事の重大さにようやく気付いた
叔父と叔母に別れを告げフィレイドと供に都に上がる道のりの中で、メイリーつネはずっと思っていたことを尋ねてみた。
「どうして私なんですか?」
「相手の妃候補が大臣の娘だからな。都では敵対しても良いなんて奴等は見つけられないと思ったからだ」
……え?
「だ、大臣の娘さんなんて聞いてませんよ! 私だって敵に回したくないんですが」
お家復興に支障をきたしてしまう!
「聞いてないのは当たり前だろう。言ってないからな」
悪びれることなく言ってのけるこの図々しい王子に、メイリーネは不安になった。
「そんな……! 私だって相手を知ってたら引き受けませんでした!」
そう叫べばフィレイドはニヤリと笑って、口を開く。
「没落貴族であるお前の状況がこれ以上悪くなることなどあるか? おまけに不幸を呼ぶ体質、などと言われているんだ。大臣家の妃候補を蹴落とす相手にはもってこいだろう?」
もしかして自分は、とんでもない話に乗ってしまったのではないのか。
今になって事の恐ろしさに冷や汗をかく。
「あぁ、今更、怖じ気付いたと言っても無駄だからな。とりあえず俺の言うことは聞いてもらう。良いか? 話を聞いた以上、お前と俺は運命共同体だ。お互いの利益のため協力しようじゃないか」
話の大きさに恐怖したのではなくて、貴方のその性格によ、なんて王子相手に言えるはずもなく、反論の言葉が出てこない。
うっすら笑みを浮かべる王子には、さっき自邸で感じた通り、わずかに強引な節がある。
まだ会って間もないから確信はないが、自信家でとても強引な性格ではないだろうか。
王子と聞けば出てくる物腰柔らかで品の良いイメージは微塵も感じられず、この先に待ち受けるであろう事態に溜め息をこぼし、口には出さずに我が身の不幸さを嘆いた。
「大臣家なんて、今一番の勢いがある家柄じゃないですか……。嫌かもしれませんが、多少のことは目をつぶって我慢すれば国の発展に繋がるのではないんですか?」
言いながら、出すぎたことを言ってしまったと焦ったが止まることなく全部話してしまった。
「今一番勢いがあるから駄目なんだ」
機嫌を損なわれるかというメイリーネの心配をよそに、ポツリと小さくこぼされた言葉を聞き返そうと思った矢先、もうすぐ城に着くな、とフィレイドに話しかけられ、何も聞けなかった。
「ひとつ、誰にもこのことを言うな。ふたつ、一人で行動する前に俺に相談しろ。みっつ、余計なボロを出さない為にも俺の言うことは聞いておけ。……今のところこれだけ守ってあけば大丈夫だろう」
城に着く直前に出されたフィレイドからの三つの命令に頷いてみせ、入城した。