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0、世界を閉じる話



駄文オーケーな心の広い人はお読みください。




0、世界を閉じる話




キーボードを軽快に叩き、マウスをクリックし、何一つ見落とすまいと目を凝らす。そんなこんなで2時間は経過している。

端から見たら変人だということは理解している。まぁ、正確にはネット中毒患者で、端から見られる人など家族以外いないいないのだが。




「……」




外は明るいのにカーテンを閉め切り、部屋の灯りを着けず、唯一の光はPCの画面から発せられるものだけの自室にはキーボードを叩くタンタンという音とマウスをクリックするカチカチという音と、クーラーから冷気を吐き出す時の機械音しか無い。

こんな生活が二年目だからもう気にならない。いかにも現代っ子ぽい、機械に頼り切った生活だ。外出したのはいつが最後か。そんなことすら思い出せない。

思い出す必要もないか。




「……?」




ふと、着けていた高音質のいかついヘッドフォンを外す。嫌に敏感な聴覚は異常を捕らえた。

何か、聞こえたような…気のせいか?

大音量で作業用BGMを聞いていたので、下の階でなにかあったのだろうか。まぁ、俺には関係ないだろうと、思考を終了し作業に戻ろうとヘッドフォンに手をかけた時だった。








バンッ!と部屋の入り口のドアが勢いよく開き、









「ユウヤ!!

何回呼んだと思ってるの!!」




「ゲェ…母さん…!」




鬼―――怒りの表情がくっきりと顔に張り付いた母―――がやって来た。

鬼より死神の方がいいな。今のこの状況、すなわち俺の命が危ぶまれている状況ではぴったりすぎるイメージだ。うん。




「ど、どうしたんだよ……そんなに大事な用でもあるのか?」




至って冷静に、そして慎重に母を扱う。

ネット中毒患者の俺に大事な用は主にネット通販での購入物か絶賛不登校の中学校の担任がやって来るかだ。

しかし、ネット通販での購入物は明後日到着で、担任は昨日来て、今は授業中なので来れないであろう。ちなみに今は朝の10時。朝より昼の方が正しいか。




「アンタに手紙よ」



「……手紙なんてメシと一緒でいいじゃねーか」




ボソッと呟いたが、母には聞こえたしまったようだ。

しまった…。母さんから目視可能な程高濃度の殺気がオーラとなって発せられてきた。これは次の判断ミスで死ぬ。




「仕様がないじゃない……速達だったんだから。それに、差出人が誰かわかないし…」



ばつが悪そうに母さんは俺に茶色の封筒を差し出してきた。

速達?それはまぁ怪しいな。俺に手紙を送ってくるヤツなんか皆無なんだしな。

俺に文通をする相手なんていないし、手紙を送ってくるような友達もいない。俺に送られてくる手紙なんてせいぜい家庭教師か教材販売で、それも俺の手に渡ることなく母さんが握り潰し、ごみ箱にポイなのだ。

この家庭で母さんほど家庭内事情に詳しい人などいない。それは、俺ほど家庭内事情を知らないヤツはいないということの裏返しでもある。




「用はそれだけ?」



「えぇ」




なら帰った帰った、と母を部屋の外に促し、もとい追い出す。

母を追い出し、ようやく一人になった俺は、開け放たれたドアから入ってしまった熱気を追い出すためにクーラーの温度を下げる。地球温暖化がどうかと言われているが、まぁ、ちゃんと思考のうちには入っている。入っているだけで、行動に移せるかどうかは別問題だ。俺はそう割り切っている。

元勉強机の、現PCの玉座兼聖域の前にあるイスに座り、受け取った封筒を見る。




「差出人は……書かれちゃいないか」



俺の名前と住所しか書かれていないのを確認し、ビリビリっと破る。そして中の紙を取り出す。

何の可愛げもない白に、鎮座した小さな黒の文字が目に入った。









「ウェルカム、トウ……エンドレスループ……?」










口に出した時、俺の世界は閉じた。
















 †







放課後の公園。比較的遊具の多い公園だが、あまり遊ぶ子供は見かけない。何しろ、あまり子供がいない地域なのだ。ずっと昔は子供がたくさんいたようだが、『しょうしこうれいか』という何かで子供があまりいないのだそうだ。両親が言っていた。

その人気のない公園で僕はブランコに乗って幼馴染を待っていた。

この近場に住む僕と幼馴染のホノは、天気の悪い日以外は毎日ここで遊んでいた。学校が終わると家に荷物を置き、ここで集まって、遊ぶ。いつからこんなことをしていたかは覚えてない。とにかく、小さなころからしていたということは確かだ。




「ショウ!!」




あ、ホノだ。

何んでそんなに慌ててるの?

僕の名前を大声で呼び、走ってくるのは待っていた幼馴染のホノだ。




「どうしたの?」




と、微笑みかけると同時にグーが飛んで来た。

いたた……僕…何か悪いこと、しましたか?




「ショウ、見てコレ」



「ホノ……先ずは何で殴ったのか説明してよ」




ホノ、黒髪お下げの僕の幼馴染み。

元気一杯で、いつも僕を引っ張ってくれる。でも、怒らせると怖い。ホントに。

怒ると怖いけど、笑うとこの世で一番かわいい。…僕がホノが好きなだけなんだろうなぁ。当の本人は、なんとも思ってないだろうし。




「にへらーって感じの顔して気持ち悪かったから」



「……ごめんなさい」




腰に手をあて、ズズイっと顔を近づけてくる。

かわいいけど……手加減を知らないのは昔からだ。

でも、的を射ているので言い返せない。僕は縮こまり、反省のポーズをする。




「まぁそこはいつもだから慣れたからいいけど、見てよ」




ホノは僕の目の前に茶色の封筒を突き付けてきた。

慣れたんだ…。なんか悲しい…。




「封筒?」



「そ」



「どうしたの?」



「よく見なさいよね!

アンタとアタシ宛なの、コレ」




宛て名には確かに、僕とホノの名前が書いてあった。

宛先はホノの家だけど。

うーん…。なんなんだろうこの手紙。差出人も書かれてないし、なにより僕とホノ宛なのが気になってしようがない。




「開ける?」



「決まってるじゃない」



「ホノが開ける?」



「そ、そこは…ほら……アンタが……」



「うん、いいよ」




少しおびえた感じのホノから封筒を受け取り、丁寧にやぶり、中から紙を取り出す。

その過程の間にホノが僕の隣のブランコに腰掛け、除き込んでくる。


手紙には…







「「……ウェルカム、トウ、エンドレスループ……?」」








と書かれていたのは覚えている。





















 †












朝早く、やっと蝉が鳴き始めた時間帯の下る坂道の通学路。

そこを、小走りで走っていると、空き缶を見つけた。よーし、蹴ってやろう!こんなとこにポイ捨てするからいけないんだぞー!と意気込んで、空き缶の前で止まろうとすると……歩幅的な何かの配分ミスで、空き缶を踏んでしまった。そうして、元から蹴ろうといていたため重心は前にいき…



「あわわわ!」




ズデーンと盛大に転け、顔面からアスファルトにダイブする。

ちなみにこれで本日5回目。




「ったたた…」




起き上がると同時に目の前に惨状を見ることになった。

……カバンから出て、あちこちに散らばったマイ教科書とその他。




「うぇぇぇ……」




弱々しい声を漏らしつつ、涙目で教科書を拾う。

数学、理科、英語、マンガ、マンガ、国語、雑誌、社会、美術、雑誌、マンガ。

かき集め、取りこぼしが無いか確認する。





「うぅ……何で、ウチはこんなに転けるんだろ……」




泣き言を漏らしつつ、取りこぼしが無い事を確認したとき、教科書とマンガの隙間から、ヒラッ、と1つの茶色い封筒が落ちた。




「あれ…こんなの、持ってきたっけ?」




拾い上げ、宛名を確認する。




「ウチだ…」




間違えようもない、ウチの名前と住所が書いてあった。差出人の名前はない。

しかし、こんな手紙、受け取った記憶など無い。母が入れてくれたのだろうか?いやしかし、それなら朝ごはんの時に言うはずだ。うーん…なら誰が入れたんだろう?




「あ、もしかして、なんかのサプライズだったりして!」




わくわくを押さえず、封筒を開ける。

にしても、サプライズの割にはかわいげもないなー。なにこの事務的なアレ。もうちょっとかわいい便箋とか準備できなかったのかな?

そんなことを内心で愚痴りながら中の紙を取り出す。

三つ折りの紙を広げると…




「うぇ……ウェルカムトウ……エンドレス、ループ?」




なにコレ……。


とは口に出せなかった。



















 †


















「……来た」



「え?」



「来たよ、残りの四人が」



「じゃあ、早く迎えに行かないとね」



「先に来た二人も、ね」



「ろ……6人も……み、見つかりますよね!?」



「チッ。面倒くさいな」



「はは、仕方ないよ。探さないとね…」



「み、見つからなかったら…?」



「見つかるまで、探すだけだよ」







――――どうせ時間は、たっぷりあるんだから――――






蝉時雨がより一層、強くなった。


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