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チート+チート もう一度英雄  作者: 加糖雪広
第二話 過去+復讐
40/99

+捥げろ=

+ + + + + + +



おん!


「うん?」


 レナリを台に乗せ、エニスと村に向かう最中である。

 人の往来が無くなって久しい街道は野を行くのと変わらない寂れ具合である。


 森と道の境界線が無くなり、和国の考えならば塞の神の祟りなんて起きそうな酷さでだ。

 エニスが観る方向には、小高い丘があった。


 マップを調べると、ここに村があった事もあったらしいがナザラ村の時と同じく、建物があった気配や人が住んでいた気配がまるでない様子になっていた。


 その丘に、エニスが向いた方向からこちらを見る動物がいたのである。


「轟獣多いなこの辺り」


 轟獣の馬が数頭、こちらを窺っていた。

 確か、ファグナーと言う呼ばれ方をしていただろうか?

 蹄の形が独特で、指を鳥の嘴のように揃えて走る馬である。角ウサギと同じく身体の大きさも馬と言うより象に近い大きさである。それが見えるだけで三頭いた。


 一頭は灰がかりの白毛、顔立ちは綺麗で競走馬の様な外見だ。


 もう一頭は豹の様な黄土色に黒の斑点があって、愛嬌のある顔と体型は農耕馬に近いだろうか。


 残りの一頭は一際大きく、エニスと比べても遜色ない程の大きさの立派な馬だった。艶のある焦げ茶の体毛、鴉羽の様に艶を放つ黒い(たてがみ)、額に白の十字架があるような色。戦神の騎馬を想像したらあんな馬になるんではないだろうか? 名付けるなら間違いなく『黒帝』だな絶対。


 馬は縄張り意識が低いと思っていたけれど、このあたりはあのファグナーのテリトリーなのだろうか。自分の知る馬は繊細で気性の荒い奴等ばかりだったので、その知性さえ感じる瞳でこちらを見られても悪い予感しかしない。


「エニス、あれは敵?」


おん!


 違うと言う。様子見をしているとの事だった。


「通してくれるように話せる?」


おん!


 エニスが返事をすると同時に、三頭は向きを変え丘の向こうへと去って行った。


「魔界でもないここで轟獣なんて珍しいのを闘技場出てからこれで二回」


 珍しいと言うより、何か妖しいと感じた。

 確認のため、マップを広域マップに変えてウィンドウサイズも大きくして表示する。


 光点の表示を轟獣のみで表示したところ、魔界と言う程の数ではない様だけれどそれでも動物公園がいくつも作れそうなほどの轟獣が分布している。最寄りの村まではこのペースなら五日かそこらだけれど、その距離を半径にしてマップ表示すると自分達を中心に五百近い数の轟獣がいるらしい。


 闘技場都市に入るまで一度も見掛けることが無かった轟獣が急にこんなにたくさん、生まれ育ったであろう魔界でもないこちらにいると言うのは理由がなければおかしい。


 魔界とその上にあるこの世界の距離は直線にして考えてみれば三日三晩歩いて行ったって、行きつける場所ではない。この轟獣は魔界で生まれてここにやって来たのか、それとも親かそれよりも以前の世代がこちらにやってきて増えたのか。


「…………」


 検索結果は不明だった。



 『不明』?



 表示されないのではなく、不明と言う検索結果だった。

 自分の気付きや発見が反映されて新たに変わる場合、元の情報は表示されないか概要が記されるだけに対し、今回初めて『不明』と言う検索結果が出た。これが普通ではない事位、自分にも想像できる。


「………」


 スン。

 得体の知れない何かがある場合、自分は五感に頼る。というべきか、頼るしかない。

 直感で閃く事なんてそう何度もある事ではないので『閃く』なんて言葉があてはまるのだから、そうそう出来る事ではない。だから少しでも情報を集めたいからするのだが、鼻も目も、耳にも新たな発見は見つからなかった。


「どうするか」


 異世界人の関係?

 いや、異世界人に授けられた神の祝福はジルエニスの授けてくれた能力よりも、見つかるまでの時間を遅く調整されているとジルエニスが言っていた。しかしジルエニスの授けてくれた能力で『不明』となる事はないだろう。闘技場覇者となっていた異世界人、グンジョウの特殊能力はまだその内容を知らずとも表示はされたのだから。


 ジルエニスの世界を邪魔したい何者かが、『時間』がかかる様に調整するのなら、それは時間が掛かる計画がある筈である。それが異世界人を柱として使う事で行う物なのか、異世界人を時間稼ぎとして行う物なのかは解らないけれど、………。


 ジルエニス以上の力、と言うのがそもそも想像できない。

 自分の知る限り最も全知全能に近い存在がジルエニスだ。

 そのジルエニスの力で生み出された『解析*数値化』が不明と出るのは、不明と出る理由がある筈なのである。


「エニス、何か解るか?」


おん!


 エニスが何かを感じているらしく、その不確かな物を鳴き声で教えてくれる。


 捉え処のない方向性がないように感じる力、それが周囲に漂っている。

 方向性がないようにしか感じないのに周囲に区切った中にしか漂っていない。


 その言葉に、『閃き』なんてなかったけれど、似たような感覚を覚えた事がある。


「そう言えば一つだけあったな…………」


 ジルエニスの力と相性の悪い物に、一つだけ思い至った。

 轟獣とは魔界繋がりの関係で、あまり関わりになりたくないのが………。


「エニス、方向転換。嫌な予感がするから人や動物のいない方に行くぞ」


おん!


 どちらに行くべきが………。


「初めて夜営した森の方に向かおう」


 あの神樹が植樹された森まで行く必要はないけれど、ナザラ村は無くなっていたし、闘技場都市から距離を取れば良くない事があっても大丈夫だろう。


 嫌な予感として感じたこれや、数値にしづらそうなものをステータスで見る事が出来ればいいのだけれど、今回の場合はおそらく『不明』と言う検索結果の元が邪魔して上手くいかないだろう。


 自分は膝と足首の具合を一度確かめて、万全であることを確認すると神樹へと駆け出す。


 和国で兵士をしていた頃、峰国に武装して徒歩移動した苦い記憶(雪中行軍だった)が呼びさまされる。あの時は大将捥げろとみんなで唱えながら駆けつづけた物だ。


 今回は差し詰め、

「魔竜滅びろ」

 である。


+ + + + + + +



 昔の話、それもこの『ジルエニスの第一世界』の五百年前の事だ。


 魔王が現れ、魔王は魔族を率いて人と争う事となった。


 魔族と人、どちらも人の形をしている生き物の争いだった。

 そこでその争いを外から見る事になった連中がこの世界にはたくさんいた。


 一括りで長命種、その傘下の獣達や精霊や妖精の事だ。(長命種と呼ばれるには物質の身体を持ち、思考しその思考を伝える能力がある事が条件なので、見えざる存在の霊体や、幽体、精体だけの存在達は長命種とは呼ばれない。)


 そしてその中で最も争い向きの能力を持った連中、純粋な『竜』や『龍』達はその争いの中に身を投じる決断をした。


 残念な事に、竜達は自分達を二つに分け、一方は人につき、もう一方は魔王についたのである。


 中でも竜達の長、『狂竜』と呼ばれたドフニテルは魔王側についた。魔王側についた竜達の中には長命種の竜もおり、その『物理法則すら捻じ曲げる』桁違いの力を自分達、今では英雄と呼ばれる面々に振りかざしたのだ。


 魔王側についた竜達は、特に血気盛んな連中ばかりだった。これにも事情が色々あるのだけれどひとまず置いておく。


 魔王側についた竜達は率先して人との争いの中に姿を現し、翼で生み出した風で人を、村を、国を拭き散らし、『竜の吐息』は火や熱線、吹雪や鎌鼬の群れとなって自分達に降り注ぐ。ドワーフの鍛冶師の位階で上三位以上の実力者が作った武器でなければ鱗に傷もつけられず、中には傷付いた先から部分的な脱皮を行って傷をなかった事にするもの、魔法を使って治癒するもの、今でこそ解るが現理法を使って回復するものまでいた。


 竜と言うのはそれだけの力を持ちながら、更には人と比べても長い寿命とそれに見合った知識、知能を獲得している。中には現代日本で習った恐竜のような奴もいたが、そいつらも含めて『組織的』に行動しているから性質が悪い。


 分散させて各個撃破を目論む人側の考えを見抜くように、退く事も竜の作戦に含まれていたために人側は非常に難儀していた。


 ただでさえ魔族の連中も魔力の高さ、魔法と始祖と言うべき練達が多い上に、奴等ときたら力強さも桁違いでどいつもこいつも自分達の身体より大きな武器を軽々と振るって戦う様な奴等である。竜と連携を組み始めたら手の施しようがないと人側が絶望するのは仕方のない事だった。



 …………まあ、どうにかしたんだけれどね。



 魔族は力も魔力もある上に、吸血鬼のような奴もいれば、お伽噺に出てくる『ランプの精』みたいな奴等もいる。そいつらは搦め手まで使ってくるのだ。


 人側がそう言った連中に採った手段は、人側の国・軍が盾となりその間に英雄と呼ばれた連中を魔王に突撃させる方法だった。早い話実力者で突っ込んで勝負をつけて来い、って言う力任せな戦法だった。


 魔王との争いは三週間は続いた気がするけれど、その間に人側が絶滅しかけた、と言う事もなかった。人側にだって竜がいたし、精霊や妖精が多く人側に協力してくれた。


 長命種の多くが力を尽くしてくれて、何とか均衡を保つまで至ったのだ。中でも長耳長命族はその気風にしては珍しく人側に協力的だった。今思えば神樹の植樹を約束させていたのかもしれない。他にも世界を支える唯一『神に成る』生物、世界を支える亀の一族、貴重な草花や知識を惜しげもなく渡してくれた身樹長命族。


 長命族の協力無くして、第一世界は救われなかった。




 ……それでも、被害がないと言う事はない。

 竜達の独自技術で大陸は一つ死の世界になったし、小島のいくつかは消滅までした。


 狂竜ドフニテルとは魔界で死闘を演じたし、命のやり取りになった。


 英雄に数えられることなき英雄達は文字通り命懸けで自分達を護って、逝った。貴重な人材や価値のある道具、中には神の何柱もの犠牲もあった。


 精霊の中で最も身分の高い精霊王も、魔族側の竜と戦い世界に散った。


 正直、五百年経ったこの世界に、未だにその戦争の爪痕がある事を思うと、その恨み辛みは消えていないのではないかと思う事もある。


「エニス!」


 エニスはレナリを背中の台に乗せたまま、揺らす事もなく疾走する。


 自分はその丁寧に加減しているエニスについていくのがやっとである。


 森を抜け、湖を飛び越え、自分達は人気のない場所を求めて駆けていた。

 マップの表示を広域に切り替えて、満足いく条件の場所はやはり自分が再臨した神殿の近く、でかい蜘蛛が出てくる広い草原だった。


おん!


 エニスはブレーキを掛けることなく速度を落とし、レナリが目覚めるような振動の一つも起こさずに止まった。その歩法、何とか二本足で再現できないだろうか?


 羨ましいが今はそれを置いておく。

 マップを切り替え、地図検索を『竜・轟獣・魔族』で精査すると、轟獣がこちらに向かって移動している事がわかる。少しずつこちらを包囲する算段だったようだ。


 自分は影箱から念動力で弾薬を取りだし、万能ナイフを銃の形に変えて装填する。


 弾はその時の思考を反映するので爆弾代わりに使う事も出来るから、最悪これで暴れ回るつもりだ。

 レナリをエニスの背中から台座ごと外して横たえる。

 良い場所が見つからないのでエニスに任せる事にした。

 マップの中にはまだ轟獣の姿しかないが、最悪マップに表示されない奴が出てくる可能性もある。


 『バガン!』


 突然、何もない空間に裂け目が出来た。奥が真っ黒な裂け目は、家一つ呑み込んでも平気そうな大きな物で、その黒い裂け目の奥に魔法陣が見える。


 こういう分かりやすいエフェクトを好むのは大抵魔族だってことを自分は知っている。


 音や見た目で変化を知らせる事で仲間内の魔法のぶつかりや干渉を避けるための工夫である。


 魔法陣は裂け目よりも大きく、その一部しか覗く事は出来ないがおそらくこの状況であるとしたら召喚一択だろう。それが敵その物か、敵の撃ち出す攻撃用の魔法かはわからないけれど。


 どうやら攻撃用魔法らしい。

 それも竜が使う『竜の吐息』を遠隔で打ち出す種の魔法だ。


「うぜえ」


 撃ち出される攻撃がどんな物か知らないけれど、エフェクトがあると言う事はそれを知られる危険があると言う事だ。


 自分は銃をロングソードの形にして一閃。

 裂け目までの距離は二歩で潰せた。

 万能ナイフはジルエニスが生み出した刃物なのだから、出来ない事はないと確信して、その裂け目と魔法陣をまとめて斬り捨てた。


 魔法の気配が察知できるように出来るかとマップを調べると、魔法察知の項目があったのでそれを適応しながら、自分は万能ナイフを銃の形に戻す。『念動力』で落ちた弾を再び装填しておいた。


 同じ攻撃をしてくるとは思えなかったのでそうしたのだけれど、敵は再び周囲にばら撒く様に裂け目を生み出した。耳に衝く様な音が連続で響く。


 規模、数こそ大きいがそれは普通の魔法だ。魔族の魔法程度なら怯える理由にはならない。


 裂けてから撃ち出されるまでの時間を利用して、自分は裂け目の中の魔法陣に銃弾を撃ち込む。


 普通はできないかもしれないが、この銃だって普通ではない。


 撃ち出された銃弾は裂け目の向こう側の魔法陣に当たるとその魔方陣が砕けて消えた。裂け目は逆戻しの様な光景で消えていく。


 ………。


 裂け目を造りだす魔法と、裂け目の中にある魔法は別物なのかもしれない。


 『影箱』から銃弾を『念動力』で取り出して銃に装填しながら、次々に魔法陣を撃っていく。限りなく裂け目が生まれ、その中に魔法陣を抱える形だったが、ただ一つとして魔法を撃ち出せたものはなかった。


「相変わらず化け物の様な動きだな」


 銃をロングソードに変えながら真後ろを斬りつけた。


 今の声は自分の物ではなく、突然生まれた物だったからだ。


 弾薬を吐き出しながらロングソードに変わった万能ナイフを斬りつけると、すぐ後ろにいたはずの声の元が横に滑る様に移動して行くところを見た。


 いくつかの弾薬が地面の石にぶつかったのか、高い音を立てた。


「誰だ?」


 轟獣の革や稀少な鉄で作られたらしい鎧を着た、仮面を被った人間だった。


 赤銅その物の様な赫髪、不健康に見える肌色。どこか見覚えのある姿だが、その見覚えのある相手はもうこの世にはいない。


 となれば目の前のそいつは別人の筈だ。

 鎧は冒険者に多い関節の動きを妨げないような物で、両腕は剥き出しである。その代わりにとばかりに下半身はやたらごつごつした守りの、風変わりな鎧である。


 仮面は木で作った物なのか、砂色に近い色で、目の部分に一筋の裂け目がある飾りのない形だった。


 「相変わらず」、こいつはそう言った。仮面の効果なのか声は籠っていたし、肉声には聞こえなかった。多分魔法で誤魔化しているのだろう。細い男性ともがっしりとした女性とも取れそうな外見に、明らかに魔族としての武器の扱いを知っている様な鎧。


 鎧は綺麗だが使い込まれた形跡を見てとれたし、その立ち姿に武術の影響を認める事が出来る。


「五百年前なら、魔族の寿命ならもう子か孫の話じゃないのか?」


 『念動力』で弾薬を『影箱』に入れながら、自分はロングソードを構える。


「お前が死ぬ直前に教えてやる」


 籠った声のくせに、それが嘲笑の類だと言う事は解った。

 さて、どうした物か。


 ………と言う雰囲気を出しながら相手に合わせる筋合もないので『解析*数値化』で調べる事にした。魔族には名字とかがないので名前とか調べても誰が誰の親とか血縁とかが分かりづらいけれど、相手の特徴から調べる事が出来るだろう。



ありがとうございました。


文章や表現などで解り難い所も多々あると思いますが

お読みいただきありがとうございます。

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