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チート+チート もう一度英雄  作者: 加糖雪広
第一話 英雄+再臨
2/99

暖かい揺り籠から

初投稿です。

実力不足ながら挑戦させていただきます。不可解な展開や描写もありますので、心を広くお持ちくださると幸いです。


現在三話終了しております。

更新は停まっております。



改修いたしました。

あまりに酷い日本語ですのでご理解の上お読みください。

 いつも笑っている。

 人にそう言われることが多い。


 だって当然ではないのか、みんなはそうじゃないのか?


 そう言われるといつもそう返していた。

 毎日怪我したり、変な話に巻き込まれてケンカになったりもするけれど、毎日楽しくて仕方がないと思うのは不思議な事なのだろうか。


 気味悪がられようと、『お前友達いないよな』とか言われる事もあるけれど、そう言われる自分とだって付き合ってくれるいい奴等はいる。この良い奴等があいつには見えないのだろうか?


 中学に入ってから何かと関わる事が増えた女の子はいつも可愛いし、一緒にいて落ち着くし、笑顔にしたいと思えるのだからきっとこれは恋なんだと思う。


 初恋の最中である。楽しくないわけがないのだ。………そうなる前からいつも笑っているとは言われていたけれど。


 自分自身特別裕福な家の生まれではないし、特別な才能があるわけでもない。


 十人並み、より少しだけ下の自分だけれど、それでも両親には感謝しているし、そういう事を臆面も無く言う姿に両親が首を傾げたりするけれど、偽りのない本心なのだ。


 長考すると、周囲よりも少しだけ強運を持っているくらいの個性はある気がするけれど、それを含めても自分は平均的(より少し下)だった。



 そんな楽しい毎日の中、ちょっとした事件が起きた。



 事件なんて言うと大袈裟だけれど、自分の感覚では大袈裟な事なんだからしょうがない。


 恋をしている女の子、名前を角山さんと言うのだけれど彼女に先輩の一人が告白したと言う。


 その先輩は学校でも顔立ちが整っていて人格者な上、後輩からも人気がある完璧な良い人だったのだけれど、角山さんはその場で断ったと言う話が学校中で囁かれるようになった。


 自分は、角山さんが笑ってくれるならその先輩と付き合うべきだと思っている。


 確かに悔しいし、その後辛い気持ちを何度も味わうかもしれない。何年も後を引きずって忘れることができないかもしれない。

 それでも、角山さんが楽しくしてくれている方がずっといいと思っているのだ。


 角山さんと自分の距離は話す事の多めの学校の知り合い、位の距離なので彼女がどんな風に思って断ったのか、想像もつかない。


 もしかしたら、他に好きな人がいるのかもしれないし、その色々な人に好かれる先輩のどこかが酷く嫌なのかもしれない。


 でもそれ以降どうにも角山さんが沈みがちで話が弾むこともない。

 何だか無理に調子を上向けようと話を振る自分を顧みて空回っている事に更に焦る、と言う事になっていた。



「何か、あった?」



 自分はそこに触れるべきじゃないと、どこかで思っていたのだと思う。

 だからこれを切り出したのはたまたま帰り道歩いている最中に彼女と一緒になった、そんなタイミングで、ちょっとだけ打算的に何かあったらすぐに走って帰る事ができるようにと言う配慮があったんだと思う、なんて情けない自分だろうか。


 だから、沈みがちだった角山さんの表情が今にも泣きだしそうになった時は全力で逃げ出しそうになった。



「好きな人がいるの」



 ………覚悟していた。

 でも実際彼女の口からそれを聞くと、頭を鈍器で殴られたみたいなぐわんぐわんとした衝撃を受けた。


 まるで、血の塊を吐き出す直前みたいに辛い表情で唇をかむ角山さん。

 笑うと花の咲き乱れる草原のような心地よさと穏やかさを持つ角山さん。


 そんな表情を見るだけで、自分はこんなにも衝撃を受けている。

 胸の内側が裏返るんじゃないかと言うほどムカムカしていて寒気がした。息が止まるかと思う程喉の奥がせり上がってきそうで、目の前がチカチカした。


 やっぱり、自分は彼女に恋をしているんだと再確認してしまう。皆と比べてもおしゃれ過ぎるわけでも、可愛過ぎるわけでもないのに、どうしてか気になって仕方がない。いつも笑っていてほしい人。

 だから。


 自分はその彼女のためなら、どんなに自分が不幸になっても良いと思えた。

 彼女の気持ちが叶うなら、自分はどうなっても良い。そう思えた。


 いつも笑っているから、その気持ちをごまかすのは簡単なはずだ。

 いつも笑っているから、その奥を覗かれないようにするのは容易いはずだ。


 そして、覚悟を持って自分は口を開く。

 そりゃもう、今まで生きてきた中で一番覚悟を決めて口を開く。


 そんな悲しい気持ちのままでいないで、君が望むならどんなことだって協力するから。


 口に出すべき言葉を考えて、そこでこれは、恋に似た違う気持ちなんじゃないかと思った。

 我を通すのが恋、だとしたらこれは独善だ。


 ぱちり。


 自分自身が電化製品になったみたいに、暗くて乾燥した部屋で起きる静電気のようなノイズが目の前で散った。


 頭のどこかがおかしくなり始めているのかもしれない。


『………!』


 電波状況の悪い通話のような、遠い声が聞こえた。

 角山さんに伝えなきゃ、でも口は開いたはずなのに目の前が真っ暗になってしまった、と思う。


+ + + + + + +


 一世一代の発言(告白、と考えるには抵抗があった)を口が開く、と言う所まで果たしていた彼は水が地面から溢れだす様に記憶が呼びさまされる。


 唐突だったと感じて、予兆らしきものがあったことを思い出し、それを思い出してもやはり唐突だったと強く思う。


 彼は一人横になっていた。

 通い慣れた通学路でもなければ、病院でもない。でも病室と言えばそうかもしれないと思うような真っ白な部屋の中だった。


 彼しかいない部屋だ。多分、目の前で散った静電気の様な物を見た瞬間、彼はあそこではない場所に戻ってきたのだろう。


 真っ白な天井を見上げながら、よく考える。


 ここは人一人が住むには過ぎた面積の部屋だった。壁から壁まで全力疾走が可能なほどの広さで、正方形のみの壁面と床、天井で区切られていた。中央に寝台としか呼びようのない台があり、部屋の出入り口は一つ。


 寝台から立ち上がると、まだ身体の方が目覚めていないのか少しだけふらつく。

 とても幸せな夢を見ていた、と考えてそれが間違いだと気付く。

 溢れ出た水を覗きこめばそこには自分によく似た自分の顔があった。

 意味が伝わらないかもしれないが…………、彼は別人の人生を覗いていた。


 彼は自分の姿を見下ろし、これが本来の姿であると確認する。


 背は当時にすれば平均だったが、今見ていた夢で考えればこの姿は小柄としか言いようがない。


「ごめんなさい、英雄さん。お邪魔してしまって」


「いえ、構いません」


 白一色の室内、目の前に陽炎がたっていた。室内はあまりに綺麗な物で目も耳も感覚がおかしくなりそうであるが、慣れているはずの物だった。陽炎はまるで質の悪い映画の合成の様に滲みだし、人型になった。声を発しているのはその人型である。


 人型は立体映像だった。とは言っても科学的に作られた物ではなく、彼にだけ見える虚像らしい。



「何かあったんですよね、途中で呼ばれるときの話もされていたと思うのですが。………まだ寝起きみたいで頭が切り替わってないんです」


 立体映像と話しているのはあまり当人にとって好ましい事ではない状況だからなはずである。だから立体映像の本人がいるはずの場所へ彼は歩みだした。


 突然の目覚めのためか、何だか頭が重い気がした彼は、不備があるのかどうか確認するために記憶の反芻をしながら部屋を出る。


 見覚えのある塵一つ、埃一つない真っ白なここは、『世界の管理』を行うための場所だ。自分はその『世界の病気に対するワクチン』としてその世界に送り込まれた経験があると言う事を思い返す。


 考え事をしながらなのもあるのか歩みは少しだけ遅い気がした。

 それが今まで褒美として生活していた世界の自分の感覚なのか、頭の調子が完璧ではないからなのかはまだわからなかった。


 汚れ一つない真っ白な通路は、何だか彼の感覚で言えば居心地の悪い気がしていた。現実的じゃないと思うのだけれど、ここが正確にはどういった場所なのか分からない。


 現実的じゃないと思ったけれど、ここはある意味現実ではない場所ではなかろうか、そう考えた。


 迷うことなく目的の部屋に辿り着いた彼は、一度だけ息を吸い限界まで吐きだす。その後数秒呼吸を止め、身体が自然な呼吸を取り戻すのを確認する。

 体力の問題か気持ちの問題かは判別できないが、呼吸が浅く早くなっていたからだ。


 覚悟を決めて扉を開く。とは言っても彼がいた部屋と言いこの部屋の扉と言い、開ける意思を感じて開く不思議な作りの扉である。自動ドアならば近寄ればセンサーが反応して開くのだが、扉を開く意思、室内に入りたいと考えなければ絶対に開く事が無い彼からすれば理屈の解らない物だった。

 扉の前に立って念じると、手で触れたわけでもないのに機械の出すような音を上げて開いた。


「いらっしゃい、そこに掛けてください」


 部屋の主はここと同じ質感のデスクチェアに腰掛け、背を向ける形で作業をしながら彼に声をかけた。室内は変わらず真っ白である。


 大きさは彼の目では小さいのか大きいのかわからない不思議な感じである。

 彼は応接用にあるらしいこれもまたここと同じ質感のソファに腰掛ける。


 テーブルの上には彼には解らないお茶(おそらく紅茶?)の準備がされていた。四段重ねの一体何のためにあるか分からない鳥籠の様な、台座の様な物の一段一段に、色とりどりのクッキーやら彼の拳よりも大きなスコーンやら一口サイズの何種類ものケーキやらが乗っている。


 こちらは芸術的な考えが反映されているらしく、紅茶セットも台座も精緻な細工が施されていた。


「ふう」


 来客である彼に合わせてか、部屋の主が作業を中断して立ち上がる。どんな作業をしているのか、彼には目にすることができないように作られているのでわからない。


「えっと、英雄さんのままでいいですか? それとも最初のお名前の方がよろしいでしょうか? それとも日本でのお名前がよろしいですか?」


「どちらでも、どれでも良いです」


 先程の人型と変わらない美男子。銀髪、紫眼、童顔、美形、長身、細身、童顔、美形の『神様』である。


「では今まで通り英雄さんで。突然の事態ですみません」


 使い込まれた独特の特徴のある深く、良く通る美声が外見とはアンバランスだった。


 この神様の名前は『ジルエニス』、八百万の神様の一柱である。立場は五つの世界の管理、とは言っても彼の場合管理と言うよりも娯楽、と言う方が正しいはずなのだが、ギリシャ神話に出てくるような服装はともかく、デスクや応接セットのある様子からどうにも中間管理職と言ったフレーズが彼に出てくる神様である。


 フレーズが出てきたとしても、それはあくまで印象でしかない事は彼にもよく解っているけれど。


「以前と同じようにちょっかいをかけられておりまして、世界の管理に不都合が生じている現状です。以前とは違う点がいくつかありますが、大体は今までと同じ状況だと思ってくださって間違いありません」


 彼が納得するのを待ってから、神様は続ける。


「今までとの違いは世界の管理を乱すのは魔王や自称神の類ではなく、貴方と同じ異世界人であると言う事ですね」


 手慣れた動作で紅茶をカップに注ぎ、完璧なタイミングで出すのはジルエニスの趣味らしい。白い肌、一点の曇りすら見えない造作と表情。そしてそれらと同じように綺麗な説明が途切れることなく続くのである。


「………」


 目の前に置かれた紅茶を神様の表情で促され一口。

 砂糖もミルクも入れずに飲む紅茶は、良い香りがした。


「正規ではない方法で、という言い方はおかしいのかもしれませんが」


 自分の分の紅茶のカップを掌で包むように持ちながら、きっと香りを楽しんでいるのだろう神様は続ける。


「以前の説明を繰り返す様になりますが、世界のバランスを著しく壊す要因に合わせて、世界その物か、または私のような管理する立場の神がそれを改善するために異世界からのワクチンを召喚する場合があります。

 方法も目的も定まっていませんが、中には管理する世界に大きな動きを求める為に、言うなれば娯楽の為に異世界人を召喚する、と言った事もありますが、それは世界によって、神によって様々です。

 営みの発展を促すためだったり、絶滅する可能性の生命を救済するためだったり。もちろん、召喚するのは異世界人だけでなく、その世界の別の国から別の国へといったように人間を選ぶ場合もあれば、道具やその世界の技術を越える工芸品まで、多種多様なのですが」


 一口。お互いが紅茶を飲んだ。


「前回は確証がなかったのですが今回の事で確信しました。

 私はどうやら同業の神にちょっかいをかけられているようです。異世界人が私の管理する世界の一つに数人、祝福を授けられ送り込まれているのです。

 偶然と言う事もあり得ない事ではありませんが、その複数の異世界人の行動を見る限りそれぞれに目的があるように行動している事もあって貴方を呼ぶ事にしました。

 場所は貴方が初めて降り立った異世界です。

 年月はそれから五百年ほど経っています」


 原代(・・)和国(・・)で彼は生まれ、戦争に直面し死んだ筈だった。

 その事を彼は脳裏に深く思い出した。思い出す必要もないくらい、当時の記憶は彼に刻み込まれている。


 飛行機から落ちてくる爆弾。それが真上に来る様子まで彼はしっかりと覚えている。


 その爆弾が爆ぜた直後、彼はここにいたのである。


「自然発生だと思っていた魔王を貴方が討滅して五百年、世界は平和で、穏やかで。

 それでいて華々しく進んでいました。このまま発展を続けていくのを私は心から喜んでいたのです。私の管理する世界の中で、初めて管理するようになった思い入れの深い世界でしたからね。

 その中で人の営みを眺め、盛衰していくのは楽しく、悲しい事でした。ですから、貴方に再びお願いしたいのです。このままでは世界は送り込まれた異世界人の遊び場にされてしまいます」


 ジルエニスの第一世界。それは彼が救った『最初』の世界である。当時を思い出すと、いつも必死で我武者羅だった。もう一度帰れるならばあの時の数えきれない失敗のいくつかを無理矢理にでも成功に変えてしまいたいと思う。


「私自身、その世界の為に降臨するわけにはいかないのです。一度世界に降りてしまえば、他の世界に対する干渉を行う事が出来ないばかりか、私がそれを察知する事が極端に難しくなります」


 管理する五つの世界に、同時に魔王が生まれる下地が整ってしまった。


 以前そう聞かされ、彼は五つの世界全てを救ったのを思い出す。とは言っても、神の代行に相応しい力を得て、その力を振るっただけで誰にでもできるような簡単な事だったように思う。


 仮に彼以外の者がやれば、彼より何倍も上手くできたかのような出来事ばかりだった。


「報酬として日本で平穏に過ごしていた貴方を呼ぶ事を躊躇っていましたが、今回の事に対して出来る限りの手段を使うべきだと判断しました。

 勝手な願い事をしている事は解っていますし、貴方はまだ意識がはっきりしていないかもしれません。ですが私は貴方にお願いしたいのです」


 でもジルエニスは、彼を選び、彼に願うのだ。

 それには超越者にしかわからない理屈や、彼にはわかり得ない事情があるのだろう。だが彼にとってそこは重要ではなかった。


 一度は命を救われた。そして、掛け替えのない体験をさせてもらっている。それだけで、ジルエニスの願うとおりに行動するのは彼にとって当然の事だ。


 そう言うと、ジルエニスは彼に感謝した。


ありがとうございました。

楽しんで頂ければ幸いです。

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