+『神炎魔法』=
+ + +
おおう!?
目覚めた自分は、一瞬で意識までもが覚醒していた。
エニスに包まれ、レナリを包んでいた。
おん!
エニスが鼻を顔に押し付けてくる。
「おはよう」
元の大きさに戻ったエニスの、神様が作ったような上質な感触(ジルエニスが生み出したのだから神様が作った感触だけれど)は自分の眠気を誘うに充分な兵器だったようだ。
レナリは酷く汗ばんでいた。前はひんやりしていたのに、今は熱すぎる。
起こさないように解析を掛けると、超回復と言う日本で習った身体が成長しようとする熱である事がわかる。この間は無理に動く事が出来ないと言うので、周囲を見る。ホーグはまだ帰ってきていない様だし、レナリに無理をさせるわけにもいかないだろう。
「エニス、レナリの事お願いできる?」
おん!
イヤダて。
レナリを抱え上げてテントに運ぶ。その間に念動力で彼女の汗と老廃物を取り除き、首の所にタオルを巻いておく。
食事の支度、………してみるしかないか。レナリの身体が頑張っているのだから何か準備しておくべきなのだけれど………。
彼女の手が、自分の革の衣服を手の色が変わるほど強く握りしめていた。
さて、どうした物か………。
そう言えばホーグは何処にいるんだろうか?
+ + +
「On-Naumarisanmanda-Basaratankan」
その頃のホーグ。
森の中であれば気付かれないような一本の巨木、その姿を採っている『植物の神』とガチンコ中である。
地面から無数に伸びた子供の胴よりも太い蔦に全身を束縛され、その数本は彼の腹を貫いていると言うのに、彼の表情には痛みや焦りと言った感情の一切は覗く事が出来ない。
動きを阻害され、腹を貫かれ、それでも止まる理由のない彼は『口頭詠唱』にて神の模倣を行う。
それは、火の神が好む『浄炎』や『神炎』と呼ばれる黄金色の火を呼び起こす魔法だった。
不帰の森と呼ばれるヒロ達がいるユニゲン大陸とは違う大陸にある深き森に、黄金色の炎が意志を持つ蛇のようにのたうち、舌をちらつかせる。
ホーグの真上に生み出された力を招くための『孔』から、その孔と同じ太さの、巨木の幹と同じほどの炎が吐き出された。
あまりの熱量に、ホーグを絡め捕っていた蔦が焦げる間もなく蒸発する。
「『神炎魔法』」
自由になった手を、鋭く伸びた綺麗な指先を、ホーグは一点に向ける。
完成した炎は、神ですら抗いがたい力がある筈だと言うのに、その真下に立つホーグには一切の熱が通っていないように見える。しかしそのはずはなく、彼の腹を貫いていた蔓でさえその炎の余りの熱量に焼滅した。
「燃え散れ」
フードに手をやり、落ちぬようにすると同時に、神炎魔法が象った黄金の蛇が巨木に倒れる。
太陽にすら届く熱量の籠った炎は、神であれ耐えられる様な物ではない。植物の神が植物であるのなら、火の神もまた、火である。どんなに水分を多く含んだ植物でも、燃えない植物はないのだから。
「我が主の為に」
ずおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
不帰の森全体があげたのは、悲鳴だったのか。
それとも植物の神があげた苦鳴だったのか。
〔待て、これ以上燃えてしまえば神格を保つ事が適わなくなる〕
「私の勝ちと言う事で良いな」
不帰の森その物が震えて、言葉に聞こえる音を作り出す。それを聞いてホーグは表情一つ変えず返答した。
この森はその全てを持って『植物の神』と言う形を持っているらしい。日本で言えば四国と同等の規模の森は、その森全体を持って植物の神なのだ。
その中心、森の中央に位置するのはモミの木に似た巨木で、寒さに強そうな植物であるが、既に三割の枝葉が燃え落ちていた。
「私には時間がない。この後食材の神にも会わなければならないのだからな」
〔神を神とも思わぬその言葉、いつか罰が降るぞ〕
「罰を受ける事で我が主に一時の安寧が訪れるのであれば容易い。神と争う事になって我が主が喜ばれる事があるのなら望むところ」
〔鬼神よ、神の一柱に昇る事なき鬼神よ、その植物のどこにそれほどの価値がある?〕
「我が主に捧げる供物よ。植物の神、そなたもここに踏み入る生き物を糧にするであろう?
この植物は我が主が求める糧だ。仮に手を加えて我が主に害なす物、味の落ちる物を作ってみろ、この大陸丸ごと消しても私の怒りは消えぬぞ」
フードの奥から覗く眼光には、一点の曇りもなかった。
〔そなたは狂神であったか〕
植物の神は神の坐に立って初めて恐れ戦いた。
+ + + + + + +
「う~~ぬ」
万能ナイフを銃の形にして、空の弾倉に弾を詰め込むように念じてみる。
しかし弾倉に弾が装填される事はなかった。
「う~~ぬ」
影箱から弾を取り出そうと念じると、軽く握った空き手の掌に弾が出てくる。
影箱から道具を出す際、ポンと撃ち出された弾を空中で銃に装填して使ってみたいと思っているのだけれど、影箱から荷物を出すとき、擬音にすると『にゅるち』と言うちょっと粘っこい音のする様子で出てくる。漫画とかだと空中装填の方が恰好良いと思われる、…と思っているのだけれど、流石にそれは再現できない様だ。
空中に飛び出した弾を銃に装填なんて神業だろうし、今の自分にできるとも思えないけれど。
素直に手で弾を銃に装填して構える。
弾を込めた状態で万能ナイフに戻したらどうなるのだろうか
?
すると変化の最中に弾が吐き出されるように地面に落ちた。一度造りだした物はもう万能ナイフにとっては異物に当たるのだろう。
これを考えると万能ナイフから出てくる物は万能ナイフの一部の形を変えて造りだしているのではなく、万能ナイフが新たにゼロから生み出している物であると予想できる。
影箱もそうだけれど、ジルエニスにもらった特殊能力や装備品も、もっと使いこなせる余地がある様だ。と言うより、未だに全く使いこなせていないと考えるべきだろう。
『ステータス確認』や、『解析*数値化』もステータスの上では(改)と言う表記があるので多少は自分寄りになってきているはずなのだけれど、こちらもまだ納得いかない点もあり、より深い研究や練習が必要だ。
「う~~ぬ」
足元の影から銃の弾を出し、念動力を使って手に取る。
これでなら漫画みたいな使い方も出来そうだ。
再び万能ナイフを銃の形に変え、念動力だけを使って弾倉の露出、弾丸の装填、組み立て、と続けていく。
集中して目で見なくともこれが出来るようになれば、他にも使い道がたくさんできるのではないかと思う。念動力を使う事は疲労にはつながらないけれど、どうしてもそれに集中しなくては使えないので、戦闘の手段に織り込む場合は自分の動きがない時か、相手と少し離れた位置でなければ使えない。もっと自分の見えない手を使うような感覚で使う事が出来る様になれば、異世界人の相手も楽になるだろう。
銃の機構を持った剣や槍なんかもあったら面白いと思うのだけれど、混成武器は使いこなせない場合持ち腐れと化すと思うのでそちらは考えないようにする。やってみたいけれども。
念動力で言えば、見えざる手を使うと言うのが難易度を高めている気がする。ステータスにある視覚フィルターで理力を見える様にしてみてみると、見えざる手、と言うより触手の様な物がうねうねしていて見たいとは思えない。
この触手、どうにかできないだろうか?
試しに触手の一本を念じてみると、グネグネした動きをして形が変わる事が解った。
一応、腕の様な物にしてみたけれど、自分の念動力で生み出せるこれは最高でその数、百十である。触手だろうと腕だろうとそれだけあれば結局気持ち悪い代物である事を考えて諦めた。
でも目で見る様にした事で、感覚的に使うのが楽になった気がする。
今まで漠然とした考えで行っていた念動力の作業も、この触手たちが一生懸命頑張って行っていることが分かったけれど、レナリの汗処理とかにこれを使うのは控えたいと思うようになった。いかがわしいので。
フィルターで確認しながら念動力を使って銃の装填を繰り返す。
使えるようになって直ぐの頃、念動力では万能ナイフを浮かべる事すらできなかったが、銃の形態の万能ナイフに弾を装填する作業は難しい事ではないらしい。
そう考えると、万能ナイフの形態に意味があるのだろうか?
それとも自分の念動力の強さの問題だろうか?
一応ステータスの上では自分の念動力の強さはEXである。1から3、小文字のex、大文字のEXと続くので強度としては最高の物の筈である。元からそうだったのでさらに強くなった、とは考えづらいので、自分が理力の運用に成長した、と言う事だろうか?
アルファベット表記ではAAから成長していない理力の数値であるけれど、数字表記にすると少し、と言う位ではあるが変動している。
EからDの成長より、AAからAAAへの成長の方が難しいのは当然なだけに、自分のステータスは気軽に上がった事が多かったがこれ以上は滅多な事では上がらないやも知れない。
こう考えていくとやはりステータスとは別に、特殊能力や魔法、現理法に装備品など、使いこなせるようにならなくてはならない。
そして考えが頭に戻るわけである。
召喚魔法が手詰まりを起こしており、闘技場出掛けに聞いた謎の声の答えも解らず………。
「う~~ぬ」
出来ることを出来る範囲でよりできる様に。
武器をもっとうまく、魔法(一部)をもっとうまく、現理法(一部を除き)をもっとうまく。
やはりここは万能ナイフを使い込む事にしよう。
ありがとうございました。
今回の二話ではホーグの出てくる辺りはギャグパートのような感じになります。




