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チート+チート もう一度英雄  作者: 加糖雪広
第二話 過去+復讐
44/99

+『狂踊不愍』(読めない)=

残酷な描写にご注意ください。

+ + +



「『強化魔法』」


 マップに轟獣とラロースの光点が現れたので最初から全開で行くつもりである。


 ラロースの事は解析して検索して、既に色々な情報を得ていた。


 レナリも目覚めて食事を済まし、『黒塵の兵士』セットで万全である。


「レナリ、説明の通り無理はするな」


「はい」


「エニスはレナリの護衛な」


おん!


 マップに表示される轟獣の数は三桁に昇る。ラロースに遭遇する前の数倍に届きそうな数になってまだ数を増しているらしい。


 自分は万能ナイフをロングソードに変え、こちらは気分で革の衣服を幹部風にした。


 『がちり』と音を立ててレナリが鉢金を付ける。エニスはのんびりとしているが、油断している事はないだろう。

 時刻は深夜二時。奇襲のつもりかもしれないがこちらは準備万端である。





 最初に飛び出してきたのは轟獣の鳥だった。ガチョウみたいな動物がそうなったのか飛ぶ様子はない。でも自分よりも太く、長い足で丘の向こうから群れを成して向かってくる。


 その姿はまさしく『轟獣』と言う呼ばれ名に相応しい圧巻の代物だった。


 轟く獣、と言うのは連中が群れを成して駆け向かってくる時の大地の震動が、魔界に響く様子から名付けられたらしい。


 自分も何の前触れもなくあんなのを見せられたら確かに魂消る。


 でも前触れはあった。

 自分は準備を終えているのだ。


「さて、試してみるか」


 自分はロングソードから弧月状の斬撃波を生み出して轟獣ガチョウに放つ。


 避けようと動く物もいたがどいつもこいつも平常な思考を無くしているらしく黒に近い血が舞った。後で影箱に回収しよう。


 次に空から鴉を十倍くらいに大きくした轟獣がやって来たので念動力で叩き落とす。


 鷲のように高所から飛ばないと飛べない種だというので、これでほぼ無力化できたはずだ。レナリが槍の打ち下しで頭を割る。堂に入った動きで、思わず称賛したくなるが今はそれどころじゃない。


 被害のないか、少ないガチョウが再び向かってくるので、近い奴は斬り捨て、離れた相手には斬撃波を見舞う。神剣で使うよりも威力は下がるが、引っ掛かりもなくすっぱり切れる。


 犬、鼠、虎の轟獣が次々に来るが、何か癇に障ったのかエニスが尻尾で打ち飛ばした。珍しく不機嫌を隠しもしない様子で唸っている。


 レナリはガチョウや別の鴉を見つけては打ち下しで止めを刺し、決して自分から飛び出す事はない。初めての実戦だけれど緊張した様子もない。自分だったら血の臭いと生物の身体の中身をみて吐いていた筈なので、彼女は武芸者になる事になっても将来有望だろう。


 轟獣は『使役魔法(1)』の上に『狂化魔法(2)』の改造版『狂踊不愍』とか言う独特のネーミングセンスを感じる(読めない字だし、センスだ)魔法により、脳味噌が既に治せない程おかしくなってしまっている。身体能力の限界を超えて動く事が出来るらしいけれど、一匹一匹治して回る時間もつもりもない。せめて残ったお肉を美味しくいただいてあげるだけだ。


 鼠(轟獣でサイズは自分の胴体と同じほど)を斬ると、浅かったのか殆ど前半身と後半身が離れていないだけの状態なのに果敢に攻めてくる。


「エニス、レナリ一思いにやってやれ」

 鼠の首を落としながら言う。

 『狂化魔法』の影響なのだろう、痛みによりショック死に強い耐性があるのかもしれない。

 自分は、狙いを頭か心臓に絞る。こいつらを哀れだと思うけれど、弱肉強食は世のルール。せめてホーグに美味しく料理してもらうべきだろう。


 エニス並に大きな、五メートルはありそうな虎が自分に襲い掛かってくる。開いた口に剣を刺し入れ脳を潰しながら、巴投げの要領で後方へ飛ばす。


 エニスはなぜか不機嫌なままで、わざわざそいつの正面に行って尻尾で遠方に飛ばした。


 どうしたんだろう?


 角が鬼の顔みたいになって伸びている鹿が突撃してくるのを、角を落として念動力で頭を割る。狩りの癖で無駄な事をしてしまった。自重。


 最初に体勢を崩したのはレナリだった。

 初めての実戦、数は三桁。それを前に今までよく頑張っていた。


 緊張で足が覚束なくなってきている様なのでエニスに目配せ。エニスは俊敏な動きでレナリの後ろに付くと、レナリに向かってくる轟獣を次々に尻尾で撒き散らした。文字通り撒き散らしている。


 自分は少し前に出て向かってくる轟獣を捌いて回る。


 轟虫、とでも言うべきかやたら大きな虫が向かってきたが、こいつも後で美味しく食べてやろう。蟻と蜂を足して作ったような目に怖い警戒色の虫を左右に分ける。虫は頭を潰しても動きを止めない奴もいるので頭から尻尾まで真っ二つにした後に足を切り落とす。


 以前使っていた神剣ならもっと早く斬りおとせたけれど、万能ナイフはやはり切れ味が少し落ちるらしい。それでも斬った感触すらないのだから充分だけれど。


 気負いなく剣を使うのは考えてみれば再臨して初めてかも知れない。神剣と鎧の恩恵をいまさらながら強く感じる。


「しっ!」


 斬撃波を連続で撒いて離れた所から石でも投げようとしていたらしい猿を殺す。


 血霞に血臭、見れば人よりも黒い血液が周囲に満ち始め、慣れていない奴が見て嗅いだら五秒で吐く様な景色になり始めている。


 死体から零れる臓物や痙攣する眼球とか、慣れるには頭がどこかおかしくならないといけない気がする。こんな中レナリはよく我慢できた。後で誉めてやろう。


 ゴリラの轟獣なのか、異様に頭と拳が大きくなった獣がその自慢の物らしい巨大な拳で殴りかかってくる。

 刃を立てて受けると、肘辺りまですっぱり。

 悲鳴を上げる様に口を開いたそいつの口内から頭頂部を抜く様に突いて抜いた。


 しかしそいつは絶叫を上げながら残った腕で自分を抱き締めてきた。脳味噌が二つあるのか決死の覚悟なのか分からないけれど、ゴリラには残念だけれどやられてやるわけにはいかない。

 両腕だったらまだ掴む力も強かっただろうに。

 『強化魔法』で力強さも上がっているので、これ位気軽に抜ける事が出来る。


 再び口内を突いたロングソードを真っ直ぐ下に切り裂き、心臓を止める。


 自分が抱きとめられた瞬間に好機と悟ったのか殺到する面々を念動力で上から抑え付け、ゴリラに刺さったロングソードを無理矢理斜め下に向けたまま横にぐるりと回る。


 囲むことは成功したが一歩も動けずにいた轟獣たちは首や足を落とされた。


 まだ絶命してない奴等をもう一回転して首を落とす。

 中にはカマキリみたいな巨大な虫もいたので足を全て落す。

 『狂踊不愍』の効果が途切れたわけではないだろうけれど、轟獣たちの足が止まった。


 人よりも何倍も本能が敏感だろう獣にとってどう攻めても勝てないと思い知らせるのは有効な手だろう。こうなるとは思っていなかったので、気が楽になる。


 蜿蜒(えんえん)攻め立てられるのはどんなに相手が弱かろうと神経を使う。


 人間の集中力は長時間続ける事が出来ないし、血の雨が降るかのようなこの場所では五感を頼りにし続けるのも限界がある。


「『念動力』」


 一体一つ。同時に百十の念動力の腕で相手の頭を地面に押し付けて動きを止めた。


 ロングソードを一振りして血脂を落とす。和国刀や日本刀でやっていたら時代劇みたいだろうが、この万能ナイフはそれだけで闇を切り裂く様な冷たくも鋭い光を復活させる。


 マップ内の轟獣や轟虫はこれでほぼすべてが動けなくなっている。

 知覚できない距離の相手にもマップの表示に映る相手ならば念動力は効果を発揮するようだ。


「まだ調べる事が出来そうなものがあるな」


 一つ二つ程度の手詰まりで立ち止まる理由にはならない。と言う事だろう。


 マップの『敵性』反応の種別を行い、ラロースの位置を探るが今回は表示されなかった。


 ……『魔竜』が関わっているのだろう。

 魔竜とは『魔物化』した竜を指す言葉で、当然魔族とは別物だ。人よりも、一部の精霊や神よりも『魔物化』に強い耐性があるとされている竜が『魔物化』しているとなれば、魔王のように強力な物になっている可能性が高いと思えた。


 …………。

 しかしである。

 多少考えればわかると思うけれど、どんなに相性が悪い力を相手が使うとは言っても、自分が使っている力はジルエニスが授けてくれた力である。


 ジルエニスは自分の知る限り最も全知全能に近い存在で、そのジルエニスが苦手を苦手のままにしているとはどうしても考えられないのだ。


 相性が悪い、とは言ってもこれはじゃんけんじゃない。選択肢が三つしかないわけではないのだ。向こうがこちらの苦手としている力を使っているとは言っても、その力を明らかに上回る力を持って当たれば相性が悪いとは言っても競り負ける事にはならないのではないかと思うのである。魔力や理力とは違う力で(何の力なのかはわからないのだけれど)『ステータス確認』や『解析*数値化』、『影箱』は試してはいないけれど無尽蔵に使えるのだろう。


 この三つは自分が望んで授けてもらった力で、それぞれ方向性も違えば使い方も違う。これは、ジルエニスの生み出した(みっつ)が多様性のある物の証明である。


 加えて現実として、死に掛けはしたけれど自分は魔王を討滅して今もここにいる。力の相性では負けていたとしても、相性なんて物ともしない程の力を集めればやれない筈はないのだ。


 そう考えて、ヘルプを確認。


 想像通り新たな項目が生まれていた。

 そこに新たな情報がいくつか表記されていたので、それを試す事にした。


 まず準備するのは『理力』。視覚として捉えれば身体を巡る血流の様な物、『理力』をもう一つの力である身体を器に見立てて注ぎこまれたドライアイスの冷気のような、『魔力』を一つにする。


 感覚的には、血流の流れの様に循環する『理力』の流れにドライアイスの冷気のような『魔力』を流して一つにするのだ。


 生まれたのはEX級スキルとされる『明気』である。


 『神に並ぶ(EX)』級スキルの『明気』であるが、これはこれだけでは効果がないのは解っている。これをどう工夫しても魔法や現理法として使えない事も解っていた。


 『明気』の正しい使い方はこうだった。


「『透視』」


 現理法を発動させ、身体の中の理力だけを活性化。


 次に現理法の『透視』で見通す目を持った状態の自分に、『明気』を満たした。


 その状態でマップを見る。


 検索、『魔族、魔竜』


 …………見つけた!



お読みいただきありがとうございました。

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