が強くなってこれならいけると勘違いしただけの相手である。親の爪の垢を煎じて飲むと良い。この程度の強さなら、五百年前なら誰だってそうだったから。『魔物化』してその程度なら、諦めた方が良い。


「解析」


 『明気』で最適化した情報を確認。


 リョトニテルの『魔物化』の知識を見て理解したらしい。(凄い事だ)


 リョトニテルは『魔竜』となっても目玉が増えていないのは身体の中に数えきれないほどの目玉があるからだったけれど、五つも目がある『魔人』を見ると肩と背中の辺りぞぞぞとくるものがある。もしかしたらこの感じは血の気が引いてきているのだろうか? どっちか自分ではよく解らない。


 さて。

 心臓が喉奥にいるみたいにバクバクいっているが、体温はどんどん下がり始めていた。


 回復や治療の心得のある味方がいない。ホーグはまだ帰ってこないし、あっちも何らかの被害に遭っているのだろう。何となく、ホーグなら自分の回復が出来たり、何でもできてしまうイメージがあるけれど、ホーグがいてもダメな状況かも知れないな………。


 溢れて止まらない額の傷を服の袖で拭う。


 『崩気』は厄介だ。


 だと言うのに、自分は気軽に敵を無力化できた。


「エニス」


おん!


 都合良く敵が防御魔法を使っていなかったなんて希望的観測はしない。きっとこの頼れる家族が何とかしてくれたのだろう。


「後、頼んでも良いか?」


おん!


 自分は少し離れた位置で腰が抜けたように座り込む。

 意識は(まだ)はっきりしているが、身体の方は限界が近い気がする。手の傷口に砂とか入ったらいやだな、とか考えた後に、武器の粉末が多量に入っているからこそさっき熱かったのだと気付いた。もうどうにでもなれ。


 久々にしてやられてしまった。


 自分もまだまだ甘いと言わざるを得ない。


 ロングソードを落とすと、珍しく勝手に万能ナイフに戻った。特に考えていなかったけれど、こいつも非常に優秀な相棒である。


「ありがとな」


 柄尻の宝石が瞬いた気がした。


 どうやら今回、エニスと万能ナイフがどうにかしてくれたらしい。いつもと違う状況だからか、万能ナイフが自分に声をかけてくれたような気がした。


 『崩気』は先程名付けたばかりの物だが、エニスと万能ナイフには関係ないのだろう。さすがである。


 レナリはまだ座り込んでいるが、エニスがいれば一先ずは大丈夫だろう。


 ホーグも、戦いは得意じゃないとか言っていたけれどレナリに教えている所を見れば謙遜だと言う事位わかる。


 相変わらず、自分は恵まれている。


 まあ、本当に恵まれているならこんな状況にならずに済ませてほしいとか見えざる何かに思わなくもないけれど、死んでないんだから文句を言うべきじゃない。


 眠気が『死』の呼び声ではなく、単純に失血から意識を保てなくなったサインだと思われるので自分は瞼を閉じた。全身の感覚を確かめて、これなら問題ないだろうと傷の様子を感じる。


 ………一日位ならまだ死なずに済む。


 念動力で傷口に繋がる血管を圧迫して出血を抑えるように努める内に(自分の問題なのか、弱まっていた効果は戻っていた。)、どうやら自分は意識を手放していたようだ。




 ………………あれ、自分いつ万能ナイフをラロースから抜いたんだろう?



いつもありがとうございます。

二話後編開始です。

ほとんど終わったような気配がしますが、二話が終わるまで毎日更新の予定です。

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