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チート+チート もう一度英雄  作者: 加糖雪広
第一話 英雄+再臨
13/99

トーナメント+鞭

お待たせいたしました。

手直しを可能な範囲で行っていました。

+ + + + + + +


 トーナメントは基本的に死闘のみで構成される。陣取りトーナメントなども行われることがあるらしいが、今回は死闘トーナメントである。


 自分が以前来た時は血で血を洗う殺し合いしかしない場所だっただけに、多少は理知的に考える事が出来るようになったのかもしれない。


 トーナメント開催当日、闘技場に向かったらすぐさま会場に通された自分は、見た目としてはあまり変わっているように感じない懐かしい場所にいる。


 観客達が静かに見守る中、闘場の中心に置かれた大きな丸盆に立つ、すると、



「ころせええええええええええええ!」

「グ・ン・ジョウ! グ・ン・ジョウ!」

「今日の血の雨はどいつが降らせてくれるんだい!?」



 ごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!



 前言撤回。

 見た目厳かで品の良さそうな仕立ての良い服を着た女性の金切り声が頭でガンガンなる。


 その頭に乗ってるティアラ、王族を示す物らしいけれどお忍びのつもりならばそれは隠さなくても良いのだろうか?


 ドーム状の闘技場の中では逃がしきれない熱気と怒号が圧力を高めていた。

 登場の際静かだったのはタイミングを狙っていたのだろうか。


 五万人収納できるって事だが(都市の人口と同じと言う事は凄い事だと思う。三万人は満席の場合で、現在ほとんどの観客が立ち見になっている)、今回はトーナメントのためなのかより人が増えている印象がある。


 解析すると、八万人弱観客席にいるらしい。

 もう、リミットぎりぎりと言った様子だった。


 和国も娯楽は少ないと思ったけれど、日本に比べればそれは少ないだろうけれど、この人たちはどれだけ激しい娯楽に飢えているんだ。


 現代日本での歴史の授業でギロチンは市民の娯楽だったと言うこぼれ話を担任の担当教師が話しているのを思い出し、これもそう言った事なのかと、無理矢理納得した。


 今、自分はいつもよりも大きく作られているらしい丸盆(石で造られた今回の闘場)の隅に立っている。合わせて三十二人のエントリーされた武芸者たちが観客席に向かって顔を向けている(平時は半径四メートル、今回は五メートルを上回っているように見える)。


 横を見ると街中で鞭を隠し持っていた男がいた。いつかのサンマ傷の警備兵がいた。


 逆を見ると、全身刺青だらけの巨漢がいた。今の闘技場の覇者、グンジョウと言う人物らしい。まあ、言うまでもなく名前の単語からして異世界人だった。見た目はともかく。


 事前の話によると、登録されている物であれば武器は五種類まで許されると言うのでロングソード、十文字槍、銃を登録しておいた。


 この世界には値は張るし貴重だけれど、変化武器も存在しているから万能ナイフでも問題はなかったかもしれない。


 そう言えば服装は変化している。自分は今回狩りから帰ってきて新たに見つけた能力で、ここにいる参加者に見劣りしない装備をしていたのだ。


 まあ、簡単な話革の衣服が万能ナイフと同じように変化する事を知ったので、特撮ヒーローの敵役幹部の一人の鎧を想像したところ、獅子の面が胸にある鎧風の張りぼてに変わっていた。


 日本で幼児の頃メチャクチャ怖がっていた記憶がある敵役の外見なのは、想像しやすかったからである。


 特撮ヒーローの『人に近い形の幹部』とかは、軽くて丈夫な素材で作られているとおぼしき金属ではないだろう鎧を着ているのだが、これがそんな感じである。


 肩当は言うに及ばず、ベルトや小手、膝当てまで再現していた。元から高い防御力を持っているだけに、見た目が変わっただけともとられるが普通の恰好だと逆に目立つと思っていた所で出来た事なのでジルエニスに感謝しながら使う。


 ちなみにエニスは丸盆のある闘場の隅っこで中型犬サイズのまま寝転がっている。

 これだけうるさいのに気にした様子もない大物である。


 鎧の作り物っぽい鎖を手で弄んでいる内に、ドーム内の照明が落とされた。

 娯楽として追求した結果か、透視で見回すとスモークが焚かれ、黒スーツに身を固めた胃腸の悪そうな細身の男がやってくる。


 その男がピンスポットで照らされると、観客の怒号は最高潮を迎える。



『急遽開催される運びとなった!』



 これも魔法なのか、会場全てに行き渡る様に処理された声が響く。



『とーーーーーーーーーーーーーーーーなめんつっっ!!!!!』



 巻き舌止めておけ。

 観客もそろそろ何人か意識飛ばすんじゃないだろうか、と言うほどの歓声である。


『現在闘技場の覇者として君臨するグンジョウを初め!


 この闘技場で名を轟かせた古参の兵たち!


 そして審査員全員一致で出場を決めたニューフェイス!


 今回のトーナメントを見ることができるアナタ方は、世界で最も幸せであることを約束します!』


 額に血管を浮き上がらせ、あらんかぎりの声で叫ぶ黒スーツ。そろそろ吐血して倒れるんじゃないか、位に熱血していた。会場の声は良い加減耳に痛い程である。刺青の巨漢は瞼を閉じて、感動に打ち震えていた、様に見える。


 逆側にいた男たちも感慨深そうに頭がおかしくなっていると確信できる笑みを浮かべていた。


 他に確認できる出場者の顔はないが、そのほとんどが似たような様子なのだろう。


 自分は視界を巡らせ、周囲を透視で見てみる。

 暗視効果まで有しているので、ならばと視点を眼以外に作れないかと試したけれどさすがにそれは無理なようだ。


 しかし、視力を高める事はできるようで、目を凝らす感覚で暗視と遠見の両方が発動した。

 黒スーツの演説中であって申し訳ないと思いつつも、過度に装飾した殺し合いを見物する空間にちっとも熱が入れないでいた。


 一人一人にスポットライトが当たる度に、黒スーツが説明を行う。


 戦績だの登録武器だの、観客が静かになっているのは興味が薄いからだろう。自分を含めすべてを紹介する間、歓声が沸いたのは両隣とサンマ傷の男だけだった。


 どうやら警備兵にスカウトされてここを引退していたが、今回特別に参加する事になったらしい。


 そう言えば、サンマ傷の男は自己評価数値が低かった。それは職場であった闘技場を離れていたからなのか、強い奴を知っていたのかその両方なのか、という話を思いつき、目的を除き他にも結構な相手がいるんではないかと言う事を思い浮かべた。


『それではこの数日間、全ての日に来場されることを願い開催の言葉とします!!!』


 丸盆の周囲から花火が上がる。

 黒スーツの男、火花に巻き込まれている様なのに恍惚としていて怖かった。そして照明が再び点くと、目を細める。スモークや煙は何か装置があるのか的確に消えていくようだったが、火薬の匂いまでは消そうとしていないらしい。


 そんな黒スーツだが、多分かなり空気を読むのが上手く、言葉が巧みな種類の人間だろう。


 一字一句がなり立てられていた言葉は、一度も間違える事も、淀むこともなかった。口上に煽られ、観客のどう表現したらいいのか判らない声がドーム状の闘技場を揺らす。声だけでこの規模の建物が揺れると言うのは異常事態に思えるし、それをしている観客も異常だと思える。


 まあ、こういった娯楽で発散して悪い事をしなくなるのならそれで良いか。


 ジルエニスの管理する第一世界なのだ、ここに生きる人々もきっとジルエニスのように、自分とは比べ物にならない才能や運がある筈だ。


 気分を改めて覚悟を決める。自分は第一試合だ。鞭を隠し持っていた男とである。


 他の出場者が退散していく中、黒スーツの言葉に応じて太極紋のように塗られている丸盆の白と黒に別れて対峙する。


 相手はクリーヌと言うらしい。


 蛇と狼を連想させる細身ながら身構えてしまいそうな表情を浮かべる男だった。極端に軽装で、首と胸を護るための防具以外は布の衣服だった。


 連刀に似ている、二本の剣を重ねている剣を構えるが、鞭が名工なのでそちらがメインの武器なのだろう。剣の名前は『腐らせの剣』と言うらしい。


 斬った傷口が二本の爪で斬られたようになるため、縫合が難しくなるのだろう。戦いやすい武器ではないだろうから、相手を思う存分傷つけるための武装、という事だろうか。



  ◇◇◇◇◇◇◇

クリーヌ・ヴァイ

    体力 C

    魔力 F

    理力 F

    筋力 C

    身軽さ B

    賢さ D

    手先 B

    運 A

 装備品 腐らせの剣

     メクトヴァイパー(名工)

     嗜虐の首輪

     身躱しの胸当て

  ◇◇◇◇◇◇◇



 警備兵と言う仕事は他国での騎士に近い名誉のある仕事なのだろう。名字があるので、そう言った名誉が与えられているのだと思われる。


 黒スーツの長いアナウンスがある中、自分とその男は離れた距離で、お互いの表情を窺っている、と言う訳はなく。


 クリーヌと言う男、どうやら微かにだが乗人の血が入っているようだ。きっと蛇か狼の血を持っているのだろう。


 深く調べる必要はないだろう。少なくともステータスは予想に近く、本人には特別な技能はないようだ。歴戦の武芸者がこれならば、魔王を討滅した時代の武芸者よりも格段に身体能力は下がる筈だ。


 一応注意するとすれば、実際のゼオはどうだったか分からないが、身軽さ、手先と運はかなりの物だ。それを踏まえてこちらは身軽さで翻弄する、と言った事は出来ないだろう。


 なら鞭を持つ間もなく、剣で圧倒できれば良い。


 黒スーツの話、長いな………まだ続いている。


+ + + + + + +


 クリーヌは既に自意識の殆どを手放していた。

 と言うのも『嗜虐の首輪』は狂化の状態異常にならないギリギリの状態を装着者にもたらすからだ。


 これは相手をいたぶる嗜虐の心を装着者に与え、ダメージの痛みを鈍らす効果がある。


 おそらくは呪われた装身具に当たる首輪だが、クリーヌはそれの方が良いと思っている。クリーヌは防御が弱い。下手と言っても良い。彼は自らの痛みに敏感で、心がすぐに折れてしまう弱点を自覚していた。


 しかし同程度の武芸者との戦いの中ではそれは致命的な弱点であり、勝負が終わってしまっては血浴もできない。


 それを果たすには頭がおかしくなるような決断だったとしても、クリーヌは迷わない。


 黒髪に黒い瞳、今まで散々観察していた相手である。肌の色はもう少し白い方が良いが、凡庸なその姿を眺めているだけで血の色と味を百度想像し震える。


 実力者の血はそれだけ価値のある物だった。

 早く浴びたい。


 クリーヌは開始合図を待つのが何より辛かった。元から耐えるより耐えさせる方が好みなのだ。しかし弱者は守らなくてはならないと言う考え方も同時に彼にはあった。


 だからこそ闘技場は彼の願いを叶える最高の舞台なのである。


「はぁぁぁぁぁあああああ」


 ヒロと言う今回の相手ならば、今までで最高に近い感覚を味わえる事だろう。

 ヒデには悪いが、彼をここで壊すのは自分だけに許された楽しみだ。そのために、運営を脅して初戦に捻じ込んだ。


 ヒデの本気ならば、例え歴史に名を残す英雄すらも一歩及ばないだろう。こと闘技場の戦いにおいてあれほどの異常者はいない。だからこそ、自分が戦うためには先に戦う必要があったのだ。


 妻を迎え娘が生まれ、人格がおかしくなった総隊長だが、この目の前の少年に会ってからの気配の変化は間違いなく、当時最強の武芸者と名高い技巧の化け物が帰ってきていたのだ。彼との戦いもこの先あると思うだけで、漏らしそうになる。


『はじめ!』


 黒スーツの言葉に合わせて、クリーヌは倒れるように動く。

 地面の力を利用し、崩れる力、崩れる事で得る力を脚に乗せて爆発的な速度を生み出すのだ。


 審査の時、あの少年は三歩で全速力に乗っていた。しかしクリーヌは一歩目から全速力に乗る事ができる鍛錬のみを闘奴として売られてよりずっと磨いてきたのだ。


「けは!」


 一刻でも、一刹那でも早く相手を攻撃するために生んだ、神速を越える領域。閃速戦闘こそが彼の持ち味である。


 二歩目、まるで地を這う蛇のような走法、極限まで空気の邪魔を減らすために試行錯誤するうちに生まれた、一体一対面の状況で最も強い戦闘方法だ。


 このままトップスピードで足首を狙い、その速度を利用して足元に意識を取られた相手を鞭で顔を裂く。


 三歩目、四歩目、五歩目。


 研ぎ澄まされた集中力と、現実をほとんど手放した狂気。戦闘凶の名のままに、クリーヌは連剣を振りぬいた。


ありがとうございました。

次回は明日の予定です。


少し直しました。

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