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チート+チート もう一度英雄  作者: 加糖雪広
第二話 過去+復讐
33/99

+復習=

+ + +



 エニスは見事角ウサギを狩って帰ってきた。

 以前は鹿を同時に三頭くわえて帰ってきたが、口と背中に合わせて三羽のお持ち帰りである。三にこだわりがあるのだろうか?


「おうお疲れさん」


 牛蒡や自然薯など、食料になる野草や根菜を自分は集めている。第一世界独自の植物も食材に使える物があるので採る度に土も付いたまま影箱に入れていく。ちなみに牛蒡はレナリの槍の柄よりも太い物だった。味はどうなんだろう? 大きな野菜は大味だったりするけれど、精進料理で年の瀬でお寺などで振る舞われた物は異常に大きな野菜が元となっていたようだけれど至福を感じる美味しさだった。それを思い出すと期待は高まるばかりである。


 味はこの後素晴らしき料理技能を持っているホーグに教えてもらうとして、自分は食料確保に勤しもう。


 途中でふと思いついて、自分の足から伸びる影に野草を被せて念じて見て、そのまま『影箱』に入るか試してみたけれど、それは上手くいかなかった。


 前にエニスがくわえてきた鹿の一頭が落ちてしまった事もあったのに、これは何か条件と言うか使い方があるらしく、検索を掛けても答えは見つからなかった。


 ジルエニスにもらった能力なのでもっと使いこなせるようになりたい物である。


 エニスがくわえてきた角ウサギを自分の『影箱』に入れる。




 あまりに普通にそうしたので驚くのを忘れてしまったが、どうやらエニス、自分の影箱に干渉できるようになったようだ。そのままエニスが前半身を突っ込むが、何をしているのだろう?


 ………中の整理をしているのだろうか?


 【轟獣オヅヌウサギ×3 処理しますか?】


 その内二羽を処理し、一羽はホーグに渡す。

 ホーグは軽々と、樽みたいに丸々としたウサギを抱え、レナリと川沿いに歩いていく。


 ここの川は闘技場都市の生活用水とは別の支流の様なので水は綺麗な物だった。少し藻や微生物が膜状になっているが、ホーグはその辺りをどうにかできる様なので問題ないだろう。


 ホーグは今レナリに料理を教えている。料理も知らないレナリはこの先一人になってしまった場合大変だろうからと、ホーグや自分がいろいろ教える事にしたのだけれど、二日目にしてその役割はホーグにすべて任せてしまっている状況である。


 食材の処理、料理、武術の指導。少なくともこの三つで自分はホーグに敵う気がしないのである。


 元から料理は焼く位しかできないし、肉の血抜きや処理をするホーグの手際を見て自分は負けを悟り、レナリへの武術の指導では雲泥の差がある事を痛感した。


 考えてみれば、子供の頃から人に教わってばかりで教えるなんてやった事もない。第一世界の時間では五百年前、魔王を討滅する前に一人教えた記憶があるけれど、あれは教えた相手の情熱が高かったから、教えなかったとしても上手く行った気がする。


 ホーグはその辺りジルエニスの様に美しい所作と説明で教えるので手先が不器用に初めは思えたレナリの上達も目に見える程である。


 日本だったらみんなが物怖じするような血抜き処理や皮剥ぎに抵抗もないおかげで、レナリの成長はこの先早いように思える。


 自分が知る知識だと魔王討滅の時、この世界の五百年前に当たるのだけれど、貴族階級の連中はこの手の作業の度に吐いていたことがある。それを今まで食べていたのに、生きた状態の物を見て可哀相とか命がある物だと言ったりする姿は何かが違う。それを考えるとレナリは五百年前の英雄に数えられた一人、有翼人の王女であり天使のような外見だったニリよりもずっと優秀だと思う。


 レナリにはそのニリの記憶がある。ステータスには『記憶の残滓』と言う特殊能力があると表示されている。自分の齢は十五で、彼女は十三だが出会ってから何かとニリを思い出させる表情を浮かべたり、年不相応な(とこの場合は言うけれど、女性にあまり詳しいわけではないのでこれが普通なのかもしれない)仕種や、学ばなければ知らない有翼人の作法を見せる事がある。


 レナリは闘奴候補として今まで生きていたのでそんな物を身に着ける環境ではなかった。知識としては曖昧な位の物がニリからレナリへと受け継がれているようだけれど、受け継がれているのは大半が身体の動きではないだろうか、と思っている。


 出来るのならばレナリはレナリとして生きてもらいたいと思うのだけれど、自分の能力ではこの特殊能力をどうにかする事が出来ない。


 『記憶の残滓』には副作用があり、『不幸』と言うステータスが彼女にはある。闘技場にいる間でいつの間にか成長していた(と敢えて言う)現理法『洗脳(2)』でもこの不幸を取り除く事は出来ない。おそらく自分の能力が足りないせいでこの世界の本当の意味での神様ジルエニスから授かった能力や武器防具の力を引き出せないからだと思われた。


 自分は八百万(やおよろず)の神様が存在するこの世界で、管理神と言う上位に当たる全知全能かと思われる素晴らしい神様に頼まれ、その管理する世界の一つ『第一世界』に再びやって来た。


 一度目の目的は魔王討滅の為、二度目の今回は管理神ジルエニスを邪魔する別の神様の手でやって来た異世界人をどうにかするのが目的である。時間は一度目から五百年ほど経っていて、自分は過去の英雄として名を残しているらしい。(来て早々に名前を変えたけれど)


 一度目の時は神様から蒼の鎧と金銀装飾に宝石まで埋め込まれた神剣(ロングソード)を授けられてやって来たのだけれど、その時はやたら目立っていたし、ちょっと、と言えない位恥ずかしい思いもした。原代和国に生まれた自分は槍での戦闘経験しかない。剣を授かっても使えなかった。そんな実力に見合わない神様の贈り物を持った自分は悪い意味でこの世界で目立っていただろう。


 二回目の今回はそう言うことが無いように、報酬として経験した現代日本の知識でちょっと悪乗りして違う格好と能力を貰ってやってきた。


 まずは恰好。前回の悪目立ちの経験から目立たない普通の旅人風の恰好にしてもらった。ジルエニスにも譲れないラインがあるらしく、白と黒の革の衣服は妙にヒーローっぽいデザインだったり、ブーツの裏には滑り止めの紋様まであったりする。


 草を払ったり狩りで得た獲物の解体など、気軽に使えると言う意味を込めて『万能ナイフ』をくださいと言ったら、ロングソードになったり槍になったり銃に形を変えたり、欲しいと思った物が出てきたりする上過ぎる意味での『万能ナイフ(・・・・・)』だった。


 次に能力、日本でのテレビゲームのRPGの知識で実際あったらどれだけ楽かなあ、なんて魔王を討滅した記憶もないのに思っていた能力を言ったら、少し想像と違うけれどそれに近い能力を貰った。


 一つ目は『ステータス確認(改)』。(改)なのは色々あって自分用にカスタマイズしているからだ。自分の能力を段階で表示したり、装備品を見たりする以外にも、地図や時刻が表示されていたり、検索やヘルプまでついた能力である。


 二つ目は『解析*数値化(改)』。(改)なのは『ステータス確認』と同じ。他人のステータスを確認したり、道具や動物、植物を調べたりできる。原代和国にも現代日本にもない物があるので少し難易度が高いけれど、中には有害な植物なども調べて解るので助かる。


 三つ目は『影箱』。これは自分の影を亜空間に繋いで荷物を仕舞う事が出来る。重さも感じないし嵩張らないし、RPGでどれだけ楽しているのかと思った事から授かった能力だ。今はエニスが狩った獲物や万能ナイフで生み出したランタンや折り畳み式のテーブルや椅子なんかが入っている。足元の影にも使えるらしく、全ての特殊能力はまだ使いこなせていないようなのでこれらの研究や改善が今の自分の目標である。



 授かった物はまだあったりする。



 これは旅の最中一人でいる事に耐えられなくなった経験から、旅の仲間が欲しいと言った自分の願いをかなえるためにジルエニスが授けてくれた相棒『獣神エニス』、そしてジルエニスとの連絡を主な役割とする(二代目の)『ホーグ』である。


 現在、一人目の異世界人、『グンジョウ』と名乗っていた少年と話をつけ、自分達は次の異世界人に出会うために移動中である。



 ……………ちょっと現実逃避していた。


 ホーグを手伝おうにも、手を貸す場所がない。

 ホーグは教えながら絶え間なく動くのだけれど、それが一切止まらないのだ。

 流れるような動きで次々に工程を消化していくので、どこに手を出せばいいかまるで解らないのである。



 結局、エニスと自分はそれを見ているだけである。



 手の出しようがないのなら、とホーグが買っていた釣り糸で川釣りを始めるのだけれど、こういう時に限って引きがない。

 エニスは前半身を影箱に突っ込んだり遊んだりしていたが、最終的に丸まって日向ぼっこしている。ちなみ天候は良くない。厚い雲が時に日を遮ると肌寒く感じる。この場合は昼寝と言った方が良いのだろうか?


 エニスはそれでいいとして、自分は鶏牛蒡が出来上がるまで、どうしようか…………。

 川を見ても、魚の影は全く見えなかった。


ありがとうございました。

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