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チート+チート もう一度英雄  作者: 加糖雪広
第二話 過去+復讐
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+サービスタイム=

レナリのお話です。

+ + + + + + +



 全身が火照っていて、その辛さでレナリは目覚めた。

 ぼんやりした頭で考えると、エニスと訓練をしていた所だったはずだが、月の時間になっていると言う事は自分が気絶したのか………。


 闘奴候補だった時と、ここは変わらないな。


 レナリは思う。

 気付けば次の日になっているというのは、彼女からすればよくある事だった。


 ただ、怪我をした様子がないのは違う点だった。装備の上から怪我をしないように配慮された攻撃は、喰らった瞬間こそ足が消し飛んだと思ったり、肩が()げたかと思う時もあったが、動かしても痛みはない。エニスは手加減していたのだと知った。


 テントの中は一人で寂しく感じる。

 物心がついた時から誰かが傍にいて当然だったレナリに、一人で眠れと言うのは怖い物である。


 テントを出ると、研究に精を出していたらしい大事な人が、エニスを枕に焚火の傍で転寝(うたたね)していた。


おん!


 エニスの耳には届かない吠え声は、レナリには届いていない。

 それでも何か言われたような気がしてレナリは焚火の傍にやって来る。


 ヒロの隣に座ると、長く美しいエニスの尾がレナリを包む。

 ヒロはエニスにもたれかかる形で寝息を立てていた。その顔を見るだけで、レナリはふんわりとした気持ちになってしまう。


 レナリには美しい物やそれ以外の物と言う考え方はないが、仮に言葉にするのであればその寝顔を綺麗な物と思ったかもしれない。


 身体は火照っていて暑いはずなのに、自然な動作でヒロの体温を探してしまう。

 少しずつ、どうして良いか彼女にはわからないが、ゆっくりとヒロに身体を寄せていく。その間も、その寝顔からは目が離せずにいた。


 溜息の様な息が一つ、ヒロから溢れた。


 その香りを知りたい、レナリは思う。


 触れ合った肩先が酷く暑い。いや、熱い。


 胸の鼓動を、伝えたい。

 レナリは自分の中に、こんなにも厚かましい気持ちが眠っている事を知らなかった。でも、その気持ちの言うとおりにすれば心地良い事も、知った。


 首筋に額を添えるようにしてヒロにもたれかかると、彼女の鼻に彼の汗の匂いが届いた。人の汗の匂いに心地良さを覚える自分の変化に驚きながら、それでも止めたくなくて、レナリは瞼を閉じてヒロの匂いを胸一杯に吸い込む。


 武芸者たちの臭いと同じ男性の臭いなのに、この匂いは全く嫌にならない。吸い込む程、身体の奥が大きくなって行くような、甘い様な、痒い様な、不思議な気持ちになる。


 闘奴候補の子供達はみんな、同じ気持ちだったのだろうか?


 人熊の子や人虎の子は、彼から離れたがらないのは、自分と同じ気持ちだったからだろうか?





 ………いやきっと違う。





 子供達は彼に見覚えのない父や兄の様な物を感じていたはずだ。

 きっと大きな人に寄りかかる安心を、この人から感じていたはずだ。


 自分が感じているのは、少し違う。

 夜な夜な自分を傷付けていたエイラと同じ物ではないか、そう思った。


 旅立つ前、彼女と目で通じ合った。

 彼女の眼には、置いてけぼりにされる口惜しさと、レナリに対する羨ましさが込められていた。


 エイラは話さなかったが、彼女はきっとレナリと同じだけかそれ以上の酷い事を武芸者にされていたはずだ。ヒロの横で眠りについた時、彼女は今まで見た事もない色の瞳で彼を見ていた。きっとレナリが知らない特別な気持ちの篭った瞳で。


 『お風呂』を教えてもらった時、エイラは彼に抱き締められ、撫でられていた時とても大きな気持ちの変化があったのはレナリにも解る。


 それがレナリには解らない気持である事も、何となくだけれど解る。


 武芸者や教官役の闘奴にされたことを、ヒロにされたとして考えてみる。


 今までそれが何か、されたくない事だと思っていたレナリにとって、ヒロにされたとした時の説明できない甘い感覚が浮かんでくることが衝撃だった。


 レナリはヒロの手を、彼を起こさないように気を付けながらとってみる。


 闘奴と比べても深く使い込まれた手は、タコや傷跡がたくさんあるのに、それがとても神聖なものに感じた。


 その手を抱きしめるだけで、レナリはずくずくと胸の内が暖かく、いや熱くなる感覚を覚える。


「はあ………」


 思わず息が溢れた。


「うん? 眠れないのか?」


 優しい声が、遠くから聞こえてきた。

 それがヒロの声だと言う事に気付くまで、大分時間が掛かってしまった。


「あの」


「疲れたろ?」


 抱きしめた腕が解かれ、悲しい気持ちになる。


「一人で寝るのが寂しいのか?」


 そう言ってその腕が自分を抱きしめてくれた時、天にも昇る気持ちと言う言葉が本当の言葉であると言う事をレナリは初めて理解した。


 寝惚けているヒロが、闘奴の子供達が横に寝ている時、自然と手の動きで抱きしめてくれたり、優しくぽん、ぽん、と鼓動の律動と同じ動きでしてくれるのと同じことをしてくれているのだけれど。


 涙が溢れそうなほど幸せだと、レナリは思った。

 少し無遠慮に、レナリは全身余すことなくヒロとくっつける事が出来る様に身を寄せる。


「ショイトみたいだぞ?」


 人熊の子と同じと言われて、ちょっと悲しかった。でも、くっつく事が出来るならそれでもいい。

 身体は火照って暑いはずなのに、こんなにも涼やかで、甘やかな気持ちになれるなら、それでいい。溢れた息の中に、自分の温度がたくさん詰まっていたのだろう。涼やかな気持ちは彼女の表面を冷やしてくれた。


 目尻に知らず浮かんだ涙は、蒼い毛先が拭ってくれた。


 幸せだ。


 ごめん、エイラ。


 その気持ちの隅で、別れることになった仲間の顔が浮かぶ。

 でも、止められなかった。


 冷静に成れた部分と、変わらず渦巻く熱さ。

 どうしたら良いか分からない気持だけれど、このままでいれば安心だとレナリは思った。



ありがとうございました。


主人公以外の人々を読んでいただいている方々に気に入ってもらいたく、

こんなお話にしてみました。

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