+雑巾絞り=
後半主人公が外道になります。
残酷描写が含まれますのでお読み頂く場合、
ご注意くださるようにお願いいたします。
本日二度目の投稿ですのでご注意ください。
+ + + + + + +
本来ならば通用しないだろう『念動力』は、『明気』によって強化(と言っていいかどうかは解らないけれども。………『最適化』の方が良いかもしれない)したおかげで、『魔竜リョトニテル』を地面に押し付け動けないようにしていた。
五百年前戦った時、翼(独特の形状の羽?)を落とし心臓を潰し、首を落としてから頭を真っ二つにしてやったのだけれど、偽物ではない様だ。死んで当然の損傷をした後、どうにか回復したと分かる様な傷跡が残っていた。
まず斬りおとした翼は鱗の色が違う被膜の物となっていた。別の飛竜か、翼竜から奪った様である。
そして顔。中心に走る一本線は真っ二つにした痕跡だ。回復は完全ではないのか、右目の向いている位置がおかしくなっていた。首も綺麗な一本線が入っているのは変わらないが、鱗で隠れているのかその線は細い。
俯せの形で押し付けているので心臓の辺りは本来見えないが、左右が完全な対称の身体を持つ竜は胸の中心に粘土をこねてくっつけた様な癒着跡が現理法の『透視(1)』で確認できた。
見た目こいつを流線型、と言えば綺麗に感じるが。
………どうしても先入観のせいでこいつをひょろひょろとした軟弱で弱そうな物としか見えない。五百年前かなりこいつには苦労させられたのに、少しも強者に思えないのが『魔竜リョトニテル』の凄い才能である。
「な、なぜだ!」
牙が並ぶ咢の割に、流暢な言葉でそいつは声を上げた。
身体の大きさの関係で耳が痛く感じるほどの大音声である。
「魔竜と化した儂が、なぜ人間如きの力で身動きできなくされているのだ!」
「五月蠅い」
この蚊トンボ。
咢を『念動力』で無理矢理閉じようかと思ったが、それでは芸がないと思って舌を『念動力』で縛り上げた。
「っがががああが!」
『崩気』を使うと、見えざる物すら白い石灰のように変化してしまう。自分の『念動力』を構成する理力も同じ有様だった。
現理法の理力は自分の裡の変化だけ気を付けているば発動するのだけれど、どうやら内側の変化に合わせて世界に存在する力(理力かどうかはまだ調べていないけれど)を『念動力』の腕にしているようである。
石灰みたいな粉で酷く咳き込む様子を堪能し、自分は『明気』で最適化した『念動力』で咢を閉じた。かなり強めに。
「今から質問する。もし関係ないこと言い出したら牙を一つ一つ捥いでいくから好きな方を選べ」
『強化魔法』で底上げした力で無理矢理捻じくれた角を一本折りながら言う。
「ぃぃぃぃぃぃいぃぃぃぃいぃぃぃぃいいぃぃ!」
「お前は五百年前自分の仲間にしたこと忘れたわけじゃないよな?」
この野郎には仲間の一人を惨殺された。
英雄に数えられることもない人だったが、魔族でありながら自分を信じてくれた大切な仲間だった。そして剣を教えてくれた人である。
「正直『魔物化』したお前の限界点を探るのに耐久検査を始めてやりたいが、聞きたい事がある。もし自分の機嫌を損ねたらあの時お前がした事そっくりそのままから二十倍くらいにして返してやるから覚悟しろ」
在らぬ方向を向いた右目から涙がこぼれている様だ。
竜の涙は老廃物を一緒に流す物で、稀に固形化した鉄の様な物が出る事がある。
それが涙と一緒に零れたが、今はそれを調べる余裕はない。
こいつを直に目にしてから、少し頭の中がおかしくなっていた。
原代和国での戦争を体験していた時も、時々こうなってしまうと箍が外れたような振る舞いをしてしまう事がある。
仲間の無残な死に様を思い出し、こいつにどれだけ悲鳴を上げさせてやろうかばかり考えてしまう。
だが今の自分が名前を変えたのは、過去の英雄ではないと、目的を新たにし進むべき方向が変わったからだと言う意思があるからだ。ジルエニスの今回の願いとは関係ないこいつをどれだけ苦しめても、ジルエニスの願いがかなうわけではない。
限界まで息を吐ききり、正常な呼吸に戻す。
身体の強張りに意識を向け、肩と眉間から力を抜く。
自分と言う奴は酷く簡単な作りでできているのではないかと思うが、これでかなり気分が落ち着いた。
「まず一つ目だ。なぜ五百年前死んだと思っていたお前がこの場にいる?
長命種でもない竜の寿命を考えてもお前が生き続けているわけがない」
拘束を緩める。
「時間を超える魔法だ! 戻る事は出来ないが、人族の力や結束が緩むまで未来に進む事にしたのだ!」
折角復活したのに、まだ弱者を弄ぼうとしたわけか、この蚊トンボ。
ここまで下種だといっそすがすがしさを感じてしまう。
『下種の境地』なんて特殊能力はこいつは持っていない筈だが?
◇◇◇◇◇◇◇
特記 『崩気』持ち
リョトニテル(竜・黒竜種)
体力 ex
魔力 AA
理力 A
筋力 C
身軽さ B
賢さ AA
手先 AAA
運 A
特殊能力
竜気
一部の竜が持つ
神の力の亜種とも
言うべき力。
限りはあるが
物理法則を書き換え、
自身の身体を常に
一定以上の
状態に保つ。
非常に強い
回復能力を持つ
(復元には
至らない)。
『姑息千万』
自らが消耗せず、
いかに相手を有利に、
楽に、楽しんで
狩るべきか
考え続けたうえで
身に着けた独自技術。
一部の能力
(賢さ・手先など)
に部分的な補正が
かかる。
◇◇◇◇◇◇◇
『姑息千万』………。
部分的な補正と言うのは状況や物事によって数値が変動すると言う事なのだろうか。
手先が器用な人がいたとして、料理はこなせるけれど日曜大工は苦手、みたいな事だろう。
解析した数字は最大値をアルファベット表記しているので、物事や状況によってその表記内で結果が生まれる、と言う物だ。
これを念頭に置いておかないといけないな。
ステータスは『人』を基準に考えているからどうしても竜が高くなる。しかしファンタジーの想像に出て来そうな悪の竜と言ったこいつの手先の器用さはどんな時に最大に発揮されるのか不思議だ。
………。
よし、無駄に思われそうな寄り道で頭の中が少し楽になった気がする。
しかし…。
『竜気』という特殊能力に非常に強い回復能力があるから、こいつは傷跡を残しながらも生き残ったのだろうか? しかしあそこまでやっていて死んでいなかったと言う事になるのではなかろうか?
心臓と脳味噌がない状況でも回復できると言うのは、復元には至らないとしても規格外と言うか、生物としておかしな位階にこいつがいるのではないかと思う。それはもう自動蘇生に近い特殊能力だと思われる。
まあ、生物の中で文句なく最上級の竜ならばそれも当然なのかもしれないな。
+ + +
べらべらと話し出したが、長くなるので話をまとめる。
時を越えて潜伏していたリョトニテルは森に潜んで力を蓄えていたらしい。
その森が闘技場都市に近い、轟獣がよく出る場所だったのだがリョトニテルがそこを潜伏先に選んだのは魔界から神樹の中を通ってきたわけではなく(サイズ的にこの竜では無理)、轟獣を支配下に置いて手駒とするのに丁度良い場所だったかららしい。
闘技場の様子を見て、人の力(この場合は戦闘能力、魔法などを含む)がやり易くなってきたのを満足しながら見ていた所に、運悪く…とこの場合は言うべきか、自分がエニスと共にやって来た。
一度は身体を切り刻まれた憎むべき相手。何度見ても間違い様の無い相手。
それから自分はずっとこいつに監視されていたらしい。
エニスにも気づかれなかったのは、ただ見ていただけだからなのだろうか?
それともエニスも『崩気』に対していつも通りの感性であたれないからだろうか?
ホーグも含め、この事は後で調べた方が良いかもしれない。
「ラロースと言う魔族はどうした?」
「時を超える魔法は周囲の魔力を適正量扱えれば竜以外でも使う事が出来る。
あいつが使ったのは別の魔法のようだが、独自に調整したもので儂の元に来た」
辻褄は合うが………。
現理法『聴取(ex)』を『明気』で最適化して聞いているので、嘘を言っている様には聞こえないが、こいつもラロースと同様に割愛したが魔法も現理法も使える。理力の高さは現理法への対抗力にも当たるので、全てが真実だとは思えない。
こいつのステータスを再度表示して魔法欄をスクロールさせていくと、確かに『時間』に関わる魔法がいくつかあった。『時跳魔法』、『攻性時跳魔法』、『守性時跳魔法』の三つだ。
じちょうまほう、なんて読むとしたら違う魔法を想像してしまうが、初めて聞く魔法である。竜には独自の技術があるからそれに値するのかもしれない。もしかしたら『崩気』に関係しているのかもしれないから覚えておこう。
「もう許してくれ。二度と人間には関わらん!」
「似た様なセリフを聞いた事があるな」
あまりに初めて聞いた時と同じすぎて笑いもおきなかった。
「ああ許してやる」
『明気』で最適化した『念動力』で一瞬で最大の出力を生み出す。百十の腕を束ねて二本にして、雑巾絞りにして終る。
「ぎぃ!」
悲鳴が漏れたのは一瞬、後は空気が零れるだけだった。
あと、色々な液体と生肉ね。赤黒い液体の中に多数の、自分の物より小さいだろう目玉が数十と含まれていた。
「『魔物化』したお前はどの道この世界の為に生かしとくわけにはいかないんだよ」
『崩気』と仮に呼ぶ事にした力は、この世界の全てをあの謎の石灰の粉のようにしてしまう。粉は時間とともに消えていくのだが、粉が消えた分世界が縮む。
本来管理する世界に直接影響を起こす様な行動をしない管理神が、最優先でどうにかしないといけない理由がこれである。
魔王、『魔物化』した物たちの王はこいつの何百倍にも及ぶ『崩気』を使う。
この世界の大きさにしてどれ程で世界を滅ぼすのかは解らないけれど、「神様が最優先で行動する事」であることを考えると非常にまずい存在なのだろう。この世界でこれを知るのは一部の長命種、神や精霊、自分くらいな物だが、こいつの父親、『狂竜ドフニテル』もその一人(体)だった。
それが何故、魔王側につく事になったのかと言うと………。
おん!
思考の最中、エニスの声が聞こえた。
しかもどれだけ離れているのか、正確な位置まで分かってしまうと言う不思議な鳴き声だった。
「なんだ?」
マップを開きながら駆けだす。
ラロースは自分に気付く事なくエニスとレナリの元に向かった様である。
しかし。
ラロースの反応が明滅しだしていた。
マップにそんな設定はしていない。
嫌な予感がしたので、『明気』で最適化した状態にすると、………
ありがとうございました。
主人公が糞野郎に対応する際外道になるのは理由があります。
その辺りは二話の後半で書くことになります。
明日も二度の投稿を予定しております。




