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チート+チート もう一度英雄  作者: 加糖雪広
第二話 過去+復讐
34/99

+訓練=

+ + + + + + +



 釣りも坊主に終わり(魚の引きがなかったので早々に切り上げたとも言う)、

 自分は料理ができるまでの間飽きる事もなく研究する事にした。

 ガルト町(闘技場都市の滅多に使われない正式名称)の出掛けに聞いた謎の声も未だに解らず、手詰まりを起こしている所も多い状況である。

 自分は腰の万能ナイフを取りだし、何か変化がないか調べる。


 ジルエニスが作った神造武器、大振りなナイフの見た目の万能ナイフ。


 自分はこのナイフが喋ったんじゃないかと思っていた。


 あの時聞こえた声は、エニスの何故か聞こえた気がする鳴き声とも、実際に聞こえる音とも違う声に感じた。エニスやホーグは気にした様子もない、聞こえたのは自分だけだったようだ。

 ならば、その声が小さかったからか、自分にだけ聞こえるように調整された物なのではないかと自分は考えていた。

 ジルエニスが作った万能ナイフならば、理由は解らないけれどそうする事はできるんじゃないかと思うのだ。


 相変わらず『ステータス確認』と『解析*数値化』では自分の装備品の表示される結果が違う。万能ナイフや革の衣服、ブーツにはまだ自分が使いこなせていない部分が多々あるのではないかと思っている。だから万能ナイフの自分に解らない部分がそうしたんじゃないか、と言う考えなのだが……。


 万能ナイフの見た目はやはり変わらず、解析では『神掛かった出来のナイフ(EX)』と表示されている。


 表示される内容には(『解析*数値化』も闘技場で気付きにより詳しい表示がされていた。)変化が起こる。何か新しい発想や気付きが必要なんだろう。

 最近愛着のせいか、ギリシャ神話に出てくるような意匠が美しく感じるようになってきた、柄尻に宝石まで埋まった芸術品。

 こいつも早く使いこなせるようになりたい。



+ + +



 白米をください。


 もう一度、………白米をください!


 一粒一粒が光を反射するように艶々としていて、粒の立っている---、

 そんな炊き立ての湯気をもくもくとあげる最上級の白米をください。

 お櫃一つでも平らげる事が出来そうな素晴らしいおかず、鶏牛蒡は、鳥の脂や牛蒡の歯応え、煮汁の美味さ。どれ一つ欠点のない最上級の、結構長いこと生きている自分の人生でも文句なく一番にしても間違いのない幸せな食べ物だった。ぷりぷりした皮の歯応え、口の中で弾けるように飛び散る煮汁と鶏肉の味、牛蒡のざくざくとした食感とのバランスも良い。味の染みた牛蒡から更に溢れる出汁で、煮汁だけで白米があったらどれだけ食べる事が出来るか見当もつかなかった。大根と葉っぱの漬物もあれば………、でもダメなのだ。



 この世界にはお米がない。



 それが涙が浮かぶほど悔やまれる。


 もう一度言う。




 白米はない!




 お米の様な物、と言うか米に近い物ならあるのだけれど、和国人として満足いく物ではないのだ。食べ方も炊く物ではなく煮るか炒めるかで、おかゆのようにするかパエリアのようにして食べる。それを炊いたことがあったけれど、やはり美味しくなかった。


 日本での記憶でも満足いくものはない事を考えると、自分で作ったりすることも味に繋がるのかもしれない。だとしたら万能ナイフでお米を出しても満足できないかもしれない。



「ヒロ様、何か味に至らない所がありましたでしょうか?」


 眉をしかめていたらしく、ホーグがちょっと恭しい様子で聞いてきた。


「違う違う、こんな美味い物食った事なかった。今まで食った鶏牛蒡で一番美味かったよ」


 そのせいで尚更白米が欲しくなったのだ。

 鶏五目ではなく、鶏牛蒡なのもまたいい。

 油揚げやニンジンが入ればさらにおいしくなるかもしれない。しかし鶏五目煮となるとお米と一緒に炊き上げた方が良いと思うのだ。おかずとしてはやはり鶏牛蒡が最高であると自分は思っている。


「ありがとうございます」


「鶏牛蒡が美味かった分、白米が欲しくなっただけ」


「ハクマイ、ですか?」


「自分の国の食い物だよ。主食」


 第一世界全部を旅したわけではないけれど、米に会う事はなかった。だからこの世界にいる間はお米を我慢しなくてはならない事を再確認してちょっと悲観的になっていただけなのである。


「管理神ジルエニスに何か方法がないか聞いてまいります」


「え、ちょっと………」


 『待ってくれ』と続けようとしたら。

 そこにホーグはいなかった。

 特別な方法を使ってジルエニスの元へと向かったのだろう。光ったわけでも、何か解りやすい詠唱の様な物もなく、ホーグは姿を消していた。


 あまりジルエニスに迷惑をかける様な事は控えたいと考えているだけに、ちょっとホーグの勇み足に次の句が告げられなかった。



+ + +



 食休みを挟み、食器や調理に使った道具の一部を川で洗って行李に詰める。(何故か川の水は直接飲んでも問題ない程綺麗な水が流れるようになっていた。)


 影箱でもよかったのだけれど、自分の特殊能力はまだわからない使い方や条件がある事を考えると荷物を分担しておくのも必要だと思ってそうしている。


 元闘奴候補のレナリは、今『黒塵の兵士』セットを完全に装備していて、発条(ばね)仕掛けの鉢金まで装備していた。滴型の厚ぼったい穂先の付いている少しだけ柄の短い槍は短槍と呼ぶには長く、槍と呼ぶには頼りない長さだった。城壁の上で登ってくる相手を振り下ろしの攻撃で撃退する事を考えた柄の長さなのだろう。艶消し処理の施された夜間兵装の様な軽鎧。彼女の外見には不似合いな装備である。


 しかも呪いの効果を持つ『呪装』と呼ばれる装備である。

 装備した場合重量が増加する呪いが掛かっており、普通の人間では身体を動かす事が出来なくなるような装備だけれど、竜人と言う珍しい種族である彼女にとってその重さは逆に装備を壊さないで済む好条件になるらしい。


 昨日の夜ホーグに習っているので構えは一端(いっぱし)に見えるけれど、相対するは中型犬サイズのエニスである。


 ホーグが戻るまでここに残る事にしたのだけれど、レナリは手持無沙汰になってしまうのでエニスにレナリの訓練を頼んでみた。


 手加減に不安は残るけれど、その場合は自分ならどうにかできると思っていた。そしてそれを差し引いてもエニスとの実戦訓練は非常に役立つと思ったのだけれど、レナリにはまだ早いかもしれない、と今になって思い始めている。


 一応、いつでも念動力で横槍を入れる準備をしておき、エニスとレナリから目を離さないようにしておく。


「………」


+ + +

「その槍は打ち下しの打撃が得意な形ですが、槍の利点は相手の攻撃の出来る範囲の外側から攻撃できる点にあります。

 ですが槍は突き方を間違えると途端に先が曲がったり折れたりしてしまいます。地上で生活する四足歩行の動物や轟獣、魔物は骨が太く硬いのが特徴ですから、下手に骨に突くと刃先が曲がり、状況によっては突いた後抜けなくなってしまいます。

 武芸者ならば一対一を信条としている、としてそう言った戦い方もあるかも知れません。ですが、旅を続けながらでは槍が使い物にならなくなれば危険が増すばかりです。

 レナリはまず突く事が出来る状況を生み出せるような防御・牽制を学びましょう。柄の長い武器での防御は剣などより難しいはずですが、貴女の力は血筋と言う意味で純粋な人よりも高い物です。

 やってやれない事はありません」

+ + +


 昨日の夜、そう言いながらレナリに訓練をしていたホーグ。レナリはその訓練に衝撃を覚えていたようである。


 想像するのは簡単だ。


 今までレナリが習っていたと彼女が思っているのは単なる虐待で、舌を巻くほど教え上手なホーグによる正しい訓練を受けたのだから。

 今まで受けていたのは一体なんだったのだと、彼女が思っていたのは確実である。


 三時間ほどの訓練で、レナリはまだ荒い所もあるが充分に『使える』構えを身に着けていた。

 相手に向かって前後に足を開き、気持ち高めの重心を維持し、切っ先を相手に向ける構えは正しく槍の構えである。ただ違うのは穂先を大事にするように習ったために、彼女が向けているのは穂先の逆の石突に当たる部分であると言う事だけである。


「レナリ、加減したらやられるぞ」


 一応言っておく。

 彼女はエニスに向かって本気を出せるかどうか解らないが、出せなかったら酷い目に合うと言う事を理解しておかないと怪我の元になってしまう。


おん!


 エニスは軽い動きで(気持ちとしても動作としても)歩み出す。


「!!」


 その気軽な歩みがどれだけ速いか、経験者である自分にはよく解る。

 エニスがじゃれる気持ちの動きで、自分は目に追うのを諦めた。

 中型犬サイズのおかげで多少組み易いはずだとは思うけれど、レナリに比べステータス上はるかに高い数値を持つ自分ですら見失い、動きを追う事を諦めた動きだ。レナリには自分と同じように光が瞬くように動いているように感じている事だろう。


 エニスはレナリに動きを追うための訓練を付けるつもりの様で、その瞬くと言う言葉を体現する速度のまま彼女の周りを縦横無尽に駆け巡る。


 前、後ろ、横、上。


 エニスはその狼と言うより獅子に近い太い足を使っているのに、いつ地面を踏みしめたか分からない程滑らかに動く。自分を背に乗せたまま殆ど上下の動きを感じさせないのはこの踏みしめた様子が解らない動きにあるのだろう。


 常に相手と相対するように訓練で教えられたレナリはエニスの動きに必死について行こうと立ち位置を変え追いすがる。しかし動きが違う。


 どれだけ必死に動いてもエニスの動きに付いていくのは至難の業で、彼女の心が折れかける。


 すると、


「く!」


 レナリの脛の辺りにエニスがその長い尾を振った。


 鞭のように打ち付けられた足が跳ね上がり、彼女は背中から倒れてしまう。(打たれた足が一度限界まで後ろに押され、反動で前に行くと重心が保てなくなり振り子のおもちゃのように彼女が転んだ)


 するとエニスは彼女の正面に現れ、彼女が立ち上がるのを待つ。


 息一つ上がっていないエニスと、倒れたまま動けないレナリ。


「止めるか?」


おん!


「まだ行けます!」


 エニスとレナリは同時に声を上げて、レナリが構えるとエニスは再び縦横無尽に駆け巡る。


 かなり濃い訓練である。

 仮にレナリがエニスの動きに付いていける様になれば、余程のことが無い限り負ける事はあっても怪我をすることはないだろう。


 追いきれなくなったレナリが再びエニスの尾で転び、レナリが立ち上がり再開。


 この反復が何十と行われ、レナリが気絶するまで続けられた。


おん!


 筋が良い、エニスが言う。

 終わる頃には一度だけエニスの尾を槍で防いで見せた。


「一日でそれだけできるようになるんだから竜人ってのは凄いな」


 倒れたレナリはバケツで水を掛けられたように(汗で)水浸しだった。エニスも攻撃する場所を選んでいたので怪我の一つもないようである。


「『念動力』」


 念動力で汗や皮膚の老廃物を除去する。

 鎧は大体の部分がベルトを使って装備する物で、身体の動きを阻害する部分も少ない。鉢金は外すと胸の所に固定される仕掛けもあるし、取り外すのは難しくないので外してあげる。(ちなみに黒一色のこの鎧はベルトや蝶番に使われている釘まですべて黒である)


 川の水で良く冷やしたタオルを首に巻いてあげて、テントの中に横たえる。


 最後まで槍を掴んでいたので、これを外すのが一番大変だった。



ありがとうございました。

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