+糞野郎=
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魔王側についた竜の中で最も強いのは、竜の長『狂竜ドフニテル』に間違いないだろう。
奴ときたら竜の独自技術をさらに昇華させたとも言える『収束息吹』なんて科学兵器みたいな技を使ってきた。しかもしれだけじゃない。
奴が狂竜と呼ばれていたのは、人とも、そして竜とも違う世界が見えているせいだった。
想像しやすい方面として『魔物化』が第一にあがるだろうけれど今回は違う。ドフニテルが『狂竜』と呼ばれる要因となったのは、奴が一分くらい先の世界を常に目にしているからだ。
実際の時間はどれくらいか知る事はなかったし、適当なんだけれど、あいつは未来を見ながら生きていたのである。
言動や行動がその先に合わせた物であるので仲間の竜達も頭がおかしくなったと最初は思っていたのか、そんな仇名が奴にはついていた。自分が魔王を討滅する前に戦った時、斬りかかれば避けられ、仲間の魔法を無効化し、『神弓』が連続で標的を外すなんて光景を目の当たりにした。自分達の攻撃も見えていれば、動きも見えていたので『収束息吹』は数度自分を灼く上に、追撃で打たれる攻撃や魔法なども対処のしようがなかった。
………しかもそれだけじゃない。本当に数限りない力を持っていた奴だったが、この二つだけでもうんざりできるのにまだ奴の全てはないのだ。
『現理法』が確立される以前の話だと言うのに、奴は『念動力』・『瞬間移動』・『自然発火』も使ったし、魔法ではうちのパーティの大魔道士の魔法を翼だけで蹴散らして見せた。
おそらく翼を羽ばたかせるのに合わせて魔力を拡散させる『独自魔法』を生み出していたんだろう。
もちろん竜としての力を持ち合わせているし、山脈みたいな巨体と計算高い知能を持っていたそいつは、魔王側にいた竜で間違いなく最強だったし、魔王の次に強いのはきっとドフニテルで間違いないだろう。
だがしかし、一番やり辛かった相手。
そう言う条件で考えればドフニテルよりも一つ抜きん出た糞野郎がいる。
自ら望んで『魔物化』のプロセスを開発し、自らが魔物、『魔竜』となったドフニテルの腹心がいた。
心臓を抉りだし、翼を剥がし、首を落とした後真っ二つにして倒したはずの相手だが、轟獣を使って自分を追い詰めようとする行動は以前そいつが使った手である。
………確かそいつは長命種ではないので五百年後のこの世界にいる理由は解らないが、それを言ったらラロースも何か怪しいし、『魔物化』したそいつの寿命が変わっている可能性もある。
名を『リョトニテル』。
ドフニテルの息子でありながら、長になれなかった竜である。
リョトニテルは長命種の竜だったドフニテルと長命種ではない竜の間に生まれた子供で、生まれついてアホみたいに優秀だったらしい。しかし生まれついて優秀な奴って言うのは個人的な意見を挟んでしまうが碌な奴がいないと自分は思っている。
ドフニテルが魔族側についたのも、実はそいつが原因じゃないかと自分は思っているのだけれど、真偽は定かではない。しかし、好き放題に暴れる事、惨い結果になる様な残酷な思考法則を持ち、他者を苦しめる事を考えるにかけてあれほど鬱陶しいと感じた相手は原代和国の頃のとある軍人一人を除いてそいつだけである。
親を見ると小さく感じるがそれでも村一つ覆う程の巨体の竜で、性格の悪さが滲み出ているように二本の角が捻じれ曲がっている黒竜だった。
勇壮な顔立ちをしているドフニテルと違い、明らかに小物そうな、胡散臭そうな顔立ちをした奴で、身体を鍛える事もしなかったのかドフニテルに比べると細くてひょろひょろした印象を受ける。
翼は被膜ではなく、鱗が変形したような、人で言う皮が爪になったかのような翼をしていて、風切音を上げながら飛ぶ姿は蚊トンボかと思う。
そんな糞野郎なのに魔法と父親の技術である『収束息吹』を持ち、より弱者の多い方を敵にするために魔族側についたという、何かの物語で一番陰惨な終わり方をする様な敵役みたいな奴である。
まあ、その通りにしてやったと思っていたのだけれど生きていたようだった。
『魔竜リョトニテル』は、ラロースをこちらに向かわせ、彼の魔法を補助していた。
離れた距離に魔法を施すのは非常に難易度の高い行為であり、一流と呼ばれる魔道士や魔法使いでも何らかの形で知覚できる範囲でしか効果を出す事が出来ない。
パーティを組む場合、魔道士や魔法使いが後衛になるのは戦況をしっかり見極める事が出来る位置が重要だからだ。とは言っても、この世界には近距離、手を伸ばせば敵に触れる様な位置の相手と戦う時専用の魔法がたくさんあるので、性格などにもよるのだろうけれど。
ラロースの魔法を、彼から更に後方にいたリョトニテルが独自技術なのか竜の魔法なのか、それとも現理法なのかはまだわからないが、彼女の魔法をリョトニテルが動かして発動させたのだろう。
ラロースとの戦いの前、銃で魔法陣を撃った時のあの『裂け目』がリョトニテルの力なのだ。
ラロースの魔法は魔法陣だけだった、と言う事だ。
自分はラロースを完全に通りこし、リョトニテルが隠れている場所まで駆ける。
ラロースがどう動くかはわからないが、自分を追って来たとしても、エニスとレナリの方へ向かったとしても些事、にもならない。
まずはあの糞野郎をどうにかしないといけない。普通は一度死んで懲りる位するだろうに、こうやってまだ轟獣や魔族を嗾けてくるのだから、戦う意思があるのだろう。
リョトニテルが潜んでいるのは闘技場都市の南に位置する轟獣がよく出ると言う森だ。
五百年前は町一つ分くらいの森だったのが、広大に広がって県一つ、と言うほどの大きさになっていた。
五百年前闘技場都市を出る時、馬車でわざわざ森を迂回して通ったのは轟獣が出る事が多いと言う話だったが、今解析すると魔界との通路が出来ているようである。海の底にある筈の魔界と、海に浮かぶ形の大陸をどうやってやって来たのかと思えば、神樹の中を通ってやってきているらしい。
神樹は以前説明したと思うが、大陸が世界の端っこから落ちてしまわないように大陸を貫通し、海の底に根を張る船の錨のような物なのだけれど、その内部を刳り貫いて繋げているらしい。
神樹は非常に生命力が強く、海水に半ば浸っていても健康だし、海水を濾過して汲み上げるようになっている。それだけでもファンタジー凄いと思うのに、中に本来のサイズのエニス(全長六メートル)でも楽に通る事が出来る通路が出て来ても問題ないらしい。
この大陸にはアリの巣のような大きな空洞がたくさんできているのだろうか?
それは後で調べよう。
まずは糞野郎だ。
普通に解析しても解らないようにしてあるが、理力に魔力を足して作った『明気』のおかげで、解析が可能になっていた。
『明気』とは明らかにする力であり、この世界に現れる物でありながら全く種類の違う『魔物化』した物が使う力(これから魔力とごっちゃになってしまわないように仮称で『崩気』とする。)を唯一感知できるようにする力である。
『魔物化』した存在は総じてこの力を持っているが、この力の特徴は存在する全てから力を奪い使う、と言う物である。
有機物、無機物関係なく力を吸い上げ、石灰みたいな物に変える力で、魔王が使ったこれは、魔界で一つの山を白とも灰色とも言えないくすんだ塊に変えた力だった。
力を吸い上げられた物は石灰になり、時間とともに消えていき、これが進むとその分世界が消える。
これがジルエニスの最も恐れる結末だった。自分が『魔王』を討滅する理由は、世界その物の救済措置だったのだ。
「さてまずはこっちに来てもらおうか」
数日前に出てきたばかりの闘技場都市が見える。
地平線のない世界なので風景が少し変に感じる。
森のほぼ中央、そこにご丁寧にも魔法や竜の独自技術に『崩気』を足した隠蔽を施したリョトニテルが隠れていた。
「『念動力』」
『明気』を身体の中で生み出し、念動力を使えば潜んでいた糞野郎が浮かび上がる。
「な、何事だ!?」
「煩い黙れ」
村一つ覆う程の身体の大きさで小物らしく叫ばれれば色々な所に迷惑がかかるだろうが。
ラロースを迎え撃った辺りにリョトニテルを投擲する。
ど……………ん………………
遠投ではなく、直線に投げつけた。もちろん翼などで減速されたり逃げられても困るのでしっかり大きな手で鷲掴みのようにしたうえでである。
竜がこの程度で怪我をするなんてコメディなので鱗一つ傷付いていないだろうけれど、あれはとっととどうにかしないといけない物なので放っておくわけにもいかない。
逃げられないようにそっちに向かって駆けだす。
以前は散々逃げ回られ、罠も散々やられた。
小細工が効かないように徹底的に早く処理する事にしよう。
ありがとうございました。
明日と明後日は四時と十二時に投稿する予定です。
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