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はなやかできらびやか


よし、と意気込んだ直後に、あの大臣家の令嬢、シェネンが近寄ってきた。


それに気付いたフィレイドが、素早くメイリーネの肩を抱く体勢へとエスコートの仕方を変えた。


より親密な関係である印象を与えるためだ。



「王子、ひどいですわ。迎えに来てくださらないんですもの。私、妬けてしまいます」



メイリーネなど、端から眼中にないかの如く、フィレイドに尚も近寄る。



「申し訳ない。大切な恋人を迎えに行っていたので」


フィレイドはそう言いながら、シェネンを見ずにわざわざメイリーネに微笑みかけた。



この人、徹底してるわ。



ほんの少しの疑惑さえ持たせない。


誰が何と言おうが、王子の恋人は私だと、無言で周りに示しているような仕草のひとつひとつに抜かりがない。



「……そう、ですの」



シェネンの顔がひきつる。

後ろで様子を窺っている大臣派の人々も同様だ。



「そうだ! 王子、このドレスはいかがかしら? パーティーのために特別に作らせましたのよ!」



爛々と目を輝かせながら、着ているドレスのアピールをする。


確かに、これ以上ないくらい宝石が散りばめられていて、この会場のどこにいても目を引くだろう。



「えぇ、似合ってるかと」



フィレイドはと言うと、当たり障りのない社交辞令の様にシェネンをあしらった。



「メイリーネ、まずは父上たちに挨拶に行こう」


「はい」


「でしたら私も一緒に行きますわ」



話すとボロが出てしまいそうで、怖くて最低限度の返事しか出来ないから、せめてもの気持ちをこめて王子がしてくれたように微笑んでみた。


僅かに、王子が優しい作り笑いではなく、元の威張ったような挑戦的な笑い方をした気がする。


それで良いと言っているようで、緊張が和らぐ。



王子はシェネンにも微笑んだ。

ただ違うのは、先程からメイリーネへ見せている笑顔ではなくどこか張り付けたような作り笑いであることだ。


フィレイドはそのままやんわりと、シェネンを遠回しに拒絶した。



いったい幾つの笑い方が出来るのかと聞きたくなる程のレパートリーだ。



公の場でこんなにも、ありとあらゆることに神経を集中させているのなら、プライベートで多少素っ気なく愛想がないのは致し方ないわよね。



妙に冷静に考えられるのは、だいぶんリラックス出来ているからだろうか。



歯噛みするシェネンたちには目もくれず、フィレイドはメイリーネを連れて、王や王妃の元へと歩く。



全身真っ黒で統一したくせに、この目立ちよう。


こっりと隣で歩く王子を盗み見る。

場馴れしてるというのはこういうことなのだろう。


周りに有無を言わせない姿。



「どうした? そんなに見つめられると二人っきりになりたくなるんだが」



演技、これは演技なの!!


そう頭では分かってるのに、反射的に頬が熱くなる。


こんな風に男性に囁かれることなんてなかった。

慣れていない分、余計に対処できなくて困ってしまう。



自分でも分かるほど変な顔をしていると思う。

喉まで出かけた言葉がなかなか声にならない。

返事をしなければならないのに、口をぱくぱくさせるしかなくて、王子が形の良い眉を寄せた。



「……どうした?」



大丈夫です、問題ありません。



そう言わなきゃいけないのに、声が出ない。



恥ずかしさだけではなく、早々に迷惑をかけてしまったという後悔。



どうしよう、どうしよう。



「フィレイド、メイリーネ。なかなか会いに来て下さらないから、こちらからきてしまいましたわ」



よく通る柔らかい声。



「王妃様……」


「また会えて嬉しいわ。……あら? フィレイドに何かされたのかしら。固まってしまっているわね」



ふふふ、と王妃様は楽しそうに口元を手をあてる。



「母上、メイリーネは馴れない会場の雰囲気に酔っているだけなのです」



心配はいりませんよ。

そして、何もしていません。



フィレイドは何もしていないと強調し、視線を王に移した。



「父上、何か?」


「お前にはデルロサ嬢もおることを忘れるな」


「勿論、心得ておりますよ。大臣家の令嬢を蔑ろには出来ませんので」



実の父親にさえも、真意を読ませまいとする徹底ぶりには感心するしかない。


「ならば、アストラル嬢だけを特別に扱うのは……」


「私が自ら選んだのは、ここにいるメイリーネただ一人です」



フィレイドはぴしゃり、と力強く反論した。


王の言葉を遮るという、例え王子といえど許されない無礼に、メイリーネは驚いてフィレイドを見上げる。



「自分の身の振り方は、自分で決めさせていただきたい」


「お前の身は、お前だけのものではない。この国の上に立つということは、何もかもを自由に出来るということではないぞ」



真っ向から対立する形となってしまった二人に王妃は、あらあら、と目を伏せる。



王子が実の父親と対立する姿を見るのは心が痛い。


今は亡き父の優しかった表情がメイリーネの頭を過る。



「メイリーネ、そう心配するな。何もこんなところで、父上と争ったりするつもりはないからな」



知らず知らずの間に、重ねられていたフィレイドの手に力を込めていた。



「王子、あの……」


「そういうことです、父上。これ以上の言い争いは、私の大切な恋人の心を痛める。この場はお収めいただきたい」


「…………よかろう。アストラル嬢、気分を害してしまい申し訳ななかった」


「いえ、そんなことは……!」



「そうよね。折角のパーティーですもの。もっと楽しく過ごしましょう?」



王妃の一言で、ピリピリと張り詰めていた空気が一掃された。


結果的には良かったが、二人が対立するのはこの先も必ずあるわけで、上手く収まらない時はどうしたら良いのだろうか。


ぼんやりと、そんなことを考えていたメイリーネに王妃が話しかける。



「そのドレス、フィレイドが送ったものよね?」


「あ、はい。いただきました」


「母上、どこでそれをお知りに……」


「うふふ」



だからなんでバレてるんだ、と苦虫を噛んだようにフィレイドが漏らすのを聞いた。



メイリーネのドレスは明るいのに、貴方は真っ黒じゃない。


二人合わせれば丁度良い色合いでしょう? 



そんなやり取りを続ける王子たちを眺めつつ、会場の物珍しさから視線をあちこちにさ迷わせれば、途中で王と目が合った。



何を喋るでもない。

王はメイリーネと合った視線を反らそうとしない。


真っ直ぐなこの目は、似ている。

私を計画に巻き込んだ王子にそっくりだ。



その時ふっと、王が頬を緩めた。


笑い方までもが、似ている。



親子、だものね。



メイリーネがつられて笑えば、王は満足そうにしてから、視線をフィレイドたちに向けた。



「それでは、私たちはこれで。別の者に挨拶してきます」



メイリーネはフィレイドに合わせて会釈をした。



くるりと背を向けて歩きだすと、何も失敗しなかったことにほっとした。



まだまだパーティーは続くけれど、とりあえず、王たちへの挨拶が終わったことに安堵した。

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