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チート+チート もう一度英雄  作者: 加糖雪広
第一話 英雄+再臨
14/99

一瞬+圧巻

+ + + + + + +


 相手の実力と自分の実力を冷静に判断できると言うのは、かなりの有利を生む。


 素早さを武器に攻撃してくることは大体わかっていた。


 倒れるギリギリの状態で走る姿は蛇その物でビビったけれど、もっと怖い生き物は世の中五万といる事を自分は知っている。


 自分がロングソードを持っている事を考えれば悪手だろう相手の行動。しかしその馬鹿げた姿勢と速度が合わされば充分に作戦になる。


 五歩目に連剣は振られるだろう。上に避ければ鞭が来るやもしれない。後ろなら逆側から再び剣を振るだけだ。しかし、自分は横も前も選ぶつもりはない。


 ロングソードを地面に突き立てただけである。刀身の半分が丸盆にするりと滑り込む。神造武器であることを考えれば、装飾や紋様がどれだけ非実用的でも鉄の塊すら自らの重みで切り裂く様な切れ味なのだ。


 そのまま地面に滑り込まないように調整し、自分の行動は終わった。


 五歩目、予想通り振られる連剣。万能ナイフが変化したロングソードは、その剣をバターの塊の様に砕く事なく切り裂いた。


 このまま行くと相手は剣の刃に体当たり、すっぱりいってしまうので自分は連剣が切れた瞬間に合わせて片足を持ち上げ、気持ち遠目に踏み下ろした。


 相手の胸当ては、攻撃を吸い寄せる効果がある。狙わずともそこに誘導される感覚がある。それだけで勝敗は決した。



どん!



 丸盆は高さ二メートル弱の石を半径六メートルの円状に整えた物で、溝はあれど力自慢のドワーフが大鎚を振り下ろしてもひびの入らない様に魔法で調整されている物だった。


 しかし残念ながら、念動力でその場に縫い付ける力と速度を殺した際の衝撃を弱める力を使い、足で縫いとめた。残念だったのは余剰の力を殺すより逃がすように調整すると、丸盆が綺麗に真っ二つに割れてしまった事である。


 全速力の彼の五歩は、この硬い丸盆を割るだけの力があったのだが、それの調整を失敗してしまった。


 からんからんと刀身の残骸が地面に落ちる。


 彼は泡と少量の血を噴いて気絶していた。


 背中を踏まれて器官を少し痛めてはいるが死んではいないだろう、無傷ではプライドが許さないだろうと言う配慮も少しだけある。


 自分は気付けば声一つ消えた観客に気付き、まあ良いかとロングソードを引き抜く。審判役の黒スーツを見ると、視点は割れた丸盆に縫い付けられていた。


 あまりに時間がかかるので、声を出して呼びかける。


「まだ続けるのか?」


 自分の声はこれも魔法で調整されているのか、場内によく響いた。音の元、上を見ると日本の格闘技の時のようにどの位置からも迫力ある光景が見えるように、まるでテレビ撮影されているような形で映っている。


 黒スーツは未だに現世に復帰できないらしく、周囲を見ても動く影はない。


 仕方ないので胸当ての所に手を入れて自分で医務室に運ぶことにした。



 忘れた頃、闘場から出た所で怒号が復活したけれど、これ位五百年前の闘技場なら普通以下の戦いだったと思うのだけれど………。


 ドームを消し去るほどの熱量の魔法が出たわけでもないし、召喚魔法で二千のスケルトンが出てきたわけでもないのに、随分な歓声である。


「悪いな、面倒を押し付けてしまったようだな、くははは」


 ずるずると運んでいたクリーヌを、サンマ傷が持ち上げる。

 自分よりは丁寧だが、かなりぞんざいな扱いだろう。


「まさか、十連勝を記録したこいつの必勝法を知ってるとはな」


 初見だけれど、驚くところだったのだろうか?


「情報収集をここに来てからしてたって事は、その最中に聞いたのか?」


 勘違いされたままでも構わないか。


「相手が知る必勝法なんて、チェスでもないだろう?」


 つい零れたのは知り合いの口癖だった。


「…………なるほどな。そのセリフを実際に言う奴は初めて見たが、お前はそれに見合った実力を持っているらしいな。俺はヒデ・ゴッサム。二回戦で会おう」


 相当遅れて担架が運ばれてきて、クリーヌをそこに横たえると、獰猛と言うより鬼みたいな顔のままサンマ傷は闘場へと向かっていった。


 個人的にあの名前を聞くのは嫌な気分になる物だ。


+ + + + + + +


 観客は既に大半が喉を傷めている。

 と言うのも、急遽開催されたトーナメントには、以前ここを何度も沸かせた有名武芸者が数人帰って来たからだ。


 わざわざ仕事を休み、場合によっては辞めてまでここに来た中目の当たりにしたのは伝説級の男が、意とも容易く降された姿である。


 当時を知る者は幻想が壊れた事を嘆き、何十人もの相手を血の海に沈めた武芸者クリーヌの名を叫ぶ。記憶に遜色ない見事な速度は、対面する相手からすれば迫りくる死その物であったはずだ。それでも、一瞬のうちに負けた。


 そしてニューフェイスの名を新たに刻む。


 あまりに大声を張り上げすぎておかしくなった喉で、その名を叫ぶ。


 中には興奮のあまり倒れる者も多々いたが、彼らが救出されるまで相当に時間がかかるだろう。


 今日はトーナメント、ただでさえ人気演目であるにもかかわらず、古参の武芸者が帰って来るとあって客席は許容量を超えていたからだ。


 彼らは酷ければ隣や後ろにいた者に蹴られ、転がされ、隅に追いやられるが誰もそれを気にすることはない。


 それほどまでに熱狂が闘技場を埋め尽くしていたからだ。


ありがとうございました。

次話から主人公が色々不穏な事を始めます。

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