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チート+チート もう一度英雄  作者: 加糖雪広
第一話 英雄+再臨
16/99

外道+残虐

主人公が酷いことします。

ご注意ください。

+ + + + + + +


「ジルエニス、頼む」


 声は誰にも届かいくらい小さく掠れていた。

 全身に強張りを感じ、自分は力を抜く努力をした。


 万能ナイフとエニスが光り輝く様な光景を幻視した。

 解析が発動し、それが『祝福』と言われる奇跡だと知る。


 結局、ここでも自分は何の力も使わずに行動だけしている事に自嘲的に笑みが零れた。


 見ると、子供達の酷い状況が表記される。健康体は一人か二人、それ以外は心や身体に消えない傷跡が残っている。

 思わず悪態を吐きたくなった。


 ウィンドウには、[万能ナイフの力を行使しますか?] と言う表記がされていたからだ。

 自分の力でもない物に、自分が許可を出す姿があまりに醜いと思ったからだ。


 でも今はその気持ちを後回しにする。

 念じるだけで、効果は発動された。

 余剰の力がかなりあるのか、光が零れ、どこからか歌さえ聞こえる。


 肉体の傷、酷い病、心の痛み、その全てを浄化し、的確に癒していく。

 中には精神の傷、体験も含まれている。慈善事業には、そんな一面もあるのかと思った。


 魔王を討滅するんじゃなかった。


 あの頃は少なくとも望まぬ相手に闘技場でこんな姿をさせる様な事はなかった。


 弱者だって皆と力を尽くさねば皆が生き残れない世界だった。人を虐げる者は強者であろうと排除する世界だった。


 心に余裕ができてこんな目に合う子供達がいるのなら、魔王はずっと人間を苦しめているべきだったとさえ思う。


 仲間たちに申し訳ない。涙すらこぼれそうだった。



 光と歌が消え、子供達は自分達に起きた事を知る。

 障害として残りそうな痛みが、傷が。心にかかっていた靄が、痛みが払われたのだからその効果は目に見えても、見えずとも大きいだろう。



 その中でも年長の一人らしい少女がこちらを見ている。少女なんて言ったけれど、自分の年齢と大して変わらないくらいの女の子だった。


 その辺り、この世界で何年も旅をしているのに齢を食わないせいか、感覚が少しオジサンなのかもしれない。


 珍しい姿である。


 手の甲に鱗があり、瞳孔の形が縦に近い事から爬虫類の乗人らしい。


 襤褸切れを着せるより、似合う服がいくらでもありそうな体型の、自分とさして変わらない背丈の女の子。円らな瞳は幼さを感じるが、顔立ちは女性として完成しているかのように整った、文句なしの美少女だった。


 汚れた服や肌をさせるにはもったいないと思う。今では無くなった悪臭の中に置いておくのももったいない。


「レナリ」


「それは名前?」


 突然自己紹介された。

 物怖じしないらしい。女の子って怖い。


おん!


 エニスが言うには、将来有望、どの事に対してなのだろうか?


「訓練をされるなら、私が行きます」


 訓練、虐待の間違いじゃないだろうか?


「そんなつもりはないよ」


 後ろを向くと、敬虔な信者のように跪いた案内役の姿があった。


「ここの運営責任者の所に連れて行ってくれないか?」


 万能ナイフを腰に戻しながら言う。

 今、自分の無力さを八つ当たりする何かが欲しくて仕方がないのだ。


「あ、あの」


「何かな?」


 八つ当たりを抑える方法はないのだろうか?

 だいぶ不機嫌な物言いになってしまっていた。


「私、貴方に会うために生まれました」


 それは気のせいだ。

 混乱しているのか、と思ったが。


 そうか、ここでそうでも言わなければ命の危険って事なのか。

 この闘技場、跡形もなく消し飛ばしてやりたくなってきた。


おん!


 いくらでも手伝う。そうか、エニス。それは心強い。

 エニスは鉄格子をバリバリ噛むと、錆びの塊でできていたかのように脆くも崩れ去った。


 イライラを一緒に感じてくれているエニスに感謝すると同時に、それは良い手だと自分も鉄格子、部屋の四方を囲む檻を掴む。


 逃走防止なのだろう。錆び一つない硬い鉄だ。

 気軽に力を込めて引きちぎる。子供達が何事かとこちらを見るが、今は構う余裕はない。


 格子に手を掛けるレナリ?の手を掴んで外させて、その部分も壊した。


「あ、あの!」


「いらない」


 そんな言葉、いらない。そんな気持ち、いらない。

 代わりに、自由をあげる。本気で、あげる。


+ + + + + + +


 有難かったのは、人族なのに汚豚としか言いようのない奴が運営責任者だった。


 解析の度合いを変更すると、趣味を満たすために闘奴候補の女の子男の子構わず鎖で繋いで趣味を満たす悪逆非道だったので思わず可愛がりしたくなった。


 歯を折りながら転がる女(そう、女性なのである)を見る間、五百年の歴史の中で闘奴に関わる歴史を確認する。


 その間、エニスが代わりに汚豚さんを転がして遊んでくれていたので気分が良かった。


 闘奴等の奴隷が生まれるのは、戦争で生まれる被害ではなく純然たる経済難民が関わる事で生まれる物らしい。


 この汚豚さんはこの闘技場の利益でそれらを買い漁り、ぶくぶくと次々に餌を食らって肥え太る救い様のない種類の汚豚さんの様だ。


 解析を進めると、五百年の間に一族で闘技場を運営するようになったらしい。国規模の顧客を抱え、子供達を転売したりして更に利益を生んではぶくぶくと肥え太る繰り返し。


 汚豚さんの子供の殺傷数は死刑じゃ生温い数だった。世が世なら馬に四肢を引かせる死刑でも飽き足らない数である。

 四桁の子供の名前を確認している内に、頭がおかしくなりそうだった。


 ここは彼女の部屋で中は広く、こちらを窺う護衛や闘技場の職員がいるが、向かってくる『物』はエニスが転がして遊んでくれるので、情報を集めるのは簡単だった。


 護衛も闘奴出身者だったが、心が壊れていた。自分の傷付ついた体験を人に与える事でそれが普通だと思い込むことで頭の中の均衡を保っている。


「おい」


 血達磨の汚豚さんに近寄って声を掛ける。しかし、豚にも失礼な呼び名だな、なんか良い呼び方はないだろうか。


 和国だったら叩き討ちの刑(言葉通り死ぬまで叩き続ける死刑。使うのは鉄の芯が入った革を何重にも巻いた棒)十回でも足りない犯罪者である。この世界の法律? それはあんな子供達を作る物ならそれは汚豚以下と決めつける。


 ジルエニスが管理する世界だ。もしかしたら情報をその辺り知らせなかったのは彼の自分に対する配慮か、思い悩み伝える事が出来ない案件だったのかもしれない。


 第一世界を何より大事に思うジルエニスの思いを不意にするこいつらに、ジルエニスの姿が脳裏に浮かんだおかげでやるべき事を思いついた。


 ジルエニスは恩神であり、失礼を承知で言わせてもらうなら友人だ。


 彼はこの世界の異分子を排除したいと願っていた。

 異世界人ではないけれど、このゴミにも失礼な汚塵さんは、それに当てはまるとしか思えない。


 ぎいぎい言う汚塵さん。自分は何を言われても堪えない。

 死ねとか何とか言ってるのは判ったけれど、物理的にも精神的にも自分はこれを生物扱いしていないのでどうでも良い。


 使うつもりはなかったけれど、これは自分のために必要な事だと思う。


「お前、物理的に死ぬのと精神的に死ぬのとどっちが良い?」


 迷えなかった。

 必要がないと、誰かに言って欲しかった。

 だからこんなセリフが零れたのだろう。


おん!


 エニスがいてくれて良かった。自分もだ。


「『催眠』」


 こんな事なら練習しておけばよかった。まあこの汚塵さんでやれば良いか。


ありがとうございました。

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