はじまりの出会い
ふんわりと肩下まである茶色の髪。青緑のかかった宝石の様な瞳。白い肌にほんのり色付く口元。
さながら人形の様に美しい少女、
アストラル・メイリーネは悩んでいた。
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王族カスターナ家が治める王国の片田舎でメイリーネは叔父、叔母と供に住んでいる。アストラル家はいわゆる没落貴族というもので、都の華々しい世界とは無縁な状態が何年も続いていた。そんなアストラル家に突然の来客。
驚くべきことは都からということだが、加えてメイリーネ達を驚かせたのは訪問客が、王子であるカスターナ・フィレイドだったということだ。
「さて、返事を聞かせてもらおうか」
目の前の男が痺れを切らした様に問いかけてきた。
黒髪、黒目のこの男こそ、王族カスターナ家の嫡男。つまりは王子カスターナ・フィレイド。
「あの、何かの冗談……でしょうか?」
やっとの思いで絞り出した答えに満足しなかったようで、みるみるうちに機嫌が悪くなっていくのが分かる。
「本気だからわざわざこんなところにまで足を運んだんだ。早く答えろ。……俺の妃候補として都に上がるのか上がらないか、はっきりしろ」
「……ご存知ないのかも知れませんが、私は……」
「知っている」
途中で遮られ続けられなかった言葉を、心の中で発する。
私は、不幸を呼ぶ体質なんです。
母はメイリーネを産むと同時に力尽きた。そのため父とメイド達に見守られ育てられたのだが、メイリーネの三歳の誕生日に、父は行っていた事業に失敗した。あっという間に家は没落してしまったのだ。将来は結婚を、と許嫁の関係を結んだ相手は病気で倒れ、白紙に戻された。今は、一家立て直しのため働いていたが心労で倒れ、帰らぬ人となった父の代わりにアストラル家当主を継いだ叔父夫婦と暮らしている。
メイリーネが産まれてからというもの、ことあるごとにアストラル家は災難に見舞われている。そんな噂が流れる程の、自他共に不幸を呼ぶ令嬢として認めているメイリーネに、あろうことか、フィレイドは妃候補にならないかと持ちかけたのだ。
「良い話だと思うんだが。俺にも、お前にも」
確かに、自分が妃となることが出来れば家は復興出来るかもしれない。父の努力が報われるよう、何とかしてアストラル家を復興させたいメイリーネには願ってもない話だ。
しかし、問題はそこじゃない。フィレイドの話を要約すれば、このままでは意に沿わない結婚をさせられるため、メイリーネに恋人役を演じさせて、破談にしようとしているのだ。
「貴方の話からすると、最終的に婚約を白紙に戻せたら私と結婚することになってしまいますが……。それこそ、意に沿わない結婚ではありませんか?」
「そうならないように対策は考えてある。成功したらお前とは別れて恩賞を渡すし、都に住みたいというならその様に尽力する。アストラル家復興に力を尽くそう」
これはもう、断る理由がない。父の悲願を果たせるなら、嘘の様なこの話に乗ろう。
決意を固めてフィレイドを真っ直ぐ見つめ答えた。
「その話、受けさせていただきます」