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チート+チート もう一度英雄  作者: 加糖雪広
第二話 過去+復讐
35/99

+周囲の存在=

+ + +



 この世界の『魔法』とは、『魔族が見つけた法則』、と言う意味である。


 超越種(長命種と呼ばれる千年単位の寿命を持ついくつかの種族や竜など)や神の模倣によって、魔力と言う力を現象に変える、それが魔法である。


 魔界と言う言葉に嫌な印象を受ける人もいるだろうけれど、少なくともこの第一世界の五百年前は魔界の住人の魔族と人(乗人、獣人を含む)は共存共栄していた。何より、魔法を人に伝えてくれた魔族の功績は大きく、身体能力以上の成果を出せるようになったと言うのが人にとってとても大きな事である。


 仮に足が悪くなって高所での作業が出来なくなってしまった大工がいたとして、


 仮に老いで弓が使えなくなった狩人がいたとして、


 魔法を使って(しもべ)を作り出し、作業を代わりにやらせる事が出来るようになった。


 魔法を使って罠を作りだせるようになった。


 宗教的な問題などの理由で、欠損した腕や足をそのままにしている人達だって、魔法の力を使って仕事を続ける事が出来たし、兵士として前線に立ち続ける事も出来た。


 魔界は少々変わった世界の為、複数の理由で灰汁が濃い植物や生物も多いので、魔法を教える代わりにこちらの食糧を貰うと言う形で共存できていたのである。








 なぜこんなことを反芻しているのかと言うと、自分は魔法で手詰りを一つ起こしている。

 と言うよりも、手も足も出せないでいると言う方が良いだろう。


 だから魔族の誰かに魔法を見てもらいたいと言う状況だ。

 しかし魔王の関係で魔族は今魔界に籠ってしまっているらしい。五百年も経っていればまた仲良くしていると思っていたのだけれど、そう簡単な事ではないかもしれない。戦争した両者の間に残る物は見える物以外にもあるのだろう。


 乗人化している人もいる様なので探せばこちらでもいるかもしれないが、魔王が現れる前に比べるとマップで見る限り魔族は大半がいなくなってしまっていた。食料とかいろいろ大変なのではないかと思うけれど、魔界へはいつか知り合いに会いに行く必要もあるかも知れない。こちらにいる魔族と人の混血は魔法に詳しくないかもしれないし。


 魔族には長命種はいないが、魔界に住んでいる竜は結構いる。もしかしたら五百年前の自分を知る竜がいるのではないかと思う。人よりも魔法に詳しい竜や魔族に色々と聞きたいと思っているのだ。


 検索を掛けても解らない事が最近増えてきている。

 そのため手を出せない部分もそのままにしてしまうしかない状況なのだ。


 手詰まりしているのは『召喚魔法』の(2)と(EX)の事である。


 (EX)には当てがあるので一旦置いておくにしても、折角使える筈の召喚魔法は未だ進展がないのだ。

 と言うのも、召喚魔法と言うのは魔法の中でも変わり種で、(現理法の聴取と言い、自分は風変わりな能力が多い)呼び出す物と自分を繋げると言う工程が必要になるらしい。

 特定の相手と自分を繋げる事が出来ない限り、どれだけ魔力を練っても召喚魔法は完成しないのだ。


 『召喚魔法(2)』が呼び出せるのは精霊や英霊、この世界にいるけど目に見える事のない存在であることは解っているが、どうやってその相手と自分に繋がりを作るのかいくら調べても答えが見つからないのである。


 これが単純な攻撃に使える様な魔法だったりすれば、色々試す事も出来るかもしれないけれど、この召喚魔法の場合はどうやったらいいか想像もつかないので全く進展がないのである。



+ + + + + + +



「食料、………『白米』か」


 人の目には広いのか、狭いのかすら解らない異常な空間。

 その『部屋』の主ジルエニスは突然やって来た新たな連絡係の言葉を聞いて眉をしかめていた。


「我が主はハクマイと言う物を求めているとの事。私はヒロ様のお悩みを取り払いたい」


 ホーグはそう作られた事情があり、ジルエニスに対する忠義の欠片もなく、その全てをヒロのために尽くす様に出来ている。


 ただジルエニスが眉をしかめているのはその態度にではなく、ホーグの出した注文に対してである。


「彼の生まれ育った無管理世界からそれを呼び出し、私が第一世界にそれをもたらしたとしても、彼をそれが口にするまで何十年掛かるか分からないな」


「それでは遅すぎる。貴方とて紅茶を嗜むだろう、ジルエニス。それが趣味でしかない事なのだとしても、好きな物を味わうと言う行動に意味があると感じているはずだ」


「万能ナイフなら、それを生み出す事も出来ると思うのだけれど」


 ヒロは万能ナイフに何か決まり事を設けているらしく、調味料に値する物は作ったが、食材その物は出していない。


 確かにジルエニスは味覚を持っていて、休憩には紅茶などの嗜好品を摂取する事もある。実際には全く必要のない行動ではあるが、そこに気分転換の意味合いを含めている。


 彼の場合、ストレスを感じたり疲労を覚えたりしても、自分を『復元』する事が出来るのでその行動は全くしなくても構わないにも拘らずだ。


「第一世界の神に『食材の神』がいる。

 その神に世界の一段上、神界を作ってそこで食材を作らせてみてはどうだろうか?」


 たった今、第一世界に新たな部分が生み出されることが決まってしまった。


「確かに我が主には衛生面でも栄養面でも問題のない食事を摂っていただきたい。しかしそれで間に合うだろうか?」


「『白米』の情報体を造り、それを『植物の神』に渡して生み出させればいい。

 第一世界の時間で五日もあれば白米を彼が食べる事ができる筈だ」


 ジルエニスは、ヒロにダダ甘だった。


「それでは遅すぎる!」


 ホーグはそれよりもさらにダダ甘だった。


「食材の神は仕方ないとして、植物の神は意外と好戦的ですからね。

 力で従わせればいいのではないでしょうか?」


 今の貴方ならば負けはしないでしょう。そう言ってジルエニスはホーグを見る。


「植物の神を従わせたとして、我が主がハクマイなる物を食すまでにかかる日数はどれほどになる?」


「最短で三日、と言った所だろうね。

 私はこれから神界を作るよ、一時間以内に作れれば最短で二日に出来る」


「うむ、それならば我が主に顔向けできると言う物」


 万人を虜にしてしまいそうな美しい微笑を浮かべ、ホーグは満足だった。


 フードが震えている。

 ローブのフードはゆったりとしていて大きい形で、ホーグはこれを常に被っている。これには特殊な事情があるのだが、フードが震えたのはそれが原因である。



+ + + + + + +



(まばた)きと息を重ねるな。

 無暗やたらに体勢を崩すな。

 相手その物を見るんじゃなくて全体を捉えるんだ」


 戦いの極意、とバフォルが思っている事はこの三つだった。

 出会った日の明朝から、バフォルは少年に戦いの手解きを教えているのだが少年には戦いの経験があるらしく、本当の意味で剣の使い方だけが必要であったようである。


 訓練として模擬戦を始めてみれば、バフォルの見立てではこの少年、なかなか筋が良い上に、長柄武器を使い込んでいたのではないかと言う動きを見せる。


「ほら、武器を合わせるのを嫌がっているのが解るぞ」


 剣も鎧もない状態の少年と木切れを持っての訓練であるが、少年の手並みに光る物を感じた。同じ大きさの木切れを使ってはいても、バフォルは柄の部分で攻撃を受け、反撃に出るため少年よりも更に踏み込む必要がある。


 少年はそれを嫌い、武器を合わせようとすると弾いて距離を造ろうとする動きが多いのでバフォルは少年の開いた足の間に自分の足を踏み込む程距離を詰める。


 同程度の間合いがある筈なのに、お互いが使う部分に違いがあるため少年はバフォルの動きに上手く合わせる事が出来ない。


「槍でも使っているつもりか?

 相手が近くにいるのなら反撃しろ」


 足の間にまで踏み込まれた少年がへっぴり腰になった所を、バフォルは柄で肩を強打する。初めから後傾姿勢だった少年は堪らずに転んでしまうのは当然の事であった。


 少年は、

「相手は待って、」


 続けて柄を振り下ろすと、少年は木切れを盾代わりにそれを受けた。

 追撃の恐ろしさを知っている。

 少年は剣以外での実戦経験は豊富の様だった。


「くれないもんな!」

 と返す。


 盾代わりに使った木切れを捻じるように動かし、バフォルの木切れを巻き込む様に動かすのは、近接戦闘の槍や棒杖に多く見られる動きである。


 バフォルは木切れを巻き込ませるままに、少年の胴を軽く蹴り飛ばした。


「ぐふ!」


 尻餅をついたままの少年は二・三度と転がりながら苦悶の表

情を浮かべているが、木切れは離していない。


(思ったよりも早く物になりそうだな)


 少しだけ残念に感じる事に気付かない振りをして、立ち上がろうとする少年にバフォルは追撃をかけた。



+ + +



「剣を使わずに槍で戦えばいいじゃないか」


 確かに立派な剣である。しかし上手く使いこなす事が出来ない武器で戦うより、使い慣れた物を使って旅を続ける方が安全だろう。特に少年には一流の代物と思われる鎧がある。目の醒める様な蒼の色彩に騙されそうになるが、関節を守る様に張られた当て布や蝶番も使わずに全身を守る様に作られている点、ドワーフが作る鎧だってここまでの物はないだろう。少年のために作られたとしか思えないような、完璧な鎧である。これを着ているだけで充分ではなかろうか?


「は―………」


 訓練に耐えきれず倒れたままの少年が、まだ呼吸も整っていないのに立ち上がる。


「この武器じゃなきゃダメなんだ」


「そうか」


 冒険者や猟人にも、他人には理解されない流儀や自己規律を持つ者がいる。


 少年もその手合いなのかと思ってバフォルは納得する事にした。


「実戦経験もある様だし、このままならあまり教える事はないな」


 つい熱が入って少年を蹴り飛ばしてしまった。そうする事が必要だと、頭ではない部分で直感しなければこうはならなかっただろう。

 筋は良い。

 経験もある。

 経験したのが槍を持ってでなかったら、教える事は何一つなかっただろう。


「捻じる動きよりも、打つ動きを知らなくちゃダメだな」


 剣の時、柄尻を打って戦う方法は少年には馴染のない物であり、その感覚を物にしないとならない。槍ならばそんな必要はなかっただろうに、木切れを見えない敵を想定して構える少年の姿には迷いもない。


「後二日も続ければこいつも良い具合になるだろう。それまでに一端にはなれるんじゃないか?」


 特製のタレに漬け込まれ乾かしているウサギの干し肉が出来る頃には、この少年は一人で生きていく事も出来るようになるだろう。


「一端よりも、一流になりたいんだ」


「世界最強でも目指すのか? 長命種がいるこの世界で」


「そうだね。でもならなきゃならないんだ」


 否定はしなかった、そこをバフォルは子供らしい感情だと思った。


 木切れをバフォルの知らない流派、正確には和国剣術の振り方をたどたどしくもする少年の目には、年相応な物と、似つかわしくない(とこの場合バフォルは思った)深い物が宿っているように見えた。


 バフォルが師事した師匠と呼ぶべき相手も、こんな顔の自分を見ていたのかもしれない、と思い直す(実際はバフォルが勝手に見て盗んでいたので、師との交流はない)。


 何十人と弟子を持っていたバフォルの師は、弟子をとってからが本番だと言っていたことがある。それは直向きに打ち込む弟子の姿から学んでからが本番であると言う事ではなかろうか。


「一息吐いたら始めるか?」


「お願いします」


 この少年は礼儀作法に厳しい師に師事していたのかもしれない。


 お辞儀と言う動きはバフォルには馴染がないが、その動作が何百と繰り返されていたことが窺える動きだった。

 素振りと同じ数だけ繰り返された作法には、バフォルが学ぶべきものがあるように感じた。



ありがとうございました。

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