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見透かされているのだろうか

 扉をノックすれば、すぐに返事が返ってきた。

 中へ入ると、そこには王妃一人しかおらず辺りを見回しても侍女の姿がない。人払いまでさせて自分に会うということは……。

 色々な仮説が数秒の間に駆け巡る。

 「急にお呼びしてごめんなさいね。そんなところに立ってないで、こっちへ来てお座りになってね」

 豪華だが派手すぎないこの部屋は王妃の自室であるようで、促されるままソファに腰掛けた。座れば沈み混む高級品にはまだ馴れない。

 「二人っきりで話したかったことがあったの。……あらあら、そんなに固くならないで?」

 上品に笑う姿に、あの王子の母君とは思えない、なんて失礼なことを思いつつ(弁解すると、まだ王子の優しさを感じる機会がなかったので思ってしまったのだ)恐る恐る口を開く。

 「アストラル・メイリーネと申します。この度は王妃様に謁見できることを……」

 「嫌よ、そんなに畏まるのはよして。あの子の大切な方は私にとっても大切な方ですもの。もっと親しくしたいわ」

 どんな方か気になってしまったの。

 そう付け足して見つめてくる目はとても穏やかで、思い出のない母と重ねてしまう。


 だからこそ、後ろめたい。私はこの方を騙してるのだと、無性に謝ってしまいたくなった。

 そんな思いがあるのを知ってか知らずか、王妃はあろうことかメイリーネの隣に座り直し、膝の上で固く握っていた手を包み込んだ。

 「……なにも言わなくて良いの。貴女たちに会った時にね、あの子が……フィレイドが何かしようと企んでいるときの目だって思ったのよ。それくらい分かるわ。母親ですもの」

 「王子は何も、企んでなど、いません」

 たどたどしくなってしまった。上手く行ったと思っていたのに、あっさりと見抜かれていた。王妃様が気付いたということは、国王様だってきっと……。

 メイリーネが目を合わせられず俯いてしまったのも気にせず王妃は続ける。

 「貴女にお願いがあるの」

 ぎゅっと力を込められた手が暖かい。

 「あの子が無理をしようとしたら止めてほしいの。勿論、貴女も危険な目に合わない、というのが前提だけど」


 ――え……?


 驚いて顔をあげれば王妃は申し訳なさそうな顔をしているが、しっかりとメイリーネを見つめたままである。王子の意思の強さは、この方譲りなのかもしれない。

 「信じたいの。フィレイドだってこの国を思っているわ。そんなあの子が決めたことなら、きっと……」

 一度口をつぐんだ王妃が眉を下げて力なく笑う。

 「意味があるって信じたいのよ。親って馬鹿よね」





 しばらく話をして、気になったことがある。

 はやくこの城に平穏が戻って欲しいものね、という王妃の意味深な発言。頭を悩ませることが、王子が起こしたこの計画だけでは無いようだ。まるで、ずっと前から何かがあるような口振りだ。

 「それとね。個人的には、貴女のこと応援したいの。だってあの子が自分で選んだ相手ですから」

 王妃は内緒よ、と唇に人差し指を当て、シーっとポーズをとってみせた。

 ――選ばれたと言えばそうだけど、決してそあいう意味で選ばれた訳ではなくて…… 

 「辛いことはあると思うけど、いつでもいらしてね? 私、貴女みたいな可愛い子は大好きよ。そうね……メイリーネ、と呼んでも?」

 「も、勿論です!」

 どうやら気に入られているようで、とりあえずは安堵。無事に過ごせそうだ。

 割と独占欲のある子だから、いつまでも私といると拗ねてしまうかもしれないけれど、と冗談っぽく言われ、それからまた幾分か話をした。だいぶん打ち解けてきた頃、かねてから持っていた疑問を打ち明けてみた。

 「王妃様は……、私が、その、不幸を呼ぶ……」

 「貴女は貴女。そうでしょう?」

 どんどん語尾が小さくなっていくが、最後まで言い終わる前に王妃がそれを遮った。今までこちらの話を遮ることなど無かったからメイリーネは驚いて続く筈の台詞を飲み込んだ。それ以上は言うなという意味を含めているのか、王妃は力強く言い切って、ふふ、と笑いかけてくれた。

―どうやらあいつらはまだ帰ってきていないらしい。母上に相当気に入られてるな……。 良いことだ。これから行動しやすくなる。

 実の両親、特にあの温厚な母親を騙すのに気がひけないわけじゃないが、仕方ない。

 王と話をして一足先に帰ってきたフィレイドは考えこんでいた。


 呼ばれた部屋に行ってみれば、部下はおらず、父親が広いベッドに横たわっていた。

 こちらに向き直った王の第一声が「何を考えている」で、面食らった。完璧に騙せるとは思ってなかったが、それでも疑念の確証を持たせることなく上手く立ち振る舞ってみせたつもりだったからだ。

 ばれてはない。けれど、舐めていたことに反省した。やはり国王に、自分の父に変わりはない。

 メイリーネと謁見した時と変わらぬ威厳を含む声。

 不覚にも嫌な汗をかいた。王の目は節穴じゃない。人を見る、ということを教えてくれたのは他でもないこの父親だった。忘れていた訳ではないが思い知らされる。

 自分がいかに力不足で、準備不足かを。 

 警戒して様子を伺った。そこで王の異変に気付く。体の線が細くなっているように思える。心なしか、謁見時とは違って小さく見える。

 幼い頃から憧れていた父親の姿はとても弱々しくなっていた。



 病のせいだ。



 「今まで寝込むことなんてなかったのにな」

 誰もいない自室で一人呟く。

 王は数年前くらいから病に蝕まれ始めていた。

 知っているのは母と自分と大臣のみ。

 こっちだって鬼じゃない。安心させてやりたいとも思う。

 結婚相手なんて実を言えば誰だって良い。先の分からない父がそう望むのなら叶えてやりたい。

 ……けれど。

 「今回ばかりは叶えてやれないな」

 単なる我儘で掻き回してる様に見えても構わないと思う。

 何を考えているかと聞かれても、話さなかった。ただ数秒目を合わせただけ。

 「お前の、思うとおりにやってみれば良い。まだそれが許される立場にあるうちにな。……か」

 言われた台詞を繰り返す。以外にも責められなかった。大臣家のあの女を后にするよう薦められるがまま決定したというのに、お前の思うとおりにしろと言う。

 ――王にも、考えるところがあると言うことか……

 必ずこの計画を成功させてみせる、そう決意した時、メイリーネとグリイズが帰ってきた。








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