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チート+チート もう一度英雄  作者: 加糖雪広
第二話 過去+復讐
51/99

+バフォル=

二話前編最終話です。

+ + +



 ラロースは彼女の疑いの通り、武術は不得手だった。


 父は魔法が苦手だったし、母も家事が苦手だったことを考えると、家系的に不器用なのだろう。


 父が死ぬまでは、ラロースは魔法の『先』を求めて日々研鑽を続ける研究者だった。求道者、と言っても良い。


 魔法とは、何らかの『神の模倣』によって起こる現象であり、その現象に必要なのが魔力である。しかし、神は魔力を使っているのかと考えると、それは違うのではないかと考えるのがラロースだった。


 神の動き、神の言葉、神の戯れ、そんな曖昧とした物を模倣するだけで、何らかの魔法が発動してしまう。それはおかしなことだと、ラロースは感じている。


 そしてそこには、神ならざる何かの恣意が絡んでいるのではないかと、研究を続けていた。魔界は魔法こそ発展しているが、神や精霊と言った見えざる存在があまり寄り付かない場所である。その為研究は捗らなかったが、そのおかげで一つ分かった事があった。


 それは肉の身体を持つ物と、それ以外の存在、精霊や霊魂と言った存在は似たような力を使う事が出来るが、それは違う力から発生した現象と言う事である。


 理法でも、魔法でもない力を使う精霊達にとって、魔界とは居心地の悪い世界であるらしい。


 これは、神にも言える事ではないのだろうか?


 魔界は不規則な世界だ。


 太陽の神と月の神が朝と夜をもたらすはずが、度々それを疎かにしてしまうので、一年夜が続く事もあった。一週間朝のままだった事もあった。


 それは神の怠惰と言う意見が一般的だったが、それ以外にも何かがあるのではないかと思っているのである。


 幼い頃より、魔法は得意だった。魔族にはなぜか理法の使い手は少ないので検証はまだできていないが、これらの力を突き詰める先に、見た事もない何かがあるのではないかと。


 そんな事を研究し続けていた。


 その一環として、『使役魔法』の簡略化を行っている。


 レナリは効率が悪いと白けた魔法だが、実はこの魔法には一切のラロースの魔力は使用されていない。この世界の魔法とは、自らの魔力と、それ以外の魔力を混ぜ合わせて発動する物の事であり、ヒロはそれを行うために視界にフィルターを掛ける方法をとっていたが、ラロースは外側に存在する魔力のみを調整して魔法を使っているのだ。


 それは、体系化されれば非常に有意義な研究である。


 魔力の大きさには種族が強く関係しているらしく、長命種の魔法と魔族の使う魔法では雲泥の差がある。そして魔族の魔法と人族の魔法も同じくらいの差がある。


 照明光を生み出す魔法を同じ方法(かみのもほう)で生み出した場合、明るさや効果時間に明確な違いが現れる。それは、魔力の違いももちろんある筈だが、それ以外にも理由があるのではないかと研究し続けた成果の一つがこの使役魔法である。


 ラロースが使う使役魔法は、外側に存在する力だけを使った物だが、現段階ではそれ以上の調整は成功していない。


 つまり、何とか無機物を飛鳥の様に使役する事こそできるが、この生物らしい動きや砕けた後も変わらず飛び回る破片には、一切の手が加わっていないのだ。何の手も加えていないにも拘らず、飛鳥の如く敵を追い詰め、破片となった今もそれを続けているのはどういった力が作用しているのか、ラロースには説明がつかないのだ。


 その『先』にある物。

 ラロースはかつてそれを求めていた。



+ + +



 レナリは胸元に手を置き、次に腰回りや二の腕を掴んだりしている。


 迫る破片の攻撃を躱しながらなので、その姿は流麗な舞の様に見えるが、彼女の心情は別の問題だった。


(凹んでいる!?)


 どんなに汗を流してもあれ以上にならなかった腰が見事にくびれている。


 家系を紐解いてもどうして自分だけがと誰にも知られる事なく嘆いていた胸が、小さくなっている。


 有翼人にとって、細身の体型と言うのはそれだけで金以上の価値のある事だった。


 空を飛ぶ彼女達有翼人にとって、身体の軽さはステータスの一つだ。


 だと言うのに、レナリはそれに喜べないでいた。


 何故か解らない、何故か解らないが無性に悲しい。


 胸の大きさを気にしていつも厚着をしていた。


 少しでも重くなることを気にして、いつも重厚な服に身を包み隠していたはず。


 だと言うのに、胸の奥が痛い。涙がこぼれないのに、目の奥の奥が重く、熱く感じる。


 最初は自分に起きた異変を感じるために身体を触っていたのだが、それどころではなくなってしまった。


 命の危機もあるこの状況で、別の意味での危機をレナリは感じているのだ。


 身体が重いのに、理想的な体型へと近づいている事に不思議は今感じていなかった。


(なぜ!?)


 食事は常に腹八分以下を心掛け、鍛錬を欠かしたことはない。こっそりと手首や足首に装飾品を付けるフリをして重さで運動になる様に数を増やしたはず。


 見れば着たこともないごくごく普通の、市井の人達が着るような服装、有翼人の女性必須の胸帯もなく、宝石を付けた装飾品もない。


 せめてもの抵抗として短めにしていた髪も妙に長くなっている。


 ………色がおかしい。


 レナリの髪は眩い翠だった。


 紅玉の様な一筋があるが、そこは問題ではない。


 そして初めて、彼女は自分の背中にあるべき物が無い事に気付いた。


 国で最も美しいと持て囃された、純白の翼。手入れを欠かしたことない最も大事な身体の一部が、彼女にはなかった。


 一つ気付けば簡単だった。


 金の糸のように細く綺麗な色の髪だったはずなのに。


 腰の高さはここまで高くなかったはずなのに。


 幼少より使い込んだ手は傷だらけだったはずなのに。


 胸はこんなに小さくなかったはずなのに。


 全てが違う。

 これは、ニリの物ではない。


 ニリは、こんな身体ではない。


 こんな身体では、振り向いてもらえない。



 誰に?






 ダレニ?





 閃くように、思い起こされる二つの光景。

 一つは彼が消えゆくところ、

 もう一つは眠るとき彼に抱き締めてもらったところ。


 そうか。


 そう言う事か。


 二つの光景を体験した人物が一人ではないと言う事をニリの記憶を持ったレナリは自然と受け入れた。


 それからは早かった。


 『有翼結界』をその場で追記し、つむじ風を調整する。


 後述詠唱は非常に難易度の高い魔法の技であったが、有翼人にとって風を扱う魔法は翼を使うのと同じくらい身近な物であれば出来ない事ではなかった。


 向き、強さを調整し、背中を後押しする追い風を生み出しながら、重心を高く(・・)した構えから走り出す。


 翼がないので風の力に思ったほど乗れなかったが、破片を躱しながらでも充分な初速を得た。


 思い描く最速。


 彼は三歩で最高の速さに乗った。


 二つの記憶に共通する甘い部分が、自然と彼女の選択をそれに近づくための物にした。


 ラロースは手印と文言で詠唱とし、こちらも追記を行って『防御魔法』を強化。


 石突の刺突と、防御魔法が生み出した見えない壁が音もなくぶつかった。


 にやり。



 見えない様に口元を笑みの形にしたレナリ、

 仮面の奥で同じく口元を緩めたラロース。



 同時だった。


 ラロースの武器は破片となった今でも変わらず使役され、レナリを付け狙う。


 ラロースが確信と、疑問を覚えたのは同時だった。


 石突の刺突がそのまま突き出されていれば、何も攻撃することなく終わっていたのだ。



「『風刃』!」



 駆け出しからの動作を魔法の詠唱とし、レナリは亜型魔法を行使。


 レナリの突きは『防御魔法』の性質を探るための攻撃だった。


 見えない壁を生み出した魔法が、どういった壁なのか本来ならば目に見えずわからない。しかし、突いた際、音もしなかった。


 ならば、見えない物理的な壁を造りだしたわけではないと言う事がわかる。


 そして彼女は魔法に詳しい。


 本来は魔法を習った経験もないが、たった今で言えば彼女はレナリであって、ニリである。


 前世の記憶にある有翼人の王女は非常に優秀な能力を持っており、その中に魔法も含まれている。


 『有翼結界』など、亜型魔法などは神の模倣以外の要素も含まれる。それは使用者個人の性質や核司などの事情が挟まれるからだ。そしてその手の、追記されたり、亜型と呼ばれるまでに変化した魔法は、ゼロにすると言うのが普通の魔法よりも難しくなる。


 レナリが今唱えた魔法は、そう言った魔法の元となった魔力そのものを拭き散らす、体感できない『風』を周囲にばら撒く魔法である。


 『防御魔法』を象っていた不可視の魔力が、その『風』によって吹き散らされた。


 石突が閃く。


 彼女が学んだ槍の使い方は、防御・牽制が主である。そして、穂先を守りながらここぞと言う時に使える状況を作る事だった。


 有翼人の優秀な知識と経験、竜人の持つ説明のつかない力。


 その一つが一瞬とは言え融合した、非常に高度な戦術である。


 振り上げた槍が破片を蹴散らし、その動きを止める事無くラロースに振り抜かれた。




+ + +



 拳よりも小さい程だったが、テルトアボーンと呼ばれる武器の破片がいくつか彼女の背中を打った。


 飛鳥の如き速さではあるが、その破片一つ一つの重みも見た目とは違いかなりの物らしい。


 しかしレナリは痛みで表情を変える事無く、破片を叩き落とす。


 『使役魔法』の方も亜型なのか、複雑な詠唱が含まれているのかラロースの頭をかち割った今も終わる様子はない。


 数こそ多いが、エニスとの訓練を経て強くなったレナリはこの破片たちに焦ることなく、自らの性能を確かめながら対処する余裕があった。


 ホーグに習った基本的な構えは、この身体によく合っている様だ。


 有翼人の身体だとどうしても軽いために、一般的な構えでは打ち合えば競り負けてしまう。しかし、地面を掴む足腰の力が強く、柔軟な筋肉が下半身の力を無意識に利用して動く事が出来るので気軽に槍を振るうだけで破片が砂埃に変わるほどだ。


 檻の中で過ごして来た訓練も知らない身体でこれ程ならば、この先どれだけ動けるようになるのか計り知れない。


 そうなれば、以前よりも横に並ぶ事が出来る。


 そうなれば、もっと近くに行く事が出来る。


 二つの心が、そう感じて笑った。


「核司か風か何かだったか……。警戒すべきだった」


 致命傷の、必死に至る手応えがあった。

 頭蓋を叩き割り、仮面ごと頭を破壊した手応えと、飛び散った物を確認していた。


 レナリは最後の一つの破片を粉砕しながら、声に向かって穂先の刺突を繰り出す。


「武術に長けている者はこれだから困る。ある一定の高みを超えると途端に頭の回転が速くなるのだから」


 刺突は『防御魔法』に遮られた。


「魔法を教えられたのを確認しなかったが、………まあ竜の特徴を持つならばそれ位はありうるか」


 既に立ち上がっていたラロースは、それぞれ違う動きをしている五つの瞳がぐるりと動いてレナリを見る。


「魔王………」


 ニリの記憶がレナリの口を動かした。


「三眼族もいるが、さすがに五つもあると目立つと思っていたのだが………。



 一目でそうわかる物なのか?」



 腕を平手打ちにするように一振りするラロース。

 その顔には、額に一つ、本来の位置に二つ、その下にさらに二つの眼球を備えていた。


 『魔物化』した存在は総じて異形となるが、一番わかりやすい特徴が『目の数の増加』である。


 魔王も、そして魔獣も、目の数で判断するのが五百年前に見つけた法則だった。


 『魔物化』した人間。『魔人』の行動は単純だった。


 腕を一振りしただけ、しかしその行動は単純に平手打ちにする物ではなく、砂埃となって散った細かな破片を風に乗せて相手へとけしかける魔法へとした物である。


 細かな砂状となっている武器だったものは、その魔法によって砂嵐の様にレナリを包もうとした。







「『念動力』!」







 そこに別の存在が分け入れなければ――――。


 レナリを念動力で押しながら、ロングソードへと変じた万能ナイフを振ったヒロが突然眼前に現れる。しかし、それも眼球の一つは捉えていた。


「遅い」


 奇襲としては完璧だったかもしれない。


 相手がそれを見ていなければ。


 テルトアボーンだった砂は一つ一つが細かく、様々な形をしていて、それが相手を包む様に展開した風の中で舞い散れば、残酷な鑢となる。


 そしてその風には、『崩気』が含まれ、一度『明気』を生み出してから念動力での防御をしない限りヒロに防ぐ手立てはなかった。


 風がやみ、ヒロが倒れる。


 革の衣服もブーツも、万能ナイフも無傷である。


 しかし剥き出しの顔と手首は、刃物で滅多切りにされたような傷が刻まれていた。


「い、」

 額と頬に、ヒロの血液を受けたレナリは、絶望の表情でそれを見た。


 口から出ようとした言葉は、一体なんだったのか彼女にもわからない。


「しまった、これで終わってしまったら復讐にならない」


 ラロースはぐるぐると動く複数の眼球をヒロに向けると、


「ならば、仲間に同じ思いをしてもらおう」


 籠っていない声で、何かを込めた言葉を告げた。



+ + + + + + +





「もう少しだけ、待ってくれないか」



 血の涙を五筋流しながら、一人の男が言う。両手で顔を抑えながら言うのは、その情けなくも醜い姿を弟子とも言える彼に晒すのを嫌がったからだ。


「二人目の子供が、おそらく今週中に生まれる。せめてその子を抱いてやれれば、思い残す事はない」


 バカなことを言っていると分かっていた。

 『魔物化』した人間は、生き物の中でももっともおかしくなってしまう。そして最も強くもなってしまう。それこそ、世界を滅ぼすとさえ言われている。


 目の数が増え、時折意識を無くしてしまう事が増えてきた彼には、今週中に生まれる子供を抱いてやる事は絶対に出来ないと確信している。


 血の涙を流すたびに、自分から人間性が失われ始めていると、彼は感じていた。


 そして、心根の綺麗な弟子はこの申し出を断らないと言う事も、感じているのだ。


 別れてから半年以上経ち、その顔立ちに少しだけらしさ(・・・)を醸し出している弟子は、立派な鎧と剣に似つかわしい立派な男になっていた。


 数人の供を連れ、バフォルの元へとやって来た彼の瞳には隠しきれない物が渦巻いていた。同じく自分も、彼と同じだっただろう。


バフォル(・・・・)


「済まない、無理な話だった」


 魔物化すれば、人格も身体もおかしくなる。

 魔族にはそんな話が信じられていたが、これはそんな物ではない。


 まるで違う物になってしまう。


 バフォルは確信している。


 今死ななければ、後悔すると。


 しかし口は、表情はいう事を聞いていないように言葉を紡ぎ、心にもない言葉を吐かせる。


「『魔王』を滅ぼすために使わされたと言う今の話も真実だろう。

 俺は今こんな有様だ。完全に魔物化してしまえば、災厄を振りまくだけの物になってしまうだろうことも今なら納得できる。

 だが聞いてくれ、俺は二人目の子を得るために旅を続けてきた。

 魔族の俺の部族の流儀でお前たちは知らないかもしれないが、子供を得ると言うのはとてつもない試練なんだ。五つの儀式、七つの証明、神への謁見。長い旅で忘れかける事もあったがやっとそれを果たせたんだ!

 それを為すためだけに今まで旅を続け、お前に会う事も出来た。頼む『■■■(・・・)』あと五日、いや三日で良い。

 俺に二人目の子供を抱く機会を与えてくれ!」


「分かったよバフォル、顔を上げてくれ」


 弟子と言うが、もっと正しい呼び名があった。


 あまりに気恥ずかしいのと、そう思い始めたら留まる事無く気に入ってしまいそうな、息子として養子にしてしまいたくなるような感情を抑えるために、バフォルは彼をいつからか名前で呼ぶ事をしなくなった。


「剣の初めての師匠でもあるあんたの頼みだ。断れないよ」


「良いのですか?」


 聞こえないように小声で言っているが、既に五感がおかしくなっているバフォルにはそれが聞こえた。供の一人、長耳長命族の少女だ。


「良いんだシュウ。この人は信用できる。大事な時期なんだ、



『魔物化』になんか負けない」




「坊ちゃまが仰るのならば、それは我々の総意で良いですな?」


 長命種の中で唯一神に成る亀の一族が言う。


「すまない、すまない!」


「良いんだよ、良いんですよ」


 縋り付くように彼の胸に顔を埋めながら、バフォルは震えるのを堪えられなかった。


 笑い出しそうで、大声を上げそうで仕方がなかった。



後編は文章自体は書き終っていますが、

投稿用に調整したりする改行処理、ルビ振りなどまだ終わっていない

部分がありまして、早めに投稿できるようにしたいと思っておりますが、

少しお時間を頂くことになると思います。


投稿する時間にご希望等ございましたら感想などでお知らせください。

誤字脱字やここは直した方が読みやすい、などと言ったご意見などもいつも助かっております。

可能な範囲での対応になってしまいますのでご指摘に沿えるかどうかは解りませんが気になった所などお伝え頂ければ幸いです。


相変わらずな有様の中、ここまでお読みいただきありがとうございました。

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