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チート+チート もう一度英雄  作者: 加糖雪広
第二話 過去+復讐
38/99

+超………=

+ + +



 レナリは昼近くになっても目覚める様子がない。

 一応目覚めた時の為に雑炊風の食べ物を準備してみたのだけれど(麦粥のよーなもの)、これは気付かれない内に自分で処分した方が良いだろう。


 ホーグはやはり帰ってきていないので自分で昼を作る。


 ホーグの料理ならやる気も出るけれど、自分の料理の才能の無さを考えるとフライパンを準備する手も遅くなると言う物である。


 相変わらず肉を焼く位しか出来ないので、イノシシ肉に塩コショウで食べる事にする。


 エニスはせっせと狩りに出て、影箱が溢れるかと思う程獲物を詰めてくれるおかげで肉が無くなる事はない。今の所かなりの量が入っているはずなのに、エニスはせっせと入れている。


 限界がないのだろうか?


 ジルエニスの授けてくれた能力なのでその可能性もあるような気がした。


 鹿肉よりもイノシシ肉は脂が多いので肉を火に掛けるとバチバチ脂が飛ぶ。


 癖の強い香りがぶわっと広がると、頭ばっかり使っていた(進展のない頭脳労働とも言う)と言うのに腹が鳴り出す。

 塩コショウよりも醤油とか使った方が旨くなるかもしれない。


 肉の匂いを感じたのか、轟獣のイノシシを引きずってエニスが帰ってきた。


「まだ焼けないぞ?」


 神樹が植樹された森でもそうだったけれど、エニスは火に掛けられたフライパンに鼻を寄せても熱がったり全くしない。前は火に掛けていた味噌汁の入った鍋をそのまま前足で抱えて食べてたくらいだから相当な熱さにも耐えられる、と言うか気にならないのだろう。


おん!


 フライパンの肉を手の動きだけでひっくり返すと、イノシシの方が油分が多いのか表面がカリッとした感じになった。


「………鹿肉の時も同じ事考えてた気がする」


 テフロン加工なのが凄いのか、肉は焦げ付く事もなく旨そうに焼けた。


「おはようございます」


 肉の匂いにつられたのはエニスだけではなかったらしい。

 レナリもテントから出て来た。


「腹減った?」


「はい」


 消え入りそうな声での返答だった。



+ + +



 超回復と呼ばれる現象は人にも起きる事であるけれど、竜人(人に竜の特徴を足した姿。レナリの場合は目の瞳孔、手の甲の三枚ずつの鱗、小さな尻尾がある)のレナリの場合なのか、それとも違うのかはわからないけれど、相当に暑い思いをしていたらしい。


 密かに処分しようとしていた失敗としか思われないだろう雑炊風の鍋も含め、レナリは綺麗に食べきってしまった。


 ホーグの作った物と比べても食べる速度が速かったのは、それだけお腹が空いてしまっていたのだろう。可哀相に。


 量を食べない方だと思っていたレナリは、正味大人四人分ほどの食事を摂った。ばくばく、と音が付く程の食べっぷりで、自分は途中から肉焼き係になっていた。


 レナリは闘奴候補だった時、ろくな生活も送れずにいても美少女と呼ぶに充分な見た目だったが、超回復の作用なのか、すべすべとした肌の質感や髪の毛の色艶が格段に向上しているようだった。


 緑、と思っていた毛髪は艶とコシが生まれて『翠』色に、一筋ある赤の部分は紅玉と呼ぶべき色になっている。


 身体を洗う事を教えたのもあるのか、翳りのある大人っぽい美少女と言った顔立ちも更に綺麗になり、年相応に(おさなく)なった。以前は栄養不足だったり不衛生だったりで(あれでも)美少女だったのに、美少女以上、安っぽい言葉に感じるけれど超美少女になっていた。


 食事を終えて満足げにしている姿は、足を投げ出しお腹を片手で抑える「はしたない」と言われそうな姿なのに、とても画になる。前にシーツだけ体に包んでいた時よりもずっと健康的でのびやかな姿である。


「ごちそうさまでした」


 急に身繕いして丁寧に言われても笑えてしまう。

 もちろんこんな時そんなところ出さないで普通に返事をする。第一世界で魔王を討滅した時、女性とも一緒に旅をしていたので、言ってはならない事、察するべき事は学んでいるのだ。


 『神弓』と呼ばれた長耳長命族(エルフ)の少女は天才と褒めると嬉しそうにしていたけれど、食べている時に顔を見られるのを酷く嫌っていたり、蛇人の大魔法使いはお酒を呑んでいる時は隣に座ってはならない。ニリは不作法を見ても見ぬ振りをする。


 女性の扱いを知らなかった自分が学んだ、処世術である。


 藪をつついて蛇が出るなら食ってやるけれど、魔神が出てきたら逃げるしかない。



+ + +



 午後になり、一度汗を流したレナリは再びエニスとの実戦訓練を始めた。


 昨日の苦戦が嘘のように、嘘のような光景が広がっていた。

 エニスは一切変わらないが、レナリの動きが桁違いに良くなっていた。


 自分が早々に諦めたエニスの動きを、視線を動かして捉えている様だ。身体の動きはまだ追いついていないが、始まってから十分ほど経つがエニスは一度も尾を振っていない。多分打ち込むべき隙がないと言う事なのだろう。


 レナリは瞳孔の形から横の動きに弱いと思われていたが(瞳孔の裂け方で、目で追える範囲の強弱がわかる。ヤギのように横ならば横の動きに強く、蛇やレナリの様に縦の場合は縦の動きに強い。)、自分の知らない理屈なのかそれともレナリが優秀な動体視力を持っているのか、エニスの光が瞬く様な動きを目で追い続けていた。


 あれほど目が良いのなら、自分の様に直感で動く必要はないだろう。


 相手の目の動きや音などから予測する事で自分はエニスに追い縋っていたにも拘らず、レナリはそんな無謀な手は使う必要がないとばかりに動いている。


 『黒塵の兵士』セットがなければ、身体も追いついてしまうのではないだろうか?


 ………、身体能力の成長がバカらしくなってしまう。

 自分は今の強さを手に入れるまでどれだけ時間を掛けたと思っているのか。レナリは三日目で子供から大人よりも大きく、門前の小僧から達人のように成長していた。

 かなり口惜しい。



  ◇◇◇◇◇◇◇

レナリ(乗人(竜))

    体力 D―C

    魔力 D

    理力 |

    筋力 B

    身軽さ D―B

    賢さ D―C

    手先 D

    運 E

 装備品 『黒塵の兵士』セット

   一般的な平民の服のセット


 特殊能力

  前世の残滓

   例えどんなに苦しい思いを

   しても、この思いを遂げず

   にはいられない。

   前世の記憶との重なりに

   よって記憶や能力を

   引き出す。

   代償に不幸を得るが、

   彼女にとってそれは些末な

   問題である。

 不幸

   自らに呪いをかける事で、

   常軌を逸した願いすら

   叶えてしまった。

   これを払拭できる現実的な

   手段はない。

  ◇◇◇◇◇◇◇



 解析してみたら瞠目する羽目になった。



 ちなみにステータスのアルファベッド表記は、

 適正なしを(-)、

 虚弱(E)、

 一般的(D)、

 優秀(C)、

 非凡~達人(B)、

 異常(A)、

 神がかり(AA)、

 それ以上の測定不能域(AAA)として考える。それ以上のEXは神域だろう。



 ………と考えているのだけれど、昨日までの二日間でレナリは闘技場で戦うに充分なステータスになっていた。下手をしたら自分がトーナメント初戦で戦った、………名前が出てこない蛇か狼みたいな奴とだって拮抗する戦闘能力である。


 単純な力比べ、腕相撲なんかだったら(日本で言うアームレスリングではなく、和国で行われた腕だけを使った相撲の事)二回戦で戦った『両極の境地』を体得していた警備兵総隊長の男とすら戦える程だろう。


 体力と賢さが一般的から優秀に。

 身軽さに至っては一般的から達人に。


 装備品の上昇はこのステータスに反映されていないけれど、『黒塵の兵士』セットではなく、彼女に見合ったきちんとした装備をしていれば、とてつもない戦闘力があると言う事だった。


 強い種族だからと言ってもこれではテレビゲームのRPGで言う『養殖』ではないだろうか?


 この分だと次に異世界人と出会って戦闘になった場合、前線で戦う事が出来る様なステータスになりそうである。





 レナリは肩に振られたエニスの尾を槍で防いでいた。

 身体の向きはまだ正面を向いていなかったにもかかわらず、エニスの攻撃を防いだのだ。


 その時微かに、レナリの表情に安堵の様な、してやったりと言った様な表情が浮かんだ。


(視線は間に合うけれど、身体の動きがおいついていない、………と言う演技か?)


 『黒塵の兵士』セットは呪装と呼ばれる装備品で、セットで装備すると呪いが発動する。この装備の場合重量増加、普通の人間が装備した場合身体を動かす事が出来なくなる(セットで装備した場合のみ、装備品の重さが本来の五十倍以上になるのを既に解析している。)呪いが掛かっており、竜人のレナリでもなければまともに使えないような装備品である。


 エニスがそれを知っていると見越して、身体が付いて行っていないと思わせる作戦をレナリは実行していたようだった。


おん!


 その微かな表情の変化に気付いたのか、エニスは楽しそうに、そして少しだけ不敵な声を上げた。


 その声は自分には「少しだけ本気出すよ?」と言っているように感じた。

 エニスの攻撃は今まで明らかな隙に尾を振ると言う攻撃だった。


 しかしそれからエニスの攻撃は二連撃になった。


 隙を作るための一度目、そして防がせることで出来た隙に二度目。そういう攻撃に変わったのだ。初めの内こそ何とか防ぎ続けていたレナリだったけれど、結局それから十分ほどで再び力尽きてしまった。


「やりすぎじゃないか?」


おん!


 筋が良い。と言う言葉だった。

 エニスは少しだけ本気出す、と言う言葉の割に全く疲労を感じさせない動きで自分に飛びついてくる。


 レナリが気絶するほどの攻撃を繰り返したのに、解析しても怪我の一つもしていないように気を遣っているのだから多少は疲れても良いだろうに。やはり獣神は伊達じゃないと言う事だろう。攻撃方法を変えてから、エニスは二回の攻撃だけでじゃれていた。


 これが一度だけの攻撃を絡めだすと、多分レナリはもっと早く倒れていただろう。


 再び汗浸しになったレナリをどうするか悩んだ挙句、結局『念動力』で汗と皮膚の老廃物を除去してテントの中に横たえる。


 今回も相当厳しかったようだから、少ししたらエニスに乗せてここから移動しよう。

 ホーグが帰ってこないのは不安だけれど、ここを離れてもすぐに見つけてくれるだろう。



ありがとうございました。

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