ヘルプ+現理法
手直しをしました。
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今まで見ていた能力値はやはり自己評価数値だった。
カッコ内はその数値に対する自信のほどを表しているらしい。そうなると自分の理力の値はおかしな気がしたけれど、それは現理法のステータスを確認すれば『超能力』とも言える物だから、憧れの数値が混じったと考えて良いようだ。
厨二病とか人のことを言えないな。
そして表示されるステータス数値を変更するための設定も新たに表記されており、考えを見抜く様な悪しき設定を変えた。
これはしばらくふとした時思い出して軽く凹んでしまいそうな間違いだっただけに、すぐさま忘れたいと強く思う。
ここで問題は、1と言う数字の基準点がなくてはならないと言う事である。
ここで五万人もいるこの闘技場都市の無作為に選んだ成人男性を様々な職から合わせて十人ほど選び、その平均を基準で十とする事にした。
開ききらない窓から顔を出して表を歩く人たちを解析していく事で、十の数値を定めたのだが、誰かに見られていたらちょっと恥ずかしい。
ステータスの運の表記については、思い込み以外ではなかなか数値化が難しいのではないかと(今更)思われたが、考えてみれば本人の自信や自己評価を数値化できるのであれば、世界の曖昧な要素を解析して表記するのも簡単、だったらしい。
そしてアルファベッド表記でEからAまで表記するように変更する。
と言うのも、戦闘中に確認するための指針として四桁や五桁の数字が出てくると咄嗟の判断に迷うからだ。
もう一つとしては三桁の数字にとって一桁の数字は誤差になる程度で済むと言う理由からである。場合によってはそれが生死を分ける要素になるとも思われるが、少なくともそれから闘技場で審査待ちしている人達を確認すると、それで充分だと決めつける事にした。
身長にした場合、百五十センチと百五十三センチの違いに気付き辛いので、このアルファベッド表記は問題ないだろう。
そして数字表記も可能なようにウィンドウのボタンを準備しておくことで保険にした。
数値の方がこれでいい。そして次に確認しなければならないのは、装備品の項目についてだ。
暗器が装備品などで表記されないと言う事があったのは特別な理由があると感じヘルプを見ていくと、武器や防具として認めづらい要素の中に、自作の物だったり当人がそれを装備品と感じていない場合の『思考の誤差』があると分かった。
なので当人の記憶の中で選択肢になりうる武器や防具を表記するように変更する。獣人の爪や牙も武器になりうるので、この辺りの調整は時間が掛かった。
これで暗器の類も表記されるようになった、と思われる。
加えて魔法や現理法、特殊能力についてのヘルプも確認できた。
カッコ内の数字やアルファベットはその項目の位階、ジルエニスが難しいと言っていたレベル表記であったらしい(人のレベル表示は難しいと言っていて、これについては言っていないけれども)。
現理法はいったんおいておくが、魔法には難易度に合わせた『位階』が設定されており、規模や技術で統計的な数値を段位としているらしい。
つまり、自分はレベル2の強化魔法、レベル2の召喚魔法、レベルEX(規格外)の召喚魔法。
この三つを使用する事ができる、と言う。
白文字表記と灰色表記はやはり使えるかどうかという分類らしい。
使用方法はまず時間がかかるので今回は保留。
エニスは単に家族としてジルエニスが自分にくれた物で、特殊能力や魔法ではないと言う事だ。勿論連絡係も違う。
そしてヘルプの中に、現理法の詳細も表記されていた。
現理法とは、五百年の間に精霊や超越種が生み出す魔法とは違った自然現象や生態故に持つ特殊な能力を人や乗人、獣人が使えるように体系化した物だと言う。
説明では竜種の一部が空を飛ぶのにこれを使っているらしい。竜種の中には純然たる身体能力のみで飛ぶ物と、魔法の力を使っている物、現理法を使って飛行出来る物、あるいはそれらの併用で飛行するとあった。
精神、もしくは思い込みで発動し得る能力、と言うのが現理法であり、それに必要なのが理力であると言う事である。
数値を自分用に最適化した際、理力の数字はかなり少なくなったが平均より桁違いに高い(憧れが強すぎたのだろうか?)。
となれば、魔法と同じように理力を消費する事で行使できる。現理法に記されているいくつかの物も使えるはずだ。
ヘルプを読み進めていると、現理法は本来人が使う物ではなく有翼人の飛行能力と竜種の一部の飛行能力に似通った部分があると言う事の発見から発展していったらしい。
有翼人は天使のように背中から翼の生えた人間や、手が翼に進化した者もいる種族で、特に天使に似た姿の有翼人は普通の人間より身体が軽いだけで、圧倒的な飛行能力を持っている。(同じ体格の有翼人と自分を比べれば、体重は半分ほど)
これは、筋力や身体の軽さだけでは説明できない現象らしい。
そして魔法を使っている様子もない。と言う事で長命種の一部でもあり、超博学で知られる亀の一族や梟人の一族が解明し、体系化したのが現理法である。
記憶では、有翼人の王族は魔法を使わない飛行をする者を高貴としていたが、もしかしたらそれにも当時なかった現理法が関わっていたのかもしれない。
そして、意志の力だけで現実の結果を書き換える能力は一気に世界に広がったと言うが、意志だけで結果を変えるのは人間には少なくとも無理だ。
それまで魔法の存在があったから尚更だと感じた。
有翼人と人(乗人・獣人合わせて)の意志力の違い(正確には理力数値の違い)に大きな差がある事が判明し、より深い研究がされて最適化されたのが今の現理法である。
それまでは理法とよばれており、現理法とは現代理法、と略さずに言うべき物らしい。(原代理法でも良いではないか)
魔法以上に使い手を選ぶ、特殊な才能が必要な物で、魔法と現理法を同時に使える様な者は今の所皆無であるらしい。
ここは少し怪しいと思う。
と言うのも、有翼人は空を飛ぶだけが能ではなく、空を飛ぶことを利点とした武術や、独自に調整した魔法も得意としていた。
そして知る限り空を飛ぶ事が出来ない有翼人、どんな小さな魔法でも使えない有翼人はいなかったので、魔法と現理法を同時に使っていた者もいると思う。
ただそれを確かめる手段はないけれど。
しかし、現理法を使える者は総じて精霊や妖精など実体のない存在と長く関わった人間に発動しやすい傾向がある事が解っている。
となるとだ。
自分は魔王を討滅したこの世界での最初の旅の最中、ずっと精霊と個別契約していた。
今では契約は解消になっているが、ここに来る前は超越者(この世界の本当の意味でもある神と言う意味で)であるジルエニスと直に接した事もある。
更に今の自分は未だに軽い頭痛が続いているのだが、それは身体と精神もしくは命が精確に重なり合っていない症状と似ている事も表記されていた。
さすがジルエニスであるここまで予測して情報を含ませてくれているとは頭が下がる思いだ。
精霊や幽霊、見えざる者の世界と近い場所に自分はいる、と言う事は現理法にとって貴重な時間と言う事になる。
とは言ってもスピリチュアルな才能は今まで全くなかった自分であるが、使用条件を満たしているからこそ、ステータス画面の自分の能力にこれらが表記されているのだろう。
そうと分かればヘルプ内に表記されている現理法の使い方や心得を探す事になるのだが、ヘルプ内の情報は、この世界の歴史や研究書まで網羅している大容量である。
なかなか見つからずに時間ばかり経つのは仕方のない事だと思われた。
仕方ないと思いつつ悩み続けている間に、ステータス確認の中に新たな項目が表示されていた。
助かった。
それは検索であった。
念じるだけで文章を記す事ができるので、「現理法の使用方法」を検索すると、真っ先に必要な情報が表示された。
加えてパソコンのそれと同じように、「機能を使う」と言うボタンまで現れるのである。
ここまでくるとステータス確認とは違う能力ではないかとも思うけれど、これ位でなければ自分では世界を救うなんてジルエニスの言葉を果たすことは絶対にできないだろうからこうなっても仕方ないだろう。
「機能を使う」ボタンを念じると、頭の奥に情報を直接書き込む形になっているらしい。
次々に断片的な知識が書き込まれていき、終る頃には自分は研究者並の(部分的にではあるが)知識を得ていたのである。
現理法のカッコ内の数字は強度である。
そこまで単純ではないが、念動力で言えば強度が上がるほど大きなものを動かせるようになるとか、透視で言えば先を見通すことができる距離や質が向上するとか、そう言う事だ。
試しにエニスを念動力で持ち上げようとして、………ダメだった。
考えてみればエニスは獣神で、そう言った干渉には強い防御力があるのだろう。代わりに万能ナイフを浮かばせてみる。
ジルエニスの作った物だからなのだろうか、やたら集中が必要だった。微かに浮かんだ気がする、と言ったところだった。
試した物が良くないと感じ、身体を拭くために貸し出される桶を持ちげてみると、拍子抜けするほど簡単に持ちあがる。
中に張られたぬるま湯(届いてから時間が経っていたので)だけをさらに浮かべてみると、こちらも桶よりは難しいと感じたが容易いと思えた。
桶を置き、ぬるま湯を見えない手をイメージして細かくして持ち上げようとする。
十、簡単だった。二十、あまりに簡単だったので分割を同時に行ってみても簡単だった。四十、見辛くなってきたので、見やすいように並べ替えたりしながらも簡単だった。
拍子抜けして、桶の水を全部持ち上げてみる。
そして続けていくと百十が最高値であるらしい。それ以上になると次々に桶の中に落ちて行ってしまう。
この力の凄い所は、制御を離れた水、床を濡らすことになってしまった飛沫でさえ扱えると言う点である。
床の染みになり始めている水を意識すると、一切の水の全てを持ち上げ桶に戻すことができた。水滴が作っていた染みは綺麗に消えていた。
魔法は使った事がある。
蒼の鎧の効果か、剣の効果かは気にもせず使っていたけれど、その時は無尽蔵に連続で放つことも出来た。勿論、世界の制約と言うか限界みたいなものがあって無尽蔵に連続するとしばらく使えない状態になる事があったけれど、そうなるほどの魔法を使っても疲労感は一切なかった。
その時は確かに『魔法を使った』と言う、思い通りに行われた噴き上がる火や落ちる雷なんかに感動した物だけれど。
しかし今回は、理力と言うステータスに依存した、剣や鎧ではない自分の内から出る力を使う事が出来た事を感動した。
周りを気にして大声を上げるわけでも、ベッドではしゃぎまわると言う事をしたわけでもなく。ただ静かに、ニマニマと笑ってしまったのである。
疲労感は全くなかったけれど、身の内から出た物が作用を及ぼしたと言う実感があったからだ。
念動力と言うのは懐の深い力の様で、様々な実験をした結果、大抵が思った通りの結果に落ち着く。
つい楽しくなって色々やっている内に夜が更けていった。
以前なら魔法で照明をつけていたがそれも出来ないので、『影箱』からランタンを出して黙々とエニスを撫でながら念動力の訓練を続けた。
ありがとうございました。
分量の調節をした結果二つに分かれています。
一応時間をずらし十時に投稿予定です。